テニスに明け暮れた福岡時代
365日、部活のために学校へ
小学校ではバスケットボール、中学からはテニスに打ち込んでいました。入った中学のテニス部は、2つ上の先輩たちが全国中学生大会で優勝するほどの強豪。練習はほぼ365日で、正月も休みなし。朝練をして、放課後も夜7時くらいまで練習して -ほとんど部活のために学校に行っているような3年間でした。
「キャプテンらしくないキャプテン」
3年生ではキャプテンを任されました。ただ、先生のやり方に疑問を持って、反抗していた時期もあります。自分たちで練習メニューを組み立てて勝手にやったりして、顧問の先生からすれば、とんでもないキャプテンだったと思います。
それでも、自分なりの軸を持って、周りと協力しながら目標を目指していく -そのプロセスや自分で意思決定をすることで責任感を感じられたのは、いまにつながる経験でした。
二浪と「息抜きの時間」
予備校への道は、誘惑が多すぎた
親との約束は「東京に行くなら大学へ進学すること」。東京に出たい一心で受験勉強を続けましたが、正直、身が入りませんでした。浪人中、予備校へ向かう道には誘惑が多すぎたんです。パチンコ屋さんに入ったり、雀荘に行ったり。机に向かって必死に勉強した記憶はあまりなくて、「息抜きの時間」が圧倒的に多い予備校時代でした。いま考えると、親には申し訳ないですね。
「息抜き」で見つけた、勝率の法則
二浪して法政大学に進学してからも、それは変わりませんでした。大学があった飯田橋は、駅を降りて右に行くと大学、左に行くとパチンコ屋さんという環境。アルバイトをして、麻雀をして、パチンコ屋さんに行く。典型的なダメな大学生でした。
ただ、いまでも役立っていることがあります。パチンコは確率の勝負なので、データをきちんと見て分析すれば、勝つ確率は高くなるはずなんです。お店のクセを分析したり、台の前日・前々日のデータをメモして分析したりして仮説をたててやっていました。麻雀もゲームの流れみたいなものを読んだり、我慢したりすることを学んだと思います。「どうやったら勝てるか」を考え抜く習慣は、あの時間で身につきました。
テレビCMへの憧れが、インターネットに変わった
図書館で出会った「CM図鑑」
高校時代から、テレビCMをつくる仕事に憧れていました。学校の図書館にCM図鑑のような本があって、クリエイティブディレクターの名前が載っている。好きなCMは大体同じ人がつくっているとわかって、「この人はすごい。こういうものをつくりたい」と思ったのが原点です。東京に出たかったのも、そのためでした。
3年の遅れが、インターネットに導いてくれた
ただ、学生時代もほぼ「息抜き」をしている生活でしたから、1年留年することになります。最後の5年生の段階でも単位はたくさん残っていました。就職活動はほぼせず、どこかの会社に新卒で入るのは難しい状況でした。どうしようかと考えていたとき、当時勢いのあったインターネットの世界に目を向けました。Yahoo!で検索したら当社(ファンコミュニケーションズ)が上位に出てきて、条件も悪くなかった。それで、アルバイトとして応募したのが始まりです。
振り返れば、同級生の多くはまだエントリーシートを手書きで書いていた時代です。私が浪人したり留年していた分、就職を考える頃には、インターネットが一般の学生にも普及し始めたタイミングと重なった。もし3年の遅れがなければ、インターネット業界には来ていなかったかもしれません。
入社初日から、テレアポ
アルバイトには「この期間に何件受注したら正社員」という基準が決まっていて、入社初日からテレアポをしていました。数字を達成して正社員になり、メンバーとしてアサインされたのが、私のキャリアの始まりです。
「3年遅れ」の焦り
繰り返しますが、二浪して5年大学にいたので、周りより3年遅れているんですよね。地元に帰ると、同級生は社会人3年目になっている。今まで「息抜き」しかしていない学生時代でしたから、とにかく周りに追いつかなければいけないと必死でやった記憶がありますね。インターネットという変化の激しい業界や実績があれば、社歴など関係なく認めてくれる会社に入れたことが、良かったと思います。
新規事業での挫折
順調なキャリアを、自分から手放した
正社員になってからは、当社のアフィリエイトサービス「A8.net」を3、4年ほど担当し、マネジメントも経験しました。ただ、3年も経つと少し飽きも来るところがあって。もともと、いずれは独立して自分でビジネスをやりたいという思いもあったので、当時の上司に相談したんです。すると「独立はいつでもできる。もう少しビジネスや事業のつくり方を学んでからでもいいのではないか」と言われて、新しいことに挑戦する部門に異動させてもらいました。
通用しない自分に気づいた、もやもやの2年間
ところが、異動してからは、うまくいかない時期が続きました。A8.netでは順調にマネージャーになれていたのに、メディアづくりのような新しい仕事では、これまでのやり方がまったく通用しない感覚がずっとあったんです。
モチベーションが下がっていたというより、自分のインプットとアウトプットの量が圧倒的に足りていない、という感覚でした。
新しいことを机の上でずっと考える毎日だったんですが、今考えてみれば、そんなことでは新しい事業は立ち上がりません。色んなサービスのユーザーになってみたり、色々な人と話してみたり、正解がないなかでとにかく動くということ、机上ではなにも生まれないこと、世の中で何が流行っているか、どこにたつべきか、顧客は何を求めているか、2年くらいかけてそういう行動をすることで、もやもやが晴れていった気がします。
「意思決定の回数」が人をつくる
20代でPLを見た経験が、財産になった
社内で評価されるために何かを意識していたかという質問ですが、正直、そういう感覚はありませんでした。新しい事業をやっているときは、それどころではなかったというのが実際のところです。
その一方で、当社くらいの規模の会社で新規事業に取り組む良さは、裁量を持てることだと思っています。予算を組み、人を採用する -そういう意思決定を自分でできる。結局のところ、大事なのは意思決定の回数なんですよね。新規事業は、うまく進まないことのほうが多い。それでも、決めなければいけない場面を数多く経験するほど、精度そのものはさておき、責任感や自覚が育っていきます。
アフィリエイトサービスの新規開拓営業の部署にいた頃は、1人あたりの人件費をほとんど意識しなくても、目標に向かって頑張れば成果と評価につながる環境でした。一方で、事業が黒字かどうかを自分で見るようになると、社員1人を雇うために毎月大きな経費がかかっている現実にも気づかされます。事業やPL、会社がどう動いているかを20代のうちに学べたのは、大きな財産でした。
事業を続けるか、やめるか。関わった人たちの思いを背負いながら、やめなければならないときにはやめる。そういう意思決定を、役職に関係なく経験できたことが、私にとっては大きかったと思います。
裁量があるとはどういうことか?
新卒採用の面接で「すぐにでも裁量が欲しい」と話す方は多く、「役職をつけたい」とおっしゃる若い方が増えているのは素晴らしいことだと感じます。
ただ、裁量と責任はセットなんですよね。まずは与えられた役割のなかで実績を出す -つまり責任を果たすことが先です。学生時代と違って、社会では「やった」というアウトプットだけでは足りません。成果(アウトカム)に結びついて初めて、責任を果たしたことになる。そうやって信頼を積み重ねることで裁量は得られるものだと思います。
当社は違いますが、役職に就かないと裁量を与えられない、意思決定ができないのだとしたら、それはそれで、上を目指していけばいいと思います。これは会社によって違うのではないかと思います。
プロシューマー・ハピネスというビジョン
26年続くサービスの、その先へ
当社は創業から約26年、A8.netというサービスを中心に事業を展開してきました。これだけ長く続いているインターネットサービスは、実はそう多くありません。この価値をどう広げていくかを考えて生まれたのが、「プロシューマー・ハピネス」というビジョンです。
プロシューマーとは、プロデューサー(つくる人)でありコンシューマー(消費する人)でもある人のこと。TikTokやYouTubeで発信してファンをつけている方々のように、自己表現として情報発信を続けている人たちを指しています。
そういう人たちが活動を続けるには、2つの要素が必要だと考えています。1つはお金。資本主義の社会で好きなことを続けるにはお金が必要で、それを支援するのが当社の役割のひとつです。もう1つは、共感。お金だけでは活動は続きません。ビジョンや共感があってこそ長続きする。この両輪を支えるサービスを提供していきたいんです。
「発信する人」の先まで、価値を連鎖させる
情報発信をする人がいて、同じ悩みを持つ人が、その発信に背中を押されて商品やサービスに出会う。そこには、発信した人にも受け取った人にも価値が生まれます。何かが再定義されたり、編集されたりすることで生まれる価値を、社会にどんどん増やしていきたい。それをマーケティングやインターネット、そしてこれからはAIの領域でソリューションとして提供し、プロシューマーの先にいる消費者にまで価値を連鎖させていきたいと考えています。
たとえば、まだあまり知られていない芸人さんたちに、ラジオアプリ「GERA」という発信の場を提供する取り組みも数年前から続けています。リスナーがコメントを書き込める仕組みをつくり、その反応を芸人さんに届ける。場をつくり、発信を続けられるようにインセンティブや承認欲求を満たすプロセスを設計していく。それが当社の取り組みです。
これから社会に出るあなたへ
週に1日、ネットを断ってみる
これから社会に出るみなさんにとって、希望の多い時代である一方、大変な時代になるとも感じています。AIとはポジティブに向き合ったほうがいい。ただ同時に、自分の頭で考えることは、学生のうちにこそやっておいてほしいんです。
社会に出れば、どの会社でも「AIを使ってください」と言われる場面が必ず来ます。当社もそうです。そうなると、人間の思考力がある程度落ちていくのは、仕方のない面もあります。だからこそ、あらゆることを自分の頭で考える機会を、意識的につくってほしい。
考えることの一番の邪魔になるのは、実はネットなんですよね。TikTokやYouTubeも、受動的に見ている分には同じです。週に1日でもいいので、ネットを断って、自分で物事を考える時間や、本を読む時間をつくる。AI時代だからこそ、自分が実現したいことやそのプロセスを自分で考えられない人は、AIをうまく活用することもできないと思います。
変化を受け入れられる人と、働きたい
当社はいま、たくさんの挑戦をしなければならない会社です。AIが世の中を大きく変えているタイミングで、私たちはその最先端に近いビジネスをしています。人間の価値そのものが、これからの考え方次第で変わっていく時代。だからこそ、あらゆる変化を受け入れる必要があります。
変化するには自分で考えることが必要で、そのためには裁量を持てる環境も大切です。上場している会社なのでベンチャーではないと思われることもありますが、こういう時代だからこそ、ベンチャーのように動いていかないと取り残されてしまう。エネルギッシュに動ける方には、きっと向いている環境だと思います。
編集後記
今回のインタビューを通じて、二宮さんが自分の意思をしっかりと持ち、それを貫きながら思考し、アウトプットし続けてきたことが、成果につながる大きな要因なのだと感じました。私自身、AIに頼る場面が増えていて、自分の頭で考える時間が減っていることに気づかされました。週に1日ネットを断つというお話は、すぐにでも取り入れてみたいと思います。意思決定から逃げずに、自分自身のキャリアにも向き合っていきたいと、強く思える時間になりました。