繊維商社から、ものをつくる側へ
卸から製造へ移っていった
もともと私は繊維商社で働いていました。最初は卸を担当していたのですが、そこからつくる側に移って行きましたね。日本の技術は、戦後からずっと世界中に認められてきました。そういうものを開発してきた人たちの知見が、実はいまとても貴重な財産になっているんですよね。
2010年、私は縫製工場で働いていました。縫製だけをしていても、工賃だけでは会社のキャッシュはよくなりません。特別なものを開発して、その分の利益を出していく必要があったんです。そこで熱を防ぐ素材の開発にどんどん力を入れるようになって、2016年に「シェルテック」という素材を開発しました。これがヒットして、いろいろなところで使ってもらえるようになったんです。
年配の方々の知見を残したい
熱を防ぐことで喜んでくれる人がたくさんいる。そこで、もっとこの道に力を入れていきたい。それが独立を決めた一番の理由です。前職では最終的に取締役、その後代表まで務めましたが、縫製工場という立場のままでは素材メーカーとしての立ち位置をつくるのが難しいと感じて、自分で素材開発の会社を立ち上げました。
弊社にとって大きな知見を与えてくれるのは、65歳以上の方たちです。実際にはもう現役を退いている方が多いのですが、そういった方たちと業務提携を結んで、知識を共有してもらったらきちんと対価に換えるようにしています。かつて日本を大きくしてきた人たちが、いまも私たちを支えてくれているんです。
家の構造からヒントを得た技術
空気の層が熱を防ぐ
弊社は、空気層を生地の中に閉じ込める技術をいろいろ開発しています。家の外壁と内壁のあいだには、必ず空気の層がありますよね。あれがあるだけで、熱を防ぐ効果が生まれるんです。人間の体温も、少し離れれば感じられます。近づいて、はじめて熱が伝わってくる。つまり、空気そのものが一番の断熱材なんですよね。この空気の層を服の中につくってしまう。それを生地に取り込む技術を、私たちは持っています。
おしゃれと機能を両立させる
私自身、もともとファッション系の生地を開発するほうが得意だったので、機能性とファッションを融合させることを大事にしています。見た目はふつうのファッションなのに、実は機能もついている。快適さを求めていない人にも、自然と快適さを届けられれば着用率は上がりますし、日々リピートしてもらえるようになります。
世界的なアパレル企業も、この分野で世界一を目指しています。弊社も同じように、この分野で世界一を目指しているところです。
世界を目指すものづくり
グローバル化を目指して
弊社はグローバル化を目指している会社です。中国にもオフィスを構えていて、そこで開発した糸や生地を販売しています。世界中のお客様と向き合っていくことを今後の仕事にしていきたいと思っていて、国際的な企業との取り組みを一つずつ増やしているところです。
課題は、人材の確保です。しかし、それよりも先に、弊社がやっていることをもっと可視化して、わかりやすくすることが、いまのフェーズだと思っています。すぐに人数を増やすことはできません。私たちの物語に賛同してくれる人と、一緒に仕事をしていきたいんです。糸という素材は、衣料だけでなく、家やかばん、布団など、生活に関わるすべてのものに応用できます。ファッションを楽しみながら、暮らしそのものを快適にしていく。それが弊社の一番のビジョンです。
失敗は、人の100倍のスピードでしていい
石ころに躓く程度のこと
学生のみなさんに伝えたいのは、失敗をするなら、人の100倍のスピードで失敗しようということです。失敗はとても怖いと言われますが、何をしても当たり前のように起きるものです。人と話すだけでも、実は失敗しています。しかし、あとで振り返ってみると、たいていは石ころに躓いたレベルのことなんですよね。広い道を歩いていれば、石ころが山のように転がっています。転んで手をついたとしても、死ぬことはありません。防御もできますし、何でもできる。だから、いろいろな失敗をしたほうがいいと思っています。
失敗して、そこで終わらずに続けていけば、最終的には成功になります。誰も途中の結論なんて見ていません。自分だけが知っている自分のビジョンに向かって、みんな生きていくものだと思うんです。途中の失敗を「失敗」ではなく「成功するための勉強」だと捉え直せると、好奇心がどんどん広がって、いろいろなことに挑戦できるようになります。
いつ出会えるかは、わからない
私自身、いまの事業を始めようと思ったのは、決して早いタイミングではありませんでした。学生のうちから、いつ自分に合う事業に出会えるかなんて、わかりません。いつ成功するかもわからない。だからこそ、チャレンジを続けられる人は、必ず道が開けてくると思っています。
いつの時代も、世の中を動かしているのは若い人たちです。海外の大きな企業も、学生時代に創業した人たちがつくってきました。頭の柔らかい学生さんにもっと活躍できる場が広がって、経営という仕事自体がおもしろいんだということが伝わっていくカルチャーができるといいなと思っています。
編集後記
松井さんのお話は刺さることばかりでした。とくに「失敗は成功するための勉強」という考え方は、目標を決めきれずにいる自分の背中を押してくれるものでした。空気という身近なものから世界を変える技術を生み出す発想力と、若い世代への率直な期待に、経営という仕事のおもしろさを教えてもらった気がします。あわせて、業界研究や長期インターンの探し方に迷っている人は、ほかの経営者インタビューもぜひチェックしてみてください。