プロウィンドサーファーから起業家へ
16歳で始めたウィンドサーフィン
小学生の頃からテニスに打ち込んでいて、本気で選手を目指していた時期もありました。テニスから離れたあと、なにかスポーツをやりたいと思ってサーフィンやスケートボードに手を伸ばし、そのなかでウィンドサーフィンに出会ったのが16歳のときです。やってみたらおもしろくて、オリンピックを目指そうと思い立ちました。リオ五輪の強化指定選手までは経験しましたが、オリンピックそのものにあまりおもしろさを感じられなくて、そこからプロに転向しています。
「テラスハウス」出演の裏側
20歳のとき、フジテレビの「テラスハウス」に出演しました。シーズン1が始まって4〜5回転ほど経ったころの出演です。声をかけていただいてオーディションに行き、よくわからないまま受かっていた、というのが正直なところです。ウィンドサーフィンはマイナースポーツなので、テレビに映ることで少しでもメジャーにできたらいいなという思いで出演を決めました。番組をきっかけに知名度が上がり、フォロワーは30万人ほどまで増えて、芸能の仕事も来るようになりました。ただ、芸能人になりたかったわけではなく、当時は海外のワールドツアーを転戦していたので、日本にいながら仕事を受けることはほとんどありませんでした。
最初のビジネスは洋服屋
20〜21歳のころ、芸能活動を通じたご縁で、横浜の商業施設の1階にセレクトショップを立ち上げました。オリジナルブランドの服とセレクト商品をあつかうアパレルのお店です。ただ、海外を転々とする生活が続いていたこともあって、このお店は撤退することになりました。
湘南で仕掛けた大型シェアハウス事業
きっかけは湘南での出会い
23歳のころ、湘南でよい出会いがありました。「テラスハウス」というシェアハウス番組に出演した経験や、海外生活のなかで外国人とシェアハウスで暮らしていた経験もあって、シェアハウスはおもしろい仕組みだと感じていました。そこで「サニーサイドイン」という名前のシェアハウスブランドを立ち上げ、湘南エリアでおよそ150室、10棟ほどの規模まで展開しました。ホテルを運営している不動産会社と協業して開発を進めていったので、湘南でも最大級のシェアハウスと言われるまでになりました。今の会社を法人化したのも、この事業がきっかけです。
「自分の武器」で戦うという発想
不動産や物件運営の知識は、まったくないところからのスタートでした。当時は自分が持っている武器で戦おうと考えていて、ウィンドサーフィンや海のカルチャーを軸に事業を組み立てていました。洋服のブランドで海のカルチャーを発信したり、大会やイベントをプロデュースしたりするなかで、「海を広げるにはどうしたらよいか」を考えるようになり、若い世代を湘南に住まわせてしまおうという発想に行き着いたのがシェアハウス事業の原点です。家賃相場や利回りの計算といった知識もなかったので、パートナー企業の社長に教えてもらいながら、入居者と地元企業を繋ぐ人材紹介や入居者や入居希望者向けイベントのスポンサー獲得など、家賃収入以外の収益化の方法も学びながらつくっていきました。
映像制作や飲食業にも挑戦
CMを作り、プロモーションとして全国の映画館でシェアハウス事業のCMを流していたことがきっかけで映像そのものに興味を持ち、映像制作会社やメディア事業も立ち上げました。そこから飲食店のプロデュースにも取り組み、4店舗ほど手がけたほか、実際に飲食店の運営もおこなっていました。
保護犬猫と福祉をかけ合わせた今の事業
妻の保護活動がきっかけ
今の事業につながったのは2019年のことです。妻がボランティアで犬猫の保護活動をしていたことがきっかけで、トリミングサロン兼保護施設を立ち上げました。保護活動は寄付や募金、ボランティアで成り立つ業界ですが、寄付や募金に頼らずに収益化できないかと考えて、最初から寄付や募金活動をおこなわない方針で運営を始めています。当時は「株式会社DT」という社名で運営していて、のちに「株式会社ANELLA Group」に社名を変更しました。
ふれあいカフェから就労継続支援B型へ
その後、保護施設兼トリミングサロンから発展させるかたちで、保護犬猫ふれあいカフェ「ANELLA CAFE(アネラカフェ)」を立ち上げました。里親を探しながら譲渡活動をおこなう、オープン型のシェルターのような場所です。そこから障がいのある方に向けた就労継続支援B型という福祉事業に出会い、アネラカフェの運営と組み合わせるかたちで、今のブランドをつくっていきました。フランチャイズ展開を始めてからは店舗数も伸びていて、取材時点でオープン準備中の店舗含め全国140〜150店舗ほどまで広がっています。
業界の非効率を解決する仕組み
寄付に依存しない保護活動
犬猫の保護をおこなう団体の多くは、NPO法人や社団法人、財団法人といった非営利の団体で、寄付や募金、クラウドファンディングによって資金を回し、ボランティアスタッフの力で運営しています。ただ、寄付は寄付する側の気持ちに左右されるものなので、毎年同じ金額が入ってくる保証はありません。そもそも日本は寄付の文化とあまり相性がよいとはいえない国だと感じています。資金が不足すると雇用ができないぶんボランティアだけで運営することになり、受け入れられる頭数にも限界が出てきます。里親を見つけて新しい子を迎え入れていくという循環をつくるための発信力も、業界全体としてはまだ弱いところがあります。
雇用と資金力で救える命を増やす
弊社の場合は1店舗あたり5〜6人を雇用しているので、店舗数がふえるほど雇用も増えていきます。1店舗で20頭ほど受け入れられるとすると、店舗数に応じて受け入れ可能な頭数もふえていく計算です。福祉事業とかけ合わせることで収益性を確保していて、単月での黒字化を各施設ごとに実現できる仕組みになっています。本部だけが儲かって店舗が赤字、という形では店舗数に限界が出てしまうので、全店舗が黒字化できる仕組みをつくることを大切にしてきました。資金力があることで、心臓病など重い病気を抱えた犬猫を保護したときも、クラウドファンディングの結果を待たずに手術に踏み切ることができます。マーケティングの面でも、北海道から九州まで店舗を展開していることだけでなく、本部のメインのSNSでは月間1,000万人ほどが見るメディアに育っているので、保護犬猫や福祉事業の啓蒙としても里親探しという点でも強みになっていると感じています。
社会とつながる就労継続支援B型
福祉の領域での差別化は、就労継続支援B型の中身にあります。一般的な就労継続支援B型では、例えば段ボールの組み立てやねじとナットの接合といったような軽作業と言われるものが中心で、施設が社会から切り離されてしまっているケースが少なくありません。弊社の場合は一般のお客さまを迎える店舗として運営しているので、接客や犬猫のお世話、散歩といった業務そのものが訓練になっていて、社会との接点が非常に多いタイプの就労継続支援B型になっています。利用者さんやご家族にとっても、その先の未来が見えやすい環境だと思っています。オープン型で売上が立つ仕組みのため、利用者さんに支払われる工賃も業界平均の2倍ほどになっていて、アニマルセラピーの効果もあり、利用者さんと犬猫の相性のよさも実感しています。
学生へのメッセージ
悩めること自体が強み
私自身は大学にほとんど通わず、海外を転々としていたので、えらそうなことは言えません。ただ、こうした記事を読んで自分のキャリアについて考えているような学生は、それだけで十分優秀だと思っています。就職してうまくいかなければ辞めればよいですし、起業して失敗しても何の問題もありません。最低限の学びさえあれば、仕事はいくらでもあると感じています。優秀な人ほど転職に不安を感じがちですが、実力があればどこでも雇ってもらえるはずなので、やりたいことに自信を持って飛び込んでいってほしいと思っています。
編集後記
早稲田大学3年生で学生起業を経験している私にとって、伊東さんの「自分の持っている武器で戦う」という考え方はとても印象的でした。ウィンドサーフィンやシェアハウス、保護犬猫カフェと、一見つながりのない事業を経験しながらも、そのときどきの強みを生かして仕組みをつくり続ける姿勢に学ぶところが多くありました。寄付に頼らず「利益を出すことで救える命をふやす」という発想は、社会課題の解決とビジネスの両立を目指す私たちの世代にとっても、大きなヒントになると感じています。