インタビュー

「人が人らしく没頭できる未来」を、飲食業界のデータでつくる

「人が人らしく没頭できる未来」を、飲食業界のデータでつくる
PROFILE
株式会社flaro 代表取締役
安部 修平

プロ野球選手を目指した少年時代

野球一筋、サラリーマン像はなかった

子どもの頃からずっと野球をやっていて、プロ野球選手を目指していました。当時は会社員になるイメージはまったくなく、頭の中にあったのは「プロ野球選手になる」という一択だけだったんですよね。

学生時代のアルバイトは居酒屋でした。今振り返ると、あの現場での経験が今につながっているなと感じています。

居酒屋は一つの会社だった

公認会計士を目指したきっかけは、実は単純に「野球選手と同じくらいの年俸をもらえるには、弁護士か医者か会計士、この3つしか道はない」と思ったからなんです。当時の自分なりにそう考えた末に、 会計士を目指すことにしました。今思えば、野球で培った「一つのことに全力で向かう」感覚が、そのまま勉強に移っただけだったのかもしれません。

勉強をしながら続けていた居酒屋のアルバイトが、すごく楽しかったのを覚えています。飲食店って、キッチンが工場でホールが営業で、店長さんはもう本当に「社長」みたいな存在なんですよね。人を採用して教育もして、集客もして、仕入をして売上を上げて、レジで現金を数えて経理のようなこともする。営業もマーケティングも生産管理も人事も、全部が一つの店舗に詰まっている。

そのことにすごく気付かされて、経営的な目線に照らし合わせながら楽しく働いていました。この「一つの飲食店は一つの会社である」という原体験が、結果的に今の事業のすべての出発点になっています。

会計士を目指すも、道は経理へ

家庭を持ち、経理としてのキャリアへ

会計士の勉強を続けるなかで子どもを授かり、これから家族を守っていく責任を強く意識するようになりました。すぐに簿記の資格を取得して、上場会社の経理として中途入社を決めました。

紡績会社で7年、経理の基礎を築く

明治29年創業、年商500億円ほどの紡績・アパレル系の会社で、経理財務を7年近く担当していました。飲食とはまったく関係のない業界です。工場の原価計算から、子会社の決算、財務諸表の作成、連結決算、有価証券報告書、キャッシュフロー計算書まで、いわゆる「the 経理」のバックオフィス業務を一通り経験しました。

棚卸しや減価償却の方法一つで、金額が何億円、何十億円も変わってくることがあります。監査法人と社内をすり合わせながら決算をつくっていく作業は非常に大変でしたが、同時にすごく学びにもなりました。数字は「ただの結果」ではなく、つくり方によって意味が変わるものだと、身をもって知った時期です。

IPO推進からの転職、管理会計への挑戦

100店舗の飲食企業へ

そんな時に誘いがあって、100店舗ほど飲食店を運営している会社からIPO推進として声をかけてもらいました。もともと転職を考えていたわけではなかったのですが、次に何かチャレンジしたいという気持ちも多少あったんだと思います。これも縁だなと思い、転職を決めました。学生時代に「一つの会社だ」と感じたあの店舗が、今度は100個並んでいる。そういう会社でした。

日次決算の仕組みをつくる

その会社では、経営に資するような財務諸表や経営レポートをつくることの難しさを痛感しました。それまでは月次決算を受け継いで確定させる仕事が中心だったのですが、もっと手前の管理会計、日次で数字が見えるような体制づくりが必要だと感じたんです。決算は「過去を締める」仕事ですが、店舗経営に必要なのは「今日を判断する」ための数字でした。

いろいろなシステムを組み合わせてつなげ、店長さんやSV(スーパーバイザー)さん、本部長さんといった飲食店の管理者が、翌日には売上だけでなく利益まで見られる体制を、約7年かけてつくっていきました。自分でコードを書くわけではありませんが、クラウドやAPI連携といった、当時ちょうど広まりはじめていた新しい技術を活用しながら、散らばっているデータを集約し、価値のあるものに変えていく。それをどう経営判断につなげるかを、ずっと考えていた時期でした。今の「FLARO(フラーロ)」の原型は、間違いなくここにあります。

グロービスで学んだ「経営とは何か」

志・人的ネットワーク・学び

IPOを目指すなかで、労務管理やコンプライアンスなど、経理財務とは畑の違う知識も学ぶようになりました。営業許可書や防火管理者、深夜酒類提供飲食店営業届けといった飲食店特有の許認可、勤怠システムの入れ替え、36協定や労働基準法。会社を管理するために必要な知識を、総合的に学んでいった時期です。ただ、その頃はまだ起業しようという考えはありませんでした。

その会社に勤めながら、グロービス経営大学院にも通いました。経営とは何かをあらためて学ぶ機会で、掲げられているミッションは、大まかには「志」「人的ネットワーク」「学び」の3つです。自分自身が何をしていきたいのかを突き詰めて考える時間は、それまでの人生であまりなかったので、この期間にじっくり向き合えたことが、今につながっていると思います。

ITベンダーへの転身と業界の課題

飲食店とベンダー、両方の気持ちがわかった

その会社がIPOを実現できなかったこともあり、次はDXを推進するIT企業に転職しました。今度は自分がベンダー側の立場になったことで、なぜシステム連携がうまくいかないのか、飲食店の現場経験とベンダーとしての経験、両方の視点から見えてくるものがありました。飲食店経営者はもっとITを学ぶ必要があるし、ITベンダーは飲食のビジネスフローをもっと理解する必要がある。そのミスマッチを強く感じていました。

そこで、今の一般社団法人レストランテック協会を、もう一人の仲間と一緒に立ち上げました。もともとは「RT Meetup」というコミュニティで、ベンダー側と飲食店経営者をつなげる「Connected HUB」をミッションに掲げ、データがつながっていく世界を目指してネットワークをつくっていきました。

がむしゃらだった20代

最初に就職したのは25歳でした。20代は本当に、仕事をするか本を読むかぐらいしかしていない毎日で、かなりの危機感を持って量をこなしていました。その量が30代の飲食系IPOにつながり、30代後半からグロービスや協会活動を通じて人的ネットワークが広がり、40歳ぐらいで起業に至った。振り返るとそうなっているだけで、当時は意識していたわけではなく、ただ無我夢中で進んでいたという感覚です。

flaro創業、掲げたミッション

ミッションを掲げて創業

ITベンダーとして他社の社外取締役やコンサルティング業務に関わるなかで、今のFLAROの前身となるプロダクトに出会い、飲食店の経営管理プラットフォームを自分自身で開発・運営することを決めました。「飲食店経営をスマートに」というビジョンを掲げ、飲食店で働く方たちが仲間やお客様とのコミュニケーションに集中できるように、アナログな業務をなくしていく。エクセルの手入力やFAX送信、メールチェックといった作業に追われる時間を、本来やるべきことに使ってほしい。「人が人らしく没頭できる未来をつくる。」というミッションを掲げ、2022年に株式会社flaroを立ち上げました。

学生時代に見た、社長のように働く店長さん。あの人たちが数字の集計に追われるのではなく、店とお客様と仲間に向き合える状態をつくりたい。突き詰めると、やりたいことはずっと変わっていないのだと思います。

現場も経理も経験した強み

飲食店のアルバイトで現場を経験し、経理財務をしっかりやってきたこと、そしてバックオフィスとして飲食経営を見てきたこと。コロナで閉店してしまいましたが、実際に1店舗を自分で出したこともあります。数値管理の大変さと現場の大変さ、両方を経験したうえで今があると感じています。

営業を「再現性のある組織」に変える

営業を知らなかった起業当初

起業したての頃は、そもそも営業という仕事自体をあまり理解していませんでした。リード(見込み顧客)やクロージング(契約締結)といった営業用語も、最近になって知ったくらいです。最初は日程調整して話をして決まる、というやり方で進めてきましたが、それはある意味、自分がつくった会社なので思いがお客様にそのまま伝わっていたから成り立っていたことに気づきました。

再現性ある営業組織づくり

自分以外の人が営業を担うとなると、難易度は一気に上がります。思いを伝えるだけでなく、お客様の課題がコストなのか機能なのか費用対効果なのか、しっかり分解して戦略的にアプローチする。それを再現性のある形にすることが必要で、この1、2年で学びながら営業組織をつくってきました。

仲間と歩んできた5年間

同じ志を持つ仲間たち

今のflaroはまだ5年目の会社ですが、メンバーの半分ぐらいは、最初の紡績会社や飲食会社、IT企業時代に出会った仲間たちです。その時々にしっかりと、自分のためでもあり仲間のためでもある形で、一つの目標に向かって歩んできたメンバーが、今も一緒に働いてくれている。それがとても嬉しいことだと感じています。自分一人だけが成功してもあまり意味がなく、一緒に歩んできたメンバーと成功したいという気持ちが、一番の原動力になっています。

新しいもの好き・やり切る・ONE TEAM

3つのバリューを軸に

会社の行動指針、いわゆるバリューは「新しいもの好き」「やり切る」「ONE TEAM(ワンチーム)」の3つです。AIをはじめとするテクノロジーの発展はとても速いので、どんどん新しいことに挑戦できる環境を用意しています。中途半端で終わらせず、仲間としっかりやりきる文化も大切にしています。

研修とFLAROの由来

業務やビジネスの流れを理解している人がAIを使うと、大きな効果が出ます。ただ「AIが使える」というだけでは、ビジネスに乗っからないんですよね。だからこそ入社後1〜2か月の研修期間で、ロールプレイングなどを通じて飲食経営を短期間で学べるようにしています。FLAROは、「Food(食材原価)」「Labor(人件費)」「Advertising(広告宣伝費)」「Rent(家賃)」「Other(その他費用)」の5つの単語の頭文字が由来ですが、こうした飲食の経営管理を構造化した考え方も、この研修の中で身につけてもらっています。

経験より共感を大切に

「新しいもの好き」「やり切る」「ONE TEAM」というバリューに共感してくれる方、そして「人が人らしく没頭できる未来をつくる。」というミッションに共感してくれる方に、ぜひ来てほしいと思っています。ITの専門性がなければいけないと思われがちですが、未経験からエンジニアになった方も多くいます。何か一つでも「これは誰にも負けない」というくらい深く学んだ経験があれば、いいのではないでしょうか。

経済的にも精神的にも豊かに

メンバーの豊かさが軸

今後のビジョンとしては、一緒に働くメンバーが経済的にも精神的にも豊かになってほしいというのが根底にあります。会社として利益や売上を出すことはもちろん大切ですが、それ以上に働くメンバーの豊かさを実現することが、自分のやるべきことだと思っています。「人が人らしく没頭できる未来」は、お客様だけでなく、自分たちにも向けた言葉です。

海外展開もさらに加速

そのためにも、事業自体をもっと大きく成長させていく必要があります。今はまだ国内の飲食店がメインですが、すでに海外の店舗でも数十店舗でご利用いただいていて、韓国やベトナムなど東アジアを中心に多国籍な広がりを見せています。ここから、海外展開ももっと加速させていきたいと考えています。

行動が先、好きは後からついてくる

仕事とプライベートの境界

これから社会に出ていく若い世代には、とにかくいろいろなことにチャレンジしてほしいと思っています。ワークライフバランスという言葉が独り歩きしていますが、仕事とプライベートは0か100かで分けられるものではなく、グラデーションのように重なり合っているものだと思うんですよね。仕事がうまくいっていないのにプライベートだけ充実している人はいませんし、逆もまた然りです。両方をうまく重ね合わせるという考え方を大事にしてほしいと感じています。

行動が好きを後押しする

20代の頃に人より努力して、人よりやるということは、決して無駄にはなりません。それが30代、40代につながっていきます。そして「好きなことを見つけてから行動する」のではなく、「行動したから好きになる」という順番の方がいいと思っています。何をやったらいいかわからないという方はとても多いですし、それが普通です。立ち止まるのではなく、がむしゃらに動いてみる。そうすれば、必ずいいことにつながっていくと信じてやっています。

編集後記

今回、株式会社flaroの安部さんにお話をお伺いしました。会計士を目指すところから経理、IPO推進、ITベンダーを経て起業に至るまで、まったく異なる分野を渡り歩いてきたキャリアが、「一つの飲食店は一つの会社である」という学生時代の気づきを起点に、一本の線としてつながっていく様子が印象的でした。なかでも「行動したから好きになる」という言葉は、将来やりたいことに迷う私自身にも、とても響くメッセージでした。まずは動いてみることの大切さを、あらためて感じさせていただいたインタビューでした。