腕試しの起業から、想いを持った会社経営への変化
夢は出版、選んだのは IT
就職活動の時代は、今とはまったく違いました。私が就活をしていたのは、いわゆる就職氷河期。団塊ジュニア世代として、求人倍率も今より相当低く 、正社員で就職できなかった人もたくさんいる時代でした。
当時はまだリクナビが出始めた頃。連絡手段は、はがきが主流でした。そんな時代に、私は出版社に入ってライターになりたいと思い、マスコミ系を中心に受けていました。でも落ちて落ちて、最後に小さな広告代理店と小さな出版社の最終面接に残ったんです。
ただ、大手証券グループのベンチャーキャピタルに勤めていた父から、「はじめは大手に行った方がいい」というアドバイスがあり、「想い」より「現実的な道」を選ぶことにしました。 結果的に、就職氷河期でも積極的に採用を行っていたIT の大手企業に入ることにしました。
ベンチャーのスケール、そして起業へ
経営理念に惹かれてベンチャーへ転職
新卒で入った大企業を経て、転職先に選んだのは人材育成コンサルティング会社の「アルー」という会社でした。入社した時はまだ 20 名ほどのベンチャーで、マンションの一室みたいなオフィスで働いていましたが、辞める頃には東京・大阪・上海・インドに支店まで出すほど成長していて、その後上場も果たしました。
私が転職したそもそもの動機は、IT企業時代の成功体験から生まれた「顧客満足を追い求めたい」という思いでした。その軸で探していくと、最終的にただり着くのは「人」なんですよね。アルーはそんな私の考えを体現できる組織でした。ただ、会社の成長の中で、自分が目指す方向との違いを感じるようになっていきました。感謝もしていますし、大好きな会社でしたが、自身の違和感をぬぐい切れず離れることを決めました。
腕試し感覚での起業
起業しようという強い思いは、正直まったくなかったんです。33 歳で会社を立ち上げた時も「大企業・ベンチャーを経験し、35 歳までなら 1 回試してみるのもありかな 」くらいの感覚でした。業務コンサルティングや研修など、最初は何でもやる状態でしたね。ただクライアントや社員、外部パートナーに恵まれ、素晴らしい体験・経験をし、今は「人と組織の未来と今を豊かにする」という想いを強く持ち、会社経営をしています。
「組織変革」が起点にある研修の強み
個人の成長が組織を変える
研修会社は世の中にたくさんありますが、創業以来600社以上の企業と向き合ってきた中で、 当社が他社と大きく違うと言えるのは、組織開発(一人ひとりを育てるだけでなく、チームや会社全体の関係性ごと良くしていくことで業績を高めていく仕事 )が背景にあることです。単に「人を成長させる」のではなくて、研修を通じて組織変革を起こすことを目指しているんです。
ロジカルシンキングなどの個人のビジネススキルや、成人発達理論をベースにした人間としての成長はもちろん大切にしていますが、あくまでも法人向けのサービスなので、組織全体へのポジティブな影響を考えて設計しているのが特徴です。
具体的には新入社員研修から管理職研修、経営者の合宿まで幅広く対応しています。特にリーダーシップ開発とファシリテーションが、当社の強みだと伝えることが多いですね。
リーダーシップとは「影響を与えること」
リーダーシップは、「引っ張る」や「決める」などと捉えられがちですが、リーダーシップの本来の定義は「目的・目標・ビジョンなどに影響を与えること」とされています。だからチームが落ち込んでいる時に場を明るくすることもリーダーシップだし、誰かが得た知識を別のメンバーに伝えることも立派なリーダーシップ。役職とは関係なく、誰もが発揮できるものです。
パーパスが生まれた背景
コロナを機に自分たちを見つめ直した
当社のパーパスは「人と組織の未来と今を豊かにする」というものです。実はこのパーパス、コロナをきっかけに 1 年ほどかけてじっくり作り直しました。
以前は創業メンバーと 1 日合宿をして作ったものがあったんですが、事業が変わったり、新卒メンバーが入ったりする中で、どうもしっくり来ていなかった。ブランドコンサルを入れて理念を整えたこともあったんですが、それでもまだ腑に落ちない感じがあって。だったら自分たちで徹底的に向き合ってみようということになりました。社員みんなで向き合ったことで、既存事業や新規事業開発といった事業戦略の意思決定から日々の行動まで、パーパスと繋がっている感覚を全員が強く持てています。
映画より心が動く瞬間がある
変わっていく人や組織を目の前で見られる仕事
この仕事を続けている原動力は何かと聞かれたら、「下手な映画やドラマを見るより心が動く瞬間がたくさんある」というのが正直なところです。
たとえば、ある会社で新入社員と OJT トレーナーの合同研修をやっていた時のこと。トレーナーは手厚くサポートしていると思っていたのに、新入社員の方はずっと「辞めたい」という気持ちを抱えていた。研修の場でその方が勇気を持って本音を話してくれて、支店長と3人で話をすることになったんです。翌年、その方は 2 年目にして OJT トレーナーに抜擢された。そういう変化を間近で見られる瞬間があるんですよね。
また、上場企業の経営者の合宿では、社長が周りに対していつも以上に攻撃的になる場面もありました。そのことをきっかけに、今まで本音を言わなかった経営陣が本音でぶつかり合う激しい場になっていきました。そこで組織の膿が出たり、腹を割った議論がされていきました。 その結果、翌年にヒット商品が出たり、株価が上がったりして、「あの合宿がきっかけだった」と言ってもらえることもありました。こういう瞬間に出会えるのは、この仕事のやりがいの一つでもあります。
求める人物像と今後の展望
誠実さと知的好奇心がある人と働きたい
今は社員 3 名の小さな会社ですが、外部パートナーと協力しながら事業を進めています。数年後には人を増やす計画もあって、その時に一緒に働きたいのは、誠実な人と知的好奇心が強い人です。
誠実というのは、自分にも周りにも誠実に物事と向き合って、当たり前のことを当たり前にできること。知的好奇心については、勉強ができるかどうかではなくて、いろんなものに興味関心を持ち続けられるかどうか。研修や組織開発という仕事は、学び続けないといけない領域なので、そこは特に大切にしています。
ハイパフォーマーと企業をつなぐ新サービスへ
今後は、フリーランスや外部パートナーとして活動している優秀な講師・コンサルタントと、クライアント企業を直接つなぐプラットフォームを作りたいと思っています。高いパフォーマンスを持つ方には、適正な報酬で働いてほしいと考えています。
その先には、アカデミックな方々とも交流しながら、当社がハブにならなくても、健全でより良いサービスが世の中に広がっていくようなエコシステムを作っていきたいと思っています。
就活生へのメッセージ
「大手だからいい」という時代は終わった
就職活動中の学生に伝えたいのは、大企業かベンチャーかにこだわらず、自分にマッチする会社を探してほしいということです。当社のクライアントの中小企業でも、大企業より教育体制が充実していたり、福利厚生が手厚かったりする会社さんはたくさんあります。
私自身、出版社しか見ていなかった就活の軸を広げたことで、まったく興味のなかったヤマト運輸さんやセブン-イレブンさんを受けて「流通って面白いな」と気づいたりしました。興味がなくても受けてみることで、自分の可能性に気づけることがある。就活のときほど多くの会社を見られる機会はないので 、業種も規模も問わず幅広く見てほしいですね。その中で、自身に合った会社を想いをもって決めてほしいです。ただ私の経験からでもありますが、周りに相談し、ちゃんとその意見を受け止めた上で、最終的に自分で決めてほしいです。自分の人生は、自分持ちですから。
最後に一つだけみなさんに伝えたいのは、学生の時間をとても大切にしてほしいということです。勉強だけでもアルバイトだけでもなく、興味関心が高いものは何でもやってみることが重要だと思います。一つのことに決めすぎるより、いろんなことを経験した方が、自分の世界が広がっていくんじゃないかなと。みなさんの今が未来を創りますので。みなさんにとって、素晴らしい未来と今がありますように。
編集後記
迫間さんのお話で印象的だったのは、「起業は腕試し感覚だった」という言葉です。壮大なビジョンを掲げて始めたわけではなく、巡り合わせの中でここまで来たというその姿勢が、逆に誠実さを感じさせました。リーダーシップの定義についてのお話も刺さりました。役職や立場に関係なく、「誰かに影響を与えること」がリーダーシップだという考え方は、学生起業を通じてチームに関わってきた自分にも当てはまる話で、改めて自分の行動を見直すきっかけをもらいました。組織の変化を間近で見られるやりがいについてのエピソードも、仕事選びの視点を広げてくれる内容でした。就活を控えている学生のみなさんにも、ぜひ読んでほしい記事です。