「物を作れる側」になりたくて
コンサル時代に感じた違和感
私はもともと慶応義塾大学経済学部を卒業したあと、アビームコンサルティング株式会社に入社し、7年ほどコンサルティング業務に携わっていました。特に大きなトラブルもなく、いわゆる普通の会社員として働いていたんですけれども、だんだんと「上っ面の仕事」が増えてきているように感じるようになったんです。
同僚を見ていても、どうやって実現するか、どんな技術を使っているかということには興味関心を持たず、工数管理や統計的なデータ分析だけをこなしていて。そういう仕事が自分自身も増えてくるなかで、実際に良いものをちゃんと作れる側の人間になりたいという思いが強くなっていきました。
副業から始まったものづくり
そこで、コンサルの仕事と並行してコーディングやイラスト制作を自分でやってみるようになりました。そのなかで、クリエイティブな仕事の依頼をいくつかいただくようになり、フリーランスとして活動を始めることになります。
メインで手がけていたのはゲーム系の案件です。ゲーム制作には、プログラムやキャラクターの絵、ボタンなどのUIデザイン、サウンドなど、いろいろな専門家が必要になります。みんなでチームを組んで作り上げる体制の必要性を感じるようになり、2024年12月に合同会社Y.G.Tクリエイトを創業しました。あまり「社会的な課題を解決するんだ」という壮大な思いから始まったというよりは、まずは自分が生き残っていくために会社にした、というのが正直なところです。
数多くの小さなゲーム制作で培った「エンタメを作る」ノウハウ
受託開発の中身
弊社の事業内容は幅広く、これといって一つに絞るのが難しいのですが、一番のメインは受託開発です。「こういうシステムを作りたい」「こういうアプリケーションを作りたい」というご要望をお伺いして、それに合わせたものをお作りするという仕事です。基本的には私自身が企画やコーディングを担当し、イラストなど一部の素材制作のみ外注する体制で作っています。
「楽しく見せる」仕組みづくりが強み
SteamやNintendo Switch向けの大きなゲームよりも、モバイルゲームなどの小さなゲームをメインに数多く作ってきた経験があります。その積み重ねが「システムをエンタメとして作る」ことの得意分野につながっているのだと思います。
単に動くだけシステムではなく、楽しく見えたり、使いながら自然と仕様が身につけられたり、文字を読まなくても体験として理解できたりするようなシステムを制作しています。そのノウハウや仕組みが社内の知見として蓄積されているところが、弊社の強みだと考えています。
ゲームの力で、日常の「退屈」を変えたい
ゲームと縁のなかった場所にゲームを
今後のビジョンとしては、もともと一番強みのあるゲーム開発という軸を活かし、これまでゲームと縁のなかった場所にゲームを持ち込みたいと考えています。一般的に「ゲーム」というとSwitchで遊ぶようなもののイメージが強いと思うのですが、Duolingoのように、楽しく続けるための仕組みとしてゲームを活用する道もあります。キャラクターやアニメーション、エフェクトを入れることで、続きにくいことを長く続けさせる。そうした活用の仕方にも価値があると感じています。
待ち時間や観光を「楽しい体験」に
たとえば、飲食店やクリニックで長く待たされる退屈な時間を、その場でゲームを楽しみながら過ごせる時間に変える。そうした事業を弊社では検討しています。普段は苦しく感じる待ち時間が、楽しい体験に切り替わるのではないかと考えているんです。
観光地でも同じような発想が使えると思っています。有名な観光名所にばかり人が集まり、周辺のほかの魅力的なスポットに足を運んでもらえない、という課題はよくあります。複数のスポットを巡ると独自のスタンプやグッズがもらえる仕組みなど、周遊を促す動機付けの設計は、まさにゲーム開発で培ってきた経験が活かせる部分です。
人間の「もう1回やりたくなる」心理を社会課題の解決に
くら寿司の「ビッくらポン!®」もそうですが、お皿を集めてガチャを回すと、当たるかもしれないという期待値からもう1回やりたくなる。そうした人間の脳の構造を活用する仕組みは、パチンコなどにも通じるものがあります。こうした「人間はどういうところに楽しさを感じるのか」という経験を、単純にゲームを遊ぶこと以外の社会課題や日常の悩みの解決につなげていく。それが、これからぜひやっていきたいことです。
学生へのメッセージ ―― 「タスク」ではなく「仕事」を俯瞰する
記者経験で気づいた「やりたくないタスク」
学生時代は大学のサークルで、学生新聞を作る活動をしていました。取材をして記事を書くこと自体はとても楽しかったのですが、そのまわりにある雑務、たとえばお礼状を送る、封筒を用意する、交通費を記帳するといった作業は、あまり面白くないなと感じていたんです。やりたくないことはつい後回しにしてしまい、それでまわりの人に迷惑をかけてしまう。おそらくこれは、どの年代、どの場面でも起きていることだと思います。
「やりたくない」を「やりたい」に変える。その解決策の一つがゲーム的な考え方を取り入れることなのではないかと考えるようになりました。この発想は、今も事業のビジョンにつながっています。
仕事とタスクを分けて考える
AIが普及していくなかで、就職活動をする学生のみなさんに伝えたいのは、「仕事」と「タスク」を分けて考えるということです。
たとえば法律関係の仕事で考えると、「裁判官」という職業はなくならないと思います。誰かの処遇を判断しなければならないからです。しかし、「この人は刑法何条に該当するかを調べる」というタスクは、人間でなくてもできるようになっていきます。
経理の仕事も同じです。伝票を早く正確に処理するというタスクは代替されうるものですが、企業の決算処理を締めるという仕事そのものはなくなりません。目に見えている一部のタスクだけが得意な人になってしまうのは、危険なことだと思っています。
タスクではなく仕事の全体像を俯瞰する
営業という仕事を例に挙げると、新規顧客への電話は営業に含まれるタスクの一つにすぎません。契約書の管理、既存顧客へのサポート、プロジェクトが破綻しないための適切な見積書の作成なども、すべて営業という仕事の一部です。
もし「電話をかける仕事」という一部分だけを切り取って理解してしまうと、AIに置き換えられた瞬間、自分のやれることがなくなってしまいます。就職活動で先輩や企業の方に話を聞くときは、その仕事にどんなタスクが含まれているのか、もう一段上のレイヤーから俯瞰して見る視点を持ってほしいと思います。それが、これからの時代においてAIに奪われない仕事を見つけるための、一つの手がかりになるはずです。
編集後記
今回、合同会社Y.G.Tクリエイト代表の在間さんへのインタビューを通して、「タスク」と「仕事」を分けて考えるという視点は、私自身の就職活動にもそのまま活かせる学びだと感じました。目の前の作業だけを見て「この仕事はこういうものだ」と判断してしまいがちですが、その仕事がどんなタスクの集合で成り立っているのかを俯瞰する視点を持つことで、見える景色が変わってくると思います。ゲームという手段を通じて日常の「やりたくない」を「やりたい」に変えるという発想も、非常に印象に残るお話でした。