インタビュー

30年、「このままでいいのか」を問い続けた―障がい者雇用の挑戦

30年、「このままでいいのか」を問い続けた―障がい者雇用の挑戦
PROFILE
株式会社アストン 代表取締役 CEO
上西 龍

きっかけは阪神淡路大震災でのボランティア

高校を卒業したのは、ちょうど阪神淡路大震災が起きた年でした。1月にあの震災があって、3月に高校を卒業したのですが、受験に失敗し、将来の目標もなく、しばらく受験勉強もしたくないと思っていたんです。母から「何もしないなら震災のボランティアに行って少しは人の役に立ちなさい」と言われまして参加しました。

被災地では、人の命の危うさや、極限に立たされた方々の姿を数多く目の当たりにしました。その経験を通して、福祉の道へ進みたいという想いが芽生えました。その後、福祉の専門学校に入学し、実習やボランティアを通して多くの障がいのある方たちとの接点ができました。就職も実習先の障がい者の生活支援施設に声をかけて頂き内定をいただいていましたが、バイト先のオーナーから新しい事業を一緒にやらないかと声をかけていただきました。

ITで障がい者雇用の可能性を広げる

当時アルバイトをしていた飲食店のオーナーが、飲食店のほかにパソコンスクールも経営していたんです。Windowsが普及し始めた頃でした。そのパソコンスクールを卒業した生徒さんに仕事を紹介する、人材派遣を立ち上げたいから手伝ってほしいと声をかけられまして。

すでに障がい者施設への就職が決まっていたので、断るのが筋だとは思ったのですが、親友にも相談しながら悩みました。生活支援という形で障がい者に関わり続けるよりも、これから伸びていくであろうITの分野で人と仕事を結びつける仕事をした方が、将来的に障がい者雇用の可能性を大きく広げられるのではないか。当時、障がいのある方の仕事は、その人の特性に関わらず一括りに割り振られることが多く、この状況をITの力で変えられるのではないか。そして、そのためのノウハウを自らつくり出せる、またとない機会なのではないか。そう考え、会社立ち上げに加わることにしました。

それから転職もせず、ちょうど28周年を迎えたところです。

2023年に社長を引き継いだ

創業者から直々に声をかけていただき、2023年に私が引き継ぐかたちで社長に就任しました。

もともと障がい者雇用に取り組みたいという気持ちはずっと持っていたのですが、コロナ禍を機に大きく状況が変わりました。オンライン化が進んだことで、障がいのある方たちの仕事の幅も広がったと感じています。働く場所を問わずに仕事を受けられ、また依頼もできるようになり、就労継続支援A型・B型と呼ばれる事業所へ仕事をお願いする機会も生まれて、こうした施設との接点が少しずつ増えてきました。

コロナが明けたタイミングで企業側のIT化・DXが一気に活発になり、それまで停滞していた企業の採用活動全体が再び活発に動き始めました。そんな中、今年の四月から障がい者雇用の支援事業を本格的に始めることができたんです。

三つの壁を越える、サテライトオフィスの仕組み

弊社のミッションは「日々進化するテクノロジーと人の力を融合させ働き方をアップデートする。」というものです。この考えのもとで、パソコンのネットワークの構築・保守、コールセンターやITヘルプデスク、人材派遣といった事業をおこなっています。

現在、従業員40人に1人は障がいのある方を雇用しなければならないという法定雇用率が、この七月からは37.5人に一人へと引き上げられます。ただ、実際にこの雇用率を達成できている企業は半分以下というのが現状です。誰を採用すればよいかわからない、何を任せればよいかわからない、そもそも受け入れ体制がない。この3つの壁があって、なかなか踏み出せない企業がとても多いんです。

そこで弊社が取り組んでいるのが、まず一般企業で働きたいという障がいのある方を、提携している21か所の就労移行支援施設からご紹介いただき、弊社の契約社員として実務経験を積んでもらいます。実績を積んだ後は、企業側に就職してもらい、就業場所はそのままサテライトオフィスとして企業に借りていただきます。受け入れ企業は体制をゼロからつくる必要がなく、採用や紹介、その後のアフターフォローまで弊社が担います。仕事量が少ない時期は、弊社がプールしている業務委託の仕事をお願いすることで、仕事がなくて困るということがないようにしています。

地域の仕事を、地域の人へ

弊社が今メインで支援しているのは、精神疾患のある方たちです。通勤できる範囲がそれほど広くない方が多く、住んでいる地域でしか働けない方がたくさんいらっしゃいます。

この仕組みは、こうした「地域でしか働けない」という事情とも相性がよく、地域のIT業務をその地域に住む障がいのある方が担う形へと広げていけます。

たとえば、選挙にまつわる業務です。各自治体の投票所には、有権者の情報を確認するためのパソコンが設置されており、選挙のたびにその設定作業が発生します。こうした地域ごとの仕事を、そこに住む障がいのある方に担っていただく。このように、公共の場面にまで仕事の幅を広げていける可能性があると考えています。

このビジネスモデル自体、私たちが最初に取り組んでいるものだと思っていまして、特許も出願中です(特願2025-182856)。まずはここで実績をつくり、いずれは各エリア、そして全国的に広げていきたいと考えています。

仲間を大切に、そして夢をもって

これから社会に出ていく学生の皆さんに伝えたいのは、まず仲間を大切にしてほしいということです。私がここまでやってこられたのは、本当に仲間のおかげでした。就職先を悩んでいた時に相談した相手は、今も弊社の技術部門の責任者として働いてくれています。

長く付き合っていれば、ぶつかることもあると思います。それでも、そのなかの誰かとは30年後も一緒にいるかもしれませんし、違う場所でお互いを支え合っているかもしれません。だからこそ、大切にしてほしいと思います。

もうひとつ伝えたいのは、夢を持ってほしいということです。漠然とでもよいので、将来どうなっていたいかをイメージしておいた方がよいと思います。社会に出ると、いろいろな年齢や世代、業種、価値観の人たちと関わることになります。理不尽なこともあると思いますが、夢や目標があれば、それも経験のひとつとして捉えられるはずです。苦労だと思わなければ、つらくもないのではないでしょうか。

 

編集後記

上西さんのお話をお伺いして、事業のはじまりが震災のボランティア経験にあったことに驚きました。障がい者雇用というと難しいテーマに感じていましたが、サテライトオフィスの仕組みは、企業・障がいのある方・地域のすべてにとって意味のある取り組みだと感じました。夢を持つことの大切さも、就職活動を控えるいち学生として胸に刻みたいと思います。貴重なお話をありがとうございました。