インタビュー

大手SIerの営業ノウハウをニッチな業界に持ち込んだ

更新: 2026年7月25日
大手SIerの営業ノウハウをニッチな業界に持ち込んだ
PROFILE
ライフワンズメディア株式会社 代表取締役社長
中村幸平

同級生からの誘いで、この業界に来た

新卒で株式会社オービックという国内トップクラスの営業力を誇る大手SIerに入り、12年間ソリューション営業をしていました。35歳まで会計システムなどを売る仕事をしていて、正直なところ起業家タイプではありませんでした。当社の親会社にあたるライフワンズ株式会社で初めてのグループ会社を立ち上げるという話があり、当時親会社のナンバー2だった灘高の同級生から営業責任者として誘われたのがきっかけです。

彼とは毎年同窓会で顔をあわせる仲で、営業面で手伝ってもらえないかと相談を受け、当社のナンバー2として参画しました。その後、2021年のコロナ禍で彼が親会社の人材事業の強化メンバーとして戻ることになり、バトンタッチする形で当社の経営を任されることになったんです。

社長就任への迷いは一瞬だった

当然ながら、それまで社長業をやったことがなかったので、どんなことをするのか?という不安はありました。ただグループ内に前任の代表がいて、わからないことはいつでも聞ける環境がありましたし、「色々とサポートはするので是非やってみて欲しい」という話をもらったことで、迷いは一瞬で、自身でも驚くくらい直ぐに決断することができました。

12年の営業経験で身につけたもの

前職のオービックは今、プライム上場企業の中で営業利益率トップ3に入っており、2026年3月期の決算では営業利益率が65%を超えています。どんなにプロダクトの価値が高くてもこれだけの営業利益率を出すためには、やはり営業力が不可欠となります。実際にオービックでは大手の競合他社よりも高い金額で契約を獲得することが当たり前となっており、時には同じ機能要件にもかかわらず倍以上の金額で受注することもあります。営業が自社のSEとプロジェクトチームを組み、お客様との信頼関係を構築しながら顧客ごとの課題に踏み込んで提案していく。経営層をはじめ、様々なセクションのキーマンと密なコミュニケーションを取り、高度な交渉・折衝力や調整力・ロジカルシンキングが求められる仕事でした。月並みな表現になりますが、本当にいろいろなことを学ばせてもらいましたし、間違いなく今の経営にも生かされているなと日々感じています。

リスジョブは「人材会社の仕入れ元」

まず、当社の事業は“一般的な求人広告サービス”とは全くの別物です。

当社の事業はとてもニッチなので、ホームページやリスジョブの求人サイトを見ただけでは内容が伝わらないことが殆どです。“一般的な求人広告サービス”は人を採用したい会社に使っていただくものですが、当社の『リスジョブ』は人材会社向けの集客支援サービスとなっています。人材紹介会社や人材派遣会社が人材事業を伸ばすために利用する、言わば「仕入れ元」にあたります。

世の中的にはにわかに信じがたい話かもしれませんが、テレビCMで流れてくるような超大手の人材会社でも当社のサービスを使っていて、医療福祉領域を中心として求職者の情報を大量に集めるために利用されています。そのため、売る相手となるのは採用部門や人事担当ではなく、人材会社の代表や役員クラス、人材事業責任者・マーケティング責任者となるので、経営的な目線をもったコンサルテーションが必要なビジネスモデルです。

技術的なノウハウとしては、広告代理店のWEBマーケティング支援に近いのですが、自社メディア(=リスジョブ)で集めているところが大きく違います。LP(ランディングページ)の運用ノウハウがあり、引っ越しの一括見積もりサービスのように、複数の人材会社にまとめて登録させる仕組みをソリューションとして提供しています。大手からスタートアップ企業まで数多くの人材会社から大きな広告予算をいただいており、毎月数千万円単位でLPの広告運用にお金をかけることができ、その分効率化も進んでいきます。医療福祉系の求職者にターゲットを絞った広告運用を行っているので、一般の方が目にすることはあまりないと思いますが、一度でも興味を示した方であれば当社の広告をたくさん目にしている可能性も有ります。

少し話が遡りますが、この事業は私が参画する前の2016年に、親会社が自社の人材紹介事業のための集客ノウハウを生かしてスタートしたものです。当時親会社では、自社の営業が対応しきれないほど求職者を集められるようになり、競合である他の人材会社へ送客して、国の課題である人材不足の解決をより加速させようという想いで2016年に事業化し、2017年に分社化し、そのタイミングで私が参画した、という経緯です。

模倣されることも増えてきた

当社が手掛ける人材会社向け送客サービスは、創業から10年以上が経過しておりますが、ここ数年で当社のビジネスモデルが他社に模倣されることも増えています。さらには、もともと『リスジョブ』のご利用企業だった人材会社が、瓜二つの競合サービスをつくり、当社のご利用企業様に「もう少し安くします」という営業をかけてくることもありました。ただ両方のサービスを利用した人材会社の話を集めていくと、長期的な目線では様々な理由(それほど数が集まらない、いい人が来ない等)から『リスジョブ』の方が良いという声をいただけており、実際に『リスジョブ』に予算を戻していただくケースも多いです。どんな業界でも「安売り」が正しい戦略になるわけではなく、むしろ「安かろう悪かろう」にならないようにサービスの価値を高める努力をし続けているところが、当社の強みだと思っています。

経営の軸は「人ありき」

基本的には“人ありき”というのを根本に置いています。事業が中心というより、人が事業をつくり、支えるという考え方です。多くの著名な経営者が「人は石垣、人は城、~」という武田信玄の言葉を大事にされていますが、私もまったく同じ考えです。優秀な人さえいれば、サービスを成長させていくことができますし、逆に優秀な人がいなければ、良いサービスであってもやがて他社にまねされて事業は沈んでいくものです。特にこの変化の激しい時代においては、サービスの革新性だけでトップを走り続けることは困難であり、短期的に大幅成長した会社が業界の波にもまれて急激に失速することは、珍しくない事象だと考えています。

前職では、リーマンショックや大震災のような要因があっても、その状況下で比較的好調な業界や会社を見つけては売っていく、ということを臨機応変にやり続けていて、常に業績は右肩上がりでした。当社も今期が10年目になりますが、創業以来黒字で成長し続けてこられているので、ベンチャー企業の中でも強い経営基盤を構築できているのではないかと自負しています。

採用と教育に一番苦労した

端的に言えば事業を伸ばすこと自体には、実はあまり苦労していません。数千万円の業務システムを売っていた過去と比べると、学ばなければいけない範囲は比較的狭いと感じていますし、集客に困っている人材会社は世の中に無数にあるので、大手企業も含め新規開拓していくのは比較的やりやすかったと感じています。

ただ、自身の営業力だけで伸ばすことには限界があります。そのノウハウを社員に浸透させる採用と教育には、かなり苦労しました。多くのベンチャーやスタートアップ企業が悩んでいることだとは思いますが、良い人材の確保はかなり難しく、仮にポテンシャルが高い人が入っても、私が持っているノウハウを全部伝えるのは容易ではない。時には伝わらないもどかしさから厳しい言い方になってしまい、社員が辞めてしまったこともありました。前職では全員が新卒で、数年かけて丁寧に成長させてくれる環境だったこともあり、やる気さえあれば誰でも伸びると思っていた時期もありました。ですが、大手とベンチャー企業ではやはり基盤が違います。仮に数年間も業績が0のメンバーがいたら、会社に大きな損失になってしまう。そういった経験も経て、採用のハードルは少しずつ高めてきています。今いるメンバーはとても成長意欲があって楽しんで働いてくれているので、年々より良い環境になってきていると感じています。とは言ってもまだ20人に満たない体制なので、もっと拡大していきたいですね。

新規ビジネスアイデアはあり余るほど

『リスジョブ』で手がけている職種は、介護・保育・看護といった医療福祉系から、飲食や美容、教育、ドライバー等、かなり広がってきています。各領域ごとに専門の人材会社が多数存在するので、営業リソースが足りず、まだまだ活動はやりきれていません。つまり、同じビジネスモデルのままでも、事業規模は数倍から10倍以上まで伸ばせる余地があると思っています。

最近では施工管理や整備士等のニーズが強まっているので、その領域を新しく開拓しようとしていますし、ゆくゆくはSEやエンジニアの領域にも広げていきたいと考えています。さらに、営業力とマーケティング力を掛け合わせれば、求職者に限らず様々な業界向けに見込み客を獲得して提供するというビジネスを展開できます。集客以外にも、数十万人の求職者データベースを活用した口コミサイトや研修サービスなど、関連業界の課題を解決するサービスも生み出していけると思っています。

とにかく何をやるにしても、優秀な人がいなければ成り立たないので、採用・教育を繰り返して社内の独自ノウハウが自然と若いメンバーに浸透していく強固なピラミッド体制を構築できれば、既に存在するノウハウをもとに新しいビジネスを次々と生み出していけるはずです。

営業はAIに代わりにくい

マーケティングチームでは、バナーやLP、動画広告の制作にAIを使い始めていますし、社内では営業活動のレポート作成にもAIを一部活用しています。ただ、難易度の高い営業活動の部分をAIで代用することは当分できないと考えています。数年前まではAIに奪われる仕事の一つとして営業が挙げられることがありましたが、最近はむしろAIに奪われにくい職種として認知されてきているので、まさにその通りだと思います。

一方で広告運用の最適化等はAIでどんどん進んでいくので、そこだけでは差別化できなくなるリスクはあります。だからこそ、しっかり予算(ニーズ)を集めて広告運用のスケールを確保することで、差別化していきたいと考えていますし、転職市場におけるプラットフォームとしてのデファクトスタンダードを目指していきたいですね。

編集後記

今回は求人広告業界のなかでも、人材会社向けというニッチな領域でお話をお伺いしました。前職で培った交渉力や、大切にされている「人ありき」という考え方が、今の経営に一貫して息づいていることが印象的でした。競合の模倣が増えるなかでも、集客の質を維持し続ける姿勢に、地道な積み重ねの強さを感じます。AI時代においても営業という仕事の価値を語られていた点も、学生の私にとって非常に勉強になりました。貴重なお話をありがとうございました。