インタビュー

「悪い状態」を検知するだけでは終わらせない。3秒の声で心の健康を可視化するCare Cubeが目指す次のステージ

「悪い状態」を検知するだけでは終わらせない。3秒の声で心の健康を可視化するCare Cubeが目指す次のステージ
PROFILE
株式会社サウンド&ヴィジョンテクノロジーズ 代表
富田敦彦

金融からロボティクスへ、遠回りして見えた「可能性」

不動産から金融の世界へ

私は、自分で会社を始める前は長い間サラリーマンをしていました。最初はいわゆる不動産デベロッパーで仕事をしていて、そこは度胸と経験がものを言う世界でした。それはそれで面白かったのですが、だんだんとITが普及していく中で「このままではだめだな」という問題意識が生まれてきたんです。データやロジックでビジネスを拡大していくほうがいいのではないかと思い、金融機関に転職しました。いわゆる投資銀行です。当時、ビッグデータと言えるものは何百年分もの為替や株式、金利など金融業界くらいにしかなかったので、そこでデータを使いながら金融商品をつくったり、トレーディングをしたりしていました。

バーチャルからリアルへ

ただ、金融は所詮バーチャルの世界なんですよね。画面のなかの数字が変わっているだけで段々実感の無さに物足りなさを感じました。ちょうどそのころ、Amazon(アマゾン)がAlexa(アレクサ)を搭載したAIスピーカーを出したり、ソフトバンクがPepper(ペッパー)というロボットを出したりして、現実空間のさまざまなデータをビッグデータとして扱い、AIで処理することが現実味を帯びてきました。それなら、バーチャルよりもリアルのほうでやろうと思い、ロボティクスやIoTを手がける会社を共同創業しました。そのうちに少子高齢化が進む日本では、働き手はどうしても足りなくなります。海外から人を呼ぶ、隙間時間のマッチングを活用する、ロボットを使う……いろいろな解決策があるなかで、私はひとりひとりの生産性を高める方向に可能性を見いだしました。

「表情」ではだめだった、Care Cube誕生の裏側

顔認証からの気づき

この会社では顔認証を使った入退室管理や勤怠管理サービスをつくっていました。お客さまがカメラに毎日顔を見せているので「ストレスも測れるのではないか」と言われたのが、Care Cube(ケアキューブ)のきっかけです。一社だけでなく二社、三社と同じことを言われ、もしかしたらそういうニーズがあるのかもしれないと思い、表情を分析してストレスを計測するものをつくろうとしました。

声帯は自分でコントロールできない

ところが、人は心の中の気持ちと表情を切り離す能力を持っています。当時の私達の技術では、AIが簡単に騙されてしまいました。それから着用できるセンサーによるサービスも検討したのですが、人に何かを身につけさせること自体が難しく、そのデバイスの存在自体がストレスになってしまうこともあり、断念しました。

そこで注目したのが声でした。私が出会った音声解析技術は、話している内容やスピード、声の大小は関係なく、声帯の震えを分析するんです。声帯は自分の意思でコントロールできない筋肉で、緊張すると声が震えたり裏返ったりしますよね。その状態は頭で念じても静まりません。表情でうまくいかなかったからこそ「これはいける」と思い、技術を磨いてストレスを検知するところまでたどり着きました。

3秒の声でわかること

周波数から特徴を取り出す

今、この瞬間のストレス状態は、まず声帯の振動から感情を分析し、その感情の変化量を計算して割り出しています。強いストレスにさらされている人は、感情の変化量が少ないんです。技術的には、話している声から声帯の振動部分を取り出し、さらに周波数帯ごとに強弱を切り分けて、AIの特徴量とします。たくさんの声のサンプルの中から近いパターンを探し、「このパターンならストレス40くらい」というように数値化しています。AIが発達したからこそ、可能になった技術です。このストレスの時系列変化から心の健康状態を可視化できます。

出勤のたびに測定する

私達が作っているCare Cubeは、元々は勤怠管理からスタートしたサービスで、そこに勤怠以上の付加価値を乗せたいと考えました。顔を見せた瞬間に出勤が記録される仕組みなので、朝のタイミングであわせて計測していただく形です。今、導入企業は30社を超えたくらいで、まだまだこれからだと思っています。今はグラフと数値でフィードバックしているのですが、「ストレスが59です」と言われてもよいのか悪いのかわかりにくいですよね。そこで、データを生成AIに読み込ませて文章でフィードバックする機能を、新たにリリースしました。Care Cubeインサイトと言います。

ブルーカラーにこそ必要とされている

事故やミスが経営リスクになる

問い合わせが多いのは、製造業や建設業、ドライバーを雇う企業です。現場があって、事故やミスがそのまま経営リスクに直結するからです。実は、心が病んでいる人が多いのはITや、私がかつていた金融のような業界かもしれません。でも「病んでいる人がいる」こと自体がニーズになるとは限らなくて、その先にある「会社にとってどのくらいの損失になるか」が重要なんです。ドライバーの方がメンタルの不調で赤信号を見落として事故を起こしてしまったら、命に関わる話になります。以前の会社はサービス業、いわゆる第三次産業のDXを目指していたのですが、実はそちらではなかったのだと、見極めるまでにはずいぶん試行錯誤しました。

接点をつくることが今の課題

これから製造業や建設業、運送業を中心に展開していきたいと考えているものの、正直顧客のキーマンに出会うのが難しいというのが悩みです。ネットなのか、展示会なのか、接点をどうつくるかを今、一番試行錯誤しています。代表電話にかけても、そもそも代表電話はそういう電話を断るためにあるようなものですから、なかなかライトパーソンに辿りつきません。

「悪い」を検知するその先へ

行動を変えるところまでやりたい

私達の会社としての今後のビジョンは、Care Cubeをまだ知らない方がほとんどなので、まず知っていただくことです。実際に使っていただければ、価値をわかってくださる方は多いはずです。ただ、今の音声解析AIは「悪い状態」を検知するサービスにとどまっています。悪いということが事前にわかったら行動を変えて、病気にならないようにできますよね。だからこそ、Care Cubeを行動変容まで促せるサービスに育てていきたいと思っています。

感情労働が増える時代に

AIのなかった時代にはもう戻れません。必然的に、簡単な仕事はAIが担い、人間の仕事はより難しいものになっていきます。人を動かしたり調整したりする、意思決定やいわゆる感情労働が増えていくはずです。その負荷をきちんとコントロールできるようにすることが、私達のサービスの役割だと思っています。あくまでBtoBのサービスとして磨いていくのであって、個人向けのヘルスケアアプリにする予定はありません。その先にある「楽しさ」のようなものが伝わるとうれしいです。

フランス人エンジニアと歩む組織づくり

履歴書は英語で書いてもらう

今、私達のお客さまは基本的に日本の会社です。社員は17人ほどですが、パートタイマーや学生インターンも多く、正社員は4人です。エンジニアは全員外国人で、フランスの方が多いですね。フランスの大学と直接契約しています。エンジニアと技術の話をするにはフランス語である必要はないものの、英語のコミュニケーションが欠かせません。流暢に話せる必要はないのですが、英語が怖いという方には、正直弊社で働くのは簡単ではないかもしれません。だからこそ採用の際の履歴書は英語で、外国式のフォーマットで書いてもらいますし、最初の面接は必ず海外出身のメンバーが英語で担当します。それで半分以上の方が離れていってしまうのですが、逆にそこを突破した方はアウェイでもやっていける方なので、それだけで良い人材のスクリーニングになっている面もあります。

海外の学生インターンも活躍

インターンには海外の学生も多いです。海外の大学と契約していて、当社でインターンをすると単位になる制度があるので、そちらの学生が来てくれることもありますし、Linkedinや求人サービス経由で来てくれる日本の学生もいます。

若い世代へのメッセージ

就活は「取引」だと思えばいい

就職活動では、負ける理由を減らせば勝てるという発想の就活生は多いと思うのですが、留学をしたり自分を最強のスペックにしたりすれば夢に近づけるかというと、そんなことはないと思っています。企業からすれば、例えば全員を東大生にしたいわけではなく、出身大学も散らしたいはずです。毎年、東大生を10人採っている会社があったとしたら、11人目、12人目、13人目の学生はもう採用の可能性がゼロに近い扱いになってしまいます。就職活動も、取引です。就活生が自分が欲しいものを手に入れるために、相手に何をあげられるかを考えることが重要だと思います。それがないと、永遠に「最高の武器」を手にするための活動だけで4年間が終わってしまいます。

やりたいことは変わっていい

やりたいことがわからないという就活生も多いと思うのですが、やりたいことは時と共に変わっていくものです。私自身、転職をしたのは30歳を過ぎてから、今の事業をやろうと思ったのは50歳を過ぎてからでした。今やりたいことがないからといって、あまり不安に思わなくてよいのではないでしょうか。私達が扱っているのは最先端の技術なので、常に最先端の動きに触れられる環境で、それはエキサイティングなものです。ただ、どれだけすごい技術でも人の役に立たなければ意味がありません。だからこそ、展示会でもマーケティングでも営業でも、お客様の声を聞くことは重要です。お客様との接点を持つ仕事をしたい方には、当社にもたくさんの機会があると思っています。

編集後記

今回のインタビューを通じて、Care Cube(ケアキューブ)が単なるストレス測定ツールではなく、その先の「行動」まで見据えたサービスであることが強く印象に残りました。金融という「バーチャル」の世界から、声というもっとも身近な「リアル」に可能性を見いだした富田さんの視点には驚かされました。就職活動を「取引」と捉える考え方は、まさに今の私自身にも刺さるアドバイスでした。AIが当たり前になる時代だからこそ、人にしかできない仕事の価値を改めて考えさせられる取材でした。