就職氷河期、うまくいかなかった20代
皆さんと同じように、私も大学生の時に就職活動をしていましたが、当時はいわゆる就職氷河期でした。行きたい会社にはなかなか受からず、なんとか入ったのがIT系の会社です。
新卒で入社してから20代で3回転職して、4社目でやっと自分が興味のある業界にたどりつけました。29歳の時にPR会社へ転職したのが、そのタイミングです。
未経験でPR業界に飛び込んだ
PR会社では、企業や商品・サービスがテレビや雑誌などのメディアに取り上げられるための支援をしていました。まったく未経験の業界だったのですが、そこで初めて、自分のアイデアを生かせる仕事に出会えたと感じました。
良さは、言葉にしないと伝わらない
この仕事を通じて気づいたのは、物事の良さは、黙っていても伝わるものではないということです。良さがあることと、それが伝わることはまったく別で、きちんと言葉にして、なぜ価値があるのかを説明しないと届かない。20代の自分が「なぜ自分の良さが伝わらないんだ」と思っていたのも、たぶん同じことだったんだと思います。
戦略から発信まで、一つひとつの案件に深く関わる
ここで学んだことが、今の土台になっています。
そのPR会社では、やがて複数の案件やチームを統括する立場になりました。数多くの案件を経験するなかで、次は一つひとつの案件に、戦略の立案からコンテンツ制作、情報発信まで深く関わりたいと考えるようになったんです。それができる形を自分で作ろうと思ったのが、独立のきっかけでした。
2014年、株式会社ゼンブラザーズ設立
2014年8月に独立し、株式会社ゼンブラザーズを設立しました。
やっていることは大きく3つです。何を伝えるべきかを決める戦略とブランディング、それを形にするコンテンツや体験の企画、そして世の中に届けるPRやプロモーション。この3つを一貫して担っています。
ゼンブラザーズでは、案件ごとに担当者を置きながら、すべての案件に私自身も関わっています。また、大手PR会社や広告代理店、マーケティング会社などで経験を積んだメンバーとチームを組み、案件に応じてそれぞれの専門性を生かしています。
業界を問わない――「伝えるべきこと」を設計する
ゼンブラザーズの特徴は、業界や業種を問わず支援できることです。テレビや新聞などのメディアに取り上げてもらうためのPR活動も行いますが、根本にあるのは「何を伝えれば人の見方が変わるか」を設計すること。社内ではこれを「パーセプションチェンジ」と呼んでいます。この考え方は業種を問わず応用できるため、結果として幅広い業界の仕事をしています。支援先は、ベンチャー企業から大手企業、官公庁や自治体まで幅広く、なかでも大手企業の案件が多いです。
たとえば、ある企業の年間PRを担当した際、その会社にはそれまでPRの専任担当者がいませんでした。そこで施策を単発で代行するのではなく、社内に散らばっている情報を集め、ニュースになる形へ整理し、継続的に発信できる仕組みそのものを設計しました。こうした仕組みづくりから入ることも多いです。
アイデアとロジック、その両方で考える
あるデジタル機器のプロモーションを担当したとき、すでに市場が成熟していて、性能だけで競合商品との差別化を図るのは難しいと考えました。そこでマーケティング調査を行ったところ、その商品に好感を持っていたのは、デジタル機器に詳しい人たちではなく、むしろ仕事で使うビジネスパーソン層でした。しかも彼らが重視していたのは性能差ではなく、「どんな場面で使えるか」ということでした。そのため、「優れたデジタル機器」という性能中心の打ち出し方から、「仕事もプライベートも豊かにする道具」という伝え方へ変えたんです。
化粧品の仕事では、成分の新しさだけで差別化するのをやめました。新しい成分は次々に出てくるため、その軸だけでは継続的な差別化が難しいと考えたからです。そこで原材料そのものに目を向け、そのメーカーの製品開発部の技術者にインタビューしたり、化粧品の素材となる果物を育てている生産者に会いに行ったりして、商品の背景にある技術や品質、作り手の思いを掘り下げました。そこから見つけた情報を、商品の新しい切り口として伝えることにしたんです。
データと現場、両方から切り口を見つける
デジタル機器の事例はデータから、化粧品の事例は現場での取材から切り口を見つけた例です。どちらか一方ではなく、データと現場、ロジックと物語を行き来する。そこがゼンブラザーズのやり方です。
PRの専門資格である「PRプランナー」を取得していて、分析や情報の構造化も自分の得意分野です。2025年には、IQ上位2%を入会条件とする国際的な団体、MENSAにも入会しました。一方で、PRはロジックだけでは人を動かせません。数字の裏づけと、人が思わず誰かに話したくなる物語。その両方を設計できることが、ゼンブラザーズの強みだと思っています。
良いものが、正しく伝わる状態をつくる
さきほどの化粧品の話で言えば、良い素材を育てている生産者がいても、その価値は放っておいても伝わりません。一つひとつの企業や商品の価値を見つけ、それが正しく伝わる状態をつくる。そうした仕事を積み重ねていくことを大切にしています。
遠回りしても、あとから取り返せる
私自身、20代は就職活動も含めてうまくいかないことばかりでした。だからこそ、挫折したり遠回りしたりしても、あとからいくらでも取り返しがつくと思っています。頑張った結果がうまくいかなかったとしても、それで終わりではありません。
もう1つ伝えたいのは、自分の好き嫌いや得意不得意、良さや課題を、素直に言葉にする練習をしておくとよいということです。今の仕事は、いろいろな企業やサービスの良さを言語化して整理し、発信することなのですが、20代の頃の私はこれがまったくできていませんでした。「なぜ自分の良さが世の中に伝わらないんだ」と思い込んでいた時期もあります。AIに相談することが当たり前になっている時代だからこそ、まずは自分の頭で一度整理して、相手にどう伝えれば届くのかを考える習慣をつけておくと、社会人になってからも役に立つはずです。
編集後記
今回インタビューをさせていただいて、旦尾さんの「遠回りしても取り返せる」という言葉が印象的でした。就職活動がうまくいかなかった経験から、20代で複数回の転職を経て、今の事業にたどりついたというお話は、まさに「かっこいい大人」の1つの形だと感じています。私自身、今後の進路に悩む大学生の1人として、正解を急がずに自分の得意なことや好きなことに向き合う姿勢を大切にしたいと思いました。貴重なお話をありがとうございました。