株式会社RCMで代表取締役をしている高橋万紀子です。骨格コンディショニングとメンタルカウンセリング、その両方の視点から、音楽家やアスリートの不調や「イップス」の改善を手がけています。もともとはフルート奏者でしたので、今の仕事を説明すると、よく驚かれます。
フルート奏者だった頃
結婚式場やホテルで演奏していた
私は元は音楽家_フルート奏者でした。結婚式場やホテルのパーティー会場などでの演奏の仕事をしていて、生徒も20名ほど抱えていました。
引っ越しのたびに手放してきた
当時、夫はいわゆる「転勤族」だったため、夫の転勤のたびに抱えていた仕事も生徒も手放さざるを得ませんでした。そのため、「夫の転勤に伴い、引っ越します。すみませんが、どなたか代わりの先生をお願いします」ということを何度も繰り返していました。
地方では音楽を仕事にできないことも
そうは言っても、「引っ越し先が地方」の場合、そもそも音楽を仕事にできる場所がなかったり、文化的な土壌がなかったりします。そのため、そうした地域では、「音楽で食べていくのは難しいな」と感じるようになりました。
段差で剥離骨折した日
足首を骨折したまま演奏した
フルート演奏のため、荷物を持って歩いていた時に、歩道の段差を踏み外してしまい、結果、足首を骨折したことがあります。一般的な価値観からすれば、相当ブラックかもしれませんが、音楽家業というのは、「ドタキャンできない世界」のため、当時の私も当たり前のように、足を引きずりながらもバスや電車を乗り継いで、ハイヒールにドレスという格好で演奏しました。しかし、やはりケガをした足首は痛むので、休憩時間に、魚屋さんからもらった氷で冷やしながら、その日の仕事をやりきりました。
剥離骨折だった
次の日に病院に行ったら、「剥離骨折(はくりこっせつ)している」と言われました。一般的にイメージされる骨折のように、骨が大きく折れたり割れたりしているわけではなく、パキっと剥がれるように折れるタイプの骨折だと説明されました。
リハビリを終えても違和感が残った
通院して、リハビリも終えて、「もう治りましたよ」と言われましたが、左右で足の太さに違いがあり、腰も痛いままでした。要するに、「これで治ったと言えるのかな」という状態がずっと続いていたのです。
骨格コンディショニングとの出会い
久しぶりに会った友人がトレーナーだった
そんな頃に、10年振りくらいで再会したママ友から、「骨格コンディショニングっていうトレーナーの資格を取ったんだけど、今モニターを探している」という話をされました。
骨格コンディショニングとは、骨格や関節の歪みをきれいに整えていくものです。例えば、ぎっくり腰で、施術前は「手すりにつかまりながらようやく階段を上ってきた」という方でも、1時間の施術後は、軽やかに歩いて帰られるというケースもあります。
こちらとしても、わらにもすがる思いがあったため、「それなら受けてみたい」と思い、彼女にお願いしました。
施術を受けたら左右の脚の太さが揃った
実際に彼女の施術を受けてみたところ、なんと「左右の脚の太さが揃った」のです。さらには、ヒップアップやバストアップ、フェイスリフトまでされて、「何これ、すごいじゃない」と驚いてしまいました。すると、彼女から「筋が良さそうだから資格を取らないか」と誘われ、挑戦することにしました。
大学受験のように学び直した
資格を取るための勉強は、「もう一度大学受験をする」ような感覚でした。医学部を目指すような気持ちで、基礎解剖学から学びました。
身体だけでなく、心も整える必要性
フルートの音色が変わった
資格を取った結果、まず自分のフルートの音色が良くなりました。さらに、ほかの音楽家の演奏を聴いていても、「筋肉などの身体の使い方がうまくいっていないから音が伸びきらなかったり、大きくならなかったりしている」などがわかるようになりました。そこで、それぞれに合わせたトレーニングを教授したところ、揃って見る間に上達していきました。その結果、気付けば仕事が舞い込むようになっていました。
身体を整えても良くならない人がいた
ただ、身体を整えても良くならないケースもありました。そこで、「その原因は何だろうか」と探るうちに、「メンタルが関わっている」こともわかってきました。原因がわかったのなら、それを解消させればいい。「それなら心理カウンセリングもやってあげよう」となったのは自然の流れでした。
カウンセリングも始めた
骨折で音楽の仕事が難しくなった時期に、「場所を選ばずできる仕事」を探す中で、自分の能力の棚卸しもしていました。心理学の知識をブログでアウトプットしているうちに、解剖学の考え方を心理学に転用して心を扱うメソッドを作り、何人かに試してもらったところ、「トラウマがどんどん改善されていく」ということを知ったのです。その時に、「これは仕事にできるかもしれない」と思いました。
イップスにたどり着くまで
身体と心、両方から崩れていく
骨格コンディショニングとカウンセリングの両方を手がけているうちに「イップス」という運動障害にたどり着きました。分かりやすい例を挙げると、「防御率2.50以下のピッチャーが、ある試合での乱調をきっかけに、急にそれまで通り投げられなくなる」でしょうか。実はイップスには、「身体(フィジカル)から始まる」ケースと、「心(メンタル)から始まるケース」があり、双方が絡み合いながら悪化していくのです。
片方しか診ない専門家が多かった
正直なことを申しますと、世間で「イップスを治します」という専門家は、「身体しか診ない」か、「心しか診ない」かの2択がほとんどなのです。実際、「イップスが良くなった」という人の中には、「さまざまな医療機関などを渡り歩いて、何が効いたのかよくわからないまま良くなった」というケースも少なくないと感じていました。
両方診れることに気づいた
そんな時に、「自分は骨格コンディショニングとカウンセリングの双方からアプローチできるじゃないか」と気づきました。そして、その時から、「イップスの改善」にも取り組むようになりました。
場所を選ばずに働くために
Skypeがまだ珍しかった時代
私が心理学の知識をアウトプットし始めた当時は、まだSkypeを使っている人も少ない時代でした。それでも、「オンラインで仕事をしよう」と決め、個人事業主のカウンセラーとして仕事を始めました。
業績が伸びたことで法人化した
地道に仕事を続けていったところ、思いのほか業績も伸びていったため、「会社にしよう」と思い、法人化しました。それが、弊社の誕生です。
頼まれたことはなんでもやってきた
事業内容は、骨格コンディショニングとメンタルのカウンセリング、そしてイップスの改善が柱です。加えて、依頼があれば、「企業研修」も引き受けてきました。頼まれたことは、基本的に何でもやってきたという感覚です。
困難もさまざまある
コロナ禍では会社が潰れそうになった
新型コロナウイルスの流行に伴い、企業研修や対面での仕事が一気になくなり、「会社を休眠させるべきか、いっそのこと畳んでしまうべきか」と迷った時期もありました。自分の役員報酬を0円にして、夫の扶養に入ることで、極限まで固定費を下げて乗り切りました。
コロナ禍は過ぎましたが、その後、妊娠・出産と続き、実はまだ業績が回復したとは言えません。末の子が3歳になったので、そろそろ本腰を入れて回復したいと思っています。
プロ選手ほど、口コミにならない
実はプロスポーツ選手が、弊社を利用することも少なからずあります。一度か二度の施術で良くなって、「すごいですね」と喜んでもらえても、「誰にも紹介しないし、僕が来たことも誰にも言わないでください」と言われます。もちろん、プロスポーツ選手という肩書きのある身からすれば、「イップスに陥ったことも、それが治ったことも知られたくない」というのは、当然のことでしょう。言わば、「何もなかったことにしたまま、今の活動を続けたい」というのが本音なのです。その結果、「実際の利用者からの口コミが生まれにくい」ことが、創業当時からの課題です。
本を出しても、口コミには繋がらない
昨年、「イップス総合案内所」という本を出版しました。そうは言っても、実際に本を読んだうえで、「この人だ」と思って来てくださる方はいても、そこから「口コミとして人に伝わっていく」ことはなかなかありません。
これからは、社会的な裏付けを
論文を書こうと思っている
今後のビジョンとしては、弊社が個別にやっているメソッドとしてだけでなく、「社会的に認めてもらえるようにしたい」と考えています。そのため、「論文を書こう」とも思っています。
企業研修の売り出しも検討中
「メンタルとフィジカルの双方を診れるからこそのやり方をどうやって広げていくか」というのが、弊社の永遠の課題ではあります。そこで、今までは「依頼が来たら請け負う」というスタンスだった企業研修を「積極的に売り出していこうか」とも考えています。
従業員だけでなく、横のつながりで
弟子たちと連携する
会社の体制としては、夫が経理を担当し、秘書を1人雇っています。役員込みで3名、従業員としては1名という規模です。夫はダブルワークになりますが、家事や子育てのかなりを担い、私を支えてくれています。
弟子たちは、弊社の従業員ではなく、それぞれが個人事業主として仕事をしています。弟子が企業研修の仕事を取ってきて、「個人事業主とは契約できない」という案件では、「弊社から派遣する」という形式で仕事を受けることもあります。分かりやすく説明するなら、「横のつながりで仕事をするスタイル」です。
学生へのメッセージ
勉強は学生のうちに終わらせるものではない
学生のみなさんには、「勉強は学生のうちに終わりにしないでほしい」と伝えたいです。私自身、大学を出たあとに、解剖学や心理学など、3つくらいの分野を基礎から学び直してきました。
知識は武器になる
勉強というのは、「武器を増やすこと」だと思っています。なぜなら、専門的な知識をいくつも身につけると、それを抽象化して、違う分野でも共通する要素を見つけられるようになるからです。全く知らない分野の仕事であっても、一度抽象化した知識やスキルは通用しやすいため、「思いがけず応用が効く」ものです。実社会に出たとしても、勉強を続けていくことで、「将来有利になる」瞬間が必ずあるだろうと思います。
武器は使ってこそ意味がある
世の中には「得意な武器を得た」という事実に安心してしまう人もいると思います。しかし、得た武器は「使ってなんぼ」のはずです。ですから、失敗を恐れず、自身の経験値を上げ、せっかくの知識を使いこなす練習もしてほしいと思います。ひとりひとりが経験値を増やしていければ、世界は楽しくなると思います。世間では、「エンターテインメント化したセミナー」がもてはやされていますが、一時的な高揚感で終わるものではなく、「本当に自分の身になる」と言いますか、「実になるもの」を選んで学んでいってほしいと思います。
編集後記
早稲田大学3年生で、学生ながら事業に関わっている身として、高橋さんのお話はとても刺激になりました。音楽から解剖学、心理学へと分野を横断しながら、身体と心の両面を繋げて、「イップス」という課題にたどり着くまでの発想の柔軟さに驚きました。専門知識をひとつに絞らず、抽象化して活かすという考え方は、これから社会に出るうえで大切な視点だと感じました。貴重なお話をありがとうございます。