発達心理学から見つけた「遊び」というテーマ
大学で出会った「遊び」の研究
出身は静岡県浜松市です。小さい頃から本当にサッカーしかやってこなくて、幼稚園から小中高、大学の途中までずっとサッカー少年という幼少期を過ごしていました。
大学は横浜国立大学の教育学部で、専門は家庭科教育の中でも保育学、とくに児童/発達心理学というテーマでした。
石巻の仮設住宅で感じた遊びの意味
大学時代は、横浜の小学生を毎年60人くらいを集めて、キャンプに行ったり、区民祭りに出店したり、ワークショップを行う活動を3年間続けていました。活動は、年間を通して学生が企画運営を行うのですが、仲間と共に作り上げる達成感や、子どもや地域住民の笑顔が忘れられず、「遊び」というものに強く興味を持つようになったんです。人が遊びを通して何を学ぶのか、遊びやエンターテインメントが人にとってどういう意味を持つのか。それを学べる分野が、教育活動や発達心理学のなかにありました。
在学中には東日本大震災もあり、日本中が明るくなれない雰囲気に包まれていました。私も宮城県石巻の仮設住宅に定期的に泊まり込みで通い、仮設住宅内の子どもの遊び場で学習支援をしたり、一緒に遊んだりしていました。この経験を通じて、遊びが人間にとって持つ意味への関心がさらに深まっていきました。
大手企業で得た手応えと、芽生えた違和感
カプコン・LINEで感じたユーザーの熱量
学校の先生ではなく、エンターテインメント企業であるカプコンに就職したのは、この「遊び」というテーマをそのまま仕事にできると思ったからです。ちなみに、カプコンの企業理念は『ゲームというエンターテインメントを通じて「遊文化」をクリエイトし、人々に感動を与える「感性開発企業」』となっています。カプコンではゲーム開発会社として作り方をゼロから叩き込まれ、LINEではゲーム事業のプロデュースや運営、新規事業の立ち上げに携わり、コンサルティング会社のアクセンチュアでもエンターテインメント企業の経営支援を5年半ほどおこなってきました。
LINEに在籍していた際は、「LINE ポコポコ」というパズルゲームのプロデューサーを務めていました。電車のなかでたくさんの人が遊んでいたり、話題にのぼったりするユーザーの熱量を肌で感じられたのは、とても大きな経験でした。ゲームの成果がそのまま自分の評価や会社の成長につながる実感があったんです。
コンサルで見えた「”自分で”変えたい」という思い
アクセンチュアはいわゆるITコンサルの領域で、プロジェクトマネジメントや新システム開発、経営シミュレーションまで幅広く携わっていました。お客さまの大きな変革を支援できる充実感やプライドを持って取り組んでいましたが、カプコンやLINEで感じていたようなToC向けサービスならではのリアルな手応えとは違うものでした。
自分自身で変革を生み出したい、自分のサービスで世の中をよくしたいという思いが強くなり、ピッチイベントに出たり、ベンチャーキャピタルと話をしながら、次の挑戦テーマを模索するようになっていきました。
十数年ぶりの再会が生んだ共同創業
独立の怖さより強かった違和感
大手企業から独立することに怖さはなかったのかとよく聞かれるのですが、正直ほとんどありませんでした。ここ数年で生成AIの文脈が一気に広がるなかで、どの仕事も生成AIという脅威と向き合う必要が出てきています。そのような時代に、大企業に居続けることのほうが、自身のスキルが固定化し怖いのではないかという感覚がありました。
不安というより、違和感や疑問に近いかもしれません。このまま5年、10年でどうなっていくのだろうと考えたとき、最後に人がやることは「遊ぶこと」「楽しむこと」という、人間だけに許された行動だと思うんです。そこにベットしていくことに、前向きにチャレンジできる環境も、背中を押してくれる仲間もありました。
中学時代の同級生との再会から始まった会社
現在CTOを務める「Bufff」の共同創業者の三浦は、中学時代に通っていた塾の同級生でした。定期的に連絡をとっていたわけではなく、創業の半年ほど前に、十数年ぶりに私から連絡をしたのがきっかけです。三浦との再会から、お互いがこれまで行ってきたこと、今後の人生設計やキャリアプランを話し、世の中にない新しい価値を生み出す原動力が互いにあることを知ることができ、これが創業の大きな後押しになりました。
「誰でもゲームを“つくる体験”に参加できる」世界を目指して
コンテンツとしてのゲームの力
いま取り組んでいる事業は、誰でもゲームを“つくる体験”に参加できるプラットフォーム:JAMMMです。会社としてのビジョンは、ゲームを通じて人の心を動かし、人と人をつなぐこと。
音楽もスポーツもドラマも映画も漫画もアニメも好きですが、そのなかでもゲームはとくに魅力的なコンテンツだと感じています。プレイした結果に成功も失敗もあり、感情の振れ幅が大きく、人の心を大きく動かせるものだからです。一方でソーシャルゲームの利用時間を自治体が制限するといった負の側面もあり、ゲームの持つ強い影響力をポジティブなエネルギーに変えられないかと考えています。
FacebookがWebコミュニティの文化をつくり、YouTubeが動画を民主化してきたように、次はゲームが誰にでも作れるようになる番だと思っています。企業が自社紹介にゲームを使ったり、友人同士でゲームを作ったりする、私たちはこれを「ゲームUGC」ジャンルと呼び、ゲームによって人がつながり、コミュニティが広がる「ゲームコミュニケーションワールド」をつくることを掲げています。
ゲーム制作と事業開発で積み上げた約20本の実績
現在の形になってから2年半ほどになりますが、初期はゲーム版TikTokのようなものや、AIでゲーム素材を出力する仕組みなど、試行錯誤を重ねてきました。これまでゲームに関わる受託ビジネスやコンサルティングを通じて知見を蓄積し、そのノウハウをいま自社プラットフォームへと昇華させている段階です。
たとえば、20歳から60歳まで幅広い世代が交流できる身内ネタ満載の同窓会オリジナルゲームを作ったり、浜松市の少子化対策として開かれた婚活パーティーで、初対面の二人が仲よくなれるゲームを制作しました。地方創生の文脈では、観光地の各エリアを回ってボスを倒すとクーポンがもらえる位置情報活用ゲームも手がけています。サッカースタジアムの大型ビジョンでハーフタイムにファンみんなで遊べるゲームや、「進撃の巨人」「SPY×FAMILY」のゲームなど、受託開発や自社開発を含め、これまでに約20本のゲームを制作してきました。
次なる挑戦のテーマ「ゲームUGCプラットフォーム:JAMMM」
私たちが開発中のゲームUGCプラットフォーム:JAMMMは、クリエイターが用意したゲームテンプレートに、一般ユーザーが写真や画像などを組み合わせて、オリジナルゲームを作成・共有できるUGC型プラットフォームです。現在開発中で、AIの活用によって制作体験のさらなる簡易化を目指しています。ここで生まれた収益はしっかりクリエイターに分配していく仕組みを目指しています。
*UGC(User Generated Content)=ユーザーがコンテンツを作る仕組み
ゲームとコミュニケーションをつなぐ未来
NINTENDO 64が教えてくれたコミュニケーションの力
幼少期、友人の家でNINTENDO 64を4人プレイのはずが8人くらいで交代しながら囲んで遊んだ経験は、いまでもとても楽しい記憶として残っています。お菓子を食べたり、ゲームをしながら”あの場の空間”がとても好きで、色褪せることのない心象風景となっています。当時大流行したポケモンも、交換しないと手に入らないポケモンがいたり、「どこまで進んだ」「バッジを8個取った」といった会話がコミュニケーションの軸になっていたりしました。ゲームを共通言語として、みんなでワイワイ遊んだあの体験こそ、私たちがゲームとコミュニケーションをつなぐ新しいプロダクトを作りたいと考える原点になっています。
無報酬から始まった1年間
創業当初は苦労の連続でした。大手企業にいたころは自分の役割が用意され、頼れる上司やバックオフィスメンバーなど、困ったら助けてもらえる環境がありましたが、スタートアップには実績も資源もありません。最初の1年は無報酬で在宅勤務、当然お客さまも信用もないところからのスタートでした。
ピッチコンテストでの優勝が転機に
大きな転機になったのは、昨年のサンリオ主催のピッチコンテストです。160社ほどの企業の中から弊社が優勝することができ、そこからサンリオとの取引が始まりました。その後、出版社や音楽会社、IPホルダーなど、さまざまな企業・団体とのゲーム制作や協業に取り組むようになりました。
経済産業省IP360採択の意味
2026年6月、経済産業省の「IP360(コンテンツ産業海外展開強化・基盤整備事業費補助金)」の「開発プラットフォーム構築支援」に採択されました。これは日本のアニメ・漫画・ゲームといったコンテンツの海外展開を国として支援する枠組みで、大手コンテンツ企業も採択される国の支援事業に、スタートアップである弊社が採択されたことは、大きな出来事でした。日本のエンタメ産業が自動車産業を上回るのではないかというシミュレーションもあるなかで、ゲームUGCプラットフォームを通じて日本のさまざまなIPやコンテンツを活用したゲームを生み出し、将来的な海外展開につなげていくことも、大きな方向性のひとつです。
クリエイターとIPを守る二つの軸
私たちの会社では特に大事にしていることが二つあります。
ひとつはゲームクリエイト産業をしっかり守り伸ばしていくこと。もうひとつは、キャラクター大国である日本のIPを、AIによる無許諾の生成・二次利用などのリスクとどう向き合わせていくかということです。
AIによって誰でもプロンプトベースでゲームが作れる時代になりつつありますが、それは従来のゲームクリエイト産業とは切り離された世界になりがちです。インディーゲームクリエイターや学生クリエイターも含め、安定した収益を得られる仕組みを作りたいと考えています。二次創作についても、ファンによる熱量の高いコンテンツである一方、海賊版など公序良俗に反するものもあり、企業とファンの双方にとって健全な形をIPホルダーと一緒に模索しているところです。
学生へのメッセージ
自分の違和感を大事にしてほしい
キャリアに悩む学生の皆さんに伝えたいのは、自分の違和感を大事にしてほしいということです。大手企業に行くべきという声も、スタートアップで経験を積むべきという声もありますが、正解は人によって違うと思います。自分が好きなもの、あるいはどこかおかしいと感じる違和感が変革のモチベーションを産み、原動力になることがあります。ぜひ自分の思いを大切に、就職活動や残りの学生生活を楽しんでいただけたらと思います。
編集後記
今回、株式会社Bufffの成瀬さんに取材させていただきました。大手企業での実績だけでなく、無報酬で在宅勤務からのスタートという泥臭い時期があったことを率直にお話しいただき、とても印象に残りました。ゲームを「遊ぶもの」から「作るもの」へと広げていく”ゲーム開発の民主化”という発想は、私自身が普段何気なく遊んでいたゲームの見え方を変えてくれるものでした。自分の違和感を大事にという言葉を胸に、残りの学生生活を過ごしていきたいと思います。