漠然とした憧れから、約束へ
学生起業には現実感がなかった
創業したいという思いは、学生の頃からありました。目的は全然考えてはいなかったのですが、漠然といつか起業するぞという思いだけはありました。当時はサイバーエージェントやライブドアがニュースをにぎわせていた時期で、ベンチャー企業ってかっこいいな、自分もああなりたいなという憧れを強くしていた学生時代でした。
学生時代はアナウンス研究愛好会という、学園祭などで司会をおこなうグループに所属していました。そこからアナウンサーやテレビ業界へと進む先輩も多く、私自身もテレビ番組をつくりたいという思いを探る活動をしていました。同時に学生NPOにも所属していて、学生向けのフリーペーパーをつくる活動もしていました。自分たちで営業を取って取材をするという、ビジネスの練習のようなこともしていて、制作の面白さや広告営業の面白さを感じていました。
ただ、自分で商売をする、いわゆる学生起業はとても現実的ではないと思い、当時携わっていたフリーペーパーをビジネスへ変えることに挑戦したいと考え、リクルートへ入りました。ホットペッパー事業部です。当時はクーポンマガジンのホットペッパーが日本ですごくはやっていた時期で、学生時代にやっていたことをプロとしてやる経験を積みました。
リクルートで足腰を鍛えた
リクルートには3、4年ほど勤めました。ただ、ホットペッパーをやり続けるだけではビジネスパーソンとしての足腰は鍛えられるものの、事業をつくったり組織をつくったり、起業してやらなければいけないことができる気がしなかったのです。そこで、また違う環境で修業をしなければと考え、転職しました。
転職先は株式会社ファインドスターというベンチャー企業です。もともとリクルート出身の方がつくった会社で、当時は50名ほどの組織でした。東京本社に加えて福岡に支社をつくったばかりというタイミングで、成長ベンチャーで学べることは大きいだろうと考えて飛び込みました。事業づくりと、できたばかりの福岡支社での組織づくりを同時に学べると思ったのです。
ファインドスターには5年ほど在籍しました。転職のタイミングで、30歳を起業時期にすると自分の中で決めていました。それを目標に、成長ベンチャーの中で必死に働いてきました。新卒のリクルートで足腰をつくり、まだイメージのわかなかった商売をファインドスターで学び、多くの経営者と接する中で、組織づくりや事業づくりのコツを吸収していきました。
31歳、約束を果たす
ファインドスターでは少しずつ成果を出し出世もしましたし、喜びや面白さも感じていました。ただ、初心である創業という自分との約束を果たすために、30歳で退職しました。結果として創業したのは31歳のときです。
途中で30歳という目標を決めてからは、逆算というよりも、その環境の中で得られるものをがむしゃらに吸収した感覚でした。起業した当初は、1か月先どうなるかもわからない危なっかしさがありましたし、副業で稼いでいたわけでもなく、何か当てがあったわけでもない状態からのスタートでした。
3本の柱で広がる事業
ラジオ番組制作から始まった
事業内容は大きく3つあります。1つ目がダイレクトマーケティングの広告制作、2つ目が自社ブランドのホームページ制作・運用サービス「ベリウェブ」、3つ目がクラウドファンディングの支援事業です。
ダイレクトマーケティングの広告制作でメインにおこなっているのは、ラジオショッピング番組の制作です。これは前職のファインドスターが通販会社向けの広告代理店をおこなっていたご縁で、ファインドスター出身の会社と協業しているかたちです。会社を立ち上げて最初に始めた事業で、現在も続けています。
地方の会社にホームページを
自社ブランドの「ベリウェブ」は、ホームページの制作・運用を安価でおこなうサービスです。契約数は総契約で1800社ほどになります。展開を始めてから6年ほどになります。
どちらかというと地方の中小企業向けのサービスです。ホームページがあって当たり前と思われがちですが、地方では持っていなくても商売が成立しているところがたくさんあります。いまだに持っていない、あるいは昔つくったけれど放置している。そのような会社は潤沢な資本があるわけでもなく、なかなか手をつけられていません。そうした地方の中小企業に、安価で高品質なサイトを提供しているのが「ベリウェブ」というサービスです。
クラウドファンディング支援というもうひとつの事業
3つ目が、クラウドファンディング支援事業です。CAMPFIREの戦略的パートナーとして、クラウドファンディングに挑戦する企業や事業者に並走し、企画からページ制作、プロモーションまで支援しています。
もともと私たちは「ものをどう魅力的に見せ、どう伝え、どう売るか」という部分を得意としてきました。そのノウハウを生かせる事業としてクラウドファンディング支援にも取り組み、現在ではCAMPFIREのパートナーの中でも高い支援実績を持つまでになっています。
次に見据える2つの挑戦
強化したいのは採用支援
これまで2000社近いサイト制作をさせていただく中で見えてきた課題として、採用の部分が大きいと感じています。それぞれの会社の事業としての強み、組織としての強みを言語化することがウェブ制作としての役割ですが、その延長線上で採用まで支援することは、本当に求められていることだと思います。サイト制作にとどまらない支援として、とくに採用の部分は強化していきたいと考えています。
瀬戸焼のラーメン丼を海外へ
もう1つ、海外向けの挑戦も進めています。地方の企業には、素晴らしい技術やサービスを持っているのに情報発信がうまくいっていない会社がたくさんあります。そうしたキラリと光る価値を、もっと世の中に伝えるべきではないかという思いがあるのです。中長期的に取り組んでおりますのは、プロダクト化した日本の伝統技術や素材を海外へと発信し、販売していくことです。
すでに去年取り組んだのが、瀬戸焼という伝統工芸の技術を使ったラーメン丼です。「SHOGUN」と名付けて、まずはKickstarterというアメリカを中心に世界各国のユーザーが集うクラウドファンディングのプラットフォームにてテスト販売をしました。手応えのある売れ行きでしたので、この方向性をもっと広げていきたいと考えています。第二弾としてカツ丼向けの商品も、近いタイミングで展開する予定です。
瀬戸焼やラーメン丼にとどまらず、歴史ある日本の伝統技術・素材を、海外の方に受け入れられるかたちでプロデュース、商品化していきたいです。ただし、打ち上げ花火で終わってしまっては持続性がないので、ビジネスとして安定的にものが売れる状況をつくっていきたいという目標が、今後のビジョンです。
このビジョンを達成するうえで、課題も見えています。1つは、海外でも発信して売れるだけの魅力ある素材や工房、職人さんと多く出会っていくこと。もう1つは、海外で物を売るためのノウハウです。国内で売るのとはまったく別次元のノウハウが必要になりますし、SNSを含めネット上で売るのが主流になってきている中で、優れたメイドインジャパンのプロダクトを、それに興味のある方へどのように接続していくかという点は、これから探求していかなければいけないテーマだと思っています。
学生へのメッセージ
自分の幸せを追求し続けてほしい
弊社の理念は「世のため人のため”自分のため“関わるすべての人を幸せにする羅針盤となる」というものです。世のため、人のため、自分のため、この3つのバランスがとても大事なところだと思っています。
人生は、自分自身の幸福を追求していくことが何より大事だと思っています。ただ、いろいろな価値観があり情報過多の中で、自分がしたいことや自分のあり方を見失いがちな今の時代です。周りの価値観に合わせたり、世の中の当たり前に惑わされたりして、自分自身を見失い、自分がどうありたいか、自分のためとは何かという問いに向き合えていない人が多いと感じています。そこをしっかり見つめて、自分の理想を追い求め、自己実現できる人であってほしいと思っています。
漠然とした夢でも握りしめてほしい
学生の時期は、社会人を前にして最も混乱する時期でもあるかと思います。何をしたいのかわからない、新卒でどの会社が合っているのかもわからない。就職活動をしていても業界や条件はいろいろわかるものの、自分がやりたいことよりも待遇や条件、なんとなく大手なら安心という基準で選んでしまいがちな時期ですよね。
私自身、学生時代には「いつか起業したい」という思いがある一方で、テレビやラジオ番組をつくる仕事にも憧れていました。ただ、新卒で入ったのはフリーペーパーの仕事ですし、その後も思い描いていた通りの道を歩んできたわけではありません。それでも起業することができ、意図せずラジオ番組をつくる仕事も始まりました。「起業」と「番組をつくる」という学生時代に思い描いていた二つのことが、いつの間にか実現していたのです。紆余曲折しながらも夢は実現する。
20代は混乱しやすいからこそ、自分が大切にしている価値観や夢目標を簡単に手放さないでほしい。新卒の1社目がどんな環境であっても、それだけでその先の人生が決まるわけではありません。その時々で悩み、自分なりに納得できる選択を重ねていけば、いつの日か目指していた場所へつながっていることもあると思います。
編集後記
原さんのお話を伺って、印象的だったのは「30歳で起業する」という約束を、学生時代の漠然とした憧れから何年もかけて具体的な行動に変えていったプロセスです。リクルートやファインドスターでの経験を、逆算というよりも目の前のことに全力で向き合いながら積み重ねていった姿勢に、地に足のついた強さを感じました。瀬戸焼のラーメン丼「SHOGUN」のように、地方の技術を世界に発信しようとする挑戦も、地方企業に向き合い続けてきたラシンさんだからこそのビジョンだと感じます。私自身もまだ将来像を模索している学生の1人ですが、自分が大切にしているものに正直であり続けたいと、あらためて思わされる取材でした。