スタートアップM&Aとの出会い
パズルを組むような面白さ
ベンチャーキャピタル時代に、良いタイミングで良い形になりにくいものだな、というスタートアップM&Aの抱える課題を現場で感じていました。その課題意識を持ったまま、ドリームインキュベータという会社で主に大企業の新規事業や海外事業の観点でのM&Aの事業の立ち上げに取り組んでいました。その際に、スタートアップM&Aに特化していくことが面白く、スタートアップにも大企業にもニーズもあるのではないかと思い、FA(ファイナンシャル・アドバイザリー)事業を創業しました。
そもそも、この領域に興味を持ったきっかけは、学生時代です。ゴールドマン・サックスが提供していた講義を1つ受けたことがあり、内容に深い関心を持ちました。具体的には、M&Aのストラクチャーの部分をチームで分担して、法律や税務のルールに合わせどう組めば目的に合った形になるかというもので、細かいパズルを組み合わせるような感覚がありそこに面白さを感じたのだと思います。
実際にやってみると、それはあくまで一面でしかなく、人の感情がいろいろと絡み、パズル通りにはいかないことも多いですけれど、それはそれで後から知って、面白さにつながっています。
独立への意識は少しずつ
独立したい、経営者になりたいという気持ちは、大学時代くらいから興味はありました。周りに起業を目指す人がちらほら出てきていたので、興味が湧いてきてもいました。ただ最初はすぐに自分がやろうとは思えず、自信がないとか、きっかけがないとか、いろいろな言い訳を並べていた時期もありました。
転職を2回繰り返し、そのたびに企業の規模を小さくする、ということはある程度意識していた部分でもあります。より小さい組織に行くほど、1人で任されたり自由度が高くなる感覚がありましたので、その自由度を高めていった先に、もしかしたら自分も独立してもいいかもしれない、という思いがありました。当時のドリームインキュベータはブランドと付加価値の品質には厳しいものの、それ以外の点ではかなり自由度が高かったので、いろいろと教えてもらいながら、その先も自由にできる感覚があり、一定の自信が持てました。
「M&A仲介」ではなく「FA専業」にこだわる
弊社が向き合っているのは、スタートアップや成長企業です。成長企業はどうやったらより早く成長できるかを常に考え、事業だけでなくファイナンスもセットで考える必要があります。そのファイナンスの典型例がIPOやM&Aです。どちらを選んだ方がより早く事業が伸びるか、という選択肢を選ぶお手伝いをすることが、弊社の業務の1つの側面です。
IPOを目指しているが、大企業の営業や販売のネットワークをレバレッジした方がいい事業もあるので、そういう場合はM&Aした方が良いのではないか、という話になることもあります。複数の選択肢の中から選ぶお手伝いをして、選んだら実行まで支援する、という2段階を弊社は両方ともご支援できる形で経営しています。
また別の側面として、弊社はM&A仲介をやらずにFAのみでやっています。M&A業界が伸びて3千社超の会社が参入したと言われますが、実はその多くはM&A仲介会社です。独立系のブティック投資銀行として一定のチーム規模を有するFA専業は数十社しか存在しません。しかし、弊社は、売主と買主の両方から手数料を取って仲介をすることで顧客との利害対立を内在させるのではなく、片方の立場に立って顧客と利害を一致させて支援をするスタンスを貫いています。中小M&Aの世界では、買い手と大手M&A仲介会社の方が売り手よりも情報を多く持っており、売る側の起業家にとって売り手専属FAが情報量と専門性を強化しながら支援しない限り、売り手に有利ではないディールになりがちです。M&A仲介は中立と言いつつも、リピーターの多くは買い手です。どうしてもリピーターとなりやすい買う側に寄った支援になる傾向はビジネスとして自然です。
一方、売り手をしっかり支援できるのが売り手専属FAという形態です。売る側専属のFAになることでしっかり交渉して、売り手の立場を守った上で、適正な価格より低価格になることを防げます。分かりやすくご説明すると、M&A仲介会社と成約直前だった売却金額やM&A仲介の相場の1.5倍から2倍くらいで売れることもあり、そうすると起業家やVCの方はとても喜んでくれるのです。想像以上の価額で譲渡できた、となると、次の挑戦をもっと大胆にできたり、そのままさらに事業を大きくしていったりと、いろいろな選択肢が見えやすくなります。
同じプロジェクトは1つもない
創業してから今に至るまでで大変だったこと、というと、1つ1つのプロジェクトに何かしらのそれぞれ独自の壁があるということです。1つとしてまったく同じプロジェクトというのはありません。また、弊社の場合、顧客が会社としての生死の境目や修羅場を生き抜いて事業も会社も成長させてきた歴戦の起業家がメインということで、ビジネスもファイナンスも生き抜くためのリテラシーと自分で調べたり考えたりする意欲が非常に高い方が多いので、普通のサービスを普通に提供しても納得してもらえないところがあります。ある程度の規模まで事業をゼロから立ち上げて成長させている起業家だからこそ、弊社への要求も、それなりに高いものがあります。その期待を超え続ける、というのは常に意識しています。
さらにビジネスモデルとして、M&A仲介とFA専業の違いがなかなか分かってもらいにくい、知られていないという面も常に大変な場面です。買う側の視点で見るとM&A仲介もFAもそこまで変わらない、どちらも買い手へ寄り添ってくれるので変わらない、と見えますが、売り手に立ってみると全然違います。ただこれは経験してみないとなかなか理解をしていただけず、経験した人もM&A仲介しか経験していない、という方が多いです。売り手専属のFAに支援してもらった経験がある方は、起業家の中でも相当少ないのが現状です。
規模と質、両方を上げていきたい
今後は、まず数年以内に仲間を増やしていこうと思っています。その先に見ているものは、スタートアップM&Aの規模化と質の向上です。現状のスタートアップM&Aは、相当な準備と工夫をしない限りはあまり評価されず、もったいないくらい低い価格で譲渡が決まるケースがまだまだ多い、という認識があるので、適正価格以上で取引が成立する未来をしっかり考えていきたいと思っています。
ただそれだけを実行しようとすると、高値で売り抜けた、と言われるようなM&Aが増えてしまい、結局買う側も買えなくなってしまいます。なので、買った側の新規事業がさらに伸びた、その事業領域でしっかりポジションを築けた、という買う側の成功体験がないと循環していきません。売る側・買う側どちらも満足がいくM&A、という意味での規模と質の両立を、FA専業としてしっかり貢献していきたいと思っています。
目の前のことをやり切る
私の場合は、前もって計画的にというよりは、目の前のことを一生懸命やる中で、気づいたら現在地にたどり着いたと感じていていろんな点が後から線でつながる、という経験でした。今の優秀な学生の方は皆さんは計画的にいろいろと考えている方が増えている印象で、素晴らしいことだと思います。
一方で、計画を立てても、AIなどでどんどん前提が変わっていく、というのも同時に感じながら動いていると思います。そういう意味では、状況が変わっても、目の前のことに自分が納得いく結果、納得いくところまでやり切ってみる、という体験を積み重ねていくと、道は開けてくるのではないかとも思います。まずは変化する前提の中で様々な経験を積み重ねていくことが大事だと思っています。
編集後記
M&Aと聞くと少し難しそうな印象がありましたが、松井さんのお話を伺って、起業家に寄り添う仕事なんだと実感しました。相場の1.5倍、2倍で売れることもある、というお話には驚きましたし、売り手側に立つFA専業という存在の大切さがよく分かりました。学生に向けたメッセージも、計画倒れを恐れず目の前のことをやり切る、というシンプルながら力強いものでした。私自身も就職活動やこれからのキャリアを考えるうえで、参考にしたいと思います。貴重なお話をありがとうございました。