インタビュー

将棋、不動産、そしてトランスジェンダーとしての人生。“ちがい”を力に変えて起業した理由

将棋、不動産、そしてトランスジェンダーとしての人生。“ちがい”を力に変えて起業した理由
PROFILE
株式会社BOU 代表取締役
冨澤 智理

株式会社BOUで代表取締役をしている冨澤智理です。企業や経営者のブランディング、PR戦略の伴走をしています。「つくる前に企む」という言葉を掲げ、会社の内側に眠っている想いを一緒に掘り起こす仕事をしてきました。

「伝わらない」を生む構造に気づいた

制作会社ではなかった

弊社は、いまでこそブランディング会社として運営していますが、創業した当時は制作会社だと思われることが多くありました。当時掲げていたコピーは「伝わらないを伝わるカタチに」という部分だけで、今の「つくる前に企む」や「“ちがう”をそのままブランドに」などの言葉はまだありませんでした。

企業活動を発信する手段は、記事やSNS、映像、ホームページなど本当にたくさんあります。ただ、私が創業時にやりたかったものは、発信する場を作ること自体ではありませんでした。

ビジネス側とつくる側のズレ

企業には「発信し続けなければならない」という命題があります。しかし、ビジネス側が本当に届けたいことと、それを形にするクリエイターの間には、私が思っていた以上にミスコミュニケーションが起きていました。

ボウリングのピンを想像するとわかりやすいかもしれません。ビジネス側は一番手前のピンから課題を見ているのですが、クリエイターが逆側から自分たちの作るものを見ていた場合、同じゴールに向かっているはずなのに、見ている景色が違うということがあり得ます。だから、この「伝わらない」の根本にアプローチできれば、発信はどんな形になっても伝わりやすくなるだろうと考えたのが、創業の最たる動機でした。

“ちがい”に向き合ってきた3つの経験

今の自分の強みが光ると思うエピソードは3つあります。

10代で将棋のプロ棋士を目指した

私は10代の頃、将棋のプロ棋士を目指していた時期がありました。何手先も読むというより、相手の一手に対して効果的な手を何パターンも考え、さらにその先の展開も広げていくという訓練を重ねていました。ひとつの課題に対して複数の答え方があると考える力は、ここで培われたのだと思います。

不動産コンサルで学んだ交渉

起業する前は不動産コンサルティングの会社にいました。1つの土地に複数の所有者がいる場合、それぞれが自分の資産価値を守りたいと考える中で、利益が相反する関係者をまとめて交渉する仕事をしていました。立場の異なる人たちの言い分をすり合わせる経験は、今の仕事に直結しています。

トランスジェンダーとして生きてきた

実はあまり外部で話していないのですが、私はトランスジェンダーです。生まれた時の身体性は女性でしたが、性自認は男性でした。そのため、男女で見えている前提がどれほど違うのかを幼少期からずっと考え続けてきました。わかり合えないことを前提にしながら、それでも物事を進めるにはどうしたらいいか。この問いが、将棋や不動産コンサルで得た力の使いどころにも繋がっていると思います。

経営者とコーポレートの両方に向き合う

事業内容は、企業のブランディングとPRの支援です。上場を目指す規模の会社だけでなく、スモールスタートの経営者まで幅広く関わっています。大きく分けると、経営者個人の思想を掘り起こすブランディング支援とコーポレートブランディングの支援の2つです。経営者とコーポレートを接続させなければ、コーポレートPRが足元を見失ってしまうため、両方を扱っています。

内外併せたブランディングを強みに

外部向けのPRでは、届けたい相手や目的に応じて、マーケターなど必要な専門家と布陣を組みながら、企業の価値を最大化していくことを大事にしています。「ここから先はできません」と線を引くのではなく、必要な体制を柔軟に組んでいくほうが、良い成果につながると考えているからです。一方で、社内向けの「インナーブランディング」は、私たちならではの力を発揮しやすい領域です。その企業の”ちがい”を大切にしながら、それを社内に浸透させていくことにより、組織を一枚岩にしていくための施策の相談を多くいただいています。 

差別化ではなく差異化

よく「差別化ポイントは何ですか」と聞かれますが、差別化は他社と比較して自社を証明することだと思います。一方、私たちが大事にしているのは差異化、つまり「うちはこの色だからこうなんです」と声を大きくして言えることだと考えています。違いをそのままブランドにしていいはずなのに、見られ方を気にしてしまうことで、唯一無二になれない企業をたくさん見てきました。そのため、この考え方は社内にも厳しく問い続けています。

3人体制、これからのビジョン

今は私を含めて3人体制で、弊社は2期目になります。

拡大しても濃度は保ちたい

経営者のブランディングは、個人に向き合う仕事のため、過去と現在の接続がとても難しいです。コーポレートブランディングの支援を広げていくには責任も規模感も大きくなるため、社内を強化しながら支援できる領域を拡大していきたいと考えています。どんな規模の支援もたった1人の野望から始まっている事例が多いことから、他人の課題を自分ごとのように本気で捉えられる集団を作っていきたいです。

違いを認め合う難しさ

一方で課題に感じているのは、立場の違う人たちを外部の人間として繋ぐことは得意でも、身近な人が相手では難しいことです。「違いをブランドにしていい」という考え方を大事にしている分、個を否定せずに団結していくのは簡単ではありません。世代が違えば当たり前も違います。業務委託を含めると関わる人数も多い分、それぞれの大義や意志を一致させながら1つのことに向き合い続けるのは、正直なところ大変です。ただ、これはどの企業も抱えている悩みのはずであり、逃げられない分、良い苦しみだと捉えています。

学生へのメッセージ

AIが賢いと分かっているから使わない

AIは過去のデータを分析することにとても秀でていると思います。ただ、アシストしてくれる内容が絶対の正解だと決めるのは、人間にしかできないことです。実を言うと、私はAIをほとんど使っていません。AIのほうが賢いと分かっているからこそ、自分の思考力を奪われたくないというプライドがあるからです。

ハズレを早くめくってほしい

時間やお金の制限が全くなかったとしても、今と同じ悩みを持つだろうか。一度、考えてみてほしいです。人は「この道に進めば正解」という正解を当てたがる生き物だと思います。でも私は、いかに早くハズレをめくるかを前提に進んでほしいと思っています。ハズレをたくさんめくった先にこそ、自分にとっての当たりが見えやすくなるからです。挑むことを制限してしまうのが、一番もったいないと思います。

選んだ道を正解にする

もう1つ伝えたいのは、自分がした選択を正解にしようと意気込んでみてほしいということです。今選んでいる時間の使い方は、間違いではありません。人の話を聞く力や相手の伝えたいことを構造化する力は、他のことにもいくらでも使えます。自分が飽きるまでは、今選んだ道が正しいのだと信じて進んでほしいです。

この会社のよくある質問

  1. どんな人と一緒に働きたいですか。
    「お客様が主語」という考えに賛同できる人が望ましいです。他人の課題を自分ごとのように本気で捉えられる人は、自分の課題にも本気で向き合った経験がある人だと思っています。そのうえで、違いを恐れずに自分の色を出しながら相手の色にも理解を示し、いろんなことに挑戦して欲しいと思っています。色が違うからこそ、支援の角度やアイデアの幅が広がり、お客様のためだけでなく、自分のためにやれることも増えていきます。差別化ではなく差異化、この考え方に本気で向き合ってくれる人と、一緒に会社をつくっていきたいです。
  2. インターンや採用の相談はできますか。
    はい。HPからか私のSNSのDMから連絡をいただけると嬉しいです。専門知識よりも、経営者やチームの想いを一緒に掘り下げる姿勢を大事にしたいです。

編集後記

早稲田大学3年生でインタビューを担当しました。冨澤さんのお話で印象的だったのは、AIをあえて使わないという選択です。効率化が正解とされがちな時代に、あえて自分の思考力にこだわる姿勢に、経営者としての軸の強さを感じました。「ハズレを早くめくる」という言葉は、就職活動で正解探しに疲れていた自分にとって、とても心強いエールになりました。