陸上から起業へ、転換点となった塾との出会い
勝負より疑問が勝った
高校時代は陸上に打ち込んでいたものの、ふと立ち止まって気づいたことがありました。
「自分がしたいことってやっぱり陸上選手になることじゃない。それで高校3年生の7月に塾に入ったんです」
その塾が、人生の転換点になりました。高校生起業家や世界を旅するバックパッカーなど、同世代の刺激的な仲間たちと出会い、同時に感じたのは社会の「格差」でした。
「その塾って結構高単価で、都内のトップレベルの高校の子たちが多かったんです。刺激を受ける一方で、やっぱり経済力の差とかコミュニティによる機会の硬さってめちゃくちゃあるんだと思って。そういうのが嫌で、いろいろ行動し始めた感じですね」
背中を押したVCとの出会い
高校3年生の12月に大学合格が決まると、そこから約1年間はひたすらインターンを掛け持ちしながら、起業のタイミングを探り続けていました。
「起業したいっていう学生はたくさんいるけど、実際に起業するのって本当の一部じゃないですか。私もそうで、ビジネスアイデアをこう考えてる段階って、起業するのとは若干違うんですよね」
そのタイミングで、あるVCの方と出会います。自分のビジネスプランを2時間ほど話したところ、支援してくれるという話になり、大学1年生の1月に会社を設立しました。
「正直、そのVCの出会いがなかったら起業していなかったと思います。起業した理由としては、反骨心に近いかもしれないですね。世の中のいわゆるエリートたちに対抗したいというか、自分自身がそういう思いで動き出した感じです」
ゴミ箱を背負って街を歩く、逆転の発想
渋谷で気づいたゴミ問題の深刻さ
現在手がけているのは、移動式ゴミ箱広告サービス「BinGo(ビンゴ)」。広告枠を備えた専用のゴミ箱を背負ったスタッフが渋谷・原宿・浅草などの繁華街を巡回し、通行人のゴミを回収しながら企業のプロモーションをおこなうサービスです。
アイデアの出発点は、渋谷の街中に溢れるゴミでした。
「まずは身近な問題で実力をつけようと思った時に、渋谷でいつも感じていた街中のゴミが一番目立っていて。最初はポケット灰皿みたいなものを作ってJTさんに持って行ったりもしたんですが、その過程でゴミ問題の奥深さを知ったんです」
JTから学んだのは、ポケット灰皿を配布すると路上喫煙を誘発してしまうこと。根本的な解決にはならないと気づき、次はゴミ箱そのものの問題に目を向けました。
「日本ってテロがあって、そこからゴミ箱の数がどんどん減少していって。でも一方でオーバーツーリズムで外国人の方がたくさん来るという状況で、やっぱりゴミ箱が足りない。東京都さんと仕事していてもわかるんですが、スマートゴミ箱を1台設置するのに莫大なコストがかかるんですよ。ゴミ箱を増やしていくのって、そんな簡単なことじゃないなって気づいて」
ホームセンターで5000円のゴミ箱を買って
「だったら、こちらから歩けばいいんじゃないかと」
ホームセンターで5000円のゴミ箱を買い、実際に背負って渋谷の街を歩いてみました。
「人が集まるし、SNSに上げてくれるし、これはビジネスとしても成り立つんじゃないかと思って、このモデルにしたんです」
2人1組のチームで1日3時間から2万2,000円という比較的安価な価格設定で展開しています。ゴミ箱はプラスチック製とダンボール製の2種類があり、ダンボール製はオーダーメイドで広告を転写できます。
「ダンボールのメーカーさんと協業していて、インパクトを出しています」
現在は累計50社以上が利用し、先日も渋谷おはら祭りにて東急不動産さんがスポンサーについていただき10台出動しました。SNSでの総再生回数は1,000万回以上、ウォール・ストリート・ジャーナルへの掲載や日本テレビ「Oha!4 NEWS LIVE」での特集など、認知は着実に広がっています。
「WASABI」という社名に込めた思い
社名の由来を聞くと、すぐに答えが返ってきました。
「若者から社会に刺激を与えたいという思いがあって。学生ならではの発想力や行動力で、世の中をプラスの方向に動かしたい。どうせやるならグローバルに行きたいので、日本らしさもありつつ、ピリッと辛いわさびっていう感じです」
「普通のやつでも社会は変えられる」を体現したい
中間層の挑戦が社会を動かす
メンバーは現在約14名、ほとんどが学生です。活動スタッフも約100名おり、その多くがInstagramのDMから「活動に参加したい」と連絡してきた若者たちです。
ビジョンは明確です。
「『普通のやつでも社会を変えられる』を体現するっていうのが私のビジョンです。YouTubeの社長インタビューコンテンツって、めちゃくちゃエリートの人か、壮絶なバックボーンがある人ばかりじゃないですか。その真ん中、中間層にいる普通の人って、なかなか出てこない」
少子化が進むなかで社会課題が深刻化し、「エリートだけが頑張る」という構造ではもう成り立たないと感じています。
「一人でも多くの若者が挑戦するきっかけをつくりたい。大学でも、挑戦したくても一歩踏み出せない、私には無理というバイアスがかかっている人がたくさんいて。まずは自分自身が体現したいんです」
小さな打席の積み重ねが成長を生む
若い人へのメッセージを求めると、等身大の言葉が返ってきました。
「挫折経験や失敗経験っていうのが自分自身が成長するきっかけだと思っていて。ダイエットしろと言われても続かないけど、好きな人ができた瞬間頑張れるじゃないですか。それと同じで、挑戦して失敗してを繰り返すことが大事です。みんながみんな起業しろとか大きな挑戦をしろとは全く思っていなくて、授業でちょっと聞きたいことがあったら手を挙げてみるとか、留学に行ってみるとか、小さな挑戦の積み重ねでいい」
直近の目標は「国民の3人に1人が知るサービスをつくること」。来月にも新しいサービスのリリースを予定しており、「社会性があって面白いビジネスしかやらない」という信念のもと、次の一手を着々と準備しています。
「社会にダイレクトにいいインパクトを起こせるビジネスをたくさん出していくつもりなので、新しい価値や社会へのインパクトの中心にいたいという人は、ぜひ一緒に働きたいですね」
編集後記
取材を通じて一番印象に残ったのは、木戸さんの「反骨心」という言葉です。エリートへの対抗心というよりも、機会の不平等に対する純粋な怒りと、それを行動に変えるエネルギーのようなものを感じました。ゴミ箱を背負って渋谷を歩くというアイデアも、ホームセンターで5000円のゴミ箱を買って実際に試してみるという行動力も、理屈より先に体が動いているように見えます。「普通のやつでも社会を変えられる」というビジョンは、聞きようによっては抽象的ですが、木戸さん自身がそれを体現しようとしている姿を見ると、妙な説得力があります。来月リリース予定の新サービスも含め、今後の展開が楽しみです。