市役所から経産省、リクルートへ
やりたいことがなかった
東北大学を卒業した後、私には「これをやりたい」という明確なビジョンがありませんでした。就活のときに思っていたのは、できれば地元がいい、そしてできれば稼ぎたい。
地元は豊橋で、大都会というわけでもない。地元に残ろうとすると稼ぎが不安になるし、稼ごうとすると地元を離れないといけない。当時は「どちらか一方しか取れない」と思っていて、その2つを同時に叶えられると思っていなかったんです。結果として「地元かつ安定」という基準で選んだのが、豊橋市役所でした。
役所から経産省へ
市役所に3年間勤めたあと、経済産業省に出向しました。地域をよくするために何が一番ベストなのかをずっと考えていたんですが、役所の中にいると思うように動けないことが多くて。そこで感じたのが、「民間の良いサービスが生まれて、それを役所に届ける形の方が、結果的にインパクトが大きいんじゃないか」ということでした。
経産省でも同じ感覚を持ちました。あれほど優秀な人たちが集まっていても、国会議員の判断に左右されてしまう場面があって。それを見て、「国も含めて、役所をよくするには民間の力が必要だ」と改めて確信したんです。それが、公務員を一回離れてもいいなと思うひとつのきっかけになりました。
リクルートで営業力をつける
経産省を出たあとはリクルートに入りました。当初の計画は、リクルートで営業力をつけてから外資 IT 企業に転職し、20〜30代はしっかり稼いで、40代で独立するというものでした。
ところが実際に転職活動をしてみると、コロナ禍だったこともあり行きたかった会社の採用が凍結されていたり、レイオフが起きていたりで。「会社員としてキャリアを歩むのって、こんなに振り回されるんだ」と実感しました。ちょうどそのころ、スモールビジネスという言葉も広まり始めていて。それなら今すぐ独立できるんじゃないか、と考え始めたんです。
「役所への営業なら1位になれる」という確信
掛け算で見えた勝ち筋
独立のネタを探していたとき、リクルートの別部署に自治体向けの営業部隊があることを知りました。それを聞いた瞬間、「絶対に自分の方がうまくできる」と思ったんです。
私は市役所で営業を受ける側でした。リクルートで営業をかける側も経験しました。その両方の経験を掛け算すれば、「私が役所に営業する」という形で圧倒的な強みになると気づいたんです。
私はスポーツで全国ベスト4の経験があって、「2位や3位より、小さくてもいいから1位を取りにいく」という考えがある。この分野なら1位になれると確信して、3年前に現在の株式会社リクロスを創業しました。
能力で勝つ、それだけ
弊社の強みはシンプルに「能力で勝つ」ことです。
自治体営業って、優秀な人があまり選ばないんですよ。営業で飛び抜けて優秀な人は不動産や生保、外資 ITとかに行くし、優秀な公務員は転職しなかったりコンサルに行ったりする。わざわざ優秀な人が自治体営業を選ぶことが少ないんです。だからこそ、リクルートで鍛えた仲間たちと一緒に、この領域でシンプルに能力勝負をしています。
「普通のことを普通にやる」という哲学
役所営業は特殊じゃない
よく聞かれるのが、「自治体営業のコツは何ですか?」という質問です。答えはシンプルで、「普通のことを普通にやればいい」んです。
ネットを検索すると、「自治体営業は特殊だから」と言って不要なサービスを売りつけようとする支援会社があります。でも騙されないでほしい。電話して、訪問して、情報を確認して。本にも何度も書きましたが、普通のことを普通にやることが本質だと思っています。
男性と女性には当然違いがあります。でも人間として共通している部分の方が、圧倒的に多い。役所と民間企業も同じで、違うところに目を向けすぎず、共通点を見ることが大切だと思います。
良いサービスを選んで届ける
弊社が「支援会社」というポジションにこだわっているのにも理由があります。
自分でサービスを作ったとしても、おそらく一生で5〜10個が限界です。でも、世の中の数千社・数万社を支援して、彼ら彼女らのレベルが上がって、その素晴らしいサービスが役所にいい形で届く方が、明らかに世の中へのインパクトが大きい。
そして、私は元公務員として「これは本当に役所のためになるのか」をある程度は見極める目があると思っています。本気で役所と地域住民にとっていいと確信できるものだけを選んで、全力で届ける。自分の会社がもっと力をつければ、今は自治体向けにやっていない会社に対しても「このサービスで役所を狙いにいきませんか」と言えるようになる。そこにやりがいを感じています。
数十年・数百年残り続ける会社に
資金調達よりも、長く続けること
採用や拡大については、無理してやるつもりは全くありません。役所は古くから続く組織なので、弊社もそれに倣って、長く存在し続けることを目指しています。数十年、数百年、極端に言えば数千年でも残り続けるのが理想で、とにかくリスクを減らしながら長くやっていきたいという気持ちがあります。
事業が動いている限り、シンプルにまっすぐ走り続けるだけ。止まる理由がない、という感覚です。
学生へのメッセージ
ピュアな思いを、大切に
学生の皆さんに伝えたいのは、ピュアな気持ちのまま考えていい、ということです。
私自身、就活のときは「できれば地元がいい、できれば稼ぎたい」という2つの欲求を持っていました。当時は両方取れないと思って、片方を諦めました。でも今は、両方叶っています。
就活は色々と窮屈に感じることがあるかもしれません。でも、自分のピュアな欲求を潰さないでほしいんです。当時の思いをまっすぐ追いかけていたら、意外と両方取れることがある。弊社に入ってくる人にも、「地域をよくしたい」でも「リモートで働きたい」でも「1位になりたい」でも、何でもいいんです。ピュアな思いさえ持っていれば、それが仕事に結びついていく。そこの自由さは、大切にしていきたいと思っています。
編集後記
木藤さんのお話を聞いて、一番印象に残ったのは「普通のことを普通にやる」という言葉でした。自治体営業と聞くと難しそうに感じますが、木藤さんは「特殊だと思わせる方が得をする人がいるだけ」とはっきり言い切っていて、その潔さに驚きました。市役所・経産省・リクルートという異色のキャリアも、全て「民間の力で行政をよくしたい」という一本の軸でつながっていました。「やりたいことがなかった」と話していた木藤さんが、結果として就活当時のピュアな欲求を全部叶えているのが、何より説得力がありました。自分も就活を前にして焦りを感じることがありますが、欲求を小さく見積もらずに向き合ってみようと思います。