インタビュー

「才能がある人が挑戦できる場所を作りたい」――広告代理店勤務から VTuber事務所を立ち上げた挑戦

「才能がある人が挑戦できる場所を作りたい」――広告代理店勤務から VTuber事務所を立ち上げた挑戦
PROFILE
株式会社ステラパレード 代表取締役
森 柾樹

株式会社ステラパレードで代表取締役を務めている森柾樹です。VTuber事務所「ステララボ(Stella lab)」の運営と、イラストレーターのマッチングサービス「STアート」を手がけています。

大学生らしい大学生だった

意識だけは高かった学生時代

学生時代は、本当に普通の大学生だったと思います。ただ、若干「意識高い系」で、長期インターンでビジネスに触れながら、なんとなく大人になっていくんだろうなというくらいの感覚でした。正直、会社を作るとはまったく考えていませんでした。

その中で、縁があって就活サポート系のメディア作りを手伝う機会がありました。学生の立場でありながら、他の学生バイトをまとめる中間管理職のような役割も経験しています。

一人で仕事はできないと気づいた

長期インターンでは、学生の集客にまつわることのすべてに取り組んでいました。ニーズ調査やコンテンツ作り、サイト作りなど業務範囲は多岐にわたります。そんな中、自分起案で追加改修したシステムを本番環境にアップした際にテスト環境で起きなかった不具合が起きたときのデバッグで周りに迷惑をかけた経験や、逆に後輩の失敗を調整する立場に回った経験があります。そこで、思ったよりも一人で仕事をするものじゃないなというのに気づかされました。自分で何でもできると粋がっていた部分がよくなかったなとわかったのが、学生時代の一番の学びだったのかなと思います。

一社目は広告代理店へ

その気づきもあって、自分で起業するのではなく、まずは社会のルールを効率よく知るためにサラリーマンになろうと決め、一社目は業界の中でも比較的激務な広告代理店に入社しました。広告代理店というビジネスは、お客さまとどんな広告を出すかを折衝する面白さと、市場の流れを読んでトレンドを追う面白さの2つがあってそれに惹かれて入社を決めました。

激務のなかで見つけた次の一歩

人と仕事をする矛盾

起業のきっかけは、広告代理店の激務にあります。人と一緒に仕事をしないとだめだと思っていたのに、激務やストレスのなかで、自分だけで仕事したほうがいい、人と一緒だと効率が悪いと思い込んでしまいました。そんな自分の理想と現実のギャップに矛盾を抱えて、正直なところ心が荒んでいた時期がありました。

そんなときに、音声でつながるコミュニケーションアプリ、当時でいう「グラビティ」や「スプーン」のようなサービスに触れて、エンターテインメントやストリーミングという領域に興味を持つようになりました。ただ人が喋っているのを聞いているだけでも、頭のなかが整理できたり、日常の楽しみが増えたりする。そんな力があると気づいたのです。

VTuber業界の課題に気づく

エンタメ業界が伸び始めていたタイミングで、VTuberに着目しました。

はたから見た際に順風満帆に見えていたものの、業界内で取り沙汰されていた報酬体系の不透明さや、タレントと運営のすれ違いといった課題を知り、制作やクリエイティブ以外の部分でも、それぞれが思い描いていた未来を十分に実現できていない現実があるとわかりました。

広告代理店はそれなりに激務だった分、お金の面でも、市場を読む力や相手を説得するためのプレゼンテーションスキルの面でも、身につけたものがありました。それら全てを原資にして、才能がある人が挑戦できる環境を作りたい、魅力的な人をより多く輩出して届けられる場所を作りたいと思って、会社を設立しました。

私は立場上、代表取締役ではあるんですけど、自分が主役になるよりも、タレントさんやイラストを描いてくれるクリエイターさんが主役で、私たちは裏方として支える存在でありたいと考えて設立した会社です。

なぜVTuber事業だったのか

インフルエンサー起用に感じたリスク

最初は、エンタメ系のなかでも始めるハードルが低いインフルエンサーの会社を考えていました。ただそこから、VTuberにするかインフルエンサーにするかで悩みました。 

しかし、ゼロから始めるのであれば、時代の流れ等を考慮した際にVTuberの方が向いていると思いました。イラストを動かすので、新しいモデルへのリデザインはあっても、ビジュアルの変化やライフステージの進行によるタレント側の加齢やライフスタイルの変化による影響を受けにくく、ビジュアルの持続性・安定性が高いと考えたからです。

IPビジネスとしてみた際のコラボレーションの多様性も魅力的だと考えています。

最終的にインフルエンサーでの起業を選ばなかった背景としては、インフルエンサーの維持やキャッシュフローの裏側を、PR会社の取引先として会食などを通じて知る機会が多かったこともあると思います。

実在の人物を起点にビジネスを設計する際に、前提としてある程度数字があるインフルエンサーのマネジメントからスタートする場合がほとんどで、タレントのそこまでの在り方やスタイルを維持することも大きな課題になりうると考えていました。また、タレント自身やファンのライフステージの変化によってファン層が変わってしまう部分があって、若干リスクだなと感じていました。

それに、ある程度規模が大きい案件についても、相見積もりをとっても、結局は大手インフルエンサー事務所に依頼が集中してしまう。それを自分ゴトとして体感していたのも大きいと思います。

出会いが後押しした決断

最終的な決断を後押ししたものの1つに、いま右腕として信頼している人物との出会いがあります。もともと大手VTuber事務所の社員だった人で、この人と一緒に仕事をしたら楽しいだろうな、これならやれるかもしれないと思えたことが、VTuberに舵を切る決め手になりました。

事業の2本柱と強み

VTuberとイラストレーター支援が事業の柱

事業内容は、メインはVTuber事業で、タレントの発掘とプロデュース、それに関連するグッズ販売をしています。もう一つ、「STアート」というサービスも始めました。イラストレーターのスケジュール管理や案件獲得を代行し、クリエイティブ活動を支えるマッチングサービスです。この2つが、今のメインの事業です。

市場を読む力と人材の厚み

強みは、私自身が広告代理店に勤務していたことで、市場を読んだり予測したりするのが比較的得意で、認知面でも多少のパイプがあると自負している点です。それに加えて、優秀な人材が多くそろっていて、大手事務所からいろいろな理由で一緒にジョインしてくれた人たちがいます。比較的新興の事務所ではありますが、ノウハウを持った人員を多く抱えているのが強みだと考えています。

個性を生かすプロデュース力

他の事務所との大きな違いは、創業間もないタイミングから、大手VTuber事務所の立ち上げメンバーがジョインしてくれている点です。配信の数字だけを管理するのではなく、タレント一人ひとりの個性を見て、その子に合ったプロデュースができると考えています。歌がうまい、絵が描けるといったイメージが強いVTuberの世界で、最近では鳩乃はろんさんのように競馬をコンテンツとして扱うような、パンチの効いたジャンルでも思い切ったプロデュースができる思い切った決断力もあるのかなと思っています。

オーディションで見ている2つの軸

オーディションで求めているのは、話していて人を引きつけるタレント性があるか、もしくは人のことを考えられるかどうかです。配信のなかでの面白さや、会話の流れを読んで攻めるべきかどうかを論理的・感覚的に考えられることや話していて惹かれることをタレント性と呼んでいます。このバランスをよく見るようにしています。

創業して大変だったこと

維持コストの想像以上の重さ

創業してから大変なことはずっとあるので、まだ大変な最中ですが、VTuberは思ったより維持コストがかかるというのは、日頃から感じていることです。2Dのライブは比較的容易にできる一方で、3Dモデルのライブとなるとモデルの単価も違いますし、スタジオを借りて撮影する必要も出てきます。

ファンコミュニティの醸成

もう一つ大変なのが、ファンコミュニティを育てていく難しさです。 自分たちが見つけたいい人を好きになってもらう過程は、やりがいがある反面、とても難しいと感じています。基本は、自分たちのタレントを一番好きでいることがベースだと思っていて、タレントさんとマネージャーとして会話するフェーズはもちろんあるんですけど、実際の配信では本音がポロッと漏れることがあるので、しっかり配信を見るようにしています。そこから得た気づきをそのまま伝えるとデリカシーがないと受け取られてしまうので、意識させないようにしながら反映するよう心がけています。

今後のビジョンと必要なもの

エンタメ業界で四強を目指す

会社のビジョンは、世界で一番楽しいを新しく生み出すことです。既にある楽しさを届けるだけでなく、今はまだ想像もついていないような新しい体験を、クリエイターや企業、スタッフ、応援してくれているファンの皆さんと一緒に作り出していきたいと思っています。「この配信を毎週見たい」「このタレントを応援してよかった」、そんな”楽しい”を生み出せるプラットフォームになれたらいいなと考えています。

VTuber業界では、にじさんじのANYCOLORさん、ホロライブを有するカバーさんと、ぶいすぽっ!などを運営するBrave group さんが大体三強と言われる状況だと思うので、その中に食い込む一社として四強になれたらと思っています。

四強に必要なのは人材

そのために直近で必要なのは、人的リソースだと考えています。ただ人数がいればいいわけではなく、後発だからこそ、その部分を補えるノウハウのある人員がいてほしいというのが本音です。芸能関係の大会などは、つてがないと参加すらできないこともあるので、コネクション作りも意識して動いています。今は全ポジションで採用を進めていて、面接もインターンも受け付けています。

実際に行動して確かめてほしい

この記事を読んでいる学生にアドバイスできるような立場の人間ではないと思いますが、強いて言うならば、エンターテインメント事業には楽しい部分も、それなりに楽しくない部分もあります。仕事は楽しいだけではない、というのが正直なところです。それでも楽しいことや叶えたい目標を一緒に追い求めることが大事だと思っています。

今は調べればそれらしい情報がAIですぐに手に入る時代だからこそ、実際に体験や経験をして、それが本当によかったのか自分の目でしっかり見る習慣を持ってほしいです。興味があれば、ぜひお待ちしています。

編集後記

取材を通して、森さんが「自分が主役ではなく裏方でありたい」と語る姿がとても印象的でした。広告代理店での激務という原体験があったからこそ、才能がある人が挑戦できる場所を作りたいという思いにたどりついたのだと感じます。私自身も就職活動を進めるなかで、条件だけでなく、こうした経営者の思いに触れることの大切さを改めて実感しました。四強を目指すステラパレードの今後にも注目していきたいです。