インタビュー

「観察」を武器に、40年以上の編集力を次の時代へつなぐ

「観察」を武器に、40年以上の編集力を次の時代へつなぐ
PROFILE
株式会社ラユニオン・パブリケーションズ 代表取締役
細尾 文彦

先代から引き継いだ「伝える」という仕事

弊社は千代田区神田神保町にある編集プロダクションです。1984年の創業なので、もう40年以上の歴史になります。当時、フリーランスで編集業務に従事していた創業メンバーが立ち上げた会社を、私が2017年に引き継いだという経緯です。

80年代に編集プロダクションとしてスタート

もともとは大手出版社の下請けとして、雑誌や単行本の取材、執筆、編集を請け負うところからスタートした会社です。創業当時は雑誌や出版がまさに花形産業だった時代で、私自身も入社前からそうしたメディアに興味があって、本や雑誌をよく読んでいました。

私が入社したのは1999年です。ちょうど出版からインターネット、Webの時代へ移行しつつあるタイミングで、デジタル系の経験を買われてキャリア入社しました。

Web時代へ舵を切る

そこからWeb事業部の立ち上げに参画し、試行錯誤で業務を広げてきました。今ではすっかりシェアが逆転して、Web関連の業務がメインになっています。私はそうした事業を引き継ぎ、あわせて経営も担うようになったという流れです。

しっかり読ませるコンテンツを作る強み

今はデジタル系のコンテンツ制作に特化した会社が数多くありますが、その中でしっかり読ませるコンテンツを提供出来る会社は、比較的少ないと感じています。

コンテンツマーケティングとの違い

たとえば、コンテンツマーケティング向けに、SEO/GEO対策を意識した記事で集客を狙う会社は多い。一方で、取材対象にインタビューを申し込むところから担当し、丁寧に対応しながらお話をうかがい、直接対面で相手の発言を引き出して記事にまとめ上げる。そういうしっかりした記事を提供出来ることが私たちの強みだと思っています。

弊社の創業時には、ビジネス誌等の記事広告ページの制作を請け負っており、企業のトップの方々への取材を数多く担当してきました。そうした場で鍛えられてきたからこそ、しっかり読んでいただけるコンテンツを提供できるのだ、という自負があります。最近でも、企業の広報のご担当者様から、高品質な記事を求めて声をかけていただくパターンが少なくないですね。

海外向けの多言語業務展開のきっかけ

もうひとつ、弊社が早い段階から力を入れてきたのがコンテンツの多言語化対応です。翻訳会社と提携し、早くから海外向けの多言語サイト構築が可能、という強みを差別化要素として打ち出していました。その点を評価いただいて、日本政府観光局の5言語Webマガジンをはじめとする、訪日観光客向け情報発信の仕事が、着実に増えていきました。

 

世の中が変わっても、あくまで現場主義で取材し、コンテンツにまとめ上げるという軸は一貫していて、それをどんな形式で世に出していくかは、その時々の趨勢(すうせい)に合わせています。SNS担当も動画担当もそれぞれ専門スタッフがいますので、それらを組み合わせて効果を上げていくことが、今もっとも求められていることだと思っています。

AIと人間の役割分担を考える

AIという画期的な仕組みが出てきて、私たちの業界でも意識せざるを得ない状況になっています。弊社でも日々の業務の中でAIを取り入れながら仕事を進めていて、その中でAIと私たちの仕事の棲み分け、役割分担・パートナーシップを強く意識するようになりました。それが今後のビジョンにもつながっていくと考えています。

AIに聞いてみたこと

今、メルマガの企画のひとつとして、AIにインタビューするということをやっています。自分たちの強み・弱みは何かとAIに聞いてみたところ、AIは膨大な情報を与えられればそれを分析し、重要なことを抽出して提案することはできる一方で、暑い、冷たいといったことを直接感じ、そこから理解につなげることはまったくできないと、正直に語ってくれたのです。そこに私たちはAIとの協働の可能性を感じ取りました。

「観察」を軸に据える

弊社がこれまでやってきたことは、現場で情報収集したり、当事者に直接お会いして魅力を引き出したりする、そうした取材と編集を土台にした仕事だと思うんですよね。そこをしっかり守りながら、さまざまなメディアに反映していくことが、ひとつの役割なのかなと、改めて考えています。

最近、社内では「観察」という言葉をよく使っています。目の前にあることをきちんと「観察」して、それを伝えていきましょう、と。すべてAIが処理した情報だけをもとに考えたり判断したりするのではなく、現実をしっかり自分の目で見て「観察」し、そこからわかることを伝えること。AI全盛の時代に、ますます重要になってくるものと確信しています。

 

フィールドに立てる人と働きたい

これからどういう人材と一緒に仕事をしていきたいかという観点でお話しすると、AIなどIT分野のスキルを持つ方は、どの企業からも引く手あまた、だと思います。しかし私は別の観点の知見がある方と仕事をしたいと思っています。

取材や編集に対する若い世代の関心は薄れている?

最近では、取材や編集の仕事をやりたい、という若い方々が減ってきている実感があります。こうした職種と近いと私が感じている学問分野は、民族学や文化人類学、特にエスノグラフィと呼ばれる研究手法です。民族や社会を実地で調べ、調査結果をレポートにまとめていく分野ですね。われわれの業界もまさに基本は同じなので、そういった志向を持つ方には、やりがいのある仕事だと思います。AIさえもインタビュー対象になる!って面白いと思いません?そういう視点を持った方たちと働けたら、と期待しています。

日本の温泉文化を海外に伝える難しさ

今ほどインバウンドが盛り上がっていない頃に、地方の温泉旅館を数多く取材させていただきました。日本固有の文化や歴史を多言語化するのはとても難しかったんですね。「源泉かけ流し」という言葉ひとつとっても、地下から湧き出たそのままのお湯を豊富に使って入浴する贅沢な体験だということを、同じような文化がない国の方々に説明するのは簡単ではありませんでした。当時はまだ温泉の入り方も周知されていなくて、いきなり水着で入ってくる訪日客の方もいたくらいです。

ひとつひとつ現地に足を運んで取材し、文章やイラストで表現し、海外の方にも伝わるように編集してパンフレットやWebサイトを作る。そういう地道な作業を一緒に楽しめる若い方々と仕事をしたいですね。

先入観を捨てて自分の目で見る

人間は目の前にあるものを見ているようで、じつは見ていないことが多いんですよね。多くの場合、会社や学校といった制度の枠組みのなかで「見た」気になっている。SNSで与えられた情報ありきで考えてしまうのは、便利ではある反面、少し危ういことだとも思っています。

「どこどこ駅の前でこういうデモが行われて、これだけ人が集まりました」という情報も、実際に自分の足で行って確かめたのか、ネット上の情報を見てそう思っているだけなのか。現地に行き、その場に居る方々にお話をうかがい、そのうえで自分の頭で考える。そうしたことが、これから一層重要になってくると思います。

そんな思いがあって、弊社では「観察メソッド」という取り組みをスタートしました。これは「観察する」事を手法化し、企業課題の解決に役立てようとするサービスです。その一環として、AIにインタビューするメルマガ「AI観察レポート」を配信中です。これは、AIの使いこなしを紹介する一般的な内容とは異なり、AIが何を考え、どんな認識のパターンを持ち、どんな限界があるのかをテーマにしています。学生の方々にもぜひ読んでいただきたいと思っています。「AI観察レポート」メルマガ・無料登録はこちら

AI観察レポート

編集後記

40年以上、雑誌からWeb・動画へとメディアが移り変わる中で、変わらず大切にしてきたのが「取材して引き出す力」というお話が印象的でした。AIが台頭する今だからこそ、自分の足で現場に行き、自分の目で観察する。細尾さんの言葉から、フィールドに立つことの大切さをあらためて学ばせていただきました。私自身もインタビューという仕事を通じて、その姿勢を磨いていきたいと思います。