大学院まで進んだ学生時代
半導体より好きなことを優先
大学院では、半導体に関連する触媒の研究に2年間取り組みました。研究職を目指す同期と肩を並べて勉強するなかで、自分には研究職への熱意が足りないと感じるようになり、大学院を卒業する手前で就職活動を始めることにしました。
出版社を全落ちした
就職活動を始めたものの、学んできた分野をそのまま生かせるメーカーに就職するイメージはまったくわきませんでした。気づいたら漫画やアニメが好きだという気持ちのほうが強くなっていて、出版社を一通り受けてみたのですが、ことごとく落ちてしまって。
たまたま当時フリーペーパーという枠組みで採用をおこなっていた株式会社リクルートに、契約社員として何とか入れてもらえることになり、そこで働き始めたというくらい、計画性のない就職活動でした。
TOKYO OTAKU MODEでの2年半
海外向けグッズ流通を立ち上げる
そのあともフラフラしていたのですが、たまたま海外にオタクコンテンツを届けることを目指していたベンチャー、TOKYO OTAKU MODEへの就職が決まり、働き始めました。
当時はクールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)から出資を受けるような会社で、私が担当していたのは、海外向けに日本のグッズを正規ライセンスで届けるプラットフォームを立ち上げるにあたって、販売する商品を集めてくる役割です。
喧嘩別れのように会社を去る
2年半ほど働くなかで、アニメ業界の人たちとのつながりができてきました。一方で会社の方向性とは合わなくなってしまい、最終的には喧嘩別れのような形で退社することになりました。
頼まれて始めた就職フェア
退社後はせっかくできたつながりを生かして、コンテンツ業界、特にアニメ業界で働けたらと思っていたのですが、なかなか声がかからず、半年ほどまたフラフラしていた時期がありました。
そんなときに、知り合いのアニメグッズメーカーの社長から、アニメ業界に優秀な若者をもっと迎えられないか、という相談を受けたんです。「それならアニメ業界特化型の就職フェアをやればいいのでは」と話したところ、「それなら中山くんがやってくれないか」と頼まれる形で起業することになりました。
アニメ業界特化の就職フェア
「絵が描けなくても大丈夫」
弊社が手がけているのは、アニメ業界に特化した就職フェア「ワクワーク」をはじめとする、合同就職フェアの企画運営です。立ち上げ当初からかかげているキャッチコピーが「絵が描けなくても大丈夫。アニメ業界」です。アニメ業界の仕事は絵を描くことだけだと思われがちですが、実際には絵を描かなくても活躍できる仕事がたくさんあります。
10年間、毎年続けてきた
就職フェアはリアル開催にこだわり、毎年3月に開催することを決めて、今年で10回目を迎えました。弊社自体も設立から10年です。コロナ禍のなかでも継続して開催してきました。
就職フェアのほかにも、業界の方と学生のコミュニケーションを取るためのトークディスカッションや、週に1回、6か月から9か月ほど続く講座をパッケージ化して学生に受けてもらうといった企画も運営しています。
出展企業のリピート率は8〜9割
今年の就職フェアは来場者数が1,000人ほど、出展企業数は40社ほどでした。出展してくださる企業はアニメスタジオが多いのですが、グッズメーカーや宣伝の会社、アニメ番組の企画立ち上げを行うプロデュース会社など、さまざまです。
出展してくださった企業様にあらためてお声がけすると、リピートしてくださる割合は8割から9割にもなります。翌年の出展枠を確認した時点で、想定している枠の7割から8割は埋まる状況です。
アニメ業界の今とこれから
労働環境は改善傾向に
昔はブラックな環境で働かざるを得なかったケースが多かったように思いますが、近年は作品づくりにかけられる予算が増えてきていて、労働環境はだいぶ改善されてきている印象です。もちろん会社ごとの差はありますが、就職した先で生活が成り立たないというようなケースはだいぶ減ってきているのではないでしょうか。
課題はクリエイター不足
一方で大きな課題だと感じているのは、アニメーターをはじめとした担い手の数自体が増えていない、むしろ減っているということです。アニメ作品の需要はとても多いのですが、それを供給するためのリソースが足りていません。そのため、新卒をしっかり育成していかなければいけない、という機運がアニメ業界全体で高まり始めていると感じています。
これからを目指す学生へ
映像になれば世界が市場に
アニメやゲーム、漫画のなかでも、アニメはとっつきやすいメディアだと思います。漫画は読むためにある程度のリテラシーが必要ですが、映像になった瞬間、全世界のお客さんがターゲットになります。
日本人が海外で働くのはハードルが高いと感じる方も多いと思いますが、アニメにおいては東京がいわばハリウッドのような中心地です。その中心地が日本にあるなかで、アニメ業界を目指すのは、今のタイミングだからこそ「あり」な選択だと思います。
絵を描かずとも活躍できる
学生のみなさんのなかには、自分でクリエイティブな表現ができる方はそう多くないと思います。ですが、アニメ業界には映像を作る仕事のほかに、できた映像を使ってビジネスをするという、もうひとつの側面があります。
優秀なプロデューサーが増えていけば、アニメ業界はまだ伸び続けていけるはずです。そういった視点を持って就職活動をするのも、おもしろい選択肢のひとつだと思います。
リアル開催にこだわる理由
弊社のイベントは、オンラインだけでの開催はしないと決めています。理由はいくつかあるのですが、一番大きいのは、企業の方々は、眼の前にいる学生さんだからこそ本音を語ってくださる点です。リアルな場だからこそ、企業サイドは現場の情報を包み隠さず話すこともできますし、学生のみなさんも担当者にちょっと時間をもらえないかと声をかけやすくなります。
好きな作品に関わっているスタジオが出展しているから一度行ってみようか、というくらいの感覚で来ていただいて、知らなかったスタジオの方と会話する中で、企業の違いを知り、自分に合う会社を見つけてもらえたらいいなと思っています。
続けることが、ひとつの目標
個人的には、これからも続けていくこと自体がひとつの目標です。3月と10月の就職フェアの年に2回を、変わらず開催し続けたいと思っています。出展企業数自体は毎年増えていますが、アニメ業界で新卒採用ができる会社の数は、今後大きく増えるとは思っていません。そのため規模の拡大を目指すというよりは、学生のみなさんにとってアニメ業界がとっつきやすい存在であり続けるための活動をしていきたいと思っています。
弊社は私一人と、長く支えてくれている外部スタッフ一人の、ほぼ2人で運営しています。僕自身は、昨年から群馬に移住し、他業界の仕事にも関わっていますが、この仕事のために月に2,3回ほど東京に戻るような生活です。
日本は少子高齢化で若い世代が減っていくので、これから若手の取り合いになっていくと思っています。そのなかで、アニメ業界に入りたいと思ってくれる学生さんが一人でも多くなったらいいな、というのが10年間続けてきた原動力です。
編集後記
「絵が描けなくても大丈夫」というキャッチコピーを、たった2人の体制で10年間かかげ続けてきたという話に、率直に驚きました。新卒採用の市場では規模の大きさや効率に目が向きがちですが、中山さんは規模拡大よりも「続けること」を目標に据えていて、その姿勢が出展企業のリピート率8〜9割という結果につながっているのだと感じました。オンライン開催をしないという選択も、効率だけでは測れない価値を大切にする経営の表れだと思います。学生として進路を考えるうえで、好きなことを仕事にする方法は意外と多いのだと、勇気づけられるお話でした。