建設業界を「ブルーから」変えたい
18歳から鳶職に立った
私は18歳くらいから職人の仕事をずっとやっていて、この業界に身を置いて10年以上になりますが、その間ずっと感じてきたのが、働き手がどんどん減っているという危機感です。理由ははっきりしていて、労務単価が安い、給料が安い。それが人材が集まらない一番の原因だと思っています。
当時、私も普通に社員として働いていたので、その課題感をリアルに感じていました。すごく素晴らしくて、やりがいのある仕事なのに、給料が安い。これはどうにかならないのかと、ずっと思っていたんです。お世話になった先輩たちの中には、日本を代表するような建設物を手がけながら、誰にも知られることなく引退していく人もいました。それってすごく寂しいことだと感じていて、職人の技術をもっと世の中に見せていったり、労働環境を良くしていったりすれば、この業界の人手不足の問題は解決できるんじゃないか。それが、最初に私の中に生まれた問いでした。
災害復旧が追いつかない現実
熊本の震災や、最近の千葉の洪水被害もそうですが、日本は災害復旧の工事がまったく追いついていません。東北の震災の復興もまだ終わっていませんし、能登の震災も、被災から2年経ってようやくスタートするくらいのスピード感です。予算もなければ、人もいない。これを解決しないと、国民の生活にまで影響が及んでしまいます。逆にいえば、それだけ社会になくてはならない、価値のある仕事だということでもあります。
私が所属していたのは創業100年以上の老舗の会社でした。業界の上流にいる人たちも、人手不足が加速したときに選んだのは、海外から外国人労働者を安い労働力として受け入れるという選択でした。この20年、そうやってきてしまった。今までやってきたことを全部否定するように変えるのは、誰にとっても難しいことです。ですが、私はそこに向き合わないといけないと思っています。職人を愛し、大切にし、成長できる場を提供する。もちろん綺麗事だけでなく、お金もきちんとセットで提供する。そのために、バックオフィスの作業をAIで徹底的に効率化して、粗利率を今までの会社とは比較にならないくらい上げていく。そうやって、無駄な人件費を職人に還元できる会社をつくりたいと思ったんです。
SNSで得た「発言の自由」
現場の仕事は本当に大変です。日給がどれくらいかを聞いたら、驚く人も多いと思います。それが当たり前になっていて、その金額でも働いてくれる人がいなくなったら、もっと安くても働いてくれる外国人を入れればいい。そういう論理がまかり通ってきました。業界としてそれは問題だと、今なら誰でも理解できると思うのですが、利権が絡むとそう簡単にはいきません。
だからこそ、SNSの力を借りて発信することを選びました。SNSのおかげで、一人ひとりに選挙権が渡されたのと同じように、発言の自由が得られたと思っています。出る杭は打たれることもありますが、打たれるまで出続ければいい。ブルーカラー業界を変えていく、うちに相乗りしてくれるいい会社が世の中に増えれば、業界のイメージも職人の待遇も良くなっていく。そう考えて、創業に至りました。
内製化という差別化
正社員での雇用にこだわる理由
差別化のポイントを聞かれると、まず思い浮かぶのは職人の内製化です。建設業界は、中小企業ほど外注が多い傾向にあります。工事を受注しても自社の社員が多くないから、協力会社に発注する。それが連鎖すると、現場で実際に作業している職人に渡る金額は少なくなり、お客さまは余分な費用を払うことになる。それが業界の悪しき風習だと思っています。
弊社は基本的に全員を正社員として雇用しています。現在70〜80名ほどの正社員がいて、今期は100名超えを目標にしています。外注比率は0.数パーセントほどしかなく、ほぼすべてを正社員でまかなっています。この規模の会社で、これだけの職人を内製で抱えている会社は、あまりないと思います。内製化していると、会社の方針や企業理念が浸透しやすいですし、建設業でとくに大事な品質や安全の管理も、圧倒的にやりやすくなります。今期は年商の目標を掲げて取り組んでいますが、この規模で組織を拡大しながら内製化できているのは、大きなポイントだと思っています。
熱中症も労働災害という意識
内製化にこだわっているからこそ、今年は熱中症による労働災害を一人も出していません。熱中症も労働災害の一つです。ルールを徹底することや、体調管理を社内でしっかり教育すること。それが、外注比率が高くなると教育が行き届かなくなってしまう部分でもあります。そこにこだわってやっているのが、うちの特徴だと思います。
経営で一番難しいのは「人」
お金や設備は裁量でコントロールできる
経営資源というと、財務・資源・人だとよくいわれますが、私にとって財務と資源は正直、どうにかなるという感覚しかありません。健全に経営する能力さえあれば、銀行の融資で困ったこともありませんし、この先もコントロールできると思っています。お金は、勝手に自分の感情で預金通帳から消えたりしません。すべてこちらの裁量だと思うんです。資源についても、財をどう資源に変えるか、どのタイミングで設備投資をするかという考え方の問題だと思っています。
組織が大きくなるほど増える悩み
一方で、人だけは本当に難しいです。人には感情があります。50人の組織になれば50人分の悩みがあり、100人になれば100人分の悩みがある。それは組織が大きくなるほど、増えていく一方です。もっと会社の規模が大きい社長さんや会長さんとお話しする機会もありますが、皆さん同じことをおっしゃいます。人の悩みは終わることがない、と。
私の資産を増やす方法は、最近はYouTubeなどで、つみたてNISAでインデックス投資に毎月いくら入れておけばだいたいこれくらいになる、というように、誰にでもできるくらいシンプルになりました。ですが、組織づくりは違います。1,000人の組織を、ハレーション(摩擦)なく一枚岩でまとめる方法は、まだ見つかっていません。理念がはっきりしていて、社長がこれだけ発信している会社でも、違う方向を向き始める人が出てくる。そこが、今いちばん悩んでいるところです。
給料も役職も「見える化」する
正解の方法はないと思っているので、うちの社風にフィットするマネジメントや組織づくりのノウハウを、片っ端から試している段階です。以前は社員の役職や給料の査定基準をはっきり決めていなかったので、なぜ自分の給料はこれなのかという不満が出ることもありました。そこで、査定の点数に応じた給料や役職を全員に公開して、見える化してしまいました。今はお互いの給料がだいたいわかる状態にしています。できることは基本的に全部やってみて、うまくいかないものは一度しまう。そうやって試行錯誤を続けています。
30代の目標、まだ実行できず
20代は仕事に100%の時間を使うと決めていました。18歳から働き始めて、20歳になったころには、YouTubeやSNSで知識の差がなくなっていく感覚に、すごく可能性を感じていたんです。昔なら難関大学に行かないと学べなかったようなことも、無料の情報として転がっている。いわゆる知識の民主化です。当時、建設業界にそういう発信をする人はいなかったので、私がその一人になろうと思いました。
この先、ブルーカラー業界を世界へ
日本の技術力は世界一
今後のビジョンとしては、まず建設業界・ブルーカラー業界のロールモデルとなる企業をつくり、業界を活性化させることが目標です。そのうえで、日本のブルーカラーの仕事を世界に輸出していきたいと思っています。日本はIT革命の波に乗り遅れて、その領域はアメリカや中国に持っていかれてしまいました。しかし、ものづくりの精密さや安全性、品質の高さでは、日本を代表する自動車メーカーが世界で選ばれてきたように、日本には強い領域があります。建設技術も同じで、日本の職人の技術は世界でトップクラスだと思っています。技能者の数が減っていることで、なかなか海外への輸出展開ができていないのが実情ですが、この技術をもっと世界に届けていきたいです。
AIが変えるホワイトカラーの仕事
最近のニュースを見ていると、20代以上の方が将来に不安を抱いているという話をよく耳にします。原因はAIだと思っています。一昔前は、プログラマーになって技術があればIT企業に入って一生食べていける、というようなイメージがありましたが、その理論はもう通用しなくなってきています。AIはどんどん進化していきますし、人間よりも速く、精度が高く、コストも安い。ホワイトカラーの仕事が縮小していくのは、避けられない流れだと思います。
実際、大手企業でも新卒採用の枠を大きく減らして、AIを使いこなせる即戦力の中途採用を増やすという動きが出てきています。一方で、私たちブルーカラー業界は、人が足りないと言い続けています。つまり、人材の流動がうまくいっていないんです。
学歴とブルーカラーの新しい関係
今後、災害復旧をはじめとする工事の人手不足はさらに深刻になっていくはずなので、人材はいずれブルーカラー業界に流れ始めると思っています。先に始めた人ほど、いいポジションにつけて技術も蓄えられる。先行者利益です。そうなれば、賃金も上がっていくはずです。新卒でも高い水準の給与が、この業界でも当たり前になる時代が来るかもしれません。
これまで建設業界に高学歴の人が少なかったのは、単純に人気がなかったからだと思っています。難関大学に進めるくらい、一つのことに深く向き合い続けられる忍耐力は、経営者から見ても信用できる資質です。業界の状況が変われば、学歴のある人がこの業界を選ぶことも、十分にありえると思っています。
学生へのメッセージ
日本にとって今、本当に必要な技術を、一緒に世界へ持っていく。そんな大きな挑戦を、大学生の皆さんと一緒にやっていけたら嬉しいです。ぜひ一緒に働きましょう。
編集後記
今回、野谷さんのお話をお伺いして、いちばん印象に残ったのは「お金は裁量でコントロールできるが、人の悩みは終わらない」という言葉です。理念をどれだけ言語化しても、組織が大きくなれば摩擦は必ず生まれる。それでも試行錯誤をやめない姿勢に、経営の本質を見た気がします。ブルーカラー業界の未来を本気で描く野谷さんの言葉は、就職活動を控える私たちにも、視野を広げるきっかけをくれるお話でした。
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