インタビュー

肉を切っていた青年が、高齢者の”いのち”をつなぐ会社を選んだ

肉を切っていた青年が、高齢者の”いのち”をつなぐ会社を選んだ
PROFILE
株式会社バイタルヴォイス 代表者
安原 大輔

介護の現場から生まれた会社

人手だけでは限界があった

正確にいうと、この会社をつくったのは私ではなく、うちのグループなんです。もともとグループでは介護施設を複数運営していて、その現場でいろいろな課題が出てきていました。たとえば人材不足であったり、安心できる見守り環境であったり。介護の最後の現場は大変だというイメージを持たれる方が多いと思うのですが、実際、人の手だけではどうしても解決できない問題がたくさんありました。それを、なんとかテクノロジーを使って解決したいという思想が、もともとグループの中にあったんです。

そこに、今一緒にやっている技術サイドの会社が加わり、「技術を提供する側」と「介護のノウハウや現場の決まりごとを提供する側」という役割分担のもとで、株式会社バイタルヴォイスという会社が生まれました。実は私自身は創業メンバーではなくて、あとから入社しています。前職は広告代理店だったのですが、新しく会社を立ち上げるのでメンバーにならないかと、今の介護グループのオーナーから誘っていただいて、介護の道に進むことになりました。創業グループそのものではないのですが、それに近い立場での参加、という経緯です。

バイタルウォッチが変える見守りのかたち

腕時計ひとつで24時間見守る

私たちは、高齢者向けのバイタルウォッチをつくるメーカーです。高齢者の24時間見守りというと、病院に行くとよく見かける、ケーブルがたくさんついた生体モニターのようなものを思い浮かべる方が多いと思います。ああいう機器を使えば当然24時間の見守りはできるのですが、介護施設は医療の現場に比べるとまだまだアナログな環境で、最新の機器がなかなか入りにくいんです。そこで私たちが目指したのは、腕時計型のセンサーでした。ウォッチを腕につけていただくだけで24時間の見守りができ、何か異常があったときにお知らせできる仕組みです。

2分ごとのデータが職員を助ける

今の介護の現場は人手不足なので、1日に2回、3回とバイタルを測るだけでも大変な作業になります。たとえば100人ぐらいの施設だと、1日3回測るだけで月に数百時間かかっているのが実情です。それを、常に2分ごとに複数のバイタルデータを自動測定することで、職員さんたちの労務負担を減らしていく。異常のお知らせと、業務の自動化。この2つが、私たちの大きなミッションだと思っています。

これから見せていきたいもの

連続データという資産

今はまだ製品を世の中に広げていく段階です。ウォッチをつけると2分ごとに4つのバイタルが連続して取れるようになっていて、この連続データは現場にとって役立つのはもちろん、企業としての価値にもつながっていくと考えています。

スタートアップとしての壁

泥臭い営業で全国に広げる

今の課題は、正直に言うとまだスタートアップなので、大手のようなバックボーンがあるわけではないという点です。だからこそ、今は泥臭い営業活動を続けながら、全国に機械を導入していただくというステップを踏んでいます。まずはその数がある程度全国に広がるまで、地道に広げていく。これが今の課題です。

人がいて初めて成り立つ仕事

採用についても、全国というエリアで動く以上、どうしても人手が必要になってきます。本社は岡山県にありますが、基本的にはそこから全国に出ていく形です。理想をいえば主要拠点をいくつも持てるのがベストだと思いますが、スタートアップなのでそこまではまだできていません。機械を設置したあとはメンテナンスも発生するので、つけて終わりではないんです。そういう意味でも、人はいるに越したことはないと思っています。

遠回りしてたどり着いた道

大学を出てから肉を切っていた

経歴はまったく違っていて、私はスーパーで精肉担当として働いていました。大学を出たあと、正直あまり優秀ではなかったので、就職活動というものをしていなかったんです。いわゆる今でいうニートに近い状態で、高校や大学の頃からアルバイトをしていて、それがたまたま肉屋でした。採用されてしまった、というだけの経緯です。あまり大きなエピソードではないのですが、そこから社会人になったきっかけも、受かったんだから働こうかな、というだけのシンプルなものでした。

きっといい縁につながる

思い通りの会社に入るという道も、もちろん正しい道だと思います。ただ私はどちらかというとそれとは真逆の人生を歩んできました。それでも今、上場企業の代表として福祉の現場に立ち、この製品があってよかったという生の感謝の声を聞く仕事をさせてもらっています。だから、何か失敗するようなことがあっても、人生なんとかなる、じゃないですけれど、きっとどこかでいい縁につながっていくと思うんです。それを信じて、ポジティブに歩んでいけたらいいのではないかと思います。

小さいからこそのスピード

現場との距離の近さが強み

自社の強みでいうと、私たちはスタートアップなので、大手の資本力と正面から勝負しても、おそらく勝負にはなりません。ただ、逆に小規模だからこそのフットワークの軽さと、現場の声を聞いて届けるという部分があります。大手さんだと、現場の課題を聞いてから社内の稟議を経て、プログラムが新しくなるまでにかなりの時間がかかるのが普通だと思います。私たちは現場と開発者の距離がかなり近いので、こういう機能を入れてほしいと言われたときに、早く製品をアップデートできます。代表である私自身も1人の営業として直接現場に出て、求められていることを聞いて帰ってくる。大手のメーカーでは出せないスピードとフットワークで現場に還元できることが、私たちの差別化になっていると思っています。

編集後記

介護施設の運営から生まれたテクノロジー企業、というだけでも興味深かったのですが、一番印象に残ったのは、安原さんが「思い通りの会社に入る道が正解とは限らない」と語られていたことです。精肉担当のアルバイトから代表になるまでの遠回りが、今の現場感覚につながっているのだと感じました。学生の私たちはつい最短ルートを探しがちですが、うまくいかないときこそ、いつか縁がつながると信じて歩んでいく姿勢を、見習いたいと思います。