インタビュー

デザインは、どこに繋がるか分からない。だから、いまの仕事が面白い。

デザインは、どこに繋がるか分からない。だから、いまの仕事が面白い。
PROFILE
あめとつち株式会社 代表取締役/クリエイティブディレクター
龍輪 誠

数々のブランドを手がける、あめとつち株式会社

弊社は、企業のブランドづくりを中心に、戦略からクリエイティブまで手がけています。

中でも最も強みとしているのが、ブランドの立ち上げ時期の戦略設計やブランド構築です。ブランドというと、ファッションブランドや企業ロゴ、広告、Webサイトなどのデザインをイメージする人も多いと思います。もちろん、それらも大切な要素です。ただ、私たちはブランドをもっと経営に近いものだと考えています。まず経営者と話し、その企業が持っている価値を整理する。そこから、必要に応じて言葉やロゴ、Web、映像などの媒体設計とクリエイティブ全般をブランドらしいカタチにしていきます。

意図せず、始まったデザイナーとしてのキャリア

私自身は20代のころから独立し、クリエイティブの仕事を続けてきました。若いころは、アパレルやコスメ、エンタメ、スポーツなど、生活者に近い仕事を多く手がけていました。

 

プロフェッショナルだらけの金融業界で感じた変化

そこからキャリアを積むにつれて難易度の高い仕事や大手広告会社との仕事が増え、30代半ば頃にはメガバンクや証券会社など、金融業界でのプロジェクトを受け持つことが多くなり、仕事の中心になります。ただ、それまで自分がいた世界とはまったく違いました。そこで初めて、「デザインだけ知っていても、このクラスの人たちとは仕事ができないな」と感じたんです。経営やマーケティング、経済のことも分からなければ、なぜこの企業がこの事業をするのか、何を目指しているのかが理解できない。そこで必要なことを仕事をしながら学んでいきました。すると次第に、「どう見せるか」より「そもそも、なぜこれをするんだろう」ということの方が面白くなってきたんです。

原点回帰。もう一度、経営者と直接向き合う仕事へ

一方で、仕事の規模が大きくなるほど、経営者が何を考えているのか、この会社はどこへ向かおうとしているのか、その先にいるお客様はどんな人なのかが見えにくくなっていく感覚もありました。そこで思い出したのが、若いころの仕事です。当時は店舗のオーナーと直接話をして、「どんなお店にしたいんですか?」というところから一緒につくっていました。振り返ってみると、私はあの距離感の仕事が好きだったんですよね。それなら、もう一度、経営者と直接向き合いながら、その会社そのものについて一緒に考える仕事をしようと思いました。

そうして仕事の請け方を少しずつ変えてみると、意外にも共感してくれる賛同者がたくさんいました。経営者と直接対話し、企業の価値を整理して、事業やブランドについて考える。そして、それを言葉やデザインなどのクリエイティブとしてカタチにする。いつの間にか、自分がやっていることは単に「デザインをする」という仕事だけではなくなっていました。その結果として法人化したのが、現在の「あめとつち」です。なので、当初は会社をつくること自体が目的だったわけではありません。

大学には行かず、いきなり社会に出てしまった

何も考えずに、電気工事士としてキャリアがスタート

実は、私には皆さんのような大学生としての「学生時代」がありません。大学にも美大にも行かず、高校時代のバイト先でそのまま働いていました。しかも最初のキャリアは、デザイン会社でも広告業界でもなく、電気工事士です。

当時、将来こうなりたいという明確な目標があったわけでもありません。早朝から電気工事の仕事をして、夜はクラブDJと、当時は珍しかった音楽に合わせて映像を出すVJという仕事もしていました。今振り返ると、かなり無茶な生活ですよね(笑)。ただ、現在の仕事につながったのは、むしろ趣味のDJやVJのほうでした。まだ手書きの時代にコンピューターグラフィックスが面白くて触るようになり、イベントのフライヤーやグッズなどをつくっていると、周囲から「これもつくってよ」と頼まれるようになったんです。別に「デザイナーになろう」と決めて勉強していたわけではなく、面白そうだからやってきたものが、いつの間にか仕事になっていた。それが私のデザイナーとしてのキャリアのスタートです。

頼まれごとが話題となり、自然に仕事も広がっていった

一つできるようになると、また別のものを頼まれます。フライヤーからWebサイト、店舗や家具のデザイン、映像、印刷物、看板など、仕事の領域はどんどん広がっていきました。やったことがないものも多かったのですが、若かったこともあって、当時は断るという発想があまりなかったんですよね(笑)。分からなければ調べる、詳しい人に聞く。海外で先に手がけている人に教えてもらうこともありました。そうやって新しくつくったものが話題になると、また違う仕事につながる。その繰り返しで、仕事をしながら必要なことをひたすら覚えてきました。「勉強しなければ」というより、面白いから知りたくなることの方が多かったと思います。

「大変だった」ことより、「楽しい」が勝つ。
だから、苦労の話しを聞かれても答えづらい

この仕事を長く続けていますから、もちろん大変だったことは、たくさんあります。でも、「一番大変だったことは何ですか?」と聞かれると、意外と答えるのが難しいんです。もちろん、その最中は大変ですよ(笑)。うまくいかないこともありますし、責任が大きくなればプレッシャーもあります。それでも終わってしまうと、大変だったことより「あれ、面白かったな」という記憶の方が残っている。たぶん私は、大変だったことを忘れるタイプなんだと思います(笑)。

知らないことに出会ったときも、「分からないからやめておこう」とはあまり思いません。分からなければ調べる。詳しい人に聞く。やったことがなければ、まずやってみる。そうすると、できることが一つ増えて、また違う仕事につながっていく。考えてみれば、若い時も今もずっと同じことを繰り返してきただけなのかもしれません。

長年の目標よりも、いまの出会いを楽しみにしている

「良質な佇まいをデザインする会社」でありたい

会社として数字の目標を掲げるという考え方もあると思います。もちろん会社なので、成長は必要です。ただ、何年後に何億円の会社にするとか、何百人の会社にするといったことを、最終的な目的にはしていません。私たちは、自分たちのことを「良質な佇まいをデザインする会社」と定義しています。企業が大切にしていること、実際にやっていること、そして社会から見えている姿。その三つがきちんとつながっている。私は、そういう企業の姿が「良質な佇まい」だと思っています。私たちの仕事を通じて、そういう企業を少しずつ増やしていきたい。そして私たち自身も、面白い仕事を、きちんと良質な形で続けられる会社でありたいと思っています。

まだ出会っていない企業やサービス、知らない業界もたくさんあります。「次はどんな人から相談が来るんだろう」「次はどんな人と仕事をするんだろう」。何が起こるか分からないことを不安に思うより、私は今でも、そこを楽しみにしています。

学生・若い世代へのメッセージ

今の自分だけで、自分の可能性まで決めなくていい

学生の皆さんへのメッセージと言われると、少し難しいんです(笑)。私は大学にも行っていませんし、就活も経験していないので、「こうした方がいい」と皆さんに言えることは、あまりありません。ただ、自分の経験から話せることがあるとすれば、私は、仕事が面白いと思っています。皆さんと同じような18〜24歳の頃の私自身は、今の仕事をやりたいと思っていたわけではありません。そもそも、こんな仕事があることすら知りませんでした。

面白そうだからやってみる。頼まれたことに応えてみる。分からなければ調べたり、人に聞いたりする。そうすると、また違う人に出会い、知らなかった世界を知る。それを毎日繰り返しながら、気づいたら自分で会社まで持てるようになっています。皆さんも、これから何をするのか、自分は何に向いているのか、いろいろ考える時期だと思います。でも、今の自分だけで、自分の可能性まで決めなくてもいいんじゃないかと思います。「やりたいことを見つけてから動く」だけが、順番ではありません。少し面白そうだと思ったら、やってみる。そこから自分の世界は少しずつ広がっていきます。私自身、今でも次に何があるのかは分かりません。次はどんな人に出会うんだろう、どんな仕事が来るんだろう。仕事って、どこにつながっていくか分からない。だから私は、今でもこの仕事が面白いんだと思います。

編集後記

大学にも美大にも通わず、電気工事士やDJという全く異なる仕事から今のキャリアを築いてきた龍輪さんのお話は、「やりたいことを見つけてから動く」という王道の順番だけが正解ではないと気づかせてくれるものでした。数字の目標ではなく「良質な佇まいをデザインする」という一貫したビジョンで会社のあり方を語る姿勢や、苦労さえも面白さとして語る前向きな視点は、これから進路に迷うことも多い私たち学生にとって、大きなヒントになると感じました。貴重なお話をありがとうございました。