インタビュー

ゼネコン現場監督16年の経験を、沖縄の中小建設会社へ。Webと現場改善で挑む新たな仕事

ゼネコン現場監督16年の経験を、沖縄の中小建設会社へ。Webと現場改善で挑む新たな仕事
PROFILE
合同会社WEBでええじゃないか 代表
亀井 洋一郎

男子校でソフトテニス、大学ではボクシングに打ち込んだ学生時代

中高6年間はソフトテニス一筋

中学・高校は私立の男子校に通い、中高一貫の6年間、ソフトテニス部に所属していました。

振り返ると、本当に部活動中心の6年間だったと思います。もともとは家でミニ四駆やプラモデルを作って過ごすことが好きなタイプでしたが、ソフトテニスを始めたことで、少しずつ外に出て人と関わるようになりました。

毎日の練習や試合を通じて、継続することや、簡単に結果が出なくても取り組み続ける姿勢を学びました。

ものづくりへの興味から建築の道へ

大学は芝浦工業大学の建築工学科に進学しました。

子どもの頃から、ミニ四駆やプラモデル、ブロックなど、部品を組み合わせて一つの形にしていくことが好きでした。絵を描くことよりも、仕組みを考えながら何かをつくることに興味があったんです。

将来はものづくりに関わる仕事がしたいと考え、大学では建築設計や構造、施工など、建築全般について学びました。

自分を変えたくて始めたボクシング

大学に入学した頃は、自分にあまり自信がありませんでした。

何か新しいことに挑戦して自分を変えたいと思い、始めたのがボクシングです。東京にあった具志堅用高さんのジムに、大学の4年間通い続けました。大学のサークルにはあまり馴染めなかったこともあり、ボクシングにはかなり本気で取り組んでいました。プロになったわけではありませんが、試合前には1か月で8kgほど体重を落としたこともあります。

減量は本当につらかったですが、決めた目標に向けて自分を管理し、最後までやり切る経験ができました。このとき身についた粘り強さは、建設現場や独立後の仕事にもつながっていると思います。

ゼネコンの現場監督として16年間勤務

鹿島建設で大規模な建設現場を経験

大学卒業後は鹿島建設に入社し、現場監督として16年間、建設現場の管理に携わりました。

現場監督の仕事は、図面を確認して建物をつくるだけではありません。工程、品質、安全、原価を管理しながら、設計者や協力会社、職人さんなど、多くの関係者と調整して工事を進めていく仕事です。

計画どおりに進まないことも多く、その都度、現場の状況を確認し、関係者と話し合いながら解決策を考える必要があります。

鹿島建設での16年間を通じて、建築の知識だけでなく、複雑な仕事を整理する力や、多くの人と協力して一つのものを完成させる力を身につけました。

入社3年目頃から芽生えていた独立への思い

鹿島建設で働き始めて3年ほど経った頃から、いつかは自分で仕事をしたいという気持ちを持つようになりました。

海外アパレル商品の輸入販売など、会社員として働きながら、いくつかの副業にも挑戦しました。しかし、思うように成果が出ず、途中でうまくいかなくなったものも少なくありません。それでも、失敗を重ねるなかで、商品を売ることの難しさや、自分で売上をつくることの大変さを少しずつ学んでいきました。

現在の仕事に直接つながったものばかりではありませんが、この時期の試行錯誤も、独立後の事業を考えるうえで大切な経験になっています。

仕事中心の生活に感じた違和感

ゼネコンの現場には、大きな建物を多くの人とつくり上げるやりがいがあります。一方で、現場監督の仕事は忙しく、仕事中心の生活が続くことも珍しくありません。

現場の仮囲いの中と自宅を往復する毎日が続くなかで、「このまま同じ働き方を続けてよいのだろうか」と考えるようになりました。

収入や環境は安定していましたが、人生は一度きりです。働く場所や時間を自分で選び、これまでとは違うことにも挑戦したいという気持ちが、次第に強くなっていきました。

会社や建設業界への不満だけで辞めたというよりも、自分の人生を自分で選び直したいと思ったことが、独立を決めた大きな理由です。

中国駐在を経て、沖縄への移住を決意

鹿島建設時代には、中国での駐在も経験しました。

日本へ戻り、独立後の働き方を具体的に考えるなかで、場所に縛られずに仕事ができるのであれば、自分が本当に住みたい地域を選ぼうと思いました。

そこで候補に挙がったのが沖縄です。もともと海が好きで、旅行でも毎年のように沖縄を訪れていました。寒い地域があまり得意ではなかったこともあり、独立を機に沖縄へ移住することを決めました。

会社を辞めることと、住む場所を変えることを同時に決断したため、不安がなかったわけではありません。それでも、環境を大きく変えるからこそ、これまでとは違う人生を始められるのではないかと考えました。

独立して初めて分かった、会社員という環境のありがたさ

想像以上に大きかった孤独

会社員時代は、早く独立したいとずっと考えていました。しかし、実際に会社を辞めてみると、想像していた以上に寂しさや孤独を感じました。

会社にいれば、先輩や同僚、職人さんたちと一緒に仕事を進められます。分からないことがあれば相談でき、何か問題が起これば、周囲の人と協力しながら解決できます。

独立後は、そのような環境が一度になくなりました。朝から一人で仕事を始め、誰とも話さないまま一日が終わることもあります。

自由な働き方を手に入れた一方で、会社という組織に所属し、仲間と一緒に働けることのありがたさを初めて実感しました。

独立事業者としての実績がない状態からのスタート

独立後に最も苦労したのは、自分で仕事を獲得し、売上をつくらなければならないことでした。

鹿島建設で16年間働いた経験や建築の資格はあっても、独立事業者としての実績や知名度、営業基盤はほとんどありませんでした。会社員時代は会社の名前や信用がありましたが、独立後は、自分が何者で、どのような仕事ができるのかを一から伝えなければなりません。

独立した最初の一年は、思うように仕事を獲得できず、収支的にも厳しい時期が続きました。Web制作の技術を学びながら、営業方法や提案の仕方、見積書の作り方、顧客とのコミュニケーションなど、事業を続けるために必要なことを一つずつ身につけていきました。

紹介を中心に少しずつ仕事が広がる

現在は独立から約2年、法人設立から約1年が経ち、少しずつ事業が安定してきました。

仕事の獲得経路は、既存のお客様からの紹介が半分以上を占めています。そのほか、交流会などの対面での出会いや、Webからの問い合わせを通じて仕事をいただいています。以前仕事をしたお客様が、別のお客様を紹介してくださることも増えてきました。

経理や確定申告、営業、契約、トラブル対応まで、すべて自分で判断しなければならない大変さはあります。それでも、自分の仕事が評価され、それが次の仕事につながっていくことには、会社員時代とは違ったやりがいを感じています。

現場経験を生かした「目的から考えるWeb制作」

見た目だけでなく、成果と運用まで考える

現在は、ホームページやECサイト、ランディングページなどのWeb制作を中心に仕事をしています。Web制作で大切にしているのは、単に見た目がきれいなサイトをつくることではありません。

「誰に何を伝えたいのか」「問い合わせや採用、売上など、どのような成果につなげたいのか」「公開後にお客様自身が無理なく更新できるのか」といった、目的や運用まで考えることを重視しています。

16年間の建設現場で培った管理経験と、副業や独立後の試行錯誤を通じて、見た目を整えるだけでは仕事の成果につながらないことを実感してきました。

お客様の課題を整理し、必要なページや機能、制作の進め方を組み立てる仕事は、建設現場で図面や工程を整理し、多くの関係者と調整してきた経験にも通じています。

Web制作においても、デザイナーというより、全体を整理して完成まで導く「現場監督」のような役割を担っているのかもしれません。

相手の考えを整理し、実行できる形にする

お客様とのコミュニケーションでは、専門用語を並べるのではなく、相手の考えや現在の状況を一緒に整理することを大切にしています。

Webサイトを作りたいと思っていても、「何を掲載すればよいのか」「誰に向けて発信すればよいのか」「どのようなサイトが必要なのか」が最初から明確になっているお客様は多くありません。

そのため、話を聞きながら課題や目的を整理し、実行できる形に落とし込んでいきます。

仕事は最終的には人と人との関係です。言われたものをそのまま作るだけではなく、相手が本当に困っていることを理解し、一緒に解決策を考えられる関係をつくりたいと考えています。

建設業に特化した「WEBの現場監督」

Web制作と現場改善を組み合わせた新たな仕事

これまでは業界を限定せず、さまざまな業種のWebサイトを制作してきました。

一方で、これからの事業を考えるなかで、自分が16年間経験してきた建設業の知識と、独立後に身につけたWebやITの技術を組み合わせられないかと考えるようになりました。

そこで現在、「WEBの現場監督」という名称で、建設業に特化した支援を始めています。

建設会社のホームページや採用サイトを作るだけでなく、見積内容の確認、工程づくり、現場管理の標準化、書類の整理、AIやクラウドツールを使った業務改善などを支援するサービスです。

Web制作会社として外から提案するだけではなく、元現場監督として建設会社の中に入り、実際の業務や現場の状況を確認しながら改善方法を一緒に考えていきます。

沖縄の中小建設会社が抱える共通の課題

現在は、沖縄県内の複数の建設会社と話を進め、実際の現場支援や業務改善にも取り組んでいます。

話を聞くなかで共通しているのが、人材不足や採用難、若手の現場監督不足です。現場監督一人に多くの仕事が集中し、見積作成や書類整理、工程管理まで抱え込んでいる会社も少なくありません。担当者の経験や個人の努力に頼りすぎているため、その人がいなければ仕事が進まないという問題もあります。時間外労働の上限規制への対応が求められる一方で、人をすぐに増やすことは簡単ではありません。

だからこそ、人を増やすだけに頼るのではなく、業務の進め方を整理し、AIやITツールも活用しながら、今いる人が無理なく現場を管理できる仕組みをつくる必要があります。

大手ゼネコンで行われてきた管理方法を、そのまま中小企業に持ち込むのではなく、会社の規模や人員、現場の状況に合わせて、無理なく運用できる形に変えていきたいと考えています。

現場監督が本来の仕事に集中できる環境をつくりたい

建設現場では、確認することや判断することが非常に多くあります。

しかし実際には、書類作成や情報の転記、写真整理、見積内容の確認などに多くの時間を取られ、現場監督が本来行うべき管理や判断に集中できていないことがあります。

そうした周辺業務を整理し、会社として共通の進め方をつくることで、現場監督の負担を減らし、仕事の品質も高められると考えています。

建設業界全体を一度に変えることはできません。それでも、まずは目の前の建設会社が抱えている課題を一つずつ解決し、そこで働く人が少しでも働きやすくなる仕組みをつくっていきたいと思っています。

学生や若い世代へ伝えたいこと

まずは小さくても経験してみる

何事も、実際にやってみなければ分からないと思っています。とくに学生や若い人には、まだ多くの可能性があります。興味を持ったことがあれば、最初からうまくやろうとせず、小さくても一度経験してみてほしいです。

私自身、ソフトテニスやボクシング、建設現場、副業、Web制作など、さまざまなことに挑戦してきました。始めたものがすべて成功したわけではありません。

むしろ、副業ではうまくいかなかったことの方が多く、独立後も仕事が取れずに苦労しました。それでも、失敗した経験があったからこそ、自分に足りないものや、本当にやりたいことが少しずつ見えてきました。

いきなり会社を辞めたり、大きなリスクを取ったりする必要はありません。まずは興味のあることを調べ、実際に経験し、自分に合っているか確かめてみることが大切だと思います。

会社員として働く経験にも大きな価値がある

一方で、会社員として働く経験も決して無駄にはなりません。

独立後、上場企業のお客様と取引をさせていただいた際、担当者の方から「ゼネコン出身であれば、しっかり仕事をしてくれると思った」と言われたことがありました。鹿島建設で16年間働いた経験が、独立後の信用につながった瞬間でした。

会社には、先輩たちが長い時間をかけて積み重ねてきた知識や技術、仕事の進め方があります。給与をいただきながら、そうした知識を実務の中で学べることは、会社員ならではの大きな価値です。

会社員か独立か、どちらか一方が正しいわけではありません。

大切なのは、自分が置かれている環境から何を学び、その経験を次にどう生かすかだと思います。私自身も、鹿島建設での16年間がなければ、現在取り組んでいるWeb制作や建設会社の現場改善支援はできていません。

これまでの経験を切り離すのではなく、一つずつつなぎ合わせながら、自分にしかできない仕事をつくっていきたいと考えています。

編集後記

現場監督として16年間ゼネコンで働いたのち、独立して沖縄でWeb制作会社を立ち上げた亀井さん。お話をうかがって印象的だったのは、「会社を辞めたい」と思い続けていたにもかかわらず、独立後にはじめて会社員時代のありがたさに気づいたというエピソードです。挑戦することと、これまでの経験を大切にすることは、決して矛盾しないのだと感じました。建設業界の人材不足という社会課題に、自身のバックグラウンドを掛け合わせて向き合っていく姿勢に、これから社会に出る身として大きな勇気をもらいました。