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納得できないことはやらない。投資銀行のトレーダーが宿泊業のDXに懸ける理由

納得できないことはやらない。投資銀行のトレーダーが宿泊業のDXに懸ける理由
PROFILE
株式会社スマートホテルソリューションズ 代表取締役
高志保博孝

金利デリバティブトレーダーから、まったく畑違いの宿泊業へ

大学院を出て、そのまま投資銀行に入った

私はもともと理系で、大阪大学の大学院まで進みました。ただ、卒業する二十五歳のときに選んだのは、文系就職での投資銀行でした。トレーディングの仕事で、金利デリバティブを扱っていたんですよね。

リーマン・ショック後、上司と喧嘩してその日に辞めた

働き始めてからしばらくして、リーマン・ショックが起きました。収益はどんどん減っていって、社内の空気もギスギスしてくるんですよね。みんなで収益を取り合っている姿が見えてしまって、だんだんつまらなくなってきて。もともと辞めたいなと思っていたところに、上司と喧嘩して、その日のうちに辞めたっていう感じです。だから、辞めたあとに「これがしたい」というものが、あんまりなかったんですよね。

副業の不動産投資から、宿泊業、そしてITへ

きっかけは副業の不動産投資だった

投資銀行に勤めながら、副業で不動産投資をしていました。お給料はそんなに悪くなかったことに加えて、私自身はあまりお金を使わないので、不動産にばかり投資していたんです。そこから事業や投資もいろいろと手がけるようになって、民泊が不動産と親和性が高いなと気づいたのが、宿泊業に入っていったきっかけです。

民泊の規制強化を機に、宿泊業へ本格参入した

民泊は法律の規制がだんだん厳しくなってきたので、簡易宿泊業に業態を移していきました。小さなスペースにホテルをいくつも建てていく形になるので、拠点が分散するんですよね。分散しているからこそ、ITを使って管理したほうが効率がいいと気づいて、そこからIT化を進めていきました。おそらく、チェックインに顔認証を導入したのは、日本でもかなり早いほうだったと思います。

ジェフ・ベゾスの本を読んで、世界の見え方が変わった

その頃、ジェフ・ベゾスの本を読んだんです。コンビニエンスストアやスーパーマーケットがこれからどう変わっていくか、といった内容が書かれていて、そこからIT関連の本もいろいろ読み込みました。「IT=分散、労働力=集約」というキーワードが自分の中で見えてきて、ホテルは小さな拠点があちこちに分散している業態だから、ITを使わないと絶対にうまくいかないと確信しました。

グループ内のシステム会社が乗っ取られ、作り直している

その後もシステムを発展させてきたのですが、グループ内にあったシステム会社の株主同士で取り合いになって、乗っ取られるような形になってしまったんですよね。今はそのシステムを、あらためて作り直している最中です。年内から来年の頭にかけて、顔認証だけではなく、仮想空間上にホテルのライブの状況を映し出す「デジタルツイン」のような仕組みも発表しようと思っています。

仲間は、方法論ではなく人柄で集まる

インターン生には指示を出さない

インターン生は二十人ほど受け入れています。会社からの指示は、あえてしません。自分がやりたいことを自分で見つけて、それに向かって行動し、実現していく。ある種、ほったらかしでチャレンジしてもらう形にしています。「好きなことをやっていい」と言われて、すぐに動ける人はあまり多くないと思っていますが、挑戦を応援するスタンスでインターン生を取り入れています。

目の前にいる人と、たまたま一緒にやってきた

エンジニアの仲間集めも、あらかじめ計画していたわけではありません。たまたま同級生が友人がITエンジニアで、彼がちょうど仕事を辞めるタイミングだったので、一緒にやろうという話になったんです。目の前にいる人たちの組み合わせから、自然と事業が広がっていったという感覚に近いかもしれません。

経営で大事にしているのは、人の成長と人柄

人の成長や変化がいちばんうれしい

事業をやっていて、いちばんやりがいを感じるのは、人の成長や変化を実感できたときです。今は多くの人が方法論ばかりを追いかけて、それを習得すれば結果が出るという幻想の中で頑張っていますが、それだけでは成功しません。素晴らしい人間が、素晴らしい結果を生むのは当たり前のことだと思っています。人柄がいいから人やお金が集まるし、そういう人は相手のために夢中で頑張れる。儲かるからやっている人は、続かないんですよね。

レストランの売上目標のようにはいかない

レストランで「売上目標」や「客単価」を掲げることがありますが、そんなものはコントロールできません。来店したお客さまに「このお店、良かった」と思って帰ってもらう。それを毎日繰り返すだけで、自然と売上は上がっていきます。日本人はもともとそういうことを大事にして生きてきたはずなのに、いまは納得のいかない方法論を丸暗記して繰り返すことで、退屈な世の中になってしまっているように感じます。

弊社には勤務時間もルールもない

弊社には勤務時間もなく、決まったルールもほとんどありません。自分の人生を自分で生きているのだから、自然と動くはずだという考え方です。リモートが中心で、実際に顔を合わせる機会も少ないのですが、そうすると何もしていない人が自然と浮き彫りになってきます。会社に出社していれば、みんなが座ってパソコンに向かっているだけで「全員が仕事をしている」という安心感がありますが、実際には何もしていない人も多いんですよね。

自由には責任が伴います。緊張感はありますが、それが本質だと思っています。淡々と指示されたことだけをこなしたいという人もいますが、そういう働き方は、これからAIやロボットに置き換わっていく部分でもあると感じています。

「一人旅」市場を見据えた、bnb+の強み

いらないサービスをつけない、シンプルな宿泊施設

弊社が展開する格安ホステル「bnb+(ビーエヌビープラス)」では、いらないサービスをつけず、シンプルで安全な宿泊を、安い価格で提供することを徹底しています。物にお金をかけず、ドミトリー形式の一人用ベッドを中心に、一人旅の旅行者に向けたサービスを展開しています。

インバウンドが増えるほど、一人旅が増えると見ている

インバウンドは四千万人規模から六千万人規模へと、今後も拡大が見込まれています。最初はツアー客や団体客が中心でも、リピートするごとに旅の人数は減っていくと予測しています。旅は一人がいちばん身軽で、予定を詰めず、そのときどきで決められるのが心地よいものです。だからこそ、一人旅の市場を狙っています。

業界全体が苦しむ中でも、増収を実現している

中国からの旅行者が国交の影響で減り(チャイナショック)、業界全体としてはホテルの単価が下がって売上が伸び悩んでいる状況です。そうした中でも、弊社は売上が伸びています。想定していたよりも早く、一人旅のニーズの強さを実感しているところです。この結果を受けて、店舗数を増やしていく計画を進めています。

納得できるまで、自分の頭で考えられる人と働きたい

これから社会に出る人たちの中には、納得できない世の中の方法論をとにかく習得して、その仕組みにはまっていくことに、どこか違和感を持っている人もいると思います。自分で考え、自分が納得できる方法で行動し、失敗してもいいからやってみる。そういう人と、一緒に働きたいと思っています。タスクをこなすだけの仕事だと感じてしまう人には、ワクワクなんて生まれません。社会や仕事がつまらないと感じている人こそ、弊社の仲間になってほしいですね。

編集後記

今回のインタビューで印象的だったのは、高志保さんが繰り返し語っていた「納得できるかどうか」という軸です。投資銀行という「稼ぐこと」が正義とされる世界から、宿泊業という地に足のついた事業へ移り、そこでも「人の成長」や「人柄」を大切にする姿勢に、一貫性を感じました。効率や分散といったビジネスの視点と、人間らしさを大事にする視点が同居しているのが印象的で、自分自身のキャリアを考えるうえでも、多くの学びをいただきました。