インタビュー

戦争学から広報の世界へ。海外企業の日本進出PRを支える株式会社JAYID代表が見据える、『企業外交官』の未来

戦争学から広報の世界へ。海外企業の日本進出PRを支える株式会社JAYID代表が見据える、『企業外交官』の未来
PROFILE
株式会社JAYID CEO
穐吉 なな子

戦争学を学んだ大学院時代

国連への憧れがきっかけ

学生時代、私は国連で働きたいと思っていました。大学の授業で国連職員として働く先輩の話を聞く機会があり、憧れの職業になっていました。国連で働くには最低限大学院でマスターを取らなければいけないですし、英語もそれ以外の言語も話せないとダメで、それらを1年で一挙両得できるならとイギリスの大学院に進もうと考えました。

戦略という言葉の大元にあるもの

進んだ先が戦争学だったのですが、学んでみるととても面白かったです。戦術や戦略という言葉は、すべて戦争が大元となって生まれてきた言葉で、それをビジネスに応用しているんですね。戦争に勝つための考え方には人の心理やテクノロジーの進化といったものが集約されていますので学ぶことがとても多かったです。

創業の経緯とJAYIDの事業内容

PRエージェンシーとして海外企業を支援

株式会社JAYID(ジェイード)は海外企業の日本進出PR・広報を専門とするPRエージェンシーです。アラビア語で「良い」「優れた」という意味を持つ言葉から名付けました。現時点でクライアントのほとんどが海外の企業で、特に海外企業が初めて日本市場へ進出する際のPRやコミュニケーションを支援しています。フィンテックやAI企業など、ユニコーン企業をはじめとする外資企業の日本進出PRに携わってきました。

リクルートからシンガポール、そして創業へ

最初に入社した会社はリクルートでした。2007年に新卒入社して、そこから8年ほど広報と経営企画を担当しました。その後、シンガポールに渡り、ヘルスケア系のスタートアップのシンガポール支社の立ち上げに携わりました。3年ほど過ごして日本に帰国しました。

日本に戻ったときに、自分の天職ともいえる広報で、自分自身の会社を立ち上げたいと思いました。2018年に創業してからは、海外と日本の双方で働いた経験を生かし、それぞれの市場や文化の違いを理解した上でPR戦略を設計することを大切にしています。

苦労してきたこと

日本と海外、PRに対する考え方の違い

日本と海外の両方でPRに携わってきて感じるのは、PRに求められる役割や、経営の中での位置づけに違いがあることです。日本では長らく、正しい情報を正確に伝え、それを新聞やテレビなどの大手メディアに取り上げてもらうことが、広報・PRの重要な役割として捉えられてきました。

一方、PRの発信地である欧米のグローバル企業ではもっと複雑に多様化していて、PRを経営戦略やレピュテーション、社会や政府との関係構築まで含めて考えるケースも多くあります。発信先も大手メディアに限らず、オンラインメディアや動画、インフルエンサーなど多岐にわたり、自社の考えや魅力を誰に、どのように届ければ最も伝わるのかを逆算して設計していきます。

私の経営するJAYIDでは、創業当時からずっと欧米流のPRを実践してきました。日本的な正確性や丁寧な信頼構築を生かしながら、経営戦略に直接アラインし、P/Lに直接寄与するようなPRと、長期目線でのブランド形成に関わるPRを両輪で実行します。

課題や今後のビジョン

PRを経営戦略の一部に

今後さらに取り組んでいきたいのは、PRを情報発信ではなく、経営戦略の一部として考える企業を増やしていくことです。企業を取り巻く環境はますます複雑になっていて、事業そのものだけでなく、社会からどう見られるか、どのようなメッセージを発信するか、行政や業界、メディアとどう関係を築いていくかが、企業の成長にも大きく影響するようになっています。

特にグローバルに事業を展開する企業にとっては、国によって異なる文化や価値観、社会情勢を理解しながら、自社の存在意義を伝えていくことが重要です。私はこれまでも、単に「どう報道してもらうか」を考えるのではなく、経営者と一緒に「社会とどのような関係をつくっていくのか」まで考えてきました。

企業と社会、あるいは日本と海外の間に立ち、それぞれの考え方を理解しながら関係をつくっていく。そういう意味では、PRは企業にとっての「外交」に近い仕事だと思っています。

海外に挑戦する日本企業を応援したい

今後のビジョンはたくさんありすぎて言い切れないくらいです。PR目線では、これまでは日本に入ってくる海外企業を応援してきました。これから先は、日本から海外に挑戦していく企業も応援できるようなPR会社になりたいと思っています。日本の国力や企業の競争力が相対的に低下していく中で、海外に出ていく企業は今後ますます増えます。大好きな日本がもっともっと発展するのを支援していきたいです。

次の世代にいい時代をバトンパスしたい

ビジネスという枠を超えた目線では、私自身年齢を重ね、高校生と小学生の子どもを二人育てている中で、次の世代にいい時代をバトンパスしていかなければいけないと感じています。私の世代は小学校の時にバブルが崩壊し、失われた時代の中で国力が縮小していく過程を見てきました。そんな日本をそのまま次の世代に渡すことはできないと思っています。

現在戦争や貧困、世界の二極化が進んでいく中で、苦しむ人が一人でも少ない世界を目指したいです。自分の身近なところからどうやって改善できるかを、常に考えています。

学生へのメッセージ

自分でリミットを決めないでほしい

大学での講師としての役割のほか、インターン生との交流などにおいて、たくさんの学生さんと話す機会があります。その中で、自分のリミットを自分で決めてしまっている学生さんが多いのではないかと感じることがあります。これから世界はもっと面白くなっていくはずです。こんなに面白い世界だからこそ、もっと世界を見たほうがいいと思いますし、経験やお金がなくてもできることはたくさんあります。いろいろな人と話して、世界を無限に広げていく習慣を、もっと持つといいのではないかと思います。

編集後記

戦争学の研究から得た戦略的な視点を、企業の広報という現場で実践されている姿がとても印象的でした。日本と海外のPRに対する考え方の違いに向き合いながら、地道な信頼構築を大切にされている点に、経営者としての誠実さを感じました。次の世代にいい時代をつなぎたいという思いを、大きなスケールから身近な行動へと落とし込んでいく考え方は、私自身の学びにもなりました。貴重なお話をありがとうございました。