インタビュー

「親が笑顔じゃないと、子どもに伝わる」。4人の子育てから生まれた、世界初の常温保存クッキー生地

「親が笑顔じゃないと、子どもに伝わる」。4人の子育てから生まれた、世界初の常温保存クッキー生地
PROFILE
Coloridoh Inc. 代表
竹内 ひとみ

普通の学生から、IT黎明期の営業へ

特別に打ち込んだものはなかった

学生時代は、将来のことも「留学したいな」くらいしか考えていませんでした。ラグビー部のマネージャーをやったり、アルバイトをしたり、いろいろなことにちょこちょこ手を出してはいたんですけど、何かに熱中したことは無く、本当に普通の学生だったと思います。

自分で動かないと数字はつくれない

新卒では営業職に就きました。今の時代でいう IT黎明期のころで、これからインターネットが盛り上がっていくだろうという空気の中に、まさに身を置いていた感覚があります。業界自体もまだそこまで大きくなかったので、いろいろな人に会えたのはいい経験でした。営業研修では、人がどんな心理的な動きをしやすいかを学べましたし、なにより自分から動かないと数字はつくれないという感覚は、今のキャリアにもつながっている気がします。

出産、そして専業主婦としての孤独

できて当たり前の毎日がつらかった

28歳で結婚してからは、夜の接待も多かった営業職を続けるのが難しくなり、妊娠も重なって、いったん家庭に入りました。ただ、1人目を産んだときに、自分自身のアイデンティティがないような孤独感を覚えたんです。家事は、できてあたりまえでできないとマイナス評価。自分のクリエイティビティを発揮するわけでもなく、普通のことを普通にこなさなければいけない毎日が、すごくつらくて。

資格を取って料理教室の講師に

何か自分が成長している実感が欲しくて、料理関係の資格をいくつか取り、大手料理教室の講師になりました。2年ほど働いたところで次男を妊娠し、当時は保育園にも入れない状況だったので、いったん退職。2歳と0歳の子育てをするうちに、年子で3人目を授かり、さらに4人目も授かりました。夫も起業家で会社が厳しい時期だったので、そのサポートをしながら、4人の子育てをする日々が続きました。

4人の子どもとシリコンバレーへ

6,000人を迎えたシェアハウス運営

子どもたちがまだ小さく、それだけでも手一杯だったころ、夫が「シリコンバレーに行きたい」と言い出して、2014年に家族でアメリカへ渡りました。起業家向けのシェアハウスを開き、7年間で6,000人以上のゲストを世界中から迎え入れました。毎日、20人分のご飯を3食つくりながら子育てをして、というシェアハウス運営を続けるうちに、「これだけでは食べていけないな」と感じるようになりました。

「親を笑顔に」という原点

ないない尽くしからのスタート

自分でも何か起業しようと、今のアイデアを思いつきました。アイデア自体はほかにもいろいろあったんですけど、起業の前提条件としてお金がなかったんです。ネットワークもキャリアもない、本当にないない尽くしの中で、初期投資がかからないものを考えていました。そのなかで1番のペインだと感じていたのは、子どもではなく親、とくに母親が笑顔じゃないことが、子どもに1番悪い影響を与えてしまうということ。まわりを見ていてもずっと感じていた課題でした。

初期投資がかからず、資金調達をしてスケールできるイメージが描けて、なおかつ親を笑顔にできるもの。この3つの条件をずっと考え続けていました。

食卓がつなぐ人と人

毎日ご飯をつくる中で気づいたのは、同じ時間にみんなで食卓を囲むと、いろいろな国から来た人たちが自然と仲よくなるということでした。食事を出さないシェアハウスだと、住人同士はただの同居人止まりになりがちなんですけど、うちは子どもも含めてみんなで食事をしていたので、家族のような関係性ができていたんです。食事を一緒にすることは、リラックスしやすく、オープンになりやすく、距離を縮めるためのすばらしいツールだと思っています。

世界初、常温保存への挑戦

クッキーが世界共通の言語になる

国によって食文化はまったく違いますが、スケールするイメージを持てて、なおかつ世界中どこでも通じる食べ物と考えたときに、たどり着いたのがクッキーでした。ただ、つくりたかったのはクッキーそのものではなく、人と人をつなぐコミュニケーションツールです。だからこそ、クッキーづくりを体験価値として再定義したいと考えました。

当時アメリカではクッキードウの市場が伸びていましたが、ほとんどがチョコチップクッキーです。油が多い生地は焼くと丸く広がってしまい、形をつくれません。それでは個性も出ないし味気ないので、形をつくれる生地にしたいと思いました。また、毎日ゲストにアレルギーの有無や宗教上食べられないものを聞いていた経験から、誰もが分け隔てなく楽しめるものにしたいという思いも強くありました。そこでアレルゲンとされる28品目を使わない開発を考え始めます。さらに、日本以外の国にはクール宅急便がないため、常温保存にしないとビジネスとして成立しません。冷蔵が必要になると保管や輸送のコストが一気に膨らんでしまうからです。

3年間、ひたすら実験を重ねた

常温で保存するには、菌が繁殖しないところまで水分活性値(すいぶんかっせいち)を下げる必要があります。ただ、水分がない生地はパサパサで、生地としてまとまりません。粘土のようにするために液体を混ぜようとしても、油や水あめは加熱すると広がってしまい、せっかく型で抜いた形が保てなくなってしまいます。焼く前は粘土のようで、焼いても形が崩れず、しかも常温保存ができる。この条件を満たす配合を見つけるまで、見つけた材料をひたすら試す毎日を、3年ほど繰り返しました。

味の素のアクセラレータープログラムに採択された際、研究者の方に「これは僕たちにはつくれない」と言っていただいたこともあります。食品メーカーとしての「常識」を持たなかったからこそ、逆に柔軟にいろいろな材料を試せたのかもしれません。ネットでプロ並みの知識は誰でも手に入る時代だからこそ、大事なのは発想力だと思っています。エジソンが電球のフィラメントに竹を使ってみようと思いついたのと同じように、トリッキーな発想から実験してみることが、この生地には必要でした。

正解のないクッキーが教えてくれること

おじさんも可愛い形をつくる

うちの製品の1番の魅力は、みんなが使えるものであることです。アレルギー対応は大変でしたが、それ以上に大事にしているのは「正解がない」ことだと思っています。一般的なお菓子づくりキットは、これをつくりましょうという正解が決まっていますが、うちは何をつくるかから自分たちで考える必要があります。最終的にはクッキーとして焼き上がって食べられるので、どんな形になっても、それがすべて正解になるんです。だからこそ気軽に自己表現ができて、チームビルディングで使っていただくと、意外とおじさんが可愛らしい形をつくったりもします。正解がないからこそ、その人らしさが見えてくるのがおもしろいところです。

ボーダレスで、カラフルな世界へ

アメリカを軸にグローバル展開

コロナ禍をきっかけに日本に戻ってきたので、まずは日本の事業をしっかり育てることを決めています。ただ、もともとアメリカで立ち上げた会社で、本社も引き続きアメリカに置いたままです。粘土遊びやクッキーづくりはどの国でも親しまれているものが、たまたま融合していなかっただけなので、まずはアメリカをメインマーケットにしながら、いずれは積み木やレゴのように、いろいろな国で当たり前に使ってもらえる存在を目指しています。

うちのビジョンは「ノーボーダー・ビー・カラフル」。ブランド名の由来にもなっている「コロリド」は、スペイン語で「カラフル」という意味です。大人も子どもも、世代も性別も国籍も関係なく、誰もが使えるものをという思いから、この形にたどり着きました。積み木だと大人は飽きてしまいますが、食べものだからこそ、大人も一緒に楽しめるのだと思います。

甘い思い出として届けたい

デートで一緒につくれば、思い出の場所について話しながら手を動かせますし、お互いの顔を見ながらつくるのもいいと思います。食べることで感覚が統合されて、記憶にも残りやすくなるので、誰かとの甘い思い出のひとつとして使ってもらえたらうれしいです。

学生へのメッセージ

最終ジャッジは自分で下す

人の話を聞くことはとても大事です。ただ、それを聞き入れるかどうか、実際にトライしてみるかどうかは、最終的に自分で決めることだと思っています。たとえばアルバイト先の店長に不満があるなら、愚痴をこぼす前に、まずは自分がその店長に好かれるにはどうすればいいかを考えて動いてみる。自分にできることを探して行動することが、成長につながる鍵になると思います。

ハードシングスを歓迎する

苦手な人がいたら会わないようにするのも含めて、いろいろな対応を考えられますよね。ハードシングスがあるからこそ、人は考えることができます。地震があるからこそ耐震構造を考えるのと同じで、うまくいかないことに前向きにチャレンジしていく経験を、若いうちにたくさん積んでおくのはとても大事なことだと思います。

編集後記

今回のインタビューを通して、竹内さんの人生には「ないない尽くし」から発想を広げていく力があると感じました。私自身、学生起業に興味があり、リソースの少なさを言い訳にしてしまいがちですが、制約があるからこそ生まれる発想があるのだと学ばせていただきました。4人の子育てをしながら世界初の技術を生み出したエピソードは、挑戦することの意味を改めて考えさせられるお話でした。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。