実家に流れていた、まだ見えなかった価値
訪問診療という、理解されなかった挑戦
弊社のホームページにも少し載せているんですけど、もともと私はデザイナーだったんですよね。実家は父が歯医者をやっていて、当時としてはかなり先進的なタイプだったんです。まだ訪問診療という考え方自体が一般的ではなかった時代に、車が好きだったので車を改造してユニットを積み込んで、通院できない患者さんのところまで治療に行っちゃうような人でした。
父の取り組みは、当時の周囲からはなかなか理解されませんでした。新しいことを始めることには、社会との間に摩擦が生まれることもある。幼い頃の私は、そのことを父の背中から学んだように思います。バブルの時代には、友達などに貸していたお金が返ってこなくなって、実家が傾いた時期もありました。
事業と社会のつながりを考えるようになった
私はその頃から、どうしたら事業がよくなるのか、社会性を持てるのか、地域と循環した事業を作れるのかというところに、ずっと注目するようになりました。
私は高校を中退しているんですけど、そこから司法試験を受けようと考えたこともあったんです。ただ、2009年に法改正がありロースクールに通わないといけないとわかって、方向を変えることにしました。デザインや構造理解、建築の方に進もうかとも思ったんですけど、あまり数字が得意ではなかったので、ウェブのデザインだったらもっと自由に事業を広めたり、自分の力で何かできるんじゃないかと思って、そちらに進むことにしたんです。
バラバラに見えた経験が、線になった
デザイナー、エンジニア、営業を経験して
デザイナーを経験したあと、光通信という会社に入りました。最初はアルバイトだったんですけど、新規事業の立ち上げや、社長室での仕事など、いろいろなことを経験させてもらいました。エンジニアとして自分でコードを書いたり、企画の仕事をやったり、広告のセールスマネージャーも経験したり。一見バラバラに見えるこれらの経験は、あとになって振り返ると、一本の線としてつながっていくものでした。
そうやっていろんな仕事をやったうえで、結局、価値のある仕事とは何だろうかというところに立ち戻ったんです。世の中には、やらされる仕事の方が多いなと感じていて。それなら自分で会社を作って仕事をしていこうと思ったのが、創業の経緯です。
「エニィ」に込めた、価値を見つける仕事
いまは「見えない価値を形にする」というデザインの事業をやっています。経営者やリーダーの方とビジョンについて対話をしながら、見えない価値を探っていって、それを実際のクリエイティブやデザインに落とし込んでいく仕事です。
この会社にはこういう経緯があって立ち上がって、こんなビジョンを持っていて、だからこの商品にはこんな価値があるんですよ、というところまで伝わるようにする。展示会のブース設営からホームページ制作、広告出稿、パンフレットやチラシ、名刺まで、幅広く手がけています。
一つひとつの小さなクリエイティブがビジョンの方に向かっていけば、組織はよくなっていくし、それ自体が戦略になって、ビジョンに向かって最短距離で進んでいくという現場を見てきました。この信念が会社名にもつながっていて、「エニィ」というのは、どんな人にも、どんな事業にも、どんな組織にも価値がある、という思いを込めています。存在意義や価値、ビジョンを見つけることで、「こんな事務作業でも、あなたが言ってくれたから助かったんだよ」というような関係性を描いていけたらと思っています。
押しつけないという姿勢
こういう仕事をしていると「エグゼクティブコーチング」と言われたり、「ビジョンを描くのが得意なんです」という人に出会ったりもするんですけど、ビジョンってそんな、まやかしみたいなものじゃないと、すごく感じているんです。
だからちゃんとその人の未来像に即していて、納得感の在るご提案を心がけるように気をつけています。現実は自分の手でクリエイトしていくものなので、その活動のお手伝いをするという姿勢が、私にとっては一番大事なところです。
組織づくりという課題と、これからの景色
一人でやってきたからこその、いまの課題
苦労してきたことでいうと、私は一人でなんでもやってきてしまったので、組織づくりはいまも課題だと感じています。これから会社としては、社員やクリエイターが自由で幸せに、自分の仕事を誇れる環境づくりをしていきたいなと思っています。
志でつながる「梁山泊(りょうざんぱく)」
個人としては、私は4人の子どもがいて、シングルマザーなんです。子どもとの関係も、家族関係も、周りで手伝ってくれる仲間たちとの関係も、新しい人間関係や社会との接点も、自分自身のことも、大切にしていきたいと思っています。趣味で茶道と朗読と歌をやっているんですけど、自分でワクワクする、イケてるなと感じる感覚とともに、ビジネスがうまく回ったり、人間関係がうまく循環していったりするのがいいなと思っています。
中国の古典『水滸伝』はご存じですか。理不尽な世の中で立ち上がったアウトローな英雄が108人集まって、梁山泊という砦で、世代や仕事を超えて仲間になり、巨大な権力に立ち向かっていく話なんです。私はそんなふうに、志と信頼でつながる、現代の梁山泊のような場所を作りたいと思っています。
10年後は、10人の仲間と梁山泊のような場所で仕事をして、昼間は海辺で犬と散歩をして、筋トレをして、しっかりランチを食べて、図書館で昼寝をする。そんな暮らしが、私の個人的なビジョンです。
まだ名前のついていない価値を、一緒に見つけよう
弊社のナンバー2は、もともと大学生のときにインターンとして入ってきたメンバーで、いまも6年ほど活躍してくれています。ほかにも、高校生がアルバイトとして関わってくれたり、私の長女も手伝ってくれたりしたことがありました。デザインやマーケティングという具体的なものを学びながら、経営そのものにも携われる、いい現場になっているんじゃないかなと思っています。
私自身、高校を中退したときには、自分が何者になるのかなんてわかりませんでした。デザイナーになり、エンジニアになり、営業をして、会社をつくった。振り返ってみると、一見バラバラだった経験が、いまの仕事につながっています。
だから、20代の皆さんにも、早く「自分はこれだ」と決めなくてもいいと思っています。まだ名前のついていない才能もあるし、まだ誰にも見つけてもらっていない価値もある。私たちが仕事にしているのは、まさにそういう「まだ見えていない価値」を見つけて、形にすることです。
もし、自分の可能性を試してみたい人がいたら、ぜひエニィに来てください。一緒に仕事をしながら、あなた自身の価値を見つけていきましょう。
編集後記
今回、株式会社エニィの阿萬さまにお話をうかがいました。ご実家の歯医者さんの話から、ご自身のキャリア、そして「エニィ」という社名に込められた思いまで、すべてが「まだ見えない価値を見つけて、形にする」という一本の線でつながっていることが印象的なインタビューでした。とくに心に残ったのは、ビジョンを「押しつけない」という姿勢のお話です。学生団体の活動でも、つい理想を語りがちになってしまうことがあるので、相手の未来像に寄り添うという考え方は、私自身の活動にも取り入れたいと感じました。「水滸伝」の梁山泊のように、志でつながる場所を作りたいというビジョンにも、心を動かされました。貴重なお話をありがとうございました。