インタビュー

生活者の「本音」を届ける。損保ジャパンから家業のリサーチ会社へ

生活者の「本音」を届ける。損保ジャパンから家業のリサーチ会社へ
PROFILE
日本インフォメーション株式会社 代表取締役社長
斎藤 啓太

損保ジャパン時代に出会った「データの仕事」

学生時代は、代表者としてキャリアを積んでいくという道と、金融機関で働くという道、2つの方向性の間でずっと悩んでいました。政治経済学部で国際金融学を学んでいたこともあり、その天秤は金融機関でのキャリアチャレンジのほうに傾いていきました。

損保ジャパンに入社してからは、社内資料として生活者の声を拾い、ニーズを確認したうえで商品開発をするという場面に触れる機会がありました。経営の意思決定に、リサーチというデータが直接使われている。そのことを知ったとき、これは非常に面白い仕事だと感じたんですよね。経営の意思決定に自分も直接関与できるかもしれないという実感が、キャリアを考えるうえでいちばん大きな動機になりました。

リサーチャーとして力をつけた日々

損保ジャパン時代に感じたおもしろさをきっかけに、自分のキャリアとしてこの分野にチャレンジすべきだと思い、まずは別のリサーチ会社で企画から分析までを行うリサーチャーという仕事に就きました。

当時はいまのような労働環境ではなかったので、夜な夜なデータとにらめっこをしながら、クライアントの意思決定に活用してもらえるようにレポートをまとめ、プレゼンテーションをする、そんな日々を送っていました。

一定の専門性が身についてくるなかで、マーケティングリサーチという事業のなかで一プレーヤーである以上に、もっと深く関与してトライしていきたいという思いが芽生えて、そのタイミングで日本インフォメーションに移りました。

家業としては、祖父が創業し、そのあと叔父、父と引き継がれてきた会社になります。代々やってきたという背景があるので、自分自身のキャリアとしても、そこは大きな軸のひとつになっていました。

マーケティングリサーチという事業

マーケティングリサーチの事業を説明するときによく使う図があります。私たちのクライアントは、なにかしらの商品やサービスを開発して生活者に提供している企業です。ただ企業側は、自社の技術やアイデアだけで商品開発をしがちで、それが生活者の「こんなものが欲しい」というニーズと必ずしも合致しているとは限りません。

自社目線だけで商品やサービスを発売してしまうと、うまくいかないケースが増えてしまいます。そこで、商品開発のそれぞれの段階で、アンケートやインタビューといった手段を通じて生活者のニーズやウォンツを拾い上げ、価値ある情報に変換する。それがマーケティングリサーチの意義で、売れる商品をつくる確率を上げていくところに貢献するのが私たちの事業です。

ビール開発を例にした一連の流れ

私たちのクライアントには消費財メーカーが多く、ビールメーカーや化粧品メーカー、トイレタリーメーカーなど、身近な商品の開発をリサーチの面からお手伝いしています。

たとえば新商品のローンチというお題が与えられると、まずは生活者のニーズ把握から始まります。グループインタビューやインターネットリサーチなど、様々な手法のなかから最適なものを企画・提案し、実際にインタビューを行って、発言の内容から背景やインサイトを分析し、レポートにまとめて報告します。

そこから、新しいアイデアを絞り込んだりブラッシュアップしたりするフェーズに移ります。インターネットリサーチで定量的にデータを集め、コンセプトの方向性や留意点を提言する。次に、実際に試作品をつくって試してもらう段階に入ります。看板にどれだけ良いことを書いても、中身が伴っていなければ、最初の購入は取れてもリピートにはつながりません。

会場調査では、現行品と新商品の味を比べてもらったり、看板のアイデアと合わせて「買ってみたいと思うか」を聞いたりします。パッケージデザインについても、コンビニの売り場を疑似的に再現し、複数のデザイン案でお買い物ゲームをしてもらって、いちばん売り上げが取れそうなデザインに絞り込んでいきます。最後は、どんなテレビCMやインターネット広告が印象に残り、購買意欲の喚起につながるのかを確認し、いちばん良い案に出稿費用をかけていく。

こうして、身近な消費財の裏側にある、様々な意思決定の場面に必要なエビデンスやブラッシュアップのアイデアを提供しているのが、私たちの事業です。

AIでデータの付加価値を高めていく

マーケティングリサーチはデータのビジネスなので、今後はAIの活用を絡めて、クライアント企業の意思決定により有用なデータを提供していくことがビジョンになります。

これまでは、インタビューの文字起こしからレポート作成まで、すべて人が行っていました。いま私たちは、リサーチのインタビューに特化して正確に文字起こしができるAIプロダクトを開発し、クライアント企業に提供しています。ブランド名や商品名、専門用語が数多く登場するインタビューでも正確に文字起こしができるようにチューニングし、人間のリサーチャーが長年培ってきたテキストのまとめ方をAIに学習させることで、即時にレポートを出せるようにするものです。

インターネットのアンケートについても、選択肢で答える質問は白黒つきますが、自由記述の理由については、回答が薄くなってしまうモニターが見られるという課題がありました。そこで、「なんとなく買いたい」と答えた方に対して、AIがインタビュアーとなり、デザインや味、価格についてなど、次の質問で一人ひとりに合わせて深掘りをしていく。何千人、何万人単位のアンケートでも、曖昧だった回答データをよりリッチにしていくプロダクトを展開しています。

こうしたかたちで、これまで提供してきたデータにより付加価値をつけていき、クライアントの意思決定に貢献していきたいと考えています。

学生へのメッセージ

学生時代にやりたいことが明確に決まっている人ばかりではないと思います。そういうときに何を判断軸にするかということでいうと、世の中の変化やトレンドの最前線に多少さらされている業界に身を置いてみるのも、ひとつ面白い選択だと思います。

当社はデータビジネスなので、AI活用やビッグデータといった変化にさらされている業界です。結果として、そうした業界にいるからこそ、世の中の動きやトレンドに沿った能力やスキルが自然と身についているという実感があります。もし迷ったら、いまの世の中の変化の中心はどこなのかを捉えて、そこに飛び込んでみる。そのくらい軽い気持ちで、自分に合った仕事や興味を見つけていってもらえたらと思います。

編集後記

今回お話を伺って、身近な商品の裏側にこれほど緻密なリサーチのプロセスがあることに驚きました。損保ジャパン時代の気づきから家業を継ぐという決断まで、キャリアの分岐点をひとつずつ丁寧に選んでこられた印象を受けました。AIを活用して「人の言葉」をより深く掘り下げていく取り組みは、データと人間の感覚の両方を大切にする姿勢が表れていると感じます。将来の進路に迷う学生にとっても、示唆に富むお話でした。