インタビュー

泥で考えろ、美でつくれ。建設DXに泥臭く挑む、ゴーレム代表の流儀

泥で考えろ、美でつくれ。建設DXに泥臭く挑む、ゴーレム代表の流儀
PROFILE
株式会社ゴーレム 代表取締役
野村 大輔

学生時代、勉強する理由が見つかるまで

高校はアルバイト漬けだった

高校時代はあまりちゃんとしてなくて、正直アルバイトばかりやっていました。特にやりたいことがあったわけでもなく、勉強するモチベーションもなかったんですよね。

脳の仕組みへの興味が、勉強のスイッチになった

変わったきっかけは、脳の神経細胞がどう振る舞っていて、それが人間の行動や感情にどう影響するのか、というところに興味を持ったことでした。それを学べそうな大学に行こうと思って、必要な勉強をはじめて、大学に入ってからはずっと勉強と研究に打ち込んでいました。履修できる授業は全部取って、一番前の席で聞くくらいの熱の入れようでしたね。

社会人のスタートはスペインから

自動車の認証機関で一年、インターンとして働く

大学を出てすぐ日本で就職したわけではなく、まず一年ほどスペインで働きました。自動車の安全認証に関わる仕事で、テストをして「OK」を出す許可を出す会社です。半分インターン、半分正社員のような立場でしたが、ヨーロッパの会社はだいたい最初はインターンからはじまるものなので、そういうものだと思っていました。一年経ったころに正社員のオファーもいただいたのですが、日本に戻ることに決めました。

当時は同僚がほぼ全員スペイン人で、働いていたのがカタルーニャ地方だったので、周囲はカタルーニャ語を話していましたね。私自身はスペイン語でコミュニケーションを取っていましたが、日本にいたころにスペイン語を勉強していたわけではなく、覚えたのは挨拶くらいでした。現地に行ってから語学学校に通いながら働いて、身につけていった感じです。

「しっかり働ける場所」を求めて素材メーカーへ

スペインでの仕事は楽しかったのですが、働き方がかなりゆるくて、このまま慣れてしまうと他の環境に行ったときにしんどくなりそうだと感じていました。それで一度、しっかり働ける場所に行こうと決めて日本に戻りました。当時受けられる会社は3社ほどに限られていました。その中で、最初に決まったのが旭硝子だったので、そのまま入社しました。学生時代からずっとこの会社に入ろうと思っていた、というわけではありません。

創業までの遠回り

コンサルで気づいた、自分の「浅さ」

素材メーカーでエンジニアをやったあと、コンサルやスタートアップの事業開発を経験しています。コンサルタントとして働いていたとき、自分は当事者ではなく誰かの仕事をサポートする立場でした。「このやり方のほうがいいですよ」「この技術のほうがわかるので、これを通すべきだ」といった提案をしていたのですが、たいてい話は動かないし、聞いてもらえない。

なぜみんなやらないんだろう、とずっと考えていたのですが、あるとき気づいたんです。自分の話は本質的に浅くて、大きな会社の中でそれを実現するにはいろいろなやり方があるのに、自分はそこまでやりきろうとしていなかった。一ヶ月くらいで思いついたものを、さも素晴らしいアイデアのように語っていた自分がいたんですよね。この考え方のままではコンサルタントとして食べていけても、世の中に本当の価値を出すことはできないなと思って、働き方を切り替えました。

見えている世界は限られていて、百パーセント正しいということはありません。自分が正しいと思い込んでしまう前に、一度客観視したほうがいいと思っています。自信を持たないほうがいいという意味ではなく、自分の見えている範囲やできていることを、まず把握しておいたほうがいいということです。

ゴーレムがこだわる「建設の言葉」と泥臭さ

建設の現場と同じ言葉で話せること

建設会社や不動産会社の見積もり部門、積算部門、購買部門の方々が日常で使っている言葉や、扱っているデータの感覚を理解した上で会話ができる。これは弊社の強みだと思っています。説明をしなくても伝わるし、むしろ相手より詳しいと言われることもあるくらいです。

ツールを提供して終わりにしない

ポジショニングとして、私たちは泥臭さから逃げていません。プロダクトを提供するだけで終わりにせず、コンサルティング的な関わり方もしながら、自社プロダクトも持っています。本質的な課題を解決しなければプロダクトは広がらないので、エンタープライズ向けにしっかり入り込みながら泥臭くやる。これは投資家の方々からライトなプロダクトで売上を立てるべきだと言われていた時期もありましたが、最近ではむしろそのスタンスが評価されるようになってきたと感じています。

データを持つ会社は少ない

設計図面を扱うベンチャーは多いのですが、建設業の内部にある原価管理や見積もりデータの中身、そこで使われている言葉の文脈まで見ているベンチャーは多くありません。ここも差別化になっていると思います。

泥で考えろ、美でつくれ

弊社のバリューに「泥で考えろ、美でつくれ」という言葉があります。浅く考えたほうが楽ですが、それで解決できるならとっくにみんなやっているはずです。建設業は何千年も続いてきた産業で、何万人もの人が向き合ってきても解決できていない課題がある。それを素人が少し考えてすぐに解決できるとは思っていません。旭硝子にいたころ、簡単なことではなく難しいことをやるという会社のポリシーがあったのですが、そこから多少影響を受けているかもしれません。

一番大事なのは「気のいい人」

採用のときに大切にしているのは、気のいい人かどうかです。仕事をしていると綺麗事だけでは済まないことも多く、うまくいかないときに相手に悪意があると思ってしまうと、一緒に仕事を続けられません。逆に、相手が悪意なく全力でやっていると思えれば、うまくいかないときでも関係を続けられます。人の足を引っ張ったり、悪口を言ったりしない人がいいなと思っています。

面接では、転職理由を聞いたときの語り口も見ています。前職への不満はあって当然ですが、「自分だけがカバーしていた」「周りが使えなかった」というような語り方をする方は、採用を見送ることが多いです。

若い世代へ伝えたいこと

自分が何をやりたいかわからない、という悩みはよくわかります。私自身、やりたいことがなかった時期は長くありました。大事なのは「何をやりたいか」の前に「自分がどういうふうに生きたいか」だと思っています。

たとえば、大きなことを成し遂げたいと思っていても、それに見合う努力や才能が伴っていなければ、評価されずに苦しくなります。大きなことを求めないのであれば、そこそこのポジションで生きていくのも十分いい選択です。逆に大きなことをしたいなら、それに見合う努力が必要になる。自分がやりたい生き方と、自分が見られたい姿がずれていると、苦しくなるように思います。

AIとの向き合い方

コーディングとテキストの領域は、コンピューターが得意なぶん置き換えが早く進んでいます。弊社でもプログラムやシステムの開発にはAIコーディングを取り入れていますし、ユーザー企業の現場でも連絡の自動化やテキストのチェック作業の自動化が進んでいます。会議の議事録は、今やAIが作るのが当たり前になりましたね。

これから目指す姿

建設業の判断をデータとロジックで自動化していきたいと思っています。どんな設計がいいか、どの材料をどこから買うべきか、どの順番で作業を進めるべきか。今は人が考えて決めている領域を自動化し、建物の工事がはじまるまでの意思決定を、全体として自動的に進む世界にしたい。これはもともと会社を立ち上げた理由でもあり、今も変わらず目指している姿です。

編集後記

今回お話をうかがって印象に残ったのは、「泥で考えろ、美でつくれ」という言葉の重みでした。効率化やAI活用が叫ばれる時代だからこそ、あえて泥臭さにこだわる姿勢に、本質的な課題解決への覚悟を感じました。学生起業を目指す私にとって、「自分がどう生きたいか」を先に決めるという考え方は、キャリアを考えるうえでとても参考になりました。目の前の華やかさよりも、地道な積み重ねを選ぶ姿勢を、私も大事にしていきたいです。