インタビュー

「関係人口をお金で買わない」——資本主義の外側にある地域と出会う、9泊10日の住み込みボランティア

PROFILE
村おこしNPO法人ECOFF 代表理事
宮坂大智

探検部と居候旅が教えてくれたこと

就職活動はしなかった

私が通っていたのは東京農業大学の国際農業開発学科で、青年海外協力隊や国連など、国際的な場で活躍できる人材になりたいという思いを持っていました。学科の仲間を見ていると、大学 1・2 年のうちにアジアを放浪したり東南アジアに留学したりする人が多かったんですが、そういう経験をした同期たちが口をそろえて「もっと日本のことを勉強しておけばよかった」と言うんですよね。そんな意見を参考に「まずは日本からだろう」と考え、探検部に入りました。

居候旅で見えた「地球の仕組み」

探検部では雪山を登ったり沢登りをしたりするほか、調査研究も活動の一つで、いろんな地域に足を運びました。そこで身についたのが、寝袋一つでどこでも暮らせるスキルといいますか、何もなくても何とか生きていける力です。若いうちならOBのところに転がり込んで、そこからまた別の人につないでもらって……という居候スタイルでなんとかなるんです。

大学の教室だけではいまいち実感が持てなかった農業や地球環境問題も、地域に行くことで急にリアルになってきました。島に行くと、台所で流れた水がそのまま海に流れていくのが視覚的に見えるんですよね。東京だと下水に入って処理されて出ていくけれど、地方では上下水道が十分に整備されていないケースもあって、大雨のときはそのまま流れてしまったりする。そういうことをいろんな地域で体験するうちに、社会の仕組みや地球の仕組みがすごくよく見えてきたんです。これをもっと多くの人が経験できるようになったら、地球環境問題を身近に考えられるようになるんじゃないかな、という思いが生まれていきました。

それが今の村おこしNPO法人 ECOFF(エコフ)の「村おこしボランティア」プログラムを作るきっかけになっています。卒業後はワーキングホリデーでオーストラリアに渡り、そこでも似たような暮らしをして、帰国してから本格的に立ち上げました。

9泊10日、スケジュールなし

「スローライフ」は誤解だった

ECOFF はもともと環境保全のために立ち上げた NPO です。今でこそ「関係人口」「地方創生」という言葉が広がっていますが、私たちが目指しているのはその先にある、各地域に残された文化や伝統を守ることです。人が住み続けなければ地域は守れないし、長い年月をかけて先祖が積み上げてきた「自然と人間が共生するための知恵」を、私たちの世代で捨ててしまうわけにはいかないと思っています。

1 泊 2 日や 2 泊 3 日では地域の本当の姿はわからない。かといって実際に移住するのはハードルが高い。そこで考えたのが、なるべく長く、1 週間から 2 週間ほど滞在できるプログラムです。ただ、そういう地域ってはっきり言って「やること」がないんですよ。人口 100 人以下で、歩いて島を一周できるような場所だと、時間を持て余してしまう。

じゃあどうするか、と考えたときに気づいたのが、地域の人たちは普通に暮らしているということです。家庭菜園レベルでも農業はだいたいどこでもやっているし、農大出身の私なら農業のことはある程度わかる。じゃあ農業実習みたいな形で、地域の人たちと一緒に普段の仕事をすることが、その地域を知るための一番の方法なんじゃないか、と。

農作業のほか、伝統的なお祭りやマラソン大会の手伝い、ゲストハウスにする古民家のDIY、漁業のお手伝いなど、本当にさまざまです。スケジュールは決まっていなくて、その時に必要とされていることをやる、というスタイルにしています。これが地域の本音と仲良くなれる一番の方法だということが、試行錯誤の末にわかってきました。

参加費の意味

プログラムに参加費があることを不思議に思う人もいます。ボランティアなのになぜ?という感覚ですよね。でもよく考えてみてほしいんですが、田舎の人って普段の生活だけでもやっぱり忙しいんです。都会ならお金を払って人に任せられるような仕事も自分でやらなきゃいけない。いわゆる「スローライフ」ではなくて、人間としての本来のペースで暮らしているだけで、そこに余裕があるわけではないんですね。

そういった中で、地域のことを知ってほしい、いろんな人に体験してほしいという思いで受け入れをしてくださっている。だから参加費は受け入れの世話人さんの利益にはなっていなくて、ほとんどが食材費や水道光熱費、ガソリン代といったものに消えていきます。参加者が来てくれることで、世話人さんは本来自分でできるはずの 1 時間分の作業ができなくなるわけですから、その時間を提供してもらっているという考え方をしています。

ちょっとトゲのある言い方をすると、リゾートバイトや補助金で無料・交通費支給というプログラムは、金銭的なハードルは低いんですが、それって関係人口をお金で買っていることと同じだと私は思っています。受け入れ側からすると、SNS のフォロワーをお金で買うのと同じじゃないですか? また、自治体系のプログラムは受け入れ先が固定されていることが多くて、外の人と関わることに慣れた、いわば観光業をやっている人たちとしか関われない。

ECOFF の場合は、道端でたまたま会った人のところでご飯を一緒に食べたり、偶発的なつながりが生まれます。これが最大の魅力だと思っていて、実際に大学生の2割以上がリピートで参加してくれていることが、その価値を証明していると感じています。実際に移住された方もいらっしゃいます。

条件不利地域のための仕組みをつくり直す

資本主義の外側にある地域

現在、地方創生や関係人口に関するプログラムは大企業も参入してとても増えています。おかげでいろんな地域に活気が出てきているのはすごくいいことだと思っています。ただ、資本主義の仕組みにうまく適合できる地域や企業にしかそのメリットが届かないという現実もあるんですよね。

私が今拠点を置いている愛媛県今治の里山地区は、人口が 100 人に満たない小さな村です。「今治だからタオル会社でも作れば雇用が増えるんじゃないか」という発想になりがちだけれど、70・80 代のおじいちゃんおばあちゃんがほとんどという村でそれは現実的ではありません。

一方で、そういった地域が守っている自然環境にはものすごく大きな意味があります。今治には蒼社川という大きな川が流れています。その上流では、里山を整備したり田んぼを守ったりしてくれる人がいなくなることで山が荒れ、土砂災害が増えています。本来人が住むような場所でないところに家を建てるようになった結果、被害も大きくなっている。何百年・何千年かけて先祖が築いてきた「この地形はこういうことがあったから住まないようにしよう」という知恵が、失われていっているんです。

もっと「実装しやすい」形に

そのように困っている人々をサポートできるのが ECOFF のやり方だという強い思いがあります。他のプログラムが増えた分、比較対象が多くなって以前より参加者が集まりにくくなっている現状もありますが、「NPO としての役割を終えるんじゃないか」という考え方はしていません。サポートを必要としている人はどんどん増えているわけで、ECOFFがいろんな地域で活動を広げていくことで、そうした地域が残り続けられる仕組みを増やしたいと思っているからです。

課題は仕組みの実装しやすさです。これまでは私が個別に地域を訪問して、ある意味コンサルタント的にプログラムを一緒に作ってきたんですが、もっと受け入れ側が難しく考えずに参加できる形にしていかないといけない。今治のフィールドを手に入れたことで、今後は事務局サイドだけでなく、受け入れ側としても動けるようになりました。各地のネットワークを集約できるベース的な拠点を作ることで、幅広い年齢層の人に参加してもらえる仕組みを目指しています。

編集後記

ECOFF の宮坂さんのお話を聞いて、「関係人口をお金で買わない」というスタンスの意味が腑に落ちました。補助金やリゾートバイトを否定するのではなく、その仕組みでは届かない地域や人たちと「フェアに」関わるための手段として参加費を位置づけている点が、ただのボランティア団体とは一線を画していると感じます。また、地方をスローライフの場として見るのではなく、「人間本来のペースで生きている場所」として捉える視点はとても新鮮でした。AIが普及する今だからこそ「自分の頭で考える力」を大切にしてほしいという宮坂さんのメッセージも、地域と関わることで得られる「偶発性」や「不便さ」と深くつながっているように思います。ビジネスの効率化とは真逆の場所に、実は大切なものがあるのかもしれません。