インタビュー

遊牧民の涙を見て、旅行会社をつくった ― 長岡岳志が乗馬に懸ける理由

遊牧民の涙を見て、旅行会社をつくった ― 長岡岳志が乗馬に懸ける理由
PROFILE
みんなの合同会社 代表社員
長岡 岳志

モンゴル留学で知った、現地に負担が偏る構造

遊牧民との出会い

2013年、私はモンゴルに留学をしていました。そこで出会ったのが、日本語を話せる遊牧民の方です。その方は日本の旅行会社から仕事をもらって、ガイドをしていました。

しかし、間に日本の旅行会社が入り、その下にモンゴルの現地旅行会社が入り、さらにその下に遊牧民が入るという構造になっていたんです。お金は上から流れてくるのですが、その過程で半分以上が取られてしまう。しかも「お客様が怒っているから、あなたの給料はなし」といったトラブルも、モンゴルでは決して珍しくありませんでした。

大きな旅行会社であっても、同じようなトラブルは起きていました。日本側が悪いわけでも、現地が悪いわけでもなく、間に入る会社が多いことで、構造そのものがねじれてしまっていたんです。現地のモンゴルの旅行会社も、安く出さざるを得ない事情があり、結果として遊牧民にしわ寄せがいっていました。

自分でホームページをつくった

そこで、弊社がホームページをつくって直接つなげば、お客様には安いツアー代金で、現地には今までよりもきちんとお金が届くのではないか。そう考えて、当時ホームページを自分でつくりました。

私はもともとエンジニアでもあるので、システム化や今でいうAIの活用によって、できるだけ人の手をかけずに運営できる仕組みをつくっています。細かい要望が多いお客様には、現地が疲弊してしまわないよう、あえてお断りすることもあります。少人数でも回せる体制を意識してきました。

高卒から自衛隊、そして震災を経て

自衛隊で過ごした5年間

学生時代、大学受験はすべて失敗したことで、親には「自衛隊に行かないと」と言われました。また留年も許されない空気があったんです。私自身、それほど成績が良かったわけでもなかったので、大学に行くくらいなら自衛隊のほうがましかもしれないと思い、5年ほど自衛隊に在籍しました。そのうち2年ほどは教官のような立場で、新しく入ってくる隊員を一人前の兵隊に育てる教育に携わっていました。

東日本大震災が背中を押した

自衛隊を辞めたあとは、営業会社に転職して3年ほど働きました。そこで東日本大震災が起こります。今すぐやりたいことをやらないと、それすらできなくなってしまうかもしれない。そう強く感じました。

やりたいことを考えたとき、頭に浮かんだのが、馬にまたがって思い切り走れる場所をつくることでした。世界中を見渡して、それができる場所はどこだろうと考え、たどり着いたのが広大な大地を持つモンゴルです。そして2013年、モンゴルへの留学を決めました。

乗馬と少数民族を軸に、世界へ広げる

モンゴルとキルギスでの実績

モンゴルでの事業は2013年から始めて、今では大きな会社に成長しました。キルギスでも旅行会社を立ち上げていて、今年は100人ほどのお客様が来る見込みです。来年は200人、そこから毎年倍々に近いペースで増えていくと見ています。今年は視察のために中国にも足を運ぶ予定で、そこでも旅行会社をつくることを考えています。

事業拡大のスピードという壁

課題として感じているのは、事業を拡大するスピードです。旅行会社をきちんとした規模の会社にするまでには、10年ほどの時間がかかります。行きたい国はたくさんあるのですが、自分自身が動ける体はひとつしかありません。だからこそ、興味を持ってくれる方がいれば、ぜひ紹介してほしいと思っています。

現地に住んでいただいて、その国のツアーをつくっていただく。うちはお客様を送客したり、ホームページを整えたりする形で一緒に取り組み、数年できちんと利益が出せるようになれば、というイメージです。

他地域への展開構想

今後のビジョンとしては、乗馬と少数民族をキーワードにしたツアーを、世界のさまざまな地域でつくっていきたいと考えています。モンゴルでうまくいっているのは、お客様に喜んでいただきながら、現地のスタッフも疲弊せず、なおかつ何かしらの学びを持ち帰っていただける、という形が成立しているからです。

たとえばカナダにも少数民族の方々がいます。その土地の良さを表すツアーは、きっとそれぞれの地域に合った形があるはずです。それを見つけて、ツアー会社として育てていく取り組みを、世界中で増やしていきたいと思っています。エネルギーにあふれた現地の方々と出会い、刺激し合う中で「自分も何か頑張ってみよう」と思える人が増えていく。そうした学びの場を、少しずつ大きくしていきたいです。

若い人にこそ、来てほしい

価値観が広がる経験を

弊社のお客様は、若い方が中心です。大学生の方も多く、できるだけ若い方に来ていただきたいというのが、私たちの考え方です。日本にいるだけでは得られない考え方に触れてほしいと思っています。モンゴルの遊牧民は、都市型の農耕民族とはまったく異なる暮らし方をしています。その違いに触れることで、価値観が大きく広がり、自由になれる感覚が得られるはずです。

学生が主催するツアー構想

現在、ツアー代金は値上がりの傾向にあります。現地のスタッフも忙しく、来年はさらに値上げする予定です。ただ、それでは若い方が来にくくなってしまうので、なんとか安くできないかと考え続けています。

今考えているのは2つの構想です。ひとつは、自分の好きな国に留学して、一緒にツアー会社をつくっていただく仕組み。もうひとつは、学生の方だけのツアーです。学生の方に主催していただき、10人、20人と集まっていただければ、費用をぐっと抑えられるのではないかと思っています。

編集後記

日々ビジネスの現場に触れる中で、長岡さんのお話はとくに印象的でした。現地に負担が偏る構造に気づき、自分でホームページをつくって解決に動いた行動力、そして震災をきっかけに人生を変えた決断力。どちらもすぐに真似できることではありませんが、目の前の違和感を見過ごさない姿勢は、私自身も大切にしたいと感じました。乗馬ツアーの今後の広がりが、とても楽しみです。