アパレルからワインへ、好きを突き詰めてきた軌跡
18歳からの買い付け経験
10代のうちから、働いていたセレクトショップのオーナーに「売れる服を買ってこい」と資金を任されて、一人でアメリカへ買い付けに行っていました。大学1年から4年まで、2~3ヶ月に1回のペースで渡航していたんですが、当時はスマホもインターネットもない時代。英語も満足に話せないなかで、ボディランゲージでどうにか交渉していましたね。そういう経験が「人間力」みたいなものを鍛えてくれたと思っています。
26歳で全財産を使い切った
大学を卒業してからもそのお店に社員として入りました。はじめから将来は自分のビジネスを持ちたいと思っていたので、入社面接の際にもそのことをはっきり伝えた上で採用してもらいました。そして26歳で独立し、自分の店を持ちました。学生時代からいくつものアルバイトを掛け持ちして、コツコツ貯めた当時の全財産を注ぎ込んでの起業でしたが、3ヶ月で銀行口座はほぼ0になりました。
セレクトショップで働いた経験はあっても、経営なんてしたことがない。希望と願望で進めていたら、予想もしないトラブルや出費が重なりました。それからはもう、死に物狂いで働くしかなかったです。「少しでも売り上げが上がることって何だろう」とアイデアを出しては一つひとつ試していく。ただ、それだけでした。起業して10ヶ月目ごろにようやくプラスマイナスゼロになりましたが、その時は実家に住まわせてもらっていたので、独り立ちとは言えない状況でしたね。
転機は35歳
アパレルは今も事業の一つですが、売り上げ的にはもう全体の5%ほどになっていて、今は主にワインの輸入業をやっています。ただ、35歳まではワインにまったく興味がなかったんです。
きっかけは、35歳の頃にアメリカを訪れた際、滞在先の近くにあったナパバレーのワイナリー巡りに連れて行ってもらったことでした。5軒ほどのワイナリーを巡って試飲する中で、同じ品種のブドウから作られているのになぜここまで味が違うんだろう? という知的好奇心に火がついて。帰国後観たドキュメンタリーでは、ブラインドテイスティングでワインの生産年・品種・畑まで当てていく姿が映っていました。このゲーム感覚にどっぷりハマってしまいました。ワインの味が好きになったのが先ではなく、好奇心から始まりました。
「直接」にこだわるビジネスモデル
酒屋を一切通さない理由
私がワインを輸入するとき、酒屋さんには1本も卸していません。輸入したものを、直接レストランや個人のお客様に販売しています。一般的な流通では、インポーターから酒販店、飲食店やお客様へとワインが渡っていきます。もちろん、それぞれの立場だからこそできる役割があります。
一方でLucioleでは、私自身が生産者のもとを訪れ、そこで聞いた話や感じたことまで含めて、できるだけ直接お客様へ届けることを大切にしています。販売した後のお客様の反応まで生産者に返せる。その距離の近さが、私たちの特徴だと思っています。
デメリットもあります。在庫を全て自分で抱えなければならないし、倉庫のスペースも必要になる。でも、弊社でしか買えないワインになるということは、希少性にもつながっています。
独占輸入で求められる信頼
私たちが特に重視しているのは、生産者から日本市場を長期的に任せてもらえるような関係を築くことです。
独占契約の場合、日本市場を任せるパートナーは基本的に1社になります。人気のある生産者ほど世界中から取引の依頼がありますから、ワインを買いたいと言うだけではパートナーには選んでもらえません。
だから私は、できる限り自分自身で生産者を訪ね、ワインを飲み、畑を見て、どういう考えで造っているのかを直接聞くようにしています。そうやって時間をかけて関係を築くことが、結果的にLucioleの一つの強みになっていると思います。
私はワイン業界の人脈が全くないところから始めたので、生産者に自分で連絡を取り、そのまま現地へ会いに行くところから始まりました。それが今でも、自分たちの仕事の基本になっています。
1年越しの交渉、そして今も進行中
一番長い交渉では、3回断られながら1年かけて契約まで至ったケースがあります。アポを取っても返事が来ないことも、行ったら会ってもらえないこともある。でも本当に扱いたいと思った生産者なら、簡単に諦めず、時間をかけて関係を築いていくしかない。
今も、何度も現地を訪れながら関係を築いている生産者がいます。人気のある造り手ほど、数回会っただけで簡単に契約できるものではありません。それでも、本当に素晴らしいと思った生産者であれば、時間をかけて自分たちが日本でどう伝えていきたいのかを話し続けます。
一人の生産者と関係を築くためだけに、何度もヨーロッパへ足を運ぶこともあります。時間もコストもかかりますが、それを惜しんでいては得られない信頼があると思っています。
会社の規模ではなく、生産者への理解の深さや、日本でどう価値を伝えていくかという部分で選ばれる会社でありたいと思っています。
若者へのメッセージと今後のビジョン
若いうちに海外へ出ること
学生のうちにやっておくべきことを聞かれたら、「海外へ出ること」と答えます。旅行でただ観光したり、美味しい食事を食べに行くということだけじゃなくて、日本の常識が通用しない場所に身を置く経験を、若ければ若いほどしておいた方がいいと思っています。
私自身、英語もできないなかでアメリカへ飛び込んだ経験が、今の仕事の根っこになっています。AIを活用することで情報収集は便利になりましたが、最終的に判断できる知識や感性は、自分自身が持っていなければいけません。
AIで情報を集めることはできても、実際にワインを味わい、自分の感覚で判断する経験そのものは代替できないと思っています。
10月、仙台にワインバーを開く
直近の目標は二つあります。一つは、今まさに交渉中のフランスの生産者との契約を成立させること。もう一つは、今年10月に仙台市内にワインバーをオープンすることです。
今は輸入したワインを他の飲食店様や個人のお客様に販売していますが、自らワインバーを構えることで、生産者とお客様を直接つなぎ、自分たちが本当に素晴らしいと思うワインを体験してもらえる場所をつくりたいと思っています。
仙台にも素晴らしいレストランやワインを愛する方々がたくさんいます。その一方で、まだまだワインを楽しむ人が広がっていく余地のある街だと思っています。自分たちの店を通して、ワインをもっと身近に楽しむ人が増えていけば嬉しいですね。
編集後記
今回のインタビューで一番印象に残ったのは、梅木さんが「直接」という言葉を何度も使っていたことです。生産者のところへ直接飛び込む、お客様に直接届ける、その一貫した姿勢は、単なるこだわりではなく、ビジネスモデルそのものになっていました。学生起業を少しかじっている身として、「コストを抑えるために中間を省く」という発想は理解できるつもりでいましたが、梅木さんの「直接」は効率ではなく、熱量と信頼のためだということが伝わってきました。沢山のお金をかけて一人の生産者に会いに行き、30分で「またね」と言われても次の訪問を予約する。その粘り強さを支えているのは、好きであり続けることなのだと感じました。ワインへの入口が知的好奇心だったという話も、私自身が物事を深めるヒントになりました。