学生時代
呼子から北九州へ。偶然の選択が、今につながった
出身は佐賀県の唐津市です。呼子(よぶこ)のイカと言えば、ピンとくる方もいらっしゃるかもしれません。本当に田舎だったので、福岡は都会すぎるなと感じて、北九州に出ました。九州工業大学を選んだのは、「工業大学ってなんとなくかっこいい」という単純な理由です。それに、家への負担が少なく、勉強があまり好きではなかった私にとって、昼間の拘束時間が少ない夜間というのも魅力でした。今考えると、かなり自分らしい大学の選び方だったと思います。
姉の存在と福祉業界への入口
「なくならない仕事」を探して、福祉の世界へ
就職活動では、大企業に入りたいという気持ちはあまりありませんでした。それよりも、「世の中には目立たなくても、堅実に利益を出している会社があるはずだ」と考えて、これから伸びる業界や、なくならない仕事を探していました。高速道路や立体駐車場など、当時なりに「これから必要とされるものは何だろう」と考えながら会社を見ていました。
その中で選んだのが、北九州にある義肢装具の会社でした。義足やコルセット、車椅子などを扱う会社です。
この仕事を選んだ背景には、身体に障害のある姉の存在もありました。姉は電動車椅子を利用し、意思表示も限られていて、現在も施設で生活しています。義肢装具や福祉用具は、姉のような人が生活していくうえで欠かすことのできないものです。
「この仕事なら、これからも絶対に必要とされる」
そんな思いもあって、福祉の世界に飛び込みました。
「支援する人を支援したい」が生まれた原点
自分の仕事を楽にすることから始まった
入社してしばらくすると介護保険制度が始まり、会社の仕事も障害者福祉から介護分野へと広がっていきました。私も福祉用具の営業として、ベッドや車椅子などを自宅や介護施設に届ける仕事をするようになりました。
このころは、とにかく忙しかったです。福祉用具の営業は担当件数に上限がなく、仕事が増えれば増えるほど忙しくなります。土日も仕事をして、夜遅くに会社へ戻り、そこから事務処理。休日に紙の申請書を作ることも珍しくありませんでした。
そこで始めたのが、Excelを使った業務の効率化です。もともとExcelが好きだったこともあり、「この作業、自動化できないかな」「もっと簡単にできないかな」と、自分の仕事を楽にするための仕組みをいろいろ作るようになりました。
一方で、福祉用具の営業として介護施設に出入りするなかで、介護従事者の方々も、記録や事務作業など多くの業務に追われていることを目にしてきました。
自分の仕事を効率化してきた経験を、介護現場にも活かせないか。
介護従事者が、もっと利用者と向き合える時間をつくれないか。
この思いが、現在の「支援する人を支援する」という仕事につながっています。
創業の経緯
「いつか介護業界全体に役立つ仕組みをつくりたい」
福祉用具の営業時代には、福祉用具専門相談員向けの営業支援システムの開発にも、現場担当として関わる機会がありました。そのシステムが大手ベッドメーカーに採用された経験から、「現場の困りごとを仕組みで解決すること」に面白さを感じるようになりました。
そのころから、いつか介護業界全体に役立つ仕組みをつくったり、広めたりする仕事ができたらという思いを持っていました。
そんな中で出会ったのが、九州工業大学で開発されていた「FonLog」です。福祉用具の事業所として参加した展示会で、たまたま九州工業大学のブースを見かけ、「これは面白い。もっと介護現場で使えるものにできるのではないか」と感じたのが最初のきっかけでした。
ただ、実際に介護事業所に提案してみると、良いシステムだからといって簡単に使ってもらえるわけではありません。すでに記録ソフトを使っている事業所に、さらに別のシステムを入れてもらうことの難しさも実感しました。
そこで気づいたのが、システムそのものを売るだけでは、介護現場はなかなか変わらないということでした。
現在の事業内容
「物売りにはなりたくない」
現在の事業は、大きく分けるとFonLogの普及、人材育成、そして介護事業所への伴走支援です。
創業当時から介護テクノロジーや業務改善について学ぶオンライン勉強会を続けており、人材育成にも取り組んできました。一方で、今もっとも力を入れているのが「伴走支援」です。
私が考える伴走支援は、こちらが答えを教えることではありません。
事業所の方と一緒に課題を整理し、改善方法を考え、最終的には私たちがいなくても改善を続けられる仕組みをつくることです。
この考え方は、福祉用具の営業をしていたころとあまり変わっていません。
車椅子には何千種類もの選択肢があります。同じ車椅子でも、その人の身体の状態や生活環境によって、合うものはまったく違います。
テクノロジーも同じです。
FonLogが合う事業所もあれば、Googleスプレッドシートで十分な事業所もあります。生成AIを組み合わせたほうがうまくいく場合もあります。
だから、最初にするのは「何を売るか」ではなく、「何に困っているのか」を知ることです。
テクノロジーを売るのではなく、その事業所に合った仕組みを一緒につくる。
「物売りにはなりたくない」という考え方は、今も変わらない私の仕事の軸です。
人を増やす前に、仕組みをつくる
現在は、同時に20事業所ほどの伴走支援に関わっています。
これをメールや電話、訪問だけで管理しようとすると、おそらく一人ではできません。
そこで、プロジェクト管理ツールなどを使い、事業所の方と課題や進捗、資料を共有しながら支援を進めています。
大切にしているのは、私自身がすべてを覚えて管理するのではなく、誰が見ても状況が分かるようにすることです。
そして、この仕組みは私の支援が終わったあとも事業所に残ります。
支援者がいなくなったら改善が止まるのではなく、事業所自身が改善を続けられる。
その状態をつくることが、伴走支援のゴールだと考えています。
今後のビジョン
会社を大きくするより、支援できる人を増やしたい
介護現場の業務改善を支援できる人材は、まだまだ足りていません。
さらに、支援の方法そのものが、その人の経験や感覚に頼っているケースも多く、「その人にしかできない仕事」になりがちです。
私自身も、これまで多くの現場を支援する中で、課題の見つけ方や、改善の進め方、テクノロジーの選び方について、自分なりの判断基準が少しずつできてきました。
これからは、その判断基準や支援の進め方を整理し、AIも活用しながら、他の人でも再現できる形にしていきたいと考えています。
AUTOCAREという会社そのものを何十人、何百人という規模にすることが目標ではありません。
それよりも、私たちと同じような考え方で介護現場を支援できる人が増えていくことのほうが大切だと思っています。
雇用という形に限らず、それぞれが自分らしい働き方をしながら、一緒に介護現場を支援できる。
そんな仲間を増やしていきたいです。
AI時代は「情報」より「判断基準」が大切になる AIが普及したことで、知識や情報は以前よりも簡単に手に入るようになりました。
私自身も、調べものや資料作成、アイデアの整理など、日常的にAIを使っています。
だからこそ、これから価値が高くなるのは、単に情報をたくさん持っていることではなく、
「何を見るのか」
「何を重要だと考えるのか」
「どう判断するのか」
という判断基準だと思っています。
これまでの伴走支援で培ってきた判断基準を整理し、AIと組み合わせることができれば、少人数でも多くの介護事業所を支援できるようになります。
これからのAUTOCAREでは、そんな支援の仕組みづくりにも取り組んでいきたいと考えています。
FonLogは「記録するシステム」から「現場を良くする仕組み」へ
FonLogも大きく変わってきています。
もともとは介護記録を簡単に残すための仕組みでしたが、現在では、申し送りや業務分析、AIを活用した情報確認など、記録したデータを現場改善に活かせるようになってきました。
介護現場には、毎日たくさんの情報があります。
しかし、それが紙や文章の中に埋もれてしまうと、なかなか活用できません。
FonLogでは、日々の記録をできるだけ簡単に、そしてAIが活用しやすい形で蓄積していきます。
そして、そのデータを使って、
「最近、この利用者に変化はないか」
「申し送りで共有すべきことは何か」
「業務のどこに改善の余地があるか」
といったことを考えられるようにする。
記録するためのシステムから、現場を良くするための仕組みへ。
そこが、これからのFonLogで一番面白いところだと思っています。
学生へのメッセージ
情報はどこでも手に入る。でも、経験はそこにしかない
私は、若いうちから一つの仕事にこだわりすぎなくてもいいと思っています。
仕事をしてみて、「自分には合わないな」と思ったら、違う仕事を経験してみてもいい。
いろいろな仕事をして、いろいろな人に会って、いろいろな経験をすることには大きな価値があります。
今はAIを使えば、分からないことはすぐに調べられます。仕事の相談もできますし、考えを整理することもできます。
つまり、情報そのものの価値は以前より小さくなっています。
その一方で、実際に現場に行ったこと、人と話したこと、失敗したこと、うまくいったこと。そういった経験の価値は、むしろこれから高くなっていくと思います。
私自身も、最初から今の仕事を目指していたわけではありません。
義肢装具、福祉用具、システム開発、介護現場の支援など、いろいろな経験をした結果、それぞれが後からつながって今の仕事になりました。
だから、最初から「自分の強みは何だろう」「将来何をしなければならないんだろう」と、あまり難しく考えすぎなくてもいいと思います。
まずは経験してみる。
迷ったらAIに相談してみる。
今の学生にはそんな選択肢があります。
私が学生のころにも今のようなAIがあったら、もう少し楽に生きられたのにな、と少しうらやましく思っています。
この会社のよくある質問
採用には力を入れていますか?
現在は、社員を積極的に増やして会社を大きくするというより、業務委託などの形で一緒に介護現場の伴走支援に取り組んでくれる仲間を増やしたいと考えています。
支援の方法や判断基準を仕組み化し、それぞれが自由な働き方をしながら活動できる形を目指しています。
どんな相談から始めればよいですか?
まずは、「今、何に困っているのか」を聞かせてください。
FonLogを導入することが前提ではありません。
業務の流れや現場の状況を一緒に整理し、その事業所に合った方法を考えていきます。
編集後記
岸田さんのお話で印象的だったのは、最初から明確な目標を持って現在の仕事にたどり着いたわけではないということでした。
義肢装具、福祉用具、業務効率化、システム開発、FonLog、そして介護事業所への伴走支援。一見すると異なる経験のようですが、振り返ると、そのすべてが「支援する人を支援する」という一つの考え方につながっています。
また、単に新しいテクノロジーを導入するのではなく、その現場に合った仕組みを一緒につくり、最終的には事業所自身が改善を続けられる状態を目指すという姿勢も印象的でした。