インタビュー

海のない滋賀から、動物病院業界で30年挑戦し続けたオンリーワン経営論

PROFILE
株式会社メディカルプラザ 代表取締役
西川芳彦

海への憧れと、一枚の名刺が変えた人生

海のない県から水産大学へ

滋賀県出身で、海のない土地で育った。子どもの頃からなんとなく、海にかかわる仕事をしたいという気持ちがあって。漠然としていたけれど、それを追いかけて進学先を探したんですね。

国立大学で海にいちばん関係する大学を調べたら、当時「東京水産大学」(現・東京海洋大学)がトップで出てきた。それで関東まで来ることになった。滋賀から関東に出てきて、結果的にはよかったと思っています。

経営コンサルとの出会い

大学卒業後は水産会社に入って、水産物の営業をしていました。そのときに、人との出会いで人生が変わるということがあって。営業していた時期に経営コンサルをしている人と出会ったんですね。

その瞬間から、漠然とこの営業の仕事ではなくて、将来は経営コンサルタントになりたいという強い思いが生まれた。その人に「中小企業診断士の資格にチャレンジするといい」とアドバイスをもらって、勉強して合格できた。それで中小企業向けのコンサルをやっている会社に転職して、経験を積んでいきました。

動物病院との出会いと、30年の成長軌跡

ニーズとの偶然の出会い

コンサル会社にいた頃は、一般的な中小企業を対象にしていました。そのクライアントの中に、動物病院向けに医療機器を販売している会社があったんですね。その会社のコンサルをしている中で、動物病院業界との接点ができた。

そこで「動物病院の開業や経営を支援してほしい」というニーズがたくさんあることを知ったんです。そのニーズと出会って、試行錯誤で動物病院の支援を始めたというのが出発点ですね。

失われた30年に、成長し続けた業界

どうして30年以上この業界でやり続けられているかというと、一番大きいのは「運がよかった」ということです。

動物病院業界は、実は成長産業なんですよね。私が関わりはじめた30年ちょっと前から、ずっと成長し続けています。日本全体が「失われた30年」と言われていた時期でも、この業界は伸び続けてきた。

なぜかというと、ペットの代表である犬や猫が「家族」として可愛がられるという、大きな価値観の変化があったから。面白いのは、犬の数は実は減り続けているんです。でも、動物病院の売上は伸び続けている。病気になっても「しょうがない」という人が多かった時代から、「家族だから助けたい」と医療費をかける人が増えた。その価値観の変化が原動力になっているんですね。

業界初を3つ作った先駆者

開業支援・チェーン経営・事業承継

業界初のことをたくさんやってきた、という自負があります。初めてやったことは、やはりインパクトがありますから。

まず、30年前に動物病院の開業支援を最初に始めたのが私です。2つ目は、26年前に動物病院の全国チェーンを経営する会社を作ったこと(※VSC)。40店舗まで成長させて、その後会社の合併、退任を経て今のイオンペットになっているのですが、動物病院の全国チェーン経営を始めたのも私が初めてです。

3つ目が動物病院の第三者事業継承。アメリカでは、引退するときに事業を売ることがステータスになっていて、子どもに継がせるより第三者に譲るというモデルがすでにあった。それを日本に持ち帰って、16年前に動物病院の事業承継支援を始めた。これも日本で最初の取り組みです。

価格設定という日本の課題

最近は、息子も会社に加わって「売上向上コンサル」にも取り組んでいます。

動物病院の診療費は、人間の医療と違って全ての病院ごとに価格設定が異なります。手術・検査・内科・外科とさまざまな診療科目があるけれど、何をどんな価格で提供するかが病院によって全然違う。私のところには多くの動物病院の決算書データが蓄積されているので、その情報を集約して、その地域でどういう価格設定がよくて、どの診療科目を伸ばせる余地があるかを分析してアドバイスする。それだけで売上が伸びる。売上が伸びると、固定費は変わらないのでそのまま利益に乗ってくるんですね。

これは日本経済全体の問題ともつながっています。日本はサービスの質が高いのに、世界的に見て価格設定が安すぎると言われています。ホテル業界はコロナ後の数年で価格設定を見直して、業界全体の収益性が大きく改善された。動物病院でも同じことができると思っています。

オーナー経営者の魅力と、若者へのメッセージ

オーナーである強さ

日本には330万社以上の企業があって、そのうちの99.7%以上(従業員数では約7割)が中小企業です。そしてその少なくても8割以上がオーナー経営なんですね。でもオーナー経営の魅力を知っている人が、意外と少ない。

オーナー経営者の一番の特徴は、人事権を自分で持っていること。大企業の経営者はサラリーマン社長なので、人事権がなく、だいたい5年から10年で交代する。でもオーナーは長期的な視点で経営できる。10年・20年単位で考えて、事業の本質的な価値向上や長期的価値の実現のために動ける。

獣医師として動物病院に関われば、オーナー経営者にきわめてなりやすい。私がこれまで支援してきた新規開業は300件、事業承継での開業も300件、合わせて600人近いオーナー経営者を輩出してきました。600件中、明確に倒産したのは1件だけ。きわめてリスクの少ない業界なんですよね。

日本の良さを知ることから始まる

若い人たちへのメッセージとして、まず伝えたいのは「日本は世界的に見て素晴らしい国だ」ということです。これ、意外と日本人自身が一番知らないんですよね。

世界最古の連続した国であること、食文化が発達していること、北海道から沖縄まで多様な自然と文化があること。海外から来た人たちがインバウンドで日本を訪れているのも、そういう魅力があるからです。なのに日本ではうつ病も多いし、自殺者も多い。北朝鮮から脱北して日本に住んでいる方が、「こんなに素晴らしい国なのに、なぜうつ病になるのか不思議だ」と語っていた。それがとても印象に残っています。

日本の良さを知って、オーナー経営の素晴らしさも知って、そのうえでチャレンジする若い人が増えれば、日本はもっとよくなると思います。開業という形だけでなく、事業を買って開業するという方法もある。黒字なのに後継者不在で廃業してしまっている会社が日本にはたくさんあるので、そういう事業を引き継ぐという選択肢も、もっと若い人に知ってほしいですね。

オンリーワンである強さ

弊社の魅力は何かと聞かれたら、「オンリーワンの仕事をしている」ということに尽きます。他の人がしていない仕事をしているので、仕事そのものが面白い。そして競合がいないので安定しやすい。潰れにくい。それがオンリーワンであることの強みです。

オンリーワンになろうとしたら、誰もやっていないことへの挑戦が必要です。それは最初は怖いかもしれないけれど、その先には誰も持っていない強みが待っている。動物病院業界を30年以上歩んできて、それをいちばん実感しています。

編集後記

「運がよかった」という言葉が、インタビューを通じて何度も出てきました。でも話を聞いていると、その「運」はすべて人との出会いを大切にし、業界の外に目を向け、先手を打ち続けてきたことで引き寄せたものだと感じました。水産営業からコンサルへ、そして動物病院の開業支援・チェーン経営・事業承継と、常に「誰もやっていないこと」に踏み込んできた30年間。日本経済全体が停滞していた時代に成長産業を見抜いて走り続けた視点は、業界に限らず、何かを始めようとしている人に届く言葉だと思います。「オーナー経営の魅力を知らないまま就職している若者が多い」という指摘は、自分自身にも刺さりました。