インタビュー

名ばかりの「骨盤矯正」からの脱却。構造と筋力から見つめ直す、本気の産後ケアと少子化への挑戦

名ばかりの「骨盤矯正」からの脱却。構造と筋力から見つめ直す、本気の産後ケアと少子化への挑戦
PROFILE
産後ケア専門サロン Momの休日 代表
坂口聡

骨盤矯正だけで終わらせたくなかった

名ばかりのケアに違和感

産後ケアの世界には、たとえば「骨盤が開いているから骨盤矯正をしましょう」というような、ある意味テンプレート化された言葉があります。それだけで説明が終わってしまうことに、私はずっと違和感を持っていました。

もちろん、腰痛や肩こりなど、それぞれの症状に特化した専門院はたくさんあります。ただ、産後というものに特化して、しっかり向き合っている場所は意外と少ないんですよね。ひとつのメニューとして産後ケアを扱っているだけで、本当の意味で向き合えていないところも多いと感じていました。

少子化が進み、子育て支援の必要性が叫ばれるなかで、産後のママたちがどこへ相談に行けばよいのかわからないまま、近くの整体になんとなく通っている。そんな状況を変えたくて、産後ケアと本気で向き合うために、保育士をきちんと雇い、ママが安心して通える環境をつくることから始めました。

産後の体で一番変わるのは筋力

メンタルより先に落ちるもの

妊娠期間の約一年間、仕事をしながらお腹が大きくなり、ある時期からは動くのも難しくなります。そこから出産を経て、一気に筋力が落ちるんです。

メンタル面の変化もありますが、実は体としては筋力の低下が大きいんですよね。それを戻さないまま「大丈夫」とは、私は思っていません。筋力が戻らないと、産前のズボンが履けなかったり、着たい服が着られなかったり、上の子と思いきり遊べなかったりします。それって、なんだか不公平だなと感じるんです。

3段階で無理なく体を戻す

とはいえ、いきなりきつい運動をすすめても、寝不足で子育て中のママにはできません。だからこそ、スモールステップを積んでいくプログラムにしています。

まずは骨盤を整え、基本の運動を体に覚えてもらいます。次に、その運動ができるようになったら少しずつ負荷をかけていく。重りを持ったり、スクワットのような日常生活に近い動作を取り入れたりしながら、筋力を戻していきます。筋力が上がってくると、姿勢が変わり、痛みも和らいでいくんです。

こうした体の構造にもとづくアプローチは、助産師や看護師の資格の勉強だけではなかなか学べない領域だと感じています。産後ケアが苦手とされがちな部分を、私が担っていきたいと思っています。

「なんでも屋」より「専門」が選ばれる

美容整形でも、なんでもできるクリニックと、二重整形だけに特化したクリニックがあれば、二重をしたい人は後者を選ぶと思うんです。子どもの病気なら、内科ではなく小児科に行きますよね。それと同じで、産後という一点に特化しているからこそ選んでいただけていると感じます。

来院のきっかけは、以前はホットペッパーが多かったのですが、今はあまり力を入れておらず、Googleでの検索や紹介がほとんどです。「産後に特化した場所」を求めて検索してたどりついてくださる方が多いように思います。あわせて、保育士による託児があることも、選んでいただける理由のひとつです。

赤ちゃんのケアと出版、広がる挑戦

産後ケアはママ向けだけでなく、赤ちゃんのケアにも力を入れています。まだ表には出していませんが、年明けには書籍の出版も予定しています。

ママは自分の体だけでなく、我が子のことも心配になるものです。そこも産後ケアが苦手とする分野だと感じていて、そちらの発信も強化していきたいと思っています。今は包括支援センターの子育て講座のようなかたちでも、活動を広げているところです。

SNSには育児や産後に関する情報があふれていますが、それが正しいかどうかを見極めるのは難しいものです。AIも一見正しそうなことを言いますが、間違いが混ざっていることもあります。そうした情報を、私自身の経験値と解剖生理学の知識をもとに一冊にまとめ、一般の方にも読みやすいように今執筆を進めているところです。サロンに通わなくても、家でできるケアを伝えられたらと考えています。

少子化と向き合う若い世代へ

学生の皆さんは、これから卒業して就職し、結婚するかどうか、子どもを持つかどうかも含めて、選択肢が広がっている時代だと思います。私自身、結婚はしていますが子どもはいません。子どもがいなくても、いなくても、少子化に向けた対策や応援は必要だと感じています。

育休の取り方など、政府の政策にはいろいろな議論がありますよね。それを頭ごなしに否定するのではなく、うまく応援していく視点が大切だと思うんです。40代や60代の世代だけで議論しても、なかなか変わらないのではないかと感じています。だからこそ、これからの世代である学生の皆さんが議論し、声を上げていくことが、魅力的な政策につながっていくのではないかと思っています。子どもが減れば人口も、GDPも下がり、社会は衰退する一方になってしまいますから。

産後ケアを広める仲間を探して

今、積極的に採用に力を入れているわけではありませんが、興味があればインターンのようなかたちで来てもらえるのは、とてもうれしいです。男性でも、医療職の方でも歓迎しています。今は私とスタッフだけの少人数で運営しているので、これから一緒に広めていける方が増えたら楽しいだろうなと思っています。

地方で黙々と頑張っている人たちのなかにも、発信の後押しがあれば力を発揮できる方がたくさんいると思うんです。そうした方たちの活動を支援したり、産後ケアという分野をもっと一緒に広めていける方が現れたりすると、日本の外にも、この取り組みを届けていけるのではないかと感じています。

編集後記

今回お話をうかがって、産後ケアという言葉の奥にある「筋力」という視点に驚かされました。男性である自分には、正直、産後の大変さがどこか遠い話に感じていたところがありましたが、体の構造から丁寧に説明していただき、支援の入り口をつくることの大切さを実感しました。少子化を「自分ごと」として考える姿勢にも、強く感銘を受けた取材でした。