インタビュー

「証明」と「約束」のインフラを、AI時代にも作る

「証明」と「約束」のインフラを、AI時代にも作る
PROFILE
株式会社VESS Labs CEO
藤森 侃太郎

文系卒、独学エンジニアからのキャリア

ゼロから何かを作る面白さ

2015年に一橋大学を卒業して、新卒で伊藤忠商事株式会社に入社しました。配属先がIT系の部署で、そこでエンジニアリングの基礎を学ばせていただきました。仕事をしているうちに、だんだん「システムを作るのってとても面白い」と思うようになって。自分でも何か作りたいと思うようになりました。

株式会社ナビタイムジャパンへの転職

独学でいろいろ作ったりはしていたんですけど、文系卒で実務経験が少なくても挑戦できて、かつ内製でプロダクトを作っている企業を探していました。それで株式会社ナビタイムジャパンへ転職し、エンジニアとして活動するようになりました。

伊藤忠商事株式会社で学んだ「ビジネスの基本」

伊藤忠商事株式会社では、エンジニアとしてのスキル以外の部分、ビジネススキルやマナーも含めて、ビジネスパーソンとして、一人の人間としてどうあるべきかをものすごく学ばせていただきました。株式会社ナビタイムジャパンでのエンジニアとしての経験と、伊藤忠商事株式会社で学んだソフトスキル、この2つがあって初めて、今の事業ができているという気がしています。

「アイデンティティ」というキーワード

起業のきっかけは身近な人たちの存在

最初に始めた事業は、正直今振り返るとクオリティの低いもので、早々にたたんでしまったんですけど、思いとしては一貫していました。親族や友人など私の周りには、自営業であったり、自分で商売を立ち上げたり、芸能関係の仕事をしていたり、いわゆる会社員とは異なる職種の人が多く、そういった人たちの魅力がきちんと発揮される社会の仕組みを作りたい、という気持ちがずっとあったんです。それが今の事業にもつながってきているのかなと思います。

アイデンティティとは「属性の集合」

今の事業は少しニッチで、キャッチーな言葉で説明するのが難しいんですけど、扱っているキーワードは「アイデンティティ」です。普段の生活の中でもIDという言葉はよく使われると思うんですけど、厳密にはもう少し広い意味で捉えています。ID=Identifierは本来「識別子」を意味しており、これはある主体を一意に識別できる単なる値です。そこに色々な属性が紐づき、その集合のことをアイデンティティと呼んでいます。属性というのはとても幅が広くて、性別、生年月日、住んでいるところといった要素はもちろん、さらにたとえば「法政大学の4年生である」とか「島田さんという名前である」とか、保有している資格、これまでの様々な経験、などあらゆる要素がその人の属性となります。

就活の「ガクチカ」だけでは伝わらない時代に

これは学生のみなさんにとっても、すごく大事な話だと思っています。就活のときに「ガクチカ」と呼ばれるものがありますよね。これはまさに、自分が今までやってきたことや持っている属性を企業に伝える作業だと思うんですけど、正直それって自分のことのほんの一部分でしかないんです。しかも今はAIもあるので、テキストでの自己主張だけだとなかなか差がつきにくいし、本当に何をやってきたかが見えづらくなっている。だからこそ、アイデンティティを証明してをきちんと相手に伝える技術は、これからますます必要になってくると思っています。

AIエージェント時代のアイデンティティ基盤

人だけでなくAIにもアイデンティティが必要

私たちが取り組んでいるもうひとつのテーマが、AIエージェントのアイデンティティです。これは端的に言えば、「誰が作成したAIなのか」「誰の代理であるAIなのか」「AIエージェントとして何の操作が許可されているのか」「どのデータにアクセスできるAIなのか」といった、AIエージェント自体のアイデンティティの証明です。これがないと社会の中で使っていくのは難しいんですよね。何か問題が起きたときに、誰が責任を取るのかが分からなくなってしまう。AIエージェントがきちんと社会や経済の中に入っていって、私たちの生活の土台になっていくためには、このアイデンティティという領域はなくてはならないと思っています。私たちはこれまでずっと人間向けにこの事業をやってきたので、それを今度はAIエージェントにも適切な形で広げて、これからの社会のインフラを作っていこうとしています。今、この領域に取り組んでいる事業はまだそんなに多くないと思います。

「約束」と「証明」で社会は成り立っている

私たちの暮らしている社会は基本的に「約束」と「その証明」で成り立っています。例えば、お店で買い物をするときにクレジットカードを使用します。この時、お店は「カード会社が支払う」という約束の上、私たちに商品を渡します。また、カード会社は「利用者(私たち)が後から支払う」という約束の上、お店へ代金を建て替えています。この「約束」の「証明」として、クレジットカードなどの技術があります。このように私たちの経済は「約束」と「その証明」で成り立っています。

 

クレジットカードは比較的最近の話ですが、このような「約束」と「証明」の仕組みそのものは、人間社会の原初からあるものです。しかし、これらを実現する技術はどんどん変わっています。特に現在は、AIやフェイク動画の登場により、「約束」と「証明」を実現する技術が追いついていない状況です。

 

このような状況の中で私たちは、「約束」と「証明」という仕組みを適切に存続させていくためのインフラを作っています。人はもちろん、AIエージェントやロボットなどとの共存を前提とした社会を構築することを目標としています。

採用は拡大中、若い世代へのメッセージ

エンジニアもビジネスサイドも積極採用中

今はまさに事業を拡大しているところで、エンジニアのような技術職はもちろん、ビジネスサイドの仲間も募集しています。興味を持ってくださる方はぜひ随時お声がけいただきたいです。

何をしても死ぬことはない

学生のみなさんへのメッセージとしては、月並みですけど、今はAIもあって何でも一人でできる可能性がものすごく増えていると思うので、気になったことはいろいろやってみるといいと思います。起業という道を取る人もいれば、就職するという道を取る人もいて、どちらが正解ということはないと思うんです。ただ、何をやったとしても死ぬことはないんですよね。もし自分で何かやってみて仮にうまくいかなかったとしても、もう一度やり直せばいい。成功しても失敗しても、やってみて絶対に良かったと思えるはずです。学生の4年間はものすごく楽しい時期なので、犯罪に手を触れない範囲で何でもやってみてほしいです。無駄なことはないと思います。

歴史に影響を与えられる事業を

やりがいについてお話しすると、これからの未来を考えたときに、世界中で使われていくようなサービスや、いろいろな人の生活を豊かにする新しい体験を作っていくことは、ある意味で人類の歴史に少し影響を与えていくことだと思っています。そう考えると、すごくワクワクしますし、それが原動力になっているかなと思います。いずれどこかで何かのサービスを使っていて、その裏側に弊社が使われていると思ったら、ぜひ思い出していただけたらうれしいです。

編集後記

今回のインタビューを通じて、AI時代における「アイデンティティ」という言葉の奥深さを実感しました。ガクチカだけでは自分を語りきれないという指摘は、まさに今、就職活動を控える私たち学生にとっても刺さる内容だったと思います。藤森さんが語る「約束と証明」というキーワードは、人間社会だけでなくAIエージェントにも広がっていく未来を感じさせるものでした。何をしても死ぬことはない、というメッセージを胸に、私自身もいろいろなことに挑戦していきたいと感じる取材になりました。