インタビュー

「なぜ」をそのままにせず「こうした方が良いのではないか」を大事にしてきた

更新: 2026年9月9日
「なぜ」をそのままにせず「こうした方が良いのではないか」を大事にしてきた
PROFILE
株式会社 レスキューナウ 代表取締役
朝倉 一昌

北海道から出てきて感じた東京のギャップ

駅で声をかけて「いいです」と断られた

北海道から、大学入学で東京に出てきたときは憧れが強かったですね。学生生活では、友達と遊んだり、サークルで野球をやったりといったことに熱中していました。

一番衝撃だったのは、大学に入学する以前、はじめて厚木にあったキャンパスに行ったときのことです。田舎の出身で鉄道の路線もよく分からず、渋谷から厚木に行くにはどういう乗り継ぎが必要か分からなかったので、駅ですれ違う人に聞こうと思って、「すいません」と声をかけたんです。そうしたら「いいです」と断られてしまいました。今思えば何かの勧誘だと思われたのかもしれませんが、意味が分からず、結構な衝撃でした。

もう一つ驚いたのは、田舎だと街と街の間の人が住まないエリアを通過して次の街に出るのに、東京は街がすべてつながっていることです。気づいたら神奈川県に入っていた、ということもありました。

意図しない配属からのスタート

卒業旅行の帰りに聞いた「土木部」の連絡

大学卒業後は北海道に戻り、北海道庁の職員になりました。大学では広告のゼミに入っていたので、観光に携わりたいという純粋な憧れを抱いて入庁したのですが、配属はまったく違う部署でした。

前例主義という壁と、なぜ必要かを調べて理解する人

役所の仕事は完全にOJTです。研修はあっても、業務についての研修はほとんどありませんでした。文書の書き方一つとっても、スペースを何個空けてタイトルを書くかといったレベルまで規則が細かく決まっているのですが、前の人が作った書類を教科書代わりにして真似するところから仕事を覚えていくんです。

その中でも、なぜこの手続きが必要なのかを、根拠の法律や規則まで調べて理解する人もいれば、前の人と同じ形にすればいいと考える人もいます。私はどちらかというと後者で、注意やアドバイスをされたときには、「ありがとうございます。」と言って、その時に直してしまおうというタイプでした。

本屋での立ち読みが転職のきっかけ

通行止めの情報が伝わらないもどかしさ

北海道庁時代の経験が、現在の仕事に直結しています。吹雪で道路を通行止めにするときは、地元の自治体や関係各所へFAXで連絡していました。FAXは一件ずつしか送れない仕組みなので、次々と状況が変わる中で連絡するのはとても時間がかかってしまうことに、これでよいのだろうかと感じていました。テレビでは国道の通行止め情報は流れても、地元の人にとって大事な道道の情報はなかなか報じられません。関係各所には送っているのに、速やかに伝わらないというギャップをずっと感じていました。

「みんなで使える仕組み」という考え方に共感した

転職の決め手は、本屋さんでの立ち読みでした。国内初の危機管理情報配信サービスを立ち上げた創業者のインタビュー記事を読み、災害対応のシステムを自治体ごとに個別に作るのではなく、民間企業が一つのサービスを作って全国で使えるようにすれば、常に最新の仕組みをみんなが使える状態になる、という考え方に強く共感したんです。今でいうSaaSの原型のような発想でした。道路情報がなぜうまく伝わらないのかという課題感を持っていた自分にとって、災害全般に通じる話だと感じ、創業者に連絡を取ったのが最初のきっかけです。

危機管理という仕事の幅の広さ

交通情報から安否確認まで

弊社では「危機」を、予定していたことが何らかの外的要因によって妨げられる状態と定義しています。地震の揺れの情報はもちろん、鉄道の運行情報やライフライン情報、避難情報まで、扱う範囲は幅広いです。企業の安否確認システムのように、地震が起きたエリアの人に自動で一斉に回答を求める仕組みも、もともと弊社が最初に作ったものなんです。現在ではどの安否確認サービスも同じようにこの仕組みを導入していますが、当たり前ではなかった時代からやってきました。

防災備蓄をA4サイズにした発想

もう一つ印象に残っている事例が、防災備蓄品をA4サイズの箱に詰めて展開するというアイディアです。それまでは、災害時用に水なら水だけ、食料なら食料だけを大量に調達してストックし、災害時には、その混乱の中で配るというやり方が一般的でしたが、それはとても大変なのではないか、という疑問から、最初はB5サイズの箱に一人1日分の備蓄品をパッケージングした商品を展開していたのですが、担当者と夜に雑談していた際、偶然置いてあった大手通販サイトの箱がちょうどA4サイズだったことから着想を得て、オフィスであれば、A4サイズのほうが引出しやロッカーにしまえたりして、よりフィットするのではないかと考え商品化しました。最初からオフィスで身近な場所に備えておけば、配るという作業自体が要らなくなります。

なぜ?を問い続ける組織づくり

思いついたことを、まず伝えてみる

変化の早い時代でも、大事にしていることの根っこは変わりません。なぜこうなっているのだろう、こうした方が良いのではないか?と感じたことを捨てずに、頭の片隅に持っておくことです。そして、それを自分の中だけで完結させず、声に出して、文章にして、絵に描いてなど、方法は問わず伝えてみることを大事にしています。話しているうちに矛盾に気づくこともありますし、伝えることでブラッシュアップされていくんです。勇気を持って話す人と、それをちゃんと尊重して聞く人。この両方が組み合わさっていくことで、初めて組織としてのアクションにつながっていくと思っています。

二択ではなく、間のグラデーションを大事にする

正解か不正解か、効率的か非効率かという二択で物事を決めすぎている風潮を感じています。世の中は二択よりも、間のグラデーションのほうが圧倒的に多いというのが実感です。大学の広告の授業で学んだ「好きという人が百人いたら、同じだけ嫌いな人がいる」という考え方を、今でも大事にしています。

新卒採用の枠は設けていないが、門戸は開いている

新卒採用として明確な募集は出していませんが、決してこだわっているわけではありません。危機管理や防災の世界は、情報技術の活用という点ではまだまだ周回遅れの業界だと感じていて、革新を起こせる余地がたくさん残っている面白い分野です。熱意を持って取り組みたいという人であれば、応募は歓迎しています。学生時代からアルバイトで入り、そのまま社員になった人も社内には多くいます。危機管理情報センターは24時間365日の三交代制で、AIでは判断しきれないグレーゾーンの事実確認などに、学生アルバイトも携わってくれています。

やりたいことを主張し、任せられたらやりきる人にとっては働きやすい環境だと思いますが、失敗を先に気にしてしまう人にはプレッシャーが大きいかもしれません。失敗しても学びに変えて、また挑戦したいと言える人には合っている職場だと思います。

災害対応に「終わり」を定める

今後挑戦したいのは、災害対応の体制づくりです。初動対応の大切さは十年前から言い続けてきましたが、そこにばかり注目が集まり、最後の方はフェードアウトしてしまうという課題も見えてきました。どこまで復旧できたら通常の体制に戻せばよいのか、ゴールをしっかり定める動きを定着させていきたいと考えています。リーダーシップのある人がいれば区切りをつけられますが、属人的にならずに、情報とそれを活用する仕組みで、危機への対応を終わらせるまでを実行できるようにしていく必要があると感じています。

学生へのメッセージ

一番いいものを探そうとして時間が過ぎてしまうくらいなら、少しでも興味があることをまずやってみたほうが良いと思います。動いていく中で、こっちかな、あっちかなと貪欲に選び続けていくと、振り返ったときに自分なりの一本の線ができているものです。進んでいるときにその道が正しいかどうかは、誰にも分かりません。だからこそ、そのとき一生懸命になれるものに打ち込んでみることが大事だと思います。

編集後記

朝倉さんのお話からは、公務員時代の課題感を捨てずに持ち続け、本屋での偶然の出会いを行動につなげてきた姿勢が伝わってきました。「なんでこうなっていないのか」を問い続ける姿勢や、二択ではなくグラデーションで物事を捉える考え方は、就職活動で悩みがちな私自身にとっても、大きな気づきになりました。正解を探すより、まず動いてみることの大切さを、あらためて実感したインタビューでした。