インタビュー

クライアントにとって価値あるシステムを作れるか。それを測れない評価制度の矛盾に気づき、成功報酬型の開発会社をつくりました

クライアントにとって価値あるシステムを作れるか。それを測れない評価制度の矛盾に気づき、成功報酬型の開発会社をつくりました
PROFILE
株式会社VERVE 代表取締役
久保田 一

エンジニアの評価制度に感じた矛盾

「良いシステムを作れるか」を、正しく評価できない制度への疑問

エンジニアの評価制度や仕事の進め方は、基本的には「人月単価」に基づいて行われます。エンジニアのゴールは納品であり、1か月稼働すれば1か月分、複数人で動けば人数分の単価を掛けて請求するのが一般的です。

私が問題だと感じているのは、この人月単価という物差しが、クライアントにとって本当に価値のあるシステムを作れているかどうかを、まったく評価できないという点です。稼働した時間や人数は測れても、そのシステムがクライアントの課題を解決しているか、実際に使われ続けるものになっているかは測れません。要件通りに動くだけで実際にはほとんど使われないシステムに時間をかけても、逆に本当に必要な機能だけを見極めて短期間で価値あるものを完成させても、評価の仕組みとしては前者の方が売上として評価されてしまうことすらあります。エンジニアの本当の価値は「クライアントにとって良いシステムを作れるかどうか」にあるはずなのに、それを正しく測る物差しが世の中に存在しない。これが、私が感じてきた根本的な矛盾です。

理想の環境を求めて起業へ

転職ではなく、会社をつくる道を選んだ

前職のGMOメディア株式会社では部長職を務めていました。当時はグループ全体で2,000名ほどの規模があり、部長職だけでも数百名いたと記憶しています。私自身が直接率いていたのは20名から30名程度の部下でした。

私自身、起業を最初から志していたわけではありません。エンジニアを正当に評価できる環境を求めて探しましたが、多くの企業の情報を収集しても、私の理想とする環境は一つも見当たりませんでした。クライアントにとって真に価値のあるシステムを構築するエンジニアが報われる場所が、世の中にはなかったのです。「存在しないのであれば、自らつくるしかない」と考えました。稼働時間ではなく、クライアントが実際に得た成果に対して対価を得る仕組みにすれば、良いシステムを作れるエンジニアを正しく評価できる――そう考え、成功報酬型に特化した開発会社を設立しました。

成功報酬へのこだわりとクライアントとの関係

なぜクライアントを「パートナー」と定義するのか

ただしこの仕組みは、成果が出なければ弊社側が対価を得られないという意味で、弊社にとってもリスクを伴うビジネスモデルです。

案件を引き受けるかどうかにおいて、「単価が合うか」よりも重視しているのが、「経営者のビジョンや想いに共感できるかどうか」という点です。共感できないまま引き受けても、成果が出るまで本気で伴走することは難しく、双方にとって不幸な結果になりかねません。私はクライアントを、単なる発注者ではなく、成果を共に目指す重要な「パートナー」であると定義しています。共感できる相手であれば全力を尽くしますが、そうでない場合は基本的にお引き受けしていません。売上に対する料率設定や、DXを通じたコスト削減額に応じた配分など、プロジェクトごとに詳細な取り決めを行っているのも、こうした信頼関係を前提にしているからです。

「忖度なし」の組織とDXへの向き合い方

こうした考え方は、クライアントとの関係だけでなく、社内の組織運営や業務改善への向き合い方にも一貫しています。

自分が決めたルールにも忖度しない

上司からの指示や社内のルールに疑問を抱いても、多くの場合はそのまま従ってしまうものです。本来、形骸化した業務は排除されるべきですが、根拠のないルールが継続されているケースは非常に多いと感じます。たとえ私が策定したルールであっても、現在の情報を踏まえて再考すれば不要となるものもあるでしょう。内部業務においてより効率的な手法があるならば、積極的に刷新していくべきだと考えます。

「紙」が教えてくれた無駄の正体

現在は主に中小企業の支援に注力していますが、中小企業においてAIをそのまま導入することが必ずしも最適解であるとは考えていません。かつての紙媒体からPCやスマートフォンへとデバイスは進化しましたが、依然としてアナログな手法に頼る企業は少なくありません。

たとえば、納品書や請求書の作成において、紙ベースの業務では同一項目を何度も手書きする必要があります。デジタル化されていれば情報の転用やステータス変更だけで済みますが、手作業では同じ情報を繰り返し書き写すという冗長な作業が発生しています。当事者たちはこれを長年のルーチンワークとして定着させているため、違和感を抱く機会がないのです。こうした「面倒くさい」という直感を解消していく姿勢こそが、DXの推進力となります。

AI時代への危機感

社内の業務改善においてはAIを積極的に活用していますが、一方で、使い方を誤れば重大なリスクにもなり得ると感じています。

数分でハッキングできてしまう現実

数か月前、IT専門外の経営者から、AIを用いて開発したというツールの営業を受けました。失礼ながら「大丈夫だろうか」と感じたため、その場で脆弱性を確認させてほしいと申し出て、承諾を得たうえで確認したところ、わずか数分でセキュリティを突破できてしまいました。ミーティング中に登録情報が露出している実態をお伝えした際、非常に驚かれていたのが印象的です。

AIは指示に対して忠実にアウトプットしますが、セキュリティ対策などの潜在的なリスクを自動で補完することはありません。エンジニア不在で開発を標榜する企業が増えていますが、そうしたシステムは「時限爆弾」を抱えているに等しいと言えます。表面的な効率や体裁だけを追い求めず、本質を見極める姿勢が欠かせないという意味で、この危機意識は、広く社会に周知すべき課題であると考えています。

今後のビジョンと次世代へのメッセージ

成果を正当に評価すること、忖度なく本質を見極めること――創業以来こうした姿勢を貫いてきた結果、組織にも独自の強みが生まれました。

20年の経験を、次の世代に

30歳で起業して20年。10年間で離職率1.1%、システム部門は直近6年間離職者0名という結果を残すことができました。このノウハウを、後継者や若手経営者に伝承していきたいと考えています。創業期の困難や失敗談を共有することで、若手の成長の一助となることが私の願いです。組織の拡大自体には執着せず、自分たちのスキルでいかに企業の課題を解決できるかという利他の精神を重んじています。

夢と目標は分けて考える

学生の皆さんには、「夢」と「目標」を峻別して捉えてほしいと思います。夢は壮大であっても構いませんが、「目標」は確実に実行可能なステップとして具体化しなければ機能しません。私はロードマップを逆算して「今、何をすべきか」を決定しています。夢に向かって目標を細分化し、眼前の課題に全力を注ぐ。それこそが、夢を実現するための唯一無二の道であると確信しています。

編集後記

今回のお話でもっとも印象的だったのは、「決めたルールにも忖度しない」という考え方です。前例やルールを疑わずに従ってしまいがちな自分にとって、大きな気づきになりました。成功報酬型という珍しいビジネスモデルの裏にある「正しく評価したい」という思いや、AI時代のセキュリティへの危機感も、これからの社会を生きるうえで心に留めておきたいと感じました。貴重なお話をありがとうございました。