大手企業の人事部からネイリストへ
「ネイルって何?」と言われた時代の決断
当時は今のようにいろいろな選択肢がある時代ではなかったんですよ。会社を辞めるという選択自体、する人がほとんどいませんでした。当時「ネイルって何?」と言われていたなかでネイリストになると言って会社を辞めるなんて、人生を棒に振るようなものだとずいぶん言われましたね。
私の言葉が、会社のイメージになる
新卒で入社したのは、社員が7万名もいるような大きな会社でした。配属されたのは人事部の採用教育という、いわゆる花形と言われる部署です。会社が大きいぶん、いろいろな方が私のことを「会社の顔」だと思って接してきて、私が話すことすべてが会社のイメージになっていくような感覚があったんですよね。
上司に不満があったわけでも、会社が嫌いだったわけでもありません。それでも、この先ずっとここでやっていくのかなと考えたときに、すごく不安になっていったんです。もっと楽しく、やりたいことをやってみたい。そう思うようになりました。
会社にいるあいだにネイリストの資格を取って、それから転職したという流れです。
自分が通いたい店を作る
創業のきっかけは、こういう店だったら私が通いたいと思える場所を作りたかったことです。ネイルをするだけではなく、お客様にちゃんと寄り添って、来たときよりも少し幸せな気持ちで帰ってもらえる店にしたい。それが一番最初の始まりでした。
最初から経営者になりたいと思っていたわけではなくて、ネイルが好きで、人に喜んでもらえることがうれしくて、目の前のことをひとつずつやってきたという感じなんです。それが仕事になって、店になって、人を育てる立場になってきたという感じですね。
本物のダイヤモンドを爪にのせるということ
ダイヤモンドという特別な輝き
f’bloomでは、ネイルサロンとしての施術に加えて、ネイリストを育てるスクールにも力を入れています。サロンとしては、本物の天然ダイヤモンドを爪に施す「ダイヤモンドジュエリーネイル」という技術を広める活動をしていて、2014年から始めました。
若い頃は、ダイヤモンドは人からプレゼントされてうれしいもの、というイメージしかなかったんです。ですが年齢を重ねていくうちに、私が頑張ったときには自分のために選んでもいいものなのかなと思えるようになりました。その輝きがあることで自信を持てたり、ちょっと頑張ろうと思えたりする。そんなアイテムなのかなと感じて、これを中心にやっていこうと決めたんです。
累計27,000件以上の施術実績
ダイヤモンドジュエリーネイルを始めてから、私自身とスタッフを合わせて、これまで27,000件以上の施術をさせていただいてきました。自社で調べたかぎりですが、日本で一番施術している数だと思っていて、メディアにも取り上げていただく機会が増えましたね。
少人数だから向き合える
サロンは東京に3店舗、大阪に1店舗ですが、人数はとても少なくて、だいたい10名ほどで回しています。巨大なサロンではないですし、人がたくさんいるわけでもありません。スピード勝負のネイルサロンも世の中にはたくさんありますが、うちは逆で、一人ひとりに向き合ってオーダーメイドの施術をご提案するので、コミュニケーションとカウンセリングをしっかりするサロンだと思います。
長く勤めてくれているスタッフも多くて、副社長を務めてくれている子とはもう20年ほどの付き合いになります。一度入ってもらうと4、5年は普通にいるような環境ですね。女性はライフステージがどんどん変わっていくので、結婚や出産、子育てなど、そのときどきの希望に合わせて働き方を選べるようにしているんです。それが勤務年数の長さにつながっているのかなと感じています。
社長として向き合ってきた苦労
経営者とプレイヤーは別物だった
20年続けようとか、社長になろうと思っていたわけではなかったので、苦労は本当に大きかったです。人に喜んでもらいたくて始めた仕事だったから、働いてくれているスタッフにも喜んでもらいたいと思って一生懸命サポートしてきたつもりだったのですが、思ったように人が育たなかったり、辞めてしまったりすることは当たり前にありました。技術が身につかず売り上げが上がらなかったり、経営判断を間違えたり、自信をなくすことも本当にあったんです。
今でも失敗はし続けていると思います。しかし、タフになっただけです。何が正解かわからないから、常に考え続けているんだなと自分では思っています。
コロナ禍が教えてくれたこと
本当の意味で経営がしっかりできるようになったのは、コロナ禍のあとくらいからかもしれません。それまではずっと楽しくやってきたんです。コロナという大きな出来事があったとき、廃業したネイルサロンは本当にたくさんありました。
コロナ前までは順調で、お客様が急に減るということはなく、少しずつ信頼していただけるサロンになってきていたんです。新しいことをどんどん取り入れて、楽しくやっていました。それだけに、コロナのときはダイヤモンドネイルなんてやっていて、贅沢品だと言われることも多かったですね。価値観も世の中の状況もこんなに変わるのかと実感しました。
求められるものでないと残れないんだな、と痛感した出来事でした。みんなが生活を見直して、必要だと思うものを選び直していくときに、選ばれなければ、なくなってしまう。そういう怖さがありましたね。
これから目指す景色
「f’bloomと言えば」を目指す
これから目指したいのは、「ダイヤモンドをのせるならf’bloomだよね」と言ってもらえる存在になることです。ブランドを確立するという言い方はちょっと硬いかもしれませんが、ダイヤモンドジュエリーネイルならf’bloomに行けば安心だと言ってもらえるようになりたい。それと同時に、好きなことをちゃんと仕事にできる人を増やしていきたいというのが、私のなかにある目標です。
とはいえ、本物のダイヤモンドを爪につけるということ自体、まだ知らない方のほうが多いんです。取れないんじゃないか、偽物なんじゃないか、高そうだ。そんなふうに思われることもたくさんあります。だからこそ、認知を上げていくことがとても大事だと感じています。
稼げるネイリストを育てる
ネイルが一般の方にも浸透し、セルフネイルを楽しむ方が増えたからこそ、趣味とプロの差が曖昧になりがちにもなってきました。簡単に独立できるからこそ挑戦もしやすいですが、かつて私が苦労したように、経営に苦しんでいる方も多く見かけます。だからこそ、東京だけでなく全国に、ダイヤモンドネイルの技術者として自信を持ってやっていけると感じてもらえるような、稼げるネイリストと呼ばれる人たちを育てていきたいと思っています。技術だけでなく、仕事として続けていく力を身につけることで、自信を持ってやっていけるということを、きちんと伝えていきたいですね。
専門性が生き残る鍵になる
じつは何年も前に、AIによって将来なくなっていく仕事のなかにネイリストが挙げられたことがあったんです。それを聞いて実際に辞めてしまった人もいました。ただ、私はなくならないと思っています。情報に踊らされて、自分が不安だと思うことはやらないという方が多いのだと思うのですが、だからこそ、しっかり稼げるネイリストとはどんなものか、好きな仕事をしながらサービスとして成立させるとはどういうことか、それを伝えられる人になりたいと思っています。
差別化はとても難しいことです。爪の健康への意識も高まっているので、これから先も大丈夫だとは思うのですが、そのなかでも専門性が大事だと感じています。ここに来れば癒やしが必ずある、と思ってもらえるサロン作りだったり、巻き爪など爪のトラブルに困っている方への対応だったりと、「+1」でできる専門性を持つことが、これからのネイリストには必要なんじゃないかと私は思っています。
学生へのメッセージ
小さな「好き」を重ねる
将来やりたいことが決まっていなくても、まったく焦らなくていいと思います。私も最初から今の未来が見えていたわけではなくて、少し好きだな、ちょっと面白そうだな、ということを大事にして、ひとつずつ積み重ねてきました。その小さな選択が、思ってもいなかった未来につながることは、本当にあると思うんです。
自分の人生は、いくつになっても自分で選び直していいと思っています。だからこそ、ひとつひとつの体験を大事にしてもらいたいですね。もし今、大学生に戻れるとしたら、専門性を早いうちから作っていきたいです。自分がこれでやっていきたいという像をいくつか考えて、時間があるうちに全部やってみたいと思います。
編集後記
今回インタビューをさせていただいて、印象に残ったのは「求められるものでないと残れない」という石井さんの言葉でした。大手企業の人事部という安定した環境から飛び出し、ダイヤモンドジュエリーネイルという独自の技術で20年以上サロンを続けてこられた背景には、コロナ禍という逆風のなかでも専門性を磨き続けた強さがあると感じました。私自身、学生起業でうまくいかないことも多いのですが、小さな「好き」を積み重ねる大切さを改めて教えていただいた気がします。貴重なお話をありがとうございました。