インタビュー

考える前に、感じてほしい。障がいのある人もコミュニケーションが苦手な若者も「働ける社会」を札幌から作り続ける理事長の26年

PROFILE
特定非営利活動法人札幌チャレンジド 理事長
加納 尚明

ITと福祉の交差点

富士通株式会社から市民活動へ

1961年生まれ。大学を卒業後、富士通株式会社に入社しました。当時は大量採用の時代で、同期の大卒だけで1000人いたほどです。「景気が良くて、上昇志向が強い時代でした。アルバイトして車を買って、みたいなのが圧倒的にステータス感があって」という時代背景のなか、私はひたすら仕事に打ち込んでいました。

会社の中にいると、どうしてもつながりが内部だけになりがちです。1998年頃、知人に声をかけてもらったのをきっかけに、ボランティア活動に関わるようになりました。そこで老若男女、職業も業種もバラバラな人たちと会話するのがとにかく面白くて。「自分で外につながりに行こうとしない限り、広がらないんだよね」と実感した時期でもありました。

1冊の本が人生を変えた

そんな頃、「パソコンやインターネットを活用して障がいのある人が働ける社会を作りたい」という思いで書かれた1冊の本に出合いました。読んだ瞬間に、「自分が持っているアドバンテージを活かせる」と直感しました。

どうせ自分がやるなら成果も出したいし、役に立ちたい。IT企業での経験があるからこそ、障がい者支援においても自分の力がより良く発揮できるんじゃないかと思ったんです。

「札幌ぐらい大きな街だったら、すでにこういうことをやっている団体があるんじゃないか」と思って探してみたら、ちょうど2000年5月に立ち上がったばかりの団体がありました。それが、今の特定非営利活動法人 札幌チャレンジドです。私は創設者ではなく創業期のメンバーですが、全然知らない人たちのところへ飛び込んで、「一緒にやりたい」と参加しました。

26年続けてこられた理由

やりたいことが実現していく面白さ

「どうして続けてこられたか」と聞かれると、正直うまく言葉にするのが難しいんですよね。でも一番近いのは、「やりたいことがどんどん実現していく面白さ」だと思います。やれることがいろいろあったし、やりがいを感じ続けてこられた。それが26年続けてこられた理由じゃないかなと。

ミッションに込めた思い

弊社のミッションは「自立を目指す障がいのある人(チャレンジド)が、ITでマザル・ハタラク・拓き合う社会を創ります」という言葉です。こういうミッションをわざわざ掲げるのは、まだ世の中に実現していないからです。もし当たり前の社会だったら、いちいち言わなくていいはずですから。

障がいのある人に、やる気も能力もあるのに働くチャンスのない人がたくさんいます。「ハタラク」をあえてカタカナで書いているのには意味があって、一般企業に障がい者雇用で勤めることだけが「ハタラク」ではない。福祉的就労も、テレワークも、すべて「ハタラク」の一つだという考え方です。

2000年のスタート当初は、そもそもパソコンやインターネットを触ったことのない障がいのある人に、触る機会を作るところから始まりました。あの頃、テレワークなんて夢物語でしたから。目指してきたゴールは一貫していて、今は就労支援・就職支援が事業の中心になっています。

狭間にいる若者たちへ

大学3% のリアル

2023年4月から、障がいの有無に関わらず「コミュニケーションが苦手な学生・若者の就職支援」を始めました。きっかけはシンプルな問いかけです。大学の授業で、一人でポツンと座っていて、「隣の人とディスカッションしてください」と言われても一言もしゃべれない学生を、見かけたことはありませんか?

実は日本中の大学に、コミュニケーションが苦手な学生が3%〜5%いると言われています。100人の授業なら3〜5人。就職活動が始まると、エントリーシートを書いて企業に呼ばれて、グループディスカッションになる。そこで一言もしゃべれず、「残念ながら今回は」というメールが来る。それを繰り返すうちに自信をなくして、引きこもりになってしまう。

省庁の狭間で埋もれる問題

こういう若者たちを支援する省庁が、実は日本にはないんです。大学生だから文部科学省かといえば、就職支援課に行くのはバリバリ就職活動している人で、コミュニケーションが苦手な学生は就職支援課に行くこと自体が怖い。厚生労働省は障がい者手帳のある人への福祉サービスは充実しているけれど、手帳のない人は範囲外。経済産業省は人手不足対策として、そういう労働力が社会に埋もれていることすら知らない。

文部科学省・厚生労働省・経済産業省、3つの省庁の狭間にいる人たちなんです。だから私たちNPOが、外部からの応援もいただきながら支援しています。

諦めていたのはその子じゃない

「自分には就活でアピールする材料がない」と最初から諦めている学生がほとんどです。でも、やってないから語れないだけで、その学生が持っている良さは必ずある。受験勉強でこんなに頑張ったとか、努力できるとか、その人に内在するものはいろいろある。コミュニケーションだけがアピールポイントじゃないから。

2025年度は12名、誰も障がい者手帳を持っていない学生たちが、一般就職していきました。

この問題は地域課題です。困っている当事者がいる地域に、学校がある。人手不足の企業も地域にいる。全部地域の中の困りごとなんですよ。政令指定都市や東京23区に国が予算をつけて、文部科学省・厚生労働省・経済産業省の3省が3分の1ずつ負担するような就職支援センターができたら、相当変わると思っています。

組織のあり方とこれから

売上はKPIではない

私たちはNPOで、社会課題の解決が目的です。お金の規模を増やすことは目標ではなく、結果として後からついてくるもの。一般の企業なら売上高・利益を一番最初のKPIに置くけれど、私たちは違います。ただ、事業を起こさないとボランティアではできないこともある。だから予算は作るけれど、それはKPIではない。

全国展開については、企業が売り上げを伸ばすために営業エリアを広げるというパラダイムで考えていません。「横浜でやりたい」「広島でやりたい」という人が来たら、やり方を教えるのはウェルカム。でも私たちが出ていって支店を作るつもりはまったくない。地域の問題は、地域の人たちが主体になって取り組まないと続かないからです。

ミッションへの共感を採用基準に

職員は今18名います。最初の5〜6人はボランティアで関わってくれていた人を一本釣りして、その後はハローワークに求人を出して選んできました。

採用で一番大切にしているのは、ミッションへの共感です。高い賃金は出せない。だから「失業していてどんな仕事でもいいです」という人はお断りしています。「今まではやりがいがなかったけど、ここなら感じられると思う」そういう人を採用し続けてきました。

考える前に感じてほしい

若者への言葉

インターンシップで学生が来たとき、必ず言う一言があります。「考える前に感じてほしい」ということです。

特に福祉を勉強してきた学生は、先入観を持って「こうしなきゃいけない」と考えてから入ってきがちです。でも若者にとって一番の武器は感性なんです。どんなに考えたって、10年やってきた人間には及ばない。まず感じること。自分がそこで何を感じるのかを確かめて、感じたことから考えることが大切です。

「感じなかった」というのも一つの答えです。あなたのアンテナに引っかからなかったということ。逆に、あなたがすごく感じたことを別の人は感じないこともある。一人一人、感性は100通りあるんです。

感じたことから、自分がどういう行動につなげていくか。そこまでいって初めて、感性が生きてくる。

人と比べない

もう一つ伝えたいのは、「人と比べない」ということです。比べるということは、物差しがあるということ。でも世の中にはいろんな物差しがあって、テストの点数みたいに単純に比べられるものなんて大人になったらほとんどない。

人と比べるんじゃなく、いかに自分自身を磨くか。ガクチカも同じで、「こういうことをやったらガクチカって言われる」みたいなテンプレートをなぞっても、面接官にはすぐ見抜かれます。自分の心の中に芯があって、そこから語っている人と、表面的な体験だけをした人は全然違う。自分の感性をちゃんと磨いてほしいし、信じてほしいです。

 

編集後記

「考える前に感じてほしい」という加納さんの言葉が、取材後もずっと頭に残っています。就職活動を前にして、ガクチカの「正解」を探したり、自分のアピールポイントを「作ろう」としたりしてしまいがちな私にとって、すごく刺さる言葉でした。コミュニケーションが苦手な学生3〜5%という数字も、改めて授業の風景を思い返してみると「確かに」と思うことばかりで。誰も取り残さずに「はたらく」社会を作り続けてきた26年の重さと、それを支えているのが「やりたいことが実現していく面白さ」だというシンプルな言葉が、印象的でした。