アンドヴィオラ株式会社で代表取締役社長をしている石井智美です。オンライン秘書・バックオフィス支援の事業を手がけています。上場企業で20年ほど社長秘書を務めたのち、会社を立ち上げました。学生時代から、独立までの道のり、今後のビジョンまでをお話しします。
支える立場に惹かれた学生時代
もともと会社を経営したい、自分がトップに立ちたいという学生ではありませんでした。ゼミでは副ゼミ長を務めるなど、どちらかというと前に立つ人を支える役割につくことが多く、それが自分に向いていて、好きだと感じていました。
就職活動を考えるなかで、自分がどのような仕事に向いているのかを考えたとき、「誰かを支える仕事がしたい」と思うようになりました。なかでも経営のトップを支える仕事に興味を持ち、秘書という職業について学生のうちから調べていました。秘書検定1級を取得するなど準備を進め、その後、大王製紙株式会社に入社し、秘書室に配属していただいたことが、秘書としてのキャリアの始まりです。
秘書として20年、そして起業へ
産休・育休のさなかに母が病気に
大王製紙で秘書の原点を学んだあと、出産を機に一度退職し、家庭に専念していた時期がありました。それでも「やはり働き続けたい」という思いがあり、その後、アジア航測株式会社で再び秘書の仕事に戻りました。仕事を続けるなかで産休・育休を取得し、復職を考えていた時期に、家族の病気や介護、子育てが重なったのです。
社長秘書は、スケジュール管理をはじめ、ひとつひとつの判断に責任を伴う仕事です。周囲の同僚や上司に支えていただきながら仕事を続けることができましたが、一方で、子育てや介護などライフステージが変化したとき、これまでと同じ働き方を続けることの難しさも実感しました。
「場所や時間にとらわれず、仕事を続けられる選択肢がもっとあればいいのに」そんな思いを持つようになったことが、現在の事業につながる最初のきっかけでした。
30代で両親を見送って感じた使命感
30代は、子育てをしながら家族の介護と仕事を両立する日々でした。そして、両親ともに30代のうちに見送ることになりました。比較的早い時期に介護を経験したことで、働きたい気持ちがあっても、家庭の事情によってこれまでと同じようには働けなくなることがあると、身をもって感じました。自分と同じように、子育てや介護などさまざまな事情を抱えながらも、経験やスキルを生かして働きたいと思っている人がいるのではないか。自分の経験を、そのような人たちの働き方へつなげることはできないだろうか。当時は、起業をしようと明確に考えていたわけではありませんが、ただ「この経験を何かにつなげたい」という思いが、少しずつ大きくなっていきました。
そんなタイミングで、アジア航測に社内ベンチャー制度ができました。社長室の上司がその制度に関わっていたこともあり、自分の考えを話してみたところ、挑戦してみてはどうかと背中を押していただきました。そこで立ち上げたのが、現在のアンドヴィオラにつながる事業です。秘書としての経験はありましたが、事業計画を立てることも、営業をすることも初めてでした。分からないことばかりでしたが、ひとつひとつ試しながら形にしていきました。
コロナ禍を経て、独立へ
事業を始めたのは、コロナ禍になる少し前のことです。当時は、会ったことのない人にオンラインで仕事を任せるという働き方は、今ほど一般的ではありませんでした。そのため、サービスの内容や価値を理解していただくまでに時間がかかることもありました。
しかしその後、コロナ禍をきっかけに働き方は大きく変わりました。オンライン会議やテレワークが一気に広がり、離れた場所にいても一緒に仕事ができるという考え方が、多くの人にとって身近なものとなっていきました。そうした社会の変化にも後押しされ、事業を続けていくなかで、独立という選択につながりました。時代を先取りしていたというよりは、自分自身の経験から感じていた課題と、社会の働き方の変化が、少しずつ重なっていったのだと思います。
事業内容と御社ならではの強み
秘書を持ったことがない社長を支える
中小企業様、どちらかというと小規模の会社様向けに、バックオフィスを支援する事業をしています。お客様のなかには、これまで秘書を置いたことがない経営者の方も多くいらっしゃいます。私自身、秘書の仕事はスケジュール管理だけではなく、社長がやりたいことを実現するために、必要な情報や人、手続きを整理し、働きやすい環境を整えていくことも大切だと考えています。特に小規模な会社では、経営者が日々さまざまなことをひとりで判断していることも多いので、その部分を一緒に整理しながら伴走できることに価値があると感じています。
最近はオンライン秘書というと、自宅で事務作業を代行するイメージを持たれることもありますが、弊社では導入時にまず私自身がお客様との対話に入ります。困っていることがまだ整理できていなかったり、担当者の退職によって業務の引継ぎが難しくなっていたりすることもあるため、まずは状況を伺い、課題を一緒に整理するところから始めます。そのうえで、自社で対応すること、弊社がお手伝いすることを分けながら、無理のない形で業務を整えていきます。そうした導入時の整理も含めて、評価していただくことが多いです。
1人ではなくチームで支える
バックオフィスには、経理、労務、広報、事務などさまざまな業務があります。1人ですべてを担うにはどうしても限界があるため、弊社では、それぞれの得意分野を持つメンバーがチームで支援しています。人事や経理の経験を持つメンバーをはじめ、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが在宅で働いています。お客様ごとの課題に応じて最適な担当者が加わるため、「1人にお願いしているけれど、その後ろにはチームがいる」という体制をつくっています。
また、業務を属人化させないよう、社内で情報共有や引継ぎができる体制も大切にしています。社内に専任担当を置くのではなく、必要な業務を外部に任せたいというお客様や、給与などの情報を扱う業務だからこそ外部を活用したいというお客様からご相談をいただくこともあります。第三者だからこそお伝えできることや、客観的に整理できることもあるのでお客様の社内の方々とも無理なく連携できるよう心がけています。
創業して大変だったこと
起業当初は、事業を知っていただき、お客様との接点をつくることの難しさを実感しました。営業の経験もなかったので、最初はさまざまな方にお会いしたり、SNSで発信したりしながら、自分たちにできることをひとつひとつ伝えていきました。今は紹介やお問い合わせでお仕事をいただく機会も増えましたが、それは急にそうなったのではなく、最初の数年に営業やご縁を重ねてきた結果だと思っています。時間をかけて信頼していただくことの大切さを、起業して改めて実感しました。
秘書と経営者、両方の景色を知っているから
秘書として長く経営者のそばで仕事をしてきたので、その立場や考えていることは、ある程度理解しているつもりでした。
けれど、自分が実際に経営する側になってみると、秘書として見ていた景色とはまた違うものがあることに気づきました。経営には日々さまざまな判断があり、最終的には自分で決めなければなりません。その責任の重さは、実際にその立場になって初めて分かったことの一つです。
最近は、「経営者は孤独でいい」と思うようになりました。最後に決めるのは自分ですし、その責任も自分が引き受けるものだからです。ただ、すべてを一人で抱える必要はないとも思っています。判断そのものを代わることはできなくても、必要な情報を整理したり、考えを言葉にしたり、目の前の業務を整えたりすることで、経営者が本来向き合うべきことに集中できる状態をつくることはできます。秘書として支える側と、経営者として決断する側。その両方を経験したからこそ、ただ業務を代行するだけではなく、経営者が考え、決め、前に進むための支えになりたいと思っています。
今後のビジョンと目標
「まず相談してみよう」と思ってもらえる存在になりたいと思っています。
もともと女性が働きやすい会社や社会をつくりたいという思いがあり、弊社で働くメンバーの相談に乗ることもありました。ただ、自分自身の経験だけでお話しするのではなく、より幅広い視点で支援できるようになりたいと考え、現在は国家資格のキャリアコンサルタント取得に向けて勉強をしています。
今後は、バックオフィス支援に加えて、働く人のキャリアに関する相談にも対応できるようにしていきたいと考えています。組織づくりや人材定着など、中小企業が抱えるさまざまな課題についても、必要に応じて一緒に考えられる存在を目指しています。
子育てと仕事を両立できた理由
家族の理解や協力は、とても大きかったと思います。社内ベンチャーを始めたころから、忙しいときには家族それぞれができることを自然に担ってくれたり、仕事の話を聞いてくれたりと、さまざまな形で支えてくれました。プレゼンの準備をしているときには、家族の中から思いがけず率直な意見をもらうこともあり、そうした何気ないやり取りに助けられたこともあります。
仕事でも家庭でも、すべてを自分一人で抱え込むのではなく、周りに話して、頼れるところは頼ることが大切だと感じています。助けてもらえるところは助けてもらうことも、長く働き続けるために必要なことの一つだと思います。
学生へのメッセージ
自分も最初から起業したいと思っていたわけではありませんでした。社内ベンチャーに挑戦したときも、当初から自分が社長になることを想定していたわけではなく、「まずはやってみよう」という気持ちで始めたのがきっかけです。実際に一歩踏み出したことで、そこから今の自分につながっていきました。学生のうちから「これしかない」「ここで決めたらこうなってしまう」と可能性を狭めすぎなくてもいいと思います。私自身、起業してからは、新しいお話をいただいたときには、できるだけ一度はやってみることを大切にしています。実際に経験してみることで、新しい世界が見えたり、自分に向いていることに気づいたりすることもあります。
秘書の仕事を長く続けられたのは、やはりこの仕事が好きだったからだと思います。一度退職したときには簿記の勉強をして資格を取得するなど、別の分野にも挑戦しました。そうした経験を通して、自分がどんなことに興味を持てるのか、どんな仕事にやりがいを感じるのかを考えるきっかけにもなりました。仕事をしている時間は、人生のなかでも大きな割合を占めます。だからこそ、自分が興味を持てることや、やっていて楽しいと思えることを少しずつ探していってほしいと思います。すぐに見つからなくても、いろいろ経験しながら探していけばいいのではないでしょうか。これまで面接代行の仕事もして、自分の会社も含めて300人ほどの面接に関わってきました。いろいろな経験をしていても、その一つひとつに自分なりの理由や軸があれば、十分にその人らしさとして伝わると思っています。
学生のうちは、同じアルバイトを長く続けるのもいいですし、いろいろな仕事を経験するのもいいと思います。インターンや留学なども含め、さまざまなことに挑戦しながら、自分に合うものを見つけていってほしいです。
この会社のよくある質問
どんな方がアンドヴィオラに向いていますか?
決められた作業だけをこなすというよりも、お客様のお話を伺いながら、課題を整理していくことに興味を持てる方には向いていると思います。事務的なスキルももちろん大切ですが、それと同じくらい、相手のお話を丁寧に聞く姿勢を大切にしています。
未経験でも働けますか?
弊社で働いているメンバーには、人事や経理などの経験がある方も多いですが、これまでの経験だけでなく、お客様の状況を丁寧にくみ取りながら仕事を進める姿勢を大切にしています。それぞれの経験や得意分野を生かしながら取り組める体制を整えています。
オンラインでの働き方は実際どうですか?
在宅で働いているメンバーもいますが、ひとりで抱え込むのではなく、チームで情報を共有しながら役割を分担しています。オンラインであっても、必要なときに相談し合える環境づくりを大切にしています。
編集後記
学生インタビュアーとして石井さんのお話を伺い、支える側と決断する側の両方を経験しているからこそ語れる言葉の重みを感じました。30代で両親を見送るという経験を、後の世代に伝えるための使命感に変えていく姿勢がとても印象的でした。「誘われたら断らない」という石井さんの決め事は、将来を決めきれずにいる学生にとって、1つの指針になるのではないかと思います。キャリアの選び方に迷っている方にこそ読んでほしいインタビューでした。