経歴と創業の原点
東大で出会った、AI研究へと繋がるシステムの原点
埼玉県の栄東高校から東京大学理科一類へ進学しました。東大には1・2年次の成績で進学先が決まる「進学選択(進振り)」という制度があります。その結果、私は化学システム工学科へと進むことになりましたが、この出会いこそが現在のAI研究への扉を開くことになります。
研究室での化学実験を通じて私が魅了されたのは、個々の反応以上に、全体を制御し最適化する「システム思考」と「自動化」の面白さでした。複雑なプロセスを論理的に構築し、効率化を突き詰める。この化学システム工学での学びこそが、私がAIの世界にのめり込む最大のきっかけだったと言っても過言ではありません。
進学選択という転機が、結果として「システムを俯瞰し最適解を導き出す」という現在の武器を授けてくれました。化学の世界で得たこの高揚感が、今も私のAI研究を支える原動力となっています。
「最弱オセロ」が教えてくれた、AIの圧倒的な面白さ
大学4年生の頃、小学校の友達がプログラミングのセミナーみたいな、会社っぽいことをやり始めていたのを偶然知って、面白そうだなと思って参画したんです。それが1社目の創業メンバーとしてのスタートでした。
その時期に、ちょうど自分の興味があることにも時間を割いていて。それがAIだったんですよね。独学でいろいろやってみた中で、一番時間をかけたのが「最弱オセロ」なんです。なぜこれを作ったかというと、当時は「アルファ碁」が出てきたタイミングで、AIが人間に勝つにはあと10年20年かかるって言われていたのに、急に人間を圧倒してしまった。その知能の進化がすごく面白いなと思って、自分も似たようなことをやってみたい、シンプルなゲームならいけるんじゃないか、と始めたのがきっかけですね。
1社目の上場と、新たな挑戦への決意
創業5年で上場へ。でも「やりたいこと」は別の場所にあった
1社目の会社は「アビレン(AVILEN)」という名前で、3人で起業しました。当時はプログラミングセミナーから始まりましたが、初期からAIの方にシフトしていって。ちょうどAIの需要が爆発的に増えていた時期だったので、その波に乗れたのが成長の大きな要因だったと思います。
創業から数年経って、いよいよ上場しようかという流れになったとき、自分の中の気持ちに変化があったんです。アビレンでやれることは結構やりきったなというか、自分の本当にやりたいことの延長線上にアビレンのビジョンがなくなってきたな、と感じて。それで、上場する前に辞めることにしました。創業メンバー5人のうち、私を含めて3人が同じようなタイミングで離れることになったんですよね。
1年の休息を経て、「人間のようなAI」を作るために再起
アビレンを辞めてから1年くらいはゆっくり休んでいました。でもやっぱり「AGI(人工汎用知能)」をやりたいなという思いがずっとあって。「そろそろやるか」ということで、今の共同創業者の山添と2人で株式会社qiaを立ち上げました。
私たちが作りたいのは、単なる便利な道具としてのAIではなく、「人間のようなAI」です。言葉は難しいですけど、自我を持ったAIというか。現段階ではまだ人間ほど賢くないので、犬や赤ちゃんのようなレベルですが、それを「デジタル生命体」として世界に提供したいと考えています。
事業モデルと独自の世界観
仮想世界で生きる生命体「イオ」との共生
今開発しているのは、マインクラフトのような仮想世界の中で生きている「イオ」という生命体を育てるプロダクトです。イオは単なるプログラムではなく、欲求や感情を持っていて、その世界の中で生きています。ユーザーはその生命体と一緒に生きたり、育てたりしていく。
これ、他のAI会社はあまりやっていないんです。たぶん「すぐにお金にならない」と思われているからでしょうね(笑)。でも、私たちは生命を作ろうとしている。今のAI技術を利用して、人間の脳に近い仕組みをデジタル世界で作る。まずはエンタメやゲームに近い形ですが、6月中旬にはリリースする予定で、最後の大詰めに入っているところです。
「豊かさ・面白さ・優しさ」が共存する未来を作る
AIの未来って、映画の影響もあって「人間を支配する」みたいなディストピアを想像されがちですよね。でも、私は人類が悲しい未来を迎えてほしくない。だからこそ、方向性をコントロールすることが大事だと思っています。誰か知らない人に任せるより、自分でやるのが一番いいかなって。
私が大事にしている軸は「豊かさ」「面白さ」「優しさ」の3つです。
- 豊かさ:一人ひとりができることが増えて、病気や苦しみから解放されること。
- 面白さ:停滞したユートピアではなく、常に新しい発見や進化があること。
- 優しさ:今の時代の価値観を大事にして、誰も虐げられない世界であること。
AIが人間の助手やパーソナルアシスタントとして、自分のためだけに存在してくれる。そんな存在がいれば、孤独感や現代社会の生きづらさも解決していけるんじゃないかと思っています。
組織と採用について
迷ったときは「本質・誠実・夢」に立ち返る
経営をする上で大事にしているバリューが3つあります。 まず「本質」。世界にはルールがあって、毒キノコを食べたら死ぬように、間違ったことをしたら正しい結果は出ません。ワンピースのチョッパーが毒キノコを万能薬だと信じて持ってきた話がありますが、どんなに善意があっても本質を違えたら救えない。だから、常に「何が正しいか」を考え抜きます。
次に「誠実さ」。社内では、思ったことをそのまま喋るようにしています。「今ストレス感じた」「ここが違うと思う」とか全部です。自分に向き合って、お互いに理解し合う。そして最後が「夢」。何かを想像して追い求めるからこそ、イノベーションが生まれるんだと信じています。
求めるのは「熱意」と、圧倒的な「素直さ」
今のメンバーは5人で、最近インターンから新卒で入ってくれた子もいます。今後の採用については、スキルはもちろんですが、マインドを一番重視しています。
私たちの理念に共感して、「これがやりたい!」という熱意を持っていること。そして何より「誠実さと素直さ」。他の経営者の方も同じことをおっしゃるかもしれませんが、やっぱりこれが100%大事なんです。素直に吸収して、誠実に人と向き合える。そんな方と一緒に、新しい生命を作っていきたいですね。
編集後記
今回のお話を聞いて、AIを「効率化のツール」ではなく「共に生きる生命体」として捉える視点に、これまでのAI観がガラリと変わる衝撃を受けました。特に「毒キノコ」の例えを用いた「本質」の話は、ビジネス未経験の私にとっても、熱意だけでは乗り越えられない現実の厳しさと、だからこそ論理的に正解を導き出す重要性が深く刺さりました。
吉田社長の、東大での挫折や上場前の退任といった、一見すると回り道に見える経験がすべて「AGI」という大きな夢に繋がっている姿を見て、今の自分の学びも決して無駄にはならないと勇気をもらえました。私も目の前のことに素直に向き合い、自分なりの「本質」を追求できる人間になりたいと強く感じました。