インタビュー

AIがマーケティングを壊しにきた今こそ、「コトづくり」で挑む――テクロ株式会社・天野央登の創業からこれまで

AIがマーケティングを壊しにきた今こそ、「コトづくり」で挑む――テクロ株式会社・天野央登の創業からこれまで
PROFILE
テクロ株式会社 代表取締役
天野 央登

学生時代、起業のきっかけ

私は大学二年生のときに、市ヶ谷にあったコワーキングスペースでコミュニティマネージャーをしていました。運営元は行政書士法人とWeb制作会社が組んだ会社で、そこには毎日のように起業している人たちが出入りしていました。「十人友達がいて九人起業していたら、自分もできる気がする」というのはよく言われる話ですが、まさにそういう環境に身を置いていたことが、自分も起業できるかもしれないと思うきっかけになりました。

当時大学ではデータサイエンスに近いことを学んでいました。今で言うところの生成AIの手前にある、数式を組んでデータを扱う世界です。数学に強い人しか扱えない領域だったので、自分の得意な領域が活かせそうだという気持ちと、そのころは「何かを作りたい」というよりも、起業すること自体が先に立っていた感覚が強かったと思います。

SEO全盛期に立ち上げたメディア

当時、2010年代はSEOが今よりもずっと効きやすい時代で、記事を書けば順位が上がるという状況でした。コワーキングスペースにいたエンジニアの方々に教わりながらWordPressを触っているうちに手応えを感じ、テクロ株式会社創業のきっかけとなる留学情報メディア「交換留学ドットコム」を立ち上げました。

ちょうど大学三年生からシンガポールへ一年間留学することが決まっていたので、世界中の大学に留学している友人たちに記事の執筆を依頼し、自分がSEOを当てていくというかたちで、一年半ほど運用しました。海外の大学の入学情報や留学先の情報を載せているメディアがほとんど無かったこともあり、最終的には十万PVほどまで伸びました。帰国後の大学三年生のときに、この事業は売却しています。

SEOの相談を機に、今のBtoB特化のマーケティング支援へ

事業売却後も会社自体は残っていたので、次に何をするかを考えていたところ、知人からSEOコンサルティングの依頼をいただくようになり、それが今につながる事業の始まりになりました。

大きな転換期はコロナ禍でした。BtoBの企業がデジタルマーケティングに本気で取り組み始めたのがこの時期で、たまたま出会う相手もBtoB事業に従事する方が多かったこともあり、「交換留学ドットコム」で培ったSEOやメディア運用の知識を活かせると考えて、BtoB企業のWebマーケティング支援事業に転換する決断をしました。BtoCではなくBtoBを選んだのは、サービス導入の際に長い年月をかけて検討し、根拠や事例、数字を重要視するBtoBのほうが自分の経歴や性格に合うと考えたためです。

非IT領域にも強い理由

弊社のお客様はBtoB企業が中心ですが、業種にはあえて偏りをつくらないようにしています。戦略的にIT業界に偏りがちな構造をあえて崩し、非IT領域の実績を積んでいることは弊社の強みのひとつです。BtoBのお客様は「自分たちの業界に近い実績があるか」を必ず確認されるので、業種のマトリックスを満遍なく埋めていくことを意識してきました。

英語対応ができるチームがいることも特徴で、S&P500で知られる企業のコンサルティング部門や、ルクセンブルクやカリフォルニアのスタートアップなど、外資系のお客様も担当しています。

「モノづくり」から「コトづくり」へ

今年、2026年の六月に、サービス内容を大きく刷新しました。背景にあるのは、AIがマーケティングの前提を根本から変えているという危機感です。AI検索が普及したことで、これまで検索で商品・サービスを探して選んでいたという検索行動が変化している上に、AIの演算速度は上がり続けています。
AIが人間より遥かに速いスピードで検索行動・制作工程を代行していくと同時に、人がテクノロジーに演算力で勝つことはできないと考えていて、企業としてもこの変化に備える必要があると思っています。

一方で、最終的に購買を決めるのは人であるという前提は変わりません。会計ソフト一つとっても、選択肢が十個ほどある中で、各サービスの特徴・違いがわかりやすくまとまっていれば、検討はスムーズになります。ただ、このときに自社サービスの価値がAIに正しく伝わっていなければ、選択肢にあがることも選ばれることもありません。この「事前にサービスの情報・価値が伝わっている状態」を作ることを、弊社では「モノづくりからコトづくりへ」というミッションのもと、「コトづくり」と呼んでいます。

KPI設計にもこだわりを持っていて、マーケティング支援をご依頼いただく前にページビューやコンバージョンの見込み数値を算出し、その現状の数値を元に着実に成果の出る計算でKPIを設定した上で、プロジェクトを進めています。既存のお客様には四ヶ月に一度アンケートを取っていて、全項目で満足度90%を超える結果が出ています。

AIが変えた検索とマーケティング

検索行動そのものが、AIによって大きく変わりつつあります。以前は自分で検索して比較サイトを開いて情報を集めていたところが、今はAIがそのままおすすめまで提示してしまいます。BtoBの企業であっても、自社のサービスがAIの提示するリストに入らなかった瞬間に、検討の土俵から外れてしまう時代になったということです。

リード獲得から商談化まで、あらゆる接点がAIの影響を受けているという前提のもと、この四月から徐々に準備をしてお客様の状況に合わせて、元々9つあったサービスを「リード獲得支援」「LLMO/AIO対策支援」「HubSpot導入/活用設計プラン」「BtoBマーケティングのeラーニング」の4つに絞り込むことにしました。

半自動化ツールで届けたい相手

これまではマーケティング支援に一定の時間や費用がかかる分、大手や中堅企業のようなある程度マーケティングの土台が整っている企業様中心の支援に偏りがちでした。これからマーケティングを始める、小規模の施策から始めたいといった企業様には、力になりたくても対応しきれないケースが数多くありました。

そこで今取り組んでいるのが、AIを活用したマーケティングの半自動化ツール「Markable AI」の開発です。人がデータを投入すると、AIがその一次情報からコンテンツを生成し、生成した内容が正しいかどうかを人が確認していくという仕組みで、すでに社内での検証を経て、一部のお客様にも使っていただき始めています。完全自動化ではなく半自動にとどめているのは、人が人に価値を伝えることこそがマーケティングだと考えているからです。この「Markable AI」を通じて、これまで支援しきれなかった企業様にも力になりたいと思っています。

学生へのメッセージ

学生の皆さんとお話ししていると、「AIに仕事を奪われるのか」という質問をよく受けます。私の考えでは、仕事の総量は歴史的にずっと増え続けてきています。電話交換手や駅の改札係の仕事がなくなっても、その人たちが失職したわけではなく、別の仕事に移っていったように、AIによってなくなる仕事があっても、社会全体で見れば仕事自体はなくならないと考えています。

ただし、パソコンの前で完結する仕事ほどAIに代替されやすく、体を動かす仕事のほうが当面は代替されにくいという傾向はあります。IT業界やオフィスワークの仕事を志す方は、二十代のうちにどれだけ専門性を身につけられるかが、三十代以降を左右すると思います。上の世代の話が必ずしも参考になるとは限らない時代なので、自分がどうなりたいかを自分の頭で考えながらキャリアを描いていくことが、これからはより大切になってくるのではないかと思います。

編集後記

大学二年生のインターンでの出会いから起業を志し、SEO全盛期の波にうまく乗って留学メディアを育てた天野様のお話は、行動の速さと嗅覚の鋭さを感じさせるものでした。AIによってマーケティングの前提が崩れていく中でも「人が人に価値を伝える」という軸をぶらさずに半自動化ツールを開発されている姿勢から、変化の時代にどう向き合うべきかを学ばせていただきました。二十代のうちの専門性という言葉を、自分のキャリアにも重ねて考えたいと思います。