インタビュー

フリーランス歴20年。私が「AIに丸投げしたサイト」を見たことがない理由

フリーランス歴20年。私が「AIに丸投げしたサイト」を見たことがない理由
PROFILE
FAB'S LAB.(ファブズラボ) 代表
小林聡

 

高専からスポーツバイクの世界へ

大学ではなく高専に進んだ

学生時代の話でいうと、私は大学ではなく高専に進みました。国立工業高等専門学校です。そこで情報処理の講義でインターネットやWebデザインの基礎に触れました。卒業後は自転車が好きだったのでスポーツバイクを専門に扱う会社に就職しました。販売やメカニックの仕事をしながら、お店のホームページ作りにも携わるようになりました。

カナダでの生活とWebとの出会い

高専在学中に一度休学して、カナダで生活していたことがあります。その頃から趣味でホームページを作り始めて面白いなと感じるようになったんです。

会社員を続けながら少しずつフリーランスへ

会社員をしながら副業からスタート

会社員をしていてだんだんと組織で働くことがあまり自分には合わないと感じるようになりました。自分ひとりでできることはないかと考えたときにWebデザインならかなりの部分を自分の中で完結できると思いました。それで、そちらの方向に進んでみようと思いました。

とはいえ、いきなり独立したわけではありません。Webの専門部署がある会社に転職して、会社に勤めながらプライベートでも少しずつ仕事を受けるようになり、そこから徐々にシフトしていったという感じです。

FAB’S LAB.の強みはWeb業界の変遷を見てきたこと

自分の屋号で仕事を始めて20年近くになります。フリーランスのWebデザイナーとしてはかなり老舗の部類に入るはずです。2000年頃からWebの変遷を見てきているので、古いウェブサイトを触らなくてはいけないような場面でも対応できます。

実際、昔と今で仕事の内容に大きく変わった部分はないと感じています。今はAIで簡単にサイトが作れるようになったと言われますが、正直なところ、思ったほど影響を感じていません。

AI時代のWeb制作でも変わらないこと

AIに丸投げしたサイトを見たことがない

一般の人が自分のお店や会社のウェブサイトを、実際にAIを使って完成させたという話はほとんど見たことも聞いたこともありません。

またプロのWebデザイナーがお客様から受託したサイトの大部分をAIで作っているというケースもあまり聞いたことがないですね。もちろん部分的に使用することはありますし、私自身も使います。しかし大部分をAIに投げて「AIで作っています」ということを売りにしているデザイナーに、自分の大切なお店や会社のWebサイトを任せたいとは思わないのではないでしょうか。

対話でしか引き出せないものがある

AIに投げたとしても一発で希望するものが形になるわけではありません。お客様から依頼されて作るということは、お客様のイメージを汲み取ってすり合わせていく必要があります。お客様とのコミュニケーションを省いてAIだけで着地させるのは不可能だと感じます。

部分的なパーツを作るだけならAIは使えるかもしれませんが、漠然とWebサイトを作りたいということになると複雑過ぎると思います。私自身、あまり高度な使い方はしていません。

一番大事なのはお客様とお話をして、どういうことをやりたいか、どういうビジョンがあるか、どう伝えていきたいかを伺うことです。それをもとに一緒にサイトのデザインや機能を考えていきます。ここをおろそかにしてしまうと、あとあと失敗するケースが多いので一番気をつけているところです。

先のことは、あまり考えすぎない

今後のビジョンについては、あまり先のことまでは考えないようにしています。AIの話もそうですが、どんどん技術革新が進む世界なので、先のことを考えてもその通りにはならないからです。少し先のことを考えるくらいで、実際は目の前の仕事に集中するようにしています。

最近は新規のお客様からのお問い合わせも多いです。私としてもどんどん新しい仕事にチャレンジしていきたいと思っています。

学生さんへ。フリーランスは誰にでもおすすめできるものではない

まずは組織で働く経験も大事

今は卒業後にいきなり起業する人も多いと思いますが、フリーランスは誰にでもおすすめできるわけではありません。どこでもいいので一度就職してみるのもアリだと思います。

私自身、会社勤めが向いていたわけではありませんが、それでも組織の中でみんながどう働いているかを知ることができました。フリーランスの人が増えたとはいえ、今でも大半の人は会社勤めです。そこを経験していないと、お客様や取引先との感覚がズレてしまうと思います。

フリーランスに必要なのはオールマイティーさ

フリーランスに向いているのは、何か一つのことに長けているよりも一通りのことをそつなくこなせる、いわゆるオールマイティーな人だと思います。Webデザイナーであれば、デザインやプログラミングができて、営業やお客様とのコミュニケーションもきちんと取れる必要があります。特別なスキルを持っている人よりも器用貧乏にそこそこ何でもできちゃう人が向いていると思います。

フリーランスとして仕事をするのは簡単ではない

私の場合、始めたのは20年ほど前で、その頃のWebデザインの業界は今よりもずっと勢いがありました。どの会社もWebサイトが必要だという空気があり、仕事の依頼も多かったです。そのときにお客様をある程度獲得できて、今もその蓄積でお付き合いが続いています。今の時代にWebデザインの仕事をゼロから始めようとは思いません。20年前とは空気感がまったく違います。起業にはタイミングも重要だと思います。

正直に言うと、フリーランスから会社員に戻る人も多いです。そもそもフリーランスになる人には、ある程度余裕があるケースが多いと感じます。資産がある、実家が会社を経営している、パートナーがしっかり稼いでいるなどの環境があってこそ続けられている面もあります。なので誰にでもおすすめできるものではありません。

20代は寄り道していい

やりたいことが見つからず就職先を決められない学生さんも多いと聞きますが、一生の仕事を見つけようなんて思わなくていいと思います。少しでも興味を持てる会社に就職して、数年働いてみて、また違う方向に興味を持ったらそちらに行ってもいい。それを何度か繰り返してもいいと思います。私自身、何度か転職して最終的にフリーランスに落ち着きました。20代のうちは、自由にあちこち行っていい時代なのではないかと思います。

趣味から始めた、もうひとつの顔

フリーランスの楽しさの一つは、自分がやりたければ色々なことができる点です。私は10年ほど前に、旅と手仕事にフォーカスしたウェブマガジン「TABITOTE」を、オウンドメディアとして立ち上げました。全国各地の民藝品や手仕事の産地を取材して記事にしています。

もともと民藝が好きだったのと、当時「オウンドメディア」という考え方が流行っていたこともあり、自分でも何かできないかと思ったのがきっかけです。制作の仕事では、お客様から相談を受けて答えていく立場ですが、自分自身でメディアやショップを運営していると、経験や実務に基づいた提案ができます。そういう意味でも自分でサービスを運営することを続けています。

編集後記

今回のお話を通して、印象に残ったのは「AIに丸投げしたサイトを見たことがない」という言葉です。便利な技術が広がっても、お客様の思いを引き出す対話の部分は変わらないというお話に、就職活動を控える身としてとても勉強になりました。フリーランスという働き方についても、自由さの裏にある現実を率直に語っていただき、進路を考えるうえでの参考になりました。貴重なお話をありがとうございました。