信用金庫マンから社長へ
地域貢献を選んだ就活
大学を卒業する時、最初は百貨店に興味があったんです。宝石とかアクセサリーを売る仕事もいいなって。でも体験入社してみると、人間関係のいろんな面が見えてきて、学生ながらに「これはちょっと違うかも」って感じてしまったんですよね。
もう一つ強くあったのが「地域に貢献したい」という気持ちでした。金融機関ってお金を提供するだけじゃなくて、地域そのものを作っていく仕事だと思っていて。親戚にメガバンク勤めのおじさんがいたんですけど、「ヒロ君はそんなに勉強好きじゃないからメガバンクのタイプじゃない。信用金庫が合うんじゃないか」って言われて(笑)。それがきっかけで地元の信用金庫にエントリーしたんです。
倒産寸前の家業に飛び込んだ
転機は28歳の時に結婚したことでした。妻の実家が運輸業を営んでいて、厳しい状況であることを知りました。そこで、そのまま妻の実家が倒産するのは嫌だなと思って、30歳の時に家業を手伝うために入社を決めました。
ただ、外から見ていた以上に内部は厳しくて。半年も経たないうちに「これはキャッシュショートしそうだ」という状況でした。妻のお父さんやお母さん、親族などとも相談しながら、最終的に「私がやります」と名乗り出ました。何十年も経営してきた人たちから見れば、入社して半年も経たない人間に言われるわけですから、もちろん反発もありました。そこから社長に就任して、社長車は5万円の廃車寸前の車からのスタートでした。最初の5年間は不眠不休で働いた、というのが正直なところです。
赤字から「日本初」へ
黒字化の鍵は「脱・下請け」
まず取り組んだのは無駄な経費の削減と品質向上、業務効率化。当たり前のことを当たり前にやることからでした。それと同時に、ビジネスモデルが劣化していると感じていたので「脱・下請け」を進めました。
当時は8割以上が下請け業務だったんですけど、そこから下請け業務をほぼなくしました。それとともに、B to B(法人向け)だけじゃなくてB to C(個人向け)にも力を入れていきました。人口が減っていくのは読めていましたから、個人向けのサービスに早めにシフトしていこうと。今は生前整理品の整理が主要事業の一つになっています。
中小企業唯一の「ダイバーシティ 100 選プライム」
もう一つ大きく変えたのが、人材の多様性です。男性中心の職場でしたが、これからは安全衛生の時代になると思っていて。子育て中の方でも働きやすいように女性を積極的に採用して、多様な視点を取り込んでいきました。
外国人採用も 12 年前から本格的に始めて、今では 7 カ国の方が在籍しています。その結果、経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業 100 選プライム」に中小企業として唯一選定されました。健康経営でも 10 年連続で優良法人に認定されていて、上位数パーセントに入る「ブライト 500」も 6 年連続。2 年前は全国 1 位を取ることができました。
意外と小さな会社でも「中小企業初」「日本初」が多いんですよね。
エッセンシャルワーカーの先へ
「運ぶ会社」を超えた存在に
私たちの仕事って、どうしても「物を運ぶ会社」に見られがちなんです。でもB to Cのサービスに関して言うと、部屋を片付けて動線を確保することで転倒・転落予防ができる。震災は防げないけれど、実際の二次被害を減らすことにもつながっています。
そういう認識を地域に広めるためにも、防災セミナーや運動教室(バランスボール・太極拳)を無償で提供しています。今年中に延べ 1 万人の市民の方が参加するくらいの規模になってきました。
日本初の地域包括ケアシステムに挑む
2023 年には愛知県瀬戸市・社会福祉協議会・弊社の三者で、地域の方の健康寿命の延伸に寄与する活動について三者協定を締結しました。これも全国初の取り組みだと思っています。
地域包括ケアシステムって、これまでは医療・介護・行政が中心でした。そこに、地域の民間企業が加わることで、さらに地域包括ケアシステムの更なる推進に繋げたいと考えています。実際に、7月1日には駅前に民間が運営する地域交流施設「せと84ひろば」をオープンし、学ぶ場・交流する場・運動する場を提供しています。市民ボランティアも17名集まってくれました。
厚生労働省にも注目していただいていて、アジアの健康長寿の優秀事例としても評価されつつあります。2050 年には消滅する自治体が 4 割とも言われている中で、地域の課題は地域で支える、その一つのモデルをつくっていきたいんです。また、これらの地域課題に挑戦できる人材の確保にも力を入れていきたいと考えています。
「昔ながら」を逆張りする
社名のネガティブをポジティブに変える
課題があるとしたら、やっていることは面白いのに「知られていない」ことですかね。大橋運輸という社名は創業者の名前を引き継いでいるので変えるつもりはないんですけど、どうしても「運輸会社=古い・大変」というイメージを持たれてしまう。
でも逆張りでいこうと思ってるんです。おしゃれな名前じゃなくて、あえて昔ながらの「運輸」という名前のままで、でも取り組みは誰も見たことがないことをやっている。そのギャップで知られていく会社にしたいんですよね。実際、有名なラグジュアリーブランドからの管理者研修の依頼があったり、視察も多く来てくれています。
目的意識のある人が集まる会社に
昔は人が集まりにくい業種でしたが、今は他の都道府県からも応募が来るようになりました。会社の近くに住んでいる方が来てくれるようにもなってきています。海外の方については 10 年以上かけてリーダー層も育ってきて、倍率が上がっているくらいです。現時点で、6ヵ国の海外メンバーと一緒に切磋琢磨しています。
採用については、求人票をどんどん出すというよりは、取り組みに力を入れて、自社のホームページから問い合わせしてくれる人を大切にしていく方向にシフトしています。面白いことをやっていれば、求人票を出さなくても人は来てくれると思っているので。
高校生が学校の先生に「いろんな会社を見なさい」と言われたのに「大橋運輸に入りたいから、ここ一本です」って直接見学に来てくれて、今も活躍してくれているんですよ。そういう子が来てくれるのが一番うれしい。
若い人たちへ
安定より成長できる環境を
若い時ほどいろいろ挑戦できる分野に飛び込んで、自分の能力を高めてほしいなと思っています。「選ばれること」を意識するよりも、自分がどんな分野に挑戦したいかを先に考える。そこが明確になっていれば、就活で悩むことも少ないと思うんですよね。
意識のある人って「どうやって内定を取ろう」で悩んでいないんですよ。何がやりたいかが明確じゃないから「どうやれば内定取れるか」になってしまう。逆に言うと、やりたいことが明確な人は就活でそんなに苦労しない。
若い時にいろんな失敗や経験を積んで、自分が何に興味があるかをしっかり見極めてほしい。そのうえで、もし自分のやりたいことをやれる会社がなければ、自分で立ち上げるというのもすごく理解できます。そういう若い経営者とは、対等な立場で一緒にやっていきたいと思っています。
編集後記
今回の取材で一番印象に残ったのは、「面白い会社は求人票を出さなくても人が来る」という言葉でした。採用に困っている企業が多い中で、大橋運輸さんは真逆のアプローチをとっていました。発信よりも先に、社内の取り組みそのものを磨くことに投資する。その哲学が、ダイバーシティ・健康経営・地域包括ケアという「日本初」の積み重ねに繋がっているんだと感じました。運輸会社というカテゴリーの先に、まったく新しい事業モデルをつくっている会社が愛知県瀬戸市にある。そのことを、もっと多くの学生に届けたいと思います。