インタビュー

大学教授を目指した青年が、研修業界の「当たり前」を変えるまで

大学教授を目指した青年が、研修業界の「当たり前」を変えるまで
PROFILE
株式会社リスキル 代表取締役社長
松田 航

大学教授を目指した学生時代

ゴールは、大学教授だった

高校生くらいのときから、大学教授になりたいと思っていました。そこをゴールに据えて、いろいろな意思決定をしてきたんです。大学教授になりやすい学部を選択するような意思決定ですね。修士課程に行って、博士課程に行く。それが人生プランでした。

教育への関心が原点にあった

もともと大学教授を志したのは、教育というものの両面への関心が強かったからです。当時、自分自身は体育祭の運営などはタイプ的にまったく向いてないと心から思っていました。なので、中学生や高校生向けに教育をしていく感覚は、正直なかったんですよね。大学生であれば、教育というものに力を入れられる、そう思っていました。

また、人類の歴史に貢献することは、人間として生きるうえで非常に大切だとも思っていました。人類の歴史に貢献するために、「研究」というのは魅力的な仕事でした。教育への関心と、研究職への憧れ。この掛け算で考えると、大学教授というのが一番素敵な職業だと思っていたので、そんなキャリアを考えていましたね。

研究室で見えた、自分の向き不向き

憧れと現実にはギャップがあった

研究というものには、憧れがありました。やったことはないながらも、こんな感じだろうなと思って進学したんですよね。ただ、実際に入った研究室は、自分の中では合いませんでした。選択した研究室が悪かったわけではありません。単純に、自分に合う研究室ではなかったんです。

繰り返し作業が、根本的に向いていなかった

私が入ったのは、医療工学のゼミでした。医療の分野は、サンプル数、いわゆるn数の重要度が高いんです。何件も同じことを繰り返して、統計的な結果を取りにいかなければなりません。生物ですから当たり前ですね。薬だって誰にでも効くものはありませんから。

要するに一回理論を立てて終わり、というものではまったくないんですよね。ひたすら同じ作業を繰り返す必要があります。

私は、繰り返し作業が得意ではありませんでした。3回くらい同じことを繰り返すと、「なんで自分はこんなことをやっているんだろう」と思うほど苦手だということに気がついたのです。少なくともこの分野においてプレイヤーとして研究をやっていくのは、根本的に向いていないだろう。そう感じたんです。それで、研究者になる方向性は手放しました。

インターンでの転機

客員教授について、オーストラリアへ

研究者に向いているのかどうかは、マスターに上がってからも考え続けていました。大学4年生くらいのときから、少し違うんじゃないかとは思い始めていたんですけどね。とりあえず進学すると決めていたので、マスターには進みました。

そのとき師事していた客員教授が、オーストラリアの大学に引き抜かれることになったんです。教授が引き抜かれてしまうと、研究室としては成り立ちません。結局、私も一緒に連れて行かれることになりました。2か月くらい、現地で研究室の立ち上げを手伝ったんです。こんな感じで研究をやっていくんだよ、と現地の人たちに伝えて、日本に帰ってきました。帰国したときには、教授がいないゼミが出来上がっていましたね。

インターンで、ビジネスの面白さを知った

お陰で自由に動け、この機会に、ビジネスの方にも触れてみようと思いました。ベンチャー企業で半年くらいインターンをしたんです。やってみると、研究よりもビジネスの方が面白いと感じました。完全に向いている、と。一回一回で成果が出るでないが決まりますし、売上や利益という面でも数字的な判断軸が明確です。

もうこれはビジネスの方だ、と思い、マスターを取るのをやめて起業しました。マスターの1年生の途中というタイミングだったので、そもそも就職活動の時期ではありませんでした。それに加えて、インターンをやるなかで、自分にもできるだろうという感覚が芽生えていたんです。

インターンの中で接するビジネスパーソンで優秀な方はたくさんいらっしゃいましたが、100%追いつけないと感じるような方は、ほぼいませんでした。インターン先の社長さんはすごくできる方で、この人はすごいなと思いましたが、他の方はスーパーすごい、という感覚ではなかったんですよね。他企業の社長さんたち含めて。だから、起業してもどうにかなるだろう。そう思って、起業に踏み切りました。

遠回りの末に見えた、教育事業

コンサルタントとして船出した

創業した当時は、経営やマーケティングのコンサルタントを名乗って事業を始めました。今思うと、何も知らない若造が何を言っているんだ、という感じです。ですが、できると勘違いして飛び込んでいきました。一定のお客様もついて、ビジネスとしては成り立っていましたね。並行して、他の会社も立ち上げていましたが、いずれも、教育とはあまり関係のない事業をやっていたんです。

親族の教育系企業を手伝ったのがきっかけに

初期はご飯を食べていかなければいけないので、何でも仕事にしていました。それはそれで楽しかったのですが、自分のミッションやビジョンに合うところへ行きたい。そう思うようになっていきました。「教育」の分野です。

ちょうどそのころ、親族が教育系の会社を営んでいました。リーマンショックと震災の影響で、その会社がかなり傷んでいたんです。手伝いも兼ねて教育事業に参画できれば、楽しいですし、親孝行にもなる。ただでさえ、高い学費払って入れてくれた大学の経歴をすべて捨てて、企業にも入らずに、起業をしてしまった親不孝者でしたので。そう考えて、週に一回くらい、その会社に入るようになりました。これが、教育会社への関わりのスタートでした。

社会人教育に「価格破壊」を起こす

後発だからこそ、逆側のサイドへ

もともとは、BtoC(一般消費者向けビジネス)の事業会社を手伝っていました。ただ、思ったよりも事業自体はしっかりしていて、当時の私の力量だと修正できる点がありませんでした。

しかし、会社の現金はなくなっていくという状況です。とにかくピンチなので、別の売上軸を立てようと、BtoB(企業向けビジネス)の事業を立ち上げたんです。まずはIT、続いてビジネスの分野で研修事業を立ち上げました。

ビジネス研修の参入は後発も後発です。研修というのは、100年くらいの歴史がある業界です。今から同じことをやっていても、存在意義がありません。

もともと研修会社は、コンサル会社に近い業界です。できるだけ単価を高くもらう、というのが業界の基本方針でした。独自性やカスタマイズ性を上げて、一日あたりの単価を上げていく。それが、研修会社の基本的な方向性だったんです。結果として、大企業しか研修ができない、中小企業では研修ができない。それが、業界の当たり前になっていました。

私たちは、その逆側に行こうと決めました。標準的な研修を、できる限り使いやすい形で、安価に提供する。そこから事業を組み立てていったんです。研修のプログラムを1,000種類以上用意しました。それを標準的な形で提供します。プラスで、ITシステムをいろいろ駆使しました。ECサイトのように、簡単に研修が実施できる状況をつくったんです。これによって、多くの企業さんが研修を実施できる世の中にしていこうと考えました。

たとえるなら、Amazonさんが個人の買い物を楽にしたのと同じような立場です。研修というものも、多くの企業さんが普通に実施できるものにしていく。そういうイメージで構築しました。既存のプロバイダーに比べると、30%から50%くらいは安くサービスを提供できていると思います。もちろん研修会社と言っても幅広いので、どこと比べるかにもよりますが、一定規模の大きい企業さんと比べると、それくらい安くなっています。

苦労が少なかった創業期

唯一の壁は「Web会議」という概念だった

正直、事業をつくるうえで、あまり苦労はしていません。社会人教育の市場には一定の理解がありましたし、事業を構築するうえでの基本となるマーケティングや営業、エンジニアリング、プロダクト開発に関しては自信がありました。

ただ、そういうものよりも、根本的には、運が良かったのだと思っています。当初から、できる限り、ECサイトに近い形で販売をしたいと考えていました。お客様先には訪問をしない。お客様が商品を見て、必要であれば営業と電話やオンライン会議で話す。そういう形が、ベターだと思っていたんです。

今でこそ当たり前の形ですが、この事業を始めたのはぎりぎりコロナ前でした。当時は、Web会議という概念自体が、あまり浸透していなかったんです。開始してから1年間くらいは、そこを理解してもらうのに苦労していました。

コロナ禍が、思わぬ追い風になった

こういう言い方をすると、亡くなられた方々には申し訳ないのですが、コロナ禍が来たことで、その苦労はなくなりました。Web会議という概念が、一気に浸透したんです。我々は少ない人数のまま拡大を続けることができました。

そのあたりも含めて、私たちは非常に運が良かったと思っています。あまり苦労らしい苦労をしていない、というのが正直な感覚ですね。

「とりあえずリスキル」という未来

人材育成の入り口になりたい

人材育成と考えたとき、私たちのサイトに一番初めに来てもらえる状況が理想です。個人の方が何か買いたいと思ったとき、Amazonさんや楽天市場さんに行くのが自然な流れになっていますよね。これと同じように、人材育成の領域でも、とりあえずリスキルのサイトを検索してもらう。それで大体何でもそろうし、安価で、他と比較する必要もない。そう思ってもらえる状況が理想です。

商材をひたすら追加していく。人材育成で考えつく限りのコンテンツを、すべて用意する。それを見つけやすくして、金額感もできる限り抑えていく。それによって、企業さんが教育をするなら「とりあえずリスキル」だよね、と思ってもらえること。それが、私たちの理想でありビジョンです。

コンテンツはすべて内製している

今は、研修とeラーニングという二つの分野をメイン軸にしています。これに加えて、ビジネスゲームやアセスメントなど、教育関連のコンテンツをどんどん拡充していくのが基本方針です。外部への発注はしていません。コンテンツ制作を含めて、すべて内部でつくっています。

採用とカルチャー、そして目指す会社の姿

一番大切にしているのは「性格の良さ」

採用では、新入社員だと営業やエンジニアのポジションが多い傾向にあります。コンテンツ制作をやりたい方も、もちろん歓迎します。ただ、1年目からコンテンツ制作というのは、ビジネスの経験がないと難しい部分があるんですよね。新卒の採用人数は、年によってばらつきがあります。数的にコントロールできているかというと、そうではありません。人数もそこまで決めておらず、良い人がいれば採用しに行く。そんなスタンスでやっています。

どんな方だと合うかというと、性格のいい方ですね。かなり気のいいメンバーが揃っている会社です。無形のサービス商材なので、嘘をつけば、いくらでも売ろうと思えば売れてしまいます。ですが、それは教育事業者としてどうなのか、という感覚がかなり強いんです。仲間にとってもいいメンバーであってほしいし、お客様にとってもいい人であってほしい。そう考えているので、隣で働いていて気分がいい人、性格のいい人に来てもらえると、非常にありがたいですね。

「いい人が多いですよね」と採用した方には言ってもらえることが多いです。

大きくなることが、ミッションにつながる

会社としてどうなっていきたいかというと、巨大な会社です。私たちのミッションは、社会人教育を1人でも多くの人たちに届けることです。それを実現するためには、必然的に会社が大きくならなければいけません。

ただ膨張していくだけでは、経営上良くないのかもしれません。それでも、大きくなることは、私たちが考え続けなければいけないことです。それが、ミッションにつながっていくので、ひたすらそれをやっていこうと思っています。

課題として持っているのは、普通で申し訳ないですが知名度です。もともとの会社を分社したので、会社ができてから、まだ数年です。設立から2年半ほどで上場しました。期間が短いこともあり、知名度をつくるのは、全然うまくいっていません。

BtoBの事業なので、個人の方に知ってもらうのは、当然ハードルが高いです。顧客企業の中で知ってもらうのも、簡単ではありません。新卒の方や、採用マーケットの方に知ってもらうのも、ハードルが高いんです。この知名度の課題は、これからもずっと残り続けるんだろうと思っています。

就活生へのメッセージ

選べる立場を、全力で活かしてほしい

今、特に新卒の採用市場は、完全な売り手市場です。学生の皆さんは、選べる立場にいます。選べる立場にいるからこそ、一番重要なのは、とにかく失敗しないことだと思うんです。成功するかどうかは、正直、入ってみないとわからないところがあります。ですが、失敗するかどうかは、ある程度コントロールできます。条件面や、自分がこういうところは耐えられないという部分を、きちんと言語化していく。それができれば、かなりの失敗は避けられるはずなんですよね。

相手企業に配慮して質問をしない、というのは避けるべきです。ひたすら全部聞いて、そのうえで選びにいったほうがいい。選べる立場なのですから、その立場を全力で活かしてほしいと思います。それで落ちたらそれまでです。

譲れないものは、譲らない

失敗の確率を下げにいくことは、自分の人生にとって、絶対にプラスになります。新卒で入る会社は、人生をかなり大きく左右すると思っています。大学は、正直どこでもいいんじゃないかと経験則的には思っています。私自身はどこに行っても、あまり変わらなかったでしょうし。

ですが、社会人1年目にどの会社を選ぶかは、人生に対するインパクトが非常に大きいんです。その後の仕事人生は、40年近くと長く続きます。だからこそ、最初の一歩は大きな意味を持つんですよね。

とにかく、失敗をしない選択を意識してほしいと思います。条件面でも、ミッションでも、ビジョンでも構いません。自分の中で譲れないものがあるなら、それは譲らないほうがいいですね。

編集後記

今回のインタビューで印象的だったのは、松田さんが幾度となく「運が良かった」と語っていたことです。研究者を目指していたところから、恩師の海外転籍という思わぬ出来事をきっかけにビジネスの道へ進み、後発の研修業界であえて標準化と低価格を選んだ戦略には、学ぶところが多くありました。「失敗しない選択をする」というメッセージは、就職活動を控える身として、素直に心に残るものでした。選べる立場を活かすという意識を、これからの学生生活でも大切にしたいと思います。貴重なお話をありがとうございました。

松田さんが代表取締役を務める株式会社リスキル:社員研修一覧