メーカーでの経験を、選ぶ人のために
商品を作る側から、選び方を伝える側へ
私は「椚大輔のベッド選び」というサイトを運営しています。実際に商品を使い、寝心地や構造を検証しながら、ベッドフレームやマットレスの選び方をお伝えする仕事です。
もともとは、ベッドを作る会社に勤めていました。そこで、インターネットでベッドを買う方がとても多いことを知ったんです。
ただ、ベッドは頻繁に買い替えるものではないので、買い慣れている方は少ないですよね。ネットで購入する方は多くても、何を基準に選べばよいかわからない方も多いのではないか。そこに、メーカーで得た知識や経験を生かして、「選び方」を伝えていく意義があると感じました。
副業から始めたサイトが、事業になった
サイトを始めたのは2016年です。当初は会社員と並行して運営していました。記事を積み重ねるうちに読者が増え、サイトから得る広告収入も会社を辞めて続けられる水準になったため、独立しました。
その後、2020年に株式会社悠デザインを設立しました。法人化には税務上の理由もありましたが、事業として大きかったのは、この時期に自社の撮影スタジオを設けたことです。自分で商品を使い、調べ、撮影するための拠点ができました。
マットレスを切るのは、寝心地の理由を知りたいから
寝て感じたことを、中身と照らし合わせる
マットレスは、表面を見ただけでは中身がわからない商品です。実際に寝ると違いは感じられますが、「どうしてこの寝心地になるのか」までは、なかなかわからないですよね。
スタジオでは、体の沈み込みや圧迫感、寝返りのしやすさ、端に座ったときの安定感などを確認しています。さらに、マットレスを切って内部の素材や構造を調べることもあります。
たとえば、表面はふんわりしているのに、体が沈むとしっかり支えられる。その感覚が、どんな素材の組み合わせやコイルの構造から生まれているのか。寝て感じたことと中身を照らし合わせると、商品の特徴をより具体的に説明できるんです。
前職では当たり前だったことが、検証の強みに
メーカー勤務時代には、商品撮影でマットレスの内部構造を撮る機会がありました。そのため、私には「マットレスは中身まで確認できるもの」という感覚があったんです。この経験が、今の検証方法につながっています。
自分の体で検証を続ける。そのうえで、専門用語に詳しくない方にも、寝心地や使い勝手をイメージしてもらえるように伝える。そこが、私の仕事の大事な部分だと思っています。
自分の言葉で、責任を持って伝える
「おすすめ」と伝えることに、怖さを感じた
サイトを始めた当初は、スペックやメーカー時代の経験を中心に、おすすめする商品を選んでいました。ただ、続けるうちに、マットレスを紹介することに怖さを感じるようになったんです。
自分の「おすすめ」を読んで購入した方が、その上で毎晩眠るわけですよね。長い時間、体を預けるものですから、その方の生活にも関わります。本当に、自信を持ってすすめられるほど、この商品をわかっているのか。そう考えるようになりました。
メーカーでの知識や経験はあっても、公表されている数字だけでは寝心地はわかりません。中身も外からは見えない。だから、自分が腹の底から納得できるまで確かめたい。その思いが、専用の検証スタジオを作るきっかけになりました。
もちろん、実際に寝て確かめても、私個人の感覚は含まれます。だからこそ、多くの商品を同じ評価軸で比べ、必要に応じて中身まで確認する。そのうえで、何が良かったのか、どんな方に合いそうなのかを、根拠とともに伝えることを大切にしています。
顔と名前を出し、評価の根拠も見せる
顔と名前を出して活動するようになったのは、2021年ごろです。あるビジネス雑誌に取り上げていただいたことがきっかけでしたが、誰が情報を発信しているのかを示し、自分の言葉に責任を持ちたいという気持ちが強くなりました。
現在も、サイトは基本的に一人で運営しています。同じ私が多くの商品を同じ方法で検証し続けることで、商品ごとの違いを捉えやすくなると考えているからです。
「椚さんがおすすめしているから」という信頼に加えて、「この説明なら、自分にも合いそうだ」と納得して選んでいただけるサイトにしたいですね。
良い商品を伝え、商品づくりにも関わる
検証で得た気づきを、メーカーとの共同開発へ
活動を続けるなかで、ベッドやマットレスのメーカーから、一緒に商品を作らないかとお声がけいただく機会も増えました。現在は、協業という形で商品づくりにも関わっています。
いろいろな商品を使っていると、「この寝心地は良いな」「ここが変わると、もっと使いやすいのに」と感じることがあります。そうした気づきを、自分が理想とする商品に生かしていきたいと考えています。
メーカーで商品企画に関わった経験と、今の検証活動。その両方を生かせることに、商品づくりへ参加する意味があると思っています。
商品の良さが、きちんと伝わるように
マットレスの素材や構造には、外から見えにくい工夫がたくさんあります。その違いを、買う方にもわかるように伝えていきたいですね。
作り手がこだわった部分が、使う人にとってどんな良さになるのか。そこまで説明できれば、読者の方の判断材料になりますし、丁寧に作られた商品が選ばれることにもつながると思っています。
事業として目指しているのは、ベッドやマットレスで迷ったときに、「まずは椚大輔のサイトを見てみよう」と思っていただける存在です。そのために、一つひとつの商品に向き合い、納得できる情報を積み重ねていきたいと考えています。
学生に伝えたいこと。
いろいろな掛け合わせによって、自分の立つ場所を作る
自分の会社を始めるまでに、3社で働きました。正直、入社するときから「ここではこんなことがしたい!」という強い目的意識があったわけではありません。業界もバラバラでしたが、好奇心は強い方で、興味を持つと没頭するタイプでした。
そうした社会人経験の中で得た、ベッド×撮影×Webメディアといった領域を掛け合わせて、業界の問題点に注目し、起業をしました。あとは趣味で音楽を作るのが好きでしたので、黙々と一人で作業することが性に合っていたということも、この仕事のスタイルにとって、大きいと思います。
自分にどんな仕事や働き方が合うかを考えるときは、これまでの経験をどう組み合わせるか、何が得意で何が苦手か、性格に合っているか。そうしたことに目を向けるのも大切だと思います。
編集後記
今回のお話で印象的だったのは、別々の仕事で得た経験が、今の専門性につながっていることです。ベッドの知識、撮影、Webメディア。それらを組み合わせ、買う人の「選び方がわからない」という悩みに応える仕事を作ったところに、椚さんの強みを感じました。
就職活動を前に、「やりたいことが見つからない」「自分には何が向いているのだろう」と悩む学生もいると思います。椚さんも、最初から今の仕事を思い描いていたわけではありません。働くなかで好奇心を持ち、没頭した経験が、後から仕事につながっていました。
また、一人で黙々と作業することが好きという性格も、今の働き方を支えています。経験や得意なことに加えて、何に夢中になれるか、どんな環境なら力を発揮できるか。そうした自分への理解も、進路を考える大切な手がかりになると感じた取材でした。