太田染工株式会社で代表取締役社長をしている太田晃平です。兵庫県西宮市で「ゴルフシティ(GOLF CITY)」という屋号を掲げ、ゴルフクラブの修理やカスタマイズを行う工房、プロゴルファーによるマンツーマンレッスン、24時間利用できる個室のインドアゴルフ施設という3つのサービスを1つの店舗で展開する総合ゴルフ施設を運営しています。
弊社はもともと1925年に染色業として創業し、2025年で創業100年を迎えました。私は4代目にあたりますが、ゴルフに関しては入社するまでまったくの素人だったのです。今回は、そんな私が家業を継ぐまでの経緯と、素人だったからこそ見えてきたことについてお話しします。
理系からトイレの会社、そして家業へ
機械工学を学び、TOTOに就職した
生まれも育ちも関西で、大学も大学院も関西の理系の大学に進学し、機械工学を専攻していました。そのまま大学院を修了したあとは一般企業に就職し、就職先は、在宅設備機器メーカーのTOTOです。2016年から2022年までの6年間をお世話になりました。
退職する1年ほど前に、父から「会社に戻ってきてほしい」と声をかけてもらったことがきっかけで、家業に戻ることを意識するようになりました。そして2022年に前職を退職し、太田染工株式会社に入社したという経緯があります。
4代目として、1年後に取締役に就任した
弊社は設立でいうと1949年、創業でいうと1925年にさかのぼり、私で4代目にあたります。もともと大阪で染色業として創業したのですが、火事などのトラブルも重なり廃業せざるを得ない状況になったこともあったそうです。そこから事業内容を変えながら、1984年に今のゴルフ事業を始め、今年で40年以上続けていることになります。
私自身は代々続く経営者の家庭に生まれ、「ゆくゆくは」と軽く言われることはあったものの、子どものころから強く社長業を意識していたわけではありませんでした。入社してからは一般社員としてほかのスタッフと同じように1年ほど働き、そのあとに取締役に就任しました。父が高齢のときの子どもということもあり、事業承継や相続を見据えて早めに役職に就いておいたほうがよいという話し合いがあったためです。そして昨年、2025年10月に社長交代という形で代表に就かせていただきました。
ゴルフ工房・レッスン・24時間インドアゴルフの3本柱
リニューアルで今の形になった
今の事業内容についてお話しすると、ゴルフ工房の運営、プロゴルファーによるマンツーマンレッスン、そして24時間利用できる個室のインドアゴルフ施設という3つのサービスを展開しています。ただ、この形になったのは2025年の7月にリニューアルしたばかりで、それ以前からレッスンと工房、インドアゴルフはありましたが、現在のような個室・24時間営業ではなく、ゴルフ用品を販売するショップも併設していました。
昨今の物価高や人件費の上昇に加え、ゴルフ用品の物販を取り巻く環境も変化するなかで、従来の店舗運営のままではなく、今後も継続して成長できる事業の形に変えていく必要があると考え、私のほうでリニューアル計画を実行し、24時間利用できる個室のインドアゴルフという今の形にしました。
工房・レッスン・インドアゴルフの連携が強み
24時間のインドアゴルフだけであれば、関東などにも競合はたくさんあると思います。ただ弊社の場合は、ゴルフ工房があることが大きな差別化ポイントです。ゴルフの腕前だけでなく、使っている道具も自分に合わせてカスタマイズしながら成長できるというのは、なかなかほかにはないアピールポイントだと思っています。
体格や筋力、腕の長さによって合う道具は変わってくるのですが、初心者の方はそれを知らずにクラブを選んでしまうことも多いです。そうした部分を見極める「フィッティング」の技術や知見は、このゴルフ事業を40年続けてきたなかで培ってきたデータがあります。そこを生かしながらお客さまに提案し、レッスンで実力を上げていただくという流れができているので、地域のお客さまにはよい印象を持っていただけているのではないかと自負しています。
ゴルフが好きではなかったからこそ、見えたもの
入社してからゴルフを始めた
私自身、ゴルフに関しては会社のコンペくらいでしか経験がないくらいの素人で、この業界に入ってからゴルフを覚えました。この仕事をするうえで上達しないといけないというプレッシャーはあったものの、正直、ゴルフがそこまで好きではなかったです。朝早く起きなくてはいけないし、丸1日拘束されるし、マナーも多い。そんな状態で会社を運営することになりました。
屋外の打ちっ放しで感じた「周りの目」
練習してもなかなか上手くならず、余計に苦手意識が強くなっていくという最初の1年間を過ごしました。そのなかで感じたのが、屋外の打ちっ放しで練習すること自体への苦手意識です。周りの人がみんな上手く見えてしまい、練習するのが嫌になってしまう。これはゴルフ練習場のあるあるかもしれません。
「初心者でゴルフに興味がない人が、どうすれば興味を持てるようになるんだろう」という動線を、自分自身を実験台にして考えるようになりました。全員が全員そうではないと思いますが、周りの目が気になって練習に踏み出せない人は一定数いるはずだと感じたのです。
素人だったからこそ描けた動線
今は、もともとゴルフが上手な常連のお客さまにも利用していただいていますし、初心者の20代・30代の若い方にも来ていただいています。最初はゴルフクラブのメンテナンスやカスタマイズにまったく興味を持ってもらえなくてもよくて、まずは練習してレッスンを受けていただき、そこから少しずつゴルフクラブをカスタマイズしていくという流れが今できつつあります。練習して、教わって、道具を知って、楽しくなる。この循環がうまく回り始めているのは、この1年で実感しているところです。
これは、私がゴルフに興味のない人間だったからこそできたことだと思っています。父はゴルフが得意な人間だったので、どうしても上手い人の目線での提案になってしまう部分があったはずです。私は逆にそこがわからない、まだ初心者の段階だった人間だったからこそ、初心者の方がどうすれば多く来てくれるのかがわかるようになったのだと感じています。
5年で地域一番、その先に多角化を見据える
ゴルフシティを兵庫県で圧倒的な存在にしたい
今後のビジョンとして、まずはゴルフシティという屋号を、兵庫県のこの地域で圧倒的に支持される施設に成長させたいと思っています。この地域は競合店も多いのですが、圧倒できるほどお客さまから評価をいただけるところまで、5年で育てていきたいと考えています。その先には店舗展開も視野に入れていますが、店舗数を増やすこと自体を目的にはしたくありません。
1つの事業に会社の未来を預けない
弊社は100年の歴史のなかで、染色業からゴルフ事業へと、時代に合わせて事業を変化させてきました。だからこそ、まずは地域でしっかりと実績を残して生き残っていくことが大切だと考えています。ゴルフ事業に関しては、ゴルフシティというブランドを磨き上げ、地域競争を勝ち抜けるモデルを確立したうえで、必要とされるほかの地域へ展開していきたいと思っています。
会社全体としては、ゴルフだけに固執するつもりはなく、既存事業を安定させる一方で新しい事業にも挑戦する多角化経営を考えています。複数の事業がお互いを支え合いながらシナジーを生む形にしていきたいですし、100年続いてきたとはいえ、このままの形で何年も続くとは思っていません。次の世代に望まれるものをしっかりとリサーチしたうえで、変化させながら、次の世代へ残せる会社を作っていきたいというのがビジョンです。
下がりきったタイミングだったから、挑戦する気持ちのほうが強かった
長く続いてきた会社を継ぐプレッシャーを感じるかとよく聞かれるのですが、意外とそこまで感じませんでした。私が入社したタイミングは、ちょうど売り上げが落ちてきた時期でもあったので、「これ以上落ちることはない」というところもあり、むしろ自分が変えることでこれから上げていくという意欲やわくわくのほうが強かったです。もし売り上げが好調な会社を継いでいたら、むしろプレッシャーを感じていたかもしれません。右肩下がりだったからこそ、挑戦意欲のほうが勝ったのだと思います。
弊社の店舗がある西宮は、すぐ隣に芦屋があり、兵庫県内には多くのゴルフ場があります。ゴルフに親しむ方も多い地域だと感じています。従って、まずはこの地域のお客さまにしっかりと信頼される施設になることが、今後ほかの事業や多店舗展開をしていくうえでの資産になると考えています。
保守的な社風と、PRの弱さが今の課題
ビジョンを目指すうえでの課題としては、100年続く企業ならではの文化や考え方もあり、新しい取り組みについては社内で丁寧に合意形成をしながら進めています。代表とはいえ、社内の人間を納得させたうえで進めることを大切にしているので、そのぶん時間がかかることもあります。
もう1つの課題は、社外に対する発信力です。今まではよいものを提供していればお客さまはついてくるというやり方でしたが、前職で開発の仕事をしていたときに感じたのは、よい商品を作るだけでなく、それを届ける営業や広報の力も同じくらい必要だということでした。そこが弊社にはまだ足りていないと感じているので、SNSやWeb集客に力を入れながら、今の時代に合わせた変化をしていきたいと考えています。
現在はSNSはInstagramを自社で運用しており、MEO(地図検索対策)は外注、SEOやAIO対策も最近始めたところです。公式LINEやTikTokはまだ取り入れられていないので、今後の検討課題になっています。
大事にしてきたものだけが、未来の自分の周りに残る
学生の方へのメッセージとしては、今自分が大切にしているものだけが、未来の自分の周りに残っていくのだと実感しています。今そばにいる友達や仕事、環境、人とのつながりは、偶然そこにあるように見えて、実はこれまで自分が大切にしてきたものの積み重ねです。逆に自分の周りにないものは、自分自身がこれまで大切にしてこなかったということでもあります。
私自身、学生時代からゴルフに縁がなかったからこそ、結果的に今この視点を持てているという面はありますが、それはあくまで結果論です。もし学生時代からしっかりとゴルフをやり、業界の人脈を作っていたら、また違った形で売り上げが立つ未来もあったのかもしれません。だからこそ学生の方には、将来のことを考えながら、何を大切にするのかを選択してもらえればと思います。仲のよい友達だけでなく、自分の足でいろいろな場所へ足を運び、人とのつながりを作ることも、社会人になったときにきっと役立つはずです。
編集後記
早稲田大学3年生で、今回インタビューをさせていただきました。太田さんのお話を聞いて印象的だったのは、ゴルフが得意ではなかったからこそ、初心者の目線に立ったサービスを作れたという逆転の発想です。強みのなさを弱みで終わらせず、それを事業のヒントに変えていく姿勢は、就職活動や将来のキャリアを考えるうえでも、とても参考になると感じました。100年続く会社を、次の100年へつなげようとする覚悟にも刺激を受けた取材でした。