シリコンバレーで学んだ「まず自分がやる」という感覚
橋渡し役から挑戦者へ
私の経歴を大まかにまとめると、大学を卒業してそのままビジネススクールに行き、外資系経営コンサルティングファームで働いたあと、30歳のときにアメリカのシリコンバレーに渡って、そこで6年間過ごしました。シリコンバレーを中心としたベンチャー企業と、日本およびアジアの大企業との橋渡しをするような仕事をしていました。あそこはとても不思議な場所で、「自分でもできる」気持ちになるんですよね。さらに言えば、チャレンジをしない人のほうがおかしいという雰囲気があった。コンサルタントとしても非常にエキサイティングな仕事ができていました。ただ、あるときから「人を助けるだけでなく、自分もやろう」と思うようになったんです。そしてソフトウェアベンチャーを日本で創業し、上場させました。しかし、自分が思い描いた「日本発世界初」は実現できませんでした。そこで、もう一度新しいチャレンジをしようと会社を去り、エンジェル投資的な活動やコンサルティングをしながら、次の創業のチャンスをいろいろと探していました。自分自身でもさまざまなアイデアをつくって試してみたりもしていましたね。
そうしたなかで出会ったのが、ベンチャー支援をしている仲間の一人でした。彼はユーグレナの創業にも深く関わった友人で、その研究室の先輩が、ずっと大学で藻類の研究をしていました。その先輩がある藻類の非常に面白い特徴を見つけて「これは事業になるのでは」と相談に来たそうなんです。そこで「会社をつくりませんか」と声をかけてもらったのが、今の株式会社ガルデリアの創業のきっかけになります。
温泉に生きる、10億年前からの生物
ガルディエリアとの出会い
弊社が扱っているガルディエリアは、ユーグレナやクロレラといった微細藻類の一種です。藻類というと、わかめや昆布、海苔なども仲間ですが、あれらは肉眼で見えるサイズです。それに対して、微細藻類は顕微鏡でなければ見えないほど小さな植物なんですよね。藻類には海に住んでいるものも、淡水に住んでいるものもありますが、弊社が扱うガルディエリアは温泉、それも硫酸性温泉というタイプの温泉に生育していて、日本でいうと草津や別府、大涌谷といった温泉に住んでいます。10億年ほど前から存在する、かなり原始的な生物になります。温泉のなかで生きているだけあって非常にたくましくて、pH0といった強酸性環境や、摂氏55度を超える高温の環境でも生きられます。こうした特性が、自分が立ち上げたいと考えていた事業の姿にぴったりと合致すると感じたのが、この事業をはじめたきっかけです。
貴金属だけを選び取る技術
既存設備はそのままでいい
今おこなっているのは、ガルディエリアを培養し、加工して、緑色の粉末にする事業です。直径にすると1mm弱くらいの粉末で、これを吸着剤として、貴金属の回収・リサイクルをおこなっている会社に販売しています。弊社の事業は基本的にB2Bで、たとえば田中貴金属や三菱マテリアルといった、金やプラチナ、パラジウムなどの地金を販売する会社が顧客になります。金融商品として1グラムいくらで販売されていたり、蓄財の一つとして扱われていたりする、あの地金です。そうした地金を扱う会社が、今まで使っていたイオン交換樹脂による貴金属回収システムの、タンクやポンプはそのまま使っていただいて、中身だけをガルディエリアの加工粉末に置き換えていただく形になります。
これによるメリットは、大きく2つあります。一つは、今までのやり方での「溶液のなかの金属が薄くなってくると回収できなくなってしまう」という課題を解決できることです。1ppmや5ppmといった、1トンの溶液に対して1グラムから5グラほどしか金属が残っていないような薄い状態でも、ガルディエリアを使えば0.00何ppmまでほぼすべて回収することができます。
もう一つは、従来の手法での「貴金属以外の鉄やアルミ、亜鉛など、溶液中にあるさまざまな金属も一緒に回収されてしまう」という課題を解決できることです。場合によっては貴金属1に対して、そうした重金属などが100倍から1,000倍も含まれていて、貴金属を十分に取ることができないケースがあるのですが、ガルディエリアは貴金属だけを選択的に取り出せるので、従来の技術ではたどり着けなかったところまでリサイクル率を高めることができます。
環境と経済安全保障、両方への意義
掘らない、CO₂排出を減らす選択
競合となる技術であるイオン交換樹脂は、そもそも石油製品でできていて、使い終わったあとは燃やしてしまうことが多いんですよね。化成品を燃やすことは、環境負荷という意味でもCO₂排出という意味でも小さくありません。私たちの技術であれば、同じ燃やす工程を経たとしてもCO₂の排出を8割から9割ほど削減できます。天然鉱山から金属を採掘する場合も、大きな重機で山を切り崩し、土を運び出すという工程自体が、CO₂排出や環境破壊に大きくつながっています。加えて、日本は貴金属の鉱山がほぼないため、輸入に頼らざるを得ない状況です。経済安全保障の観点からも、輸入が滞れば製造そのものが止まってしまうリスクがあるので、そうした事態を避ける意味でも、この技術には意義があると考えています。
すでに始まっているグローバル展開
インドで見えた7〜8倍の効率
弊社のお客様は、日本国内だけでなく海外の方が多い状況です。環境意識の強いヨーロッパの貴金属精錬会社にも採用していただいていますし、面白いところでは、ネックレスや指輪といった貴金属のジュエリーをつくっている会社にも導入いただいています。なかでも一番多いのはインドで、今はお客様が30社ほどまで増えてきました。金を加工する過程では、職人が手で削ったり加工したりする際にどうしても金粉が飛んでしまうので、それを集めて隣の部屋でリサイクルするという工程があります。従来は王水という共産制の液に溶かしてイオン交換樹脂の仕組みで取り出していたのですが、それと比べると、7倍から8倍の効率で貴金属を回収できることがわかっています。インドではムンバイという西海岸の都市を中心として、そこから近い中東、たとえばUAEのアブダビでもお客様が増えてきています。今後はタイをはじめとした東南アジアや、イタリア、スペインといった高級ブランドの多い地域にも展開していきたいと考えていて、まずはこの貴金属回収というテーマで、グローバル化をいち早く達成することが最初のステップです。
水銀を使わない金採掘へ
世界の20%を占める小規模鉱山
もう少し長期的なビジョンとして考えているのが、天然鉱山への展開です。大手企業が工業的に運営している天然鉱山もあるのですが、実はASGMと呼ばれる小規模の天然鉱山が世界中に数多く存在しています。19世紀のアメリカで起きたゴールドラッシュのように、川底の砂を採ってみたら金が見つかり、人々が我先にと集まってくる、そうした世界が、今もアフリカや中南米、アジアの各地に残っています。市場規模でいうと世界の金採掘の20%ほど、金額にして約3兆円規模で、そこで1,500万人ほどが働いています。ただ、これは違法な採掘であることが多いうえに、金の取り出し方にも大きな問題があります。採取した砂をドラムに入れて回し、水と水銀を加えて合金をつくり、その合金をバーナーで燃やして水銀を蒸発させ、金だけを残すというやり方です。これを、防護具もつけていない現地の労働者が、素手で水銀を扱いながらおこなっているんですよね。結果として水銀中毒による健康被害が起きていて、水俣病のような深刻な症状に至ることもあります。世界的な環境問題として国連も長年取り組んでいて、インドネシアなどでは政府が水銀の使用を禁止していますが、現場の労働者は「わかっている、数年後には病気になるかもしれない、それでも今晩の食事のために体を張るしかない」と言いながら作業を続けているのが実情です。弊社では、水銀を使わずにヨウ素液とビタミンCとガルディエリアを使うことで、これまで通り簡便に、けれど安全かつ同等以上の効果を実現できる技術を開発し、特許も取得しています。これを広めることで、水銀を使わない採掘の世界を作っていきたいと考えています。
藻の中身も、まだ活きる
大豆の300倍の生産性
貴金属の回収に使っているのは、ガルディエリアの細胞表層の部分だけです。つまり、細胞の中身は別の用途に使い回すことができます。具体的には、ガルディエリアをタンパク源として見ると、大豆と同じくらい栄養価が高く、生産性は大豆の350倍ほど効率よく生産できます。そのため、食品として販売していくことも可能ですし、中身には青色の色素や、既存のものよりさらに差別化されたグリコーゲン、抗酸化物質であるエルゴチオネインといった有用な物質も含まれています。これらをBtoBtoCの形で、食品として、あるいは化粧品の原料として企業とタイアップして販売していくことも視野に入れています。今後は、貴金属リサイクルのグローバル化を進めながら、こうした中身の再利用も進めていき、時間はかかりますが、小規模天然鉱山における水銀被害の撲滅という世界的な環境問題の解決を、弊社のライフワークとして推進していきます。
学生へ伝えたいこと
時間と失敗できる強みを
これから記事を読んでくださる学生の皆さんに伝えたいのは、まず学生には時間がたっぷりあるということです。だからこそ、その時間をできるだけ大切に使って、様々なことに挑戦してほしいと思っています。もう一つの学生の強みは、失敗が許されるということです。失敗するために挑戦する必要はありませんが、失敗を恐れずに、いろいろなチャレンジをしてほしいですね。今の皆さんはデジタルに慣れ親しんでいて、スマートフォンがない世界は考えられないでしょうし、AIがいろいろなことを手伝ってくれる時代でもあります。それ自体は便利に使えばよいのですが、そのなかであえてアナログなことをたくさんやってほしいと思っています。バックパック一つでもいいので、いろいろな場所に足を運んで、自分の目で見て、体で感じてほしいんですよね。違う環境に身を置いて、いろいろな人と触れ合ってみてほしいです。海外だけが旅行ではなく、国内でも同じことができますし、アルバードもできるだけいろいろな種類を経験することで、時にはうまくいかずフラストレーションを感じることもあるかもしれませんが、それを厭わずに経験を重ねて、自分のなかに肥やしとして貯めていってほしいと思っています。
シリコンバレーにいた頃、よく行く寿司屋の常連にスティーブ・ジョブズがいたり、ランチに行ったラーメン屋でマーク・ザッカーバーグが普通に食事をしていたりする場面に時々出会いました。高級レストランではなく、そうした身近な場所で偉大な起業家を見かけると、不思議と親近感が湧くんですよね。また、普通の人だと思っていた人が大きく成功していく姿を見ると、「これはやればできるんだ」と思わせてもらえます。逆に「なぜあの人があんなに成功しているんだろう」と考えたときに、一番の違いはシンプルで、その人はチャレンジをして、自分はしていない、というだけなんですよね。今の時代、シリコンバレーの情報はいくらでも手に入りますし、オンラインで現地の人と話すこともできますが、それでも実際に行ってみることでしか感じられないことがあります。だからこそ、時間があるうちに、いろいろな場所に足を運んで、いろいろなことを肌で感じてもらえたらと思います。よく「コンフォートゾーンを出よう」という言い方をします。居心地のよい場所を持つこと自体は悪いことではありません。ただ、そこにとどまり続けるのはもったいないんですよね。友達がたくさんいることは素晴らしいことですが、時にはその輪から外れて、まったく違う価値観や世代の人と交わってみたり、まったく違う地域に飛び込んでみたりしてほしいと思います。苦手だからと避けたくなる人もいるかもしれませんが、勇気を出して一歩踏み出してみると、視野が広がりますし、逆説的に自分自身のことがよくわかるようにもなります。自分はこういうことが苦手だ、こういうところが強みだ、というのは、実際にいろいろなことをやってみて、はじめて見えてくるものだと思います。
編集後記
谷本さんのお話をうかがって、シリコンバレーでの原体験が、今のガルデリアという事業の根っこにしっかりとつながっていることが伝わってきました。温泉に住む10億年前の藻が、貴金属回収から水銀被害の撲滅、食料問題まで幅広い可能性を秘めているという話には、素直にわくわくしました。「コンフォートゾーンを出よう」という言葉を、これからの学生生活のなかで大切にしていきたいと思います。